2020年7月、大和高田市・堀内大造市長がコロナ禍に兵庫県淡路島で開かれた私的な懇親会へ秘書課職員2人を同行させた問題。9月15日に本件を調査する特別委員会が開催された。当初、追及の焦点となったのは、過去に反社会的勢力との関係が指摘された有名人が懇親会に出席していたことだ。しかし「反社」については、過去の話である上、定義も曖昧だったため撤回。委員会では政治倫理を問うほどの新事実は報告されなかった。(写真=同市役所前)
大和高田市立議会小学校の学級会

9月15日の「堀内大造市長の大和高田市政治倫理条例違反の疑いに対する調査特別委員会」。委員会名だけはやたら仰々しい。だがその実態は――。
「僕は堀内クンが悪いと思います」「そーだ、そーだ」
その様はさしづめ〝大和高田市立議会小学校の学級会〟だ。
14時30分から始まった委員会は18時過ぎという長丁場。反市長派の市議が似たような質問を繰り返すうざ絡みイベントの様相である。
本題に入る前に同市では二つの異なる「調査の仕組み」があることを説明しておきたい。こういう話だ。

大和高田市には「政治倫理条例」があり、同第5条に基づいて「政治倫理審査会」が設置されている。市の規則によれば、審査会は7人以内の委員で構成され、弁護士なども参加。「政治倫理確立に関する必要な事項について調査及び審議する」ことを役割としている。
つまり、こちらは政治倫理条例そのものに根拠を持つ審査機関だ。
ところが今回、市議会が設置した「堀内大造市長の大和高田市政治倫理条例違反の疑いに対する調査特別委員会」は、この政治倫理審査会とは全く別物であることに留意してほしい。
特別委員会は、市議会が特定の問題について調査するために設ける議会内部の委員会だ。今回の場合、市長に政治倫理条例違反の「疑い」があるとして、市議会が事実関係を調べるために設置した。
ところがここがかなりややこしい。以下のように分類できる。
「政治倫理条例 → 政治倫理審査会」
という条例に基づく仕組みと、
「市議会 → 調査特別委員会」
という議会による調査の仕組みが、別々に存在しているのである。
もちろん、特別委員会が市長の行為について資料を調べたり、本人や関係者から事情を聴いたりすることには意味がある。
ところが特別委員会で調査したからといって、条例に定められた政治倫理審査会による調査・審議と同じものになるわけではない。
したがって今回の特別委員会を見る際には、「市長が怪しいかどうか」だけではなく、もう一つ重要な視点がある。この委員会は何を明らかにするために設置され、どこまでを結論として出そうとしているのか――という問題だ。
特に疑惑の前提となった事実が調査の途中で崩れた場合、どうなるのか?
それでも別の疑惑を次々と取り上げるのであれば、当初の調査目的との関係が問われる。政治倫理を問うからこそ、追及する側にも手続きと根拠の明確さが求められるのである。
だが明らかに追及側=市議の質問は手続きや根拠を欠いたものだった。
その辺りが「学級会」「うざ絡み」と表現した理由である。
撤回された反社疑惑 大義を失った委員会

9月10日の本会議で共産党会派の向川征秀議員から同委員会の設置を求める動議が提出。その理由は、2020年のコロナ禍に市長が職員2人を伴って淡路島の懇親会に参加し、反社会的勢力との関わりが指摘された人物と面会していたことだった。
ところが南幾一郎市議から「反社会的勢力と関係する人物」についての根拠が問われた。なおこの人物とは元お笑い芸人の島田紳助氏だ。島田氏は2011年の暴力団との交際報道で責任をとって引退。現在は目立った芸能活動を行っていないが時折、イベントの出演や旧知の芸能人との交流が報道される。悠々自適の生活を送っているようだ。
すでに一般人になった島田氏との交流を「反社との関わり」と追及するのは無理があり同氏の名誉にも関わる。
また表面上は向川市議の動議なのだが、島田氏との交流を〝黒い交際疑惑〟につなげようとしたのは反市長派の意向だったという。これに向川市議が乗った格好だ。大和高田市議団の複数の市議が島田氏を〝反社認定〟したという見方もできる。
市長宅を訪問して圧か?仲本博文委員長が交代
そして迎えた15日の委員会。向川市議は「反社会的勢力との関わりがある有名人」という動議理由を「人権・名誉への配慮」を理由に撤回。
だが南市議はさらに疑問を呈したが、それも当然だ。そもそも「反社」という強い言葉があったから委員会設置の大義が立った。また報道各社も「反社会的勢力」というワードを重視したのは言うまでもない。報道によって市長と反社会的勢力との関係を疑わせる印象が強まった。
