日本ラグビー協会がポリコレ化は本当か?「ビジネスと人権」に追従する悲しき事情

カテゴリー: スポーツ, 政治 | タグ: | 投稿日: | 投稿者:
By Jun mishina

今月8日に開幕したラグビーW杯。前回の2019年大会で日本はベスト8と大健闘しており今大会も期待が高まる。華々しいW杯の一方で日本ラグビー協会の運営は四苦八苦の様子が伝わる。取材を深めると政府、マスコミが推進する「ビジネスと人権」の影響が見てとれたのだ。ポリコレ化と揶揄する向きもあるが実態は…。

政治色が強い 日本ラグビー協会

サッカーW杯カタール2022でドイツ、スペインを撃破、そして野球界は「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC」で日本代表が優勝。いずれも日本を熱狂させた。一方で今、開催されているラグビーW杯はと言えば…。前回の日本大会は強豪アイルランドを破るなどベスト8を果たし大健闘だった。それでも野球、サッカーほど人気、市場規模はない。

よく疑問として挙げられるのは外国籍選手が日本代表チームに在籍すること。なぜなら代表入りする条件として「両親、祖父母の1人が当該国(日本)で出生している、または、プレーする時点の直前の60ヶ月間継続して当該国(日本)を居住地としていた、または、プレーする時点までに、通算10年間、当該国(日本)に滞在していた」という規定があるためだ。国籍を問わない代表選出は通常、「協会主義」と呼ばれる。

意識が高いファンに言わせると「ラグビーは多様性のスポーツで、国籍主義のオリンピックは排外主義」と“いかにも ”な論評をするが、多様性というよりは単純に協会主義というだけの話だ。

また野球やサッカーよりも政治色が強いという特徴もある。政界を引退後も人事に介入する政界の重鎮、森喜朗元首相はラグビー界でも影響大だ。森氏は2005年から15年まで日本ラグビー協会の会長を務め、19年まで名誉会長の職にあった。

森氏が「競技場を2020年五輪のレガシーとして残したい」として建設を進めた新国立競技場は「森喜朗古墳」と揶揄されていた

ラグビーで政治絡みと言えばTVコメンテーターで有名なあの人物も。解放運動にも関わる他、今年の統一地方選でアップデートおおさかを結成し、大阪府知事選に出馬した谷口真由美氏は2019年6月に日本ラグビー協会理事就任。職務上で知りえた情報を自著で暴露したことを問題視され、21年6月に退任した。

谷口氏は自著『おっさんの掟: 「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質』』(小学館)の中で協会の男性社会を批判。だがそんな谷口氏が“ おっさん政治”の権化のような自民党と協力して大阪府知事選に立候補したのも不思議な話。

部落解放・人権研究所理事、谷口真由美 大阪府知