それを「撤回」という以上、委員側もより丁寧な説明をすべきだ。
結局はコロナ禍で遠方の懇親会に職員を誘ったということだけが委員会のテーマになる。
しかも当時の状況は2020年4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言が発令、4月16日に全国に拡大、奈良県は5月14日に解除。同月25日に全国で解除となった。
コロナ禍には違いないが、当時はすでに緊急事態宣言は解除されていた。そうなると残る論点は、「市長が職務上の上下関係を私的な懇親会に持ち込んだのか」という点である。
反社との関係という重大な疑惑が撤回されたことで、特別委員会を設置してまで調査する必要性は大きく後退した。残されたのは、市長が職務上の部下を勤務外の私的な懇親会に誘ったことの適否だった。
もちろん、それ自体を議会が問題視することはあり得る。しかし、当初掲げられた「反社会的勢力との関わり」という重大な疑惑と比べれば、問題の性質も重さも大きく異なる。果たして特別委員会を設置し、長時間にわたって追及するほどの問題だったのか。
今回の委員会の一番の見せ場になったのは、委員長である仲本博文市議の交代シーンだろう。
堀内市長は9月10日の夜、仲本市議が自宅を訪問していたことを明かした。二人は仲本市議の軽バンで話したという。仲本氏とは近所であり、また堀内市長が1期目のときは支援していたという。友人としての訪問という説明だ。
車中で仲本市議は「不信任は可決される」「委員会を病欠せよ」「妻や家族への影響」などを挙げて市長に辞任を迫ったという。仲本市議は議員らから一任されており、自分の判断でやってきたという説明である。
「家族にも影響がある」
これはかなり問題発言ではないか。やはり反市長派の森本尚順市議、米田昌玄市議らが仲本市議を擁護する発言を繰り返した。
「友人としてのプライベートの助言であり、昔の友人が好意で言ったことをそう解釈するのはビックリしている」(米田市議)
夜、突然訪問して車中で辞任を迫るのが友人としての好意らしい。
森本市議、米田市議については過去、たびたび記事にしてきた。その際、仮に筆者が「家族にも影響がある」と詰め寄ったらどう思っただろう。下手をすれば脅迫と受け止められかねない。非常に強い言葉であったことを市議らが自覚できないことに驚いた。
あるいは県外の読者にも、【奈良の闇】と題した理由が理解してもらえただろう。しかもこの車中でのやり取りについて堀内市長は録音していたというのだ。47分の録音データの存在は衝撃だった。
これに対して南市議が公開を求めたが、予想通り森本市議、米田市議らが反発。無断で録音したことについて堀内市長を責めた。
しかしこれもおかしい。現在は反市長派となっている市議が突然、夜間に訪問し、車内で会話をするという状況だ。ICレコーダーやスマートフォンの録音機能を使用するのはむしろ当然のことだろう。
脅迫とすら受け止められかねない仲本市議の行動。これに対して南市議から委員長の不信任動議が提出された。その後、休憩を挟んで副委員長だった橋本俊哉市議が委員長に交代していた。
もはや何の委員会なのか分からない
さてこの学級会ならぬ「堀内大造市長の大和高田市政治倫理条例違反の疑いに対する調査特別委員会」。
「反社との交際」という本来の旗頭が折れた挙句、主戦派の委員長が交代するという波乱も起きた。モチベーションが低下したのは間違いない。
「誰かタオルを投げてやれよ」
と思うのだが、なにしろ市議たちも振り上げた拳の落としどころがない。また堀内市長が職員を懇親会に誘ったことについて執拗に質問が続く。
市長と部下という関係上、職員が誘いを断りにくかった可能性は否定できない。しかし、市長が参加を強要した、またはパワハラに当たる圧力を加えたことを示す具体的な証拠は、委員会では示されなかった。
それどころか質問は、国語の試験の世界である。
「その時の職員の心境を50字以内で説明せよ」
これに近い質問があったが、何を知りたかったのだろう。
おそらく傍聴者、ライブ中継の視聴者も辟易してきたのではないか。だが珍質問が続くから見逃せない。植田龍一市議から市長の就任前の出来事について質問があった。
植田市議の元に市民の女性からメールが届いたという。メールは堀内市長がある店舗の店長をしていた時にバックヤードでアルバイト女性に後ろから抱きついた、パート女性と不倫関係にあったのではないか、という趣旨の疑惑を取り上げた。
懇親会とは無関係の上、委員会という公的な場で十分な裏付けを取らず、調査範囲外の疑惑を持ち出すのはおかしい。ならばこのメールを公開すべきではないか。
なんと示現舎も追及ネタになった!
いよいよ閉会かと思った頃、戸谷仁史市議による爆弾質問だ! 政治倫理に抵触する重大な事態だという。さらに驚くべきことに、議論の矛先は筆者(弊社)の報道にも向けられた。
ある職員の人事をめぐって堀内市長がA社に情報を漏洩していたというのだ。このA社というのは何を隠そう弊社のことである。この記事だ。
【奈良の闇⑯】幹部職員が8月末で退職へ 絆・維新会派が市長選に擁立か 奈良の同和のドンへ挨拶とも
8月6日に当該職員が人事部長に退職を伝え、翌日に市長へ報告した。その直後に筆者から職員へ退職を確認する電話があったという。市長か人事部長が情報漏洩したという疑惑だ。
また全員協議会での内容についても筆者が記事にしたのだが、内部の関係者でなければ知り得ない情報であり、これも市長による漏洩だと戸谷市議は追及した。
もちろん市長が「ハイ、そうです」と認めるはずがない。情報漏洩を疑う具体的な根拠がどこまであったのかは判然としない。
それならば説明しておこう。もちろん、筆者が情報の出所を明かすことはない。ただ言えるのは、【奈良の闇】の連載を始めて以来、弊社には多くの市民や関係者から情報が寄せられてきたということだ。それだけ市政や議会に対する市民の問題意識が高まっているということでもある。
もし情報漏洩に対して問題意識を持つならば市政、議会の健全化を進めるべきだろう。
「メールではなくSNS」植田市議への疑問
後日、発議者である向川市議に反社部分の撤回について聞いた。同市議は相手が島田紳助氏だったことを認めた上で、「私としても行き過ぎたと思っています。相手の人権や名誉を考えて撤回しました」と説明。
「コロナ禍と職員を私的な懇親会に連れて行ったこと、勤務外に誘ったことの問題は残ります。6年間も何をやっていた?この問題を知って放置していたわけではありません。私が重視したのはこの間、市長と職員の不信感が見える場面がありました。今後は委員長報告を作成するにあたってどういう内容を盛り込むかを協議します」(向川市議)
今後も向川市議は、植田市議、戸谷市議らと一般質問で市長を追及していく予定だ。
次に質問した順番は違うが、戸谷市議にコメントを求めた。戸谷市議は、弊社の記事に掲載された情報を市長が漏らしたのではないかと質問していたが――。
「御社の記事が問題と言ったわけではありません。市長に情報漏洩した疑惑について質問したところ、否定されたのでそれ以上は追及していません」(戸谷市議)
市長本人に情報漏洩の有無を尋ね、否定されたからといって、それだけで疑惑を公の場に持ち出す根拠があったことにはならない。具体的な裏付けを示さない質問は、市長が情報を漏らしたかのような印象を残すだけではないか。
「そういう受け止め方もあるかもしれませんが、あくまで情報漏洩の可能性として質問しました」(戸谷市議)
次に植田市議へ、「市内の女性からの告発メール」について確認した。
まず植田市議にメールの公開を依頼した。また同市議会の議員はWebサイトに自宅の電話番号、携帯電話が掲載されているがメールアドレスの記載はない。女性はどのようにメールアドレスを知ったのか、あるいは知人なのかも質問した。
「公開ですか?本人に許可が得られるか分かりません。それに私は当日、メールだと言いましたがSNSのことなんですよ」(植田市議)
SNSだった? つまりダイレクトメール経由で送られたというのだ。SNSといってもFacebook、Instagram、Xなど様々だが、植田市議は「FacebookとLINEです」と説明する。
EメールではなくSNSを通じての情報提供という。LINEということは情報提供者と過去、何らかの接点があった可能性もある。
「LINEだと電話番号でも検索できるじゃないですか。見せてほしい? 私も(SNSの使い方が)よく分からないのです。相手に確認次第、公開できるか検討しますよ」(植田市議)
ぜひメッセージの内容を公開してもらいたい。真偽を第三者が検証できないメッセージを根拠に、しかも当初の調査対象との関連が明確でない市長就任以前の行動を、公開の委員会で取り上げる必要があったのか。
定例会は9月30日まで続き、今後も一部市議らによる追及が続く。
ただし当初の政治倫理条例違反を認定するような結論を導き出せるのだろうか。
最終的に、「職員を私的な懇親会に連れて行ったことは配慮を欠き、不適切だった」程度の落としどころならば「特別委員会まで設置する必要があったのか」という点も検証されるべきだろう。
そもそも、この特別委員会については、次期市長選を見据えた堀内市長への「落選運動」ではないか、との見方も一部から出ている。当初示された疑惑について新たな事実や裏付けが次々と示されたのであれば、追及が続くことにも合理性はある。ところが、質問の材料となる「矢」が尽きつつある中でも、同じような趣旨の質問が繰り返された。
つまり、「事実関係を解明するための調査ではなく、堀内市長を追及し続けること自体が目的だったのではないか」という疑念が残る。
長時間の会議で見えたもの。「市長選は始まっている」ということだ。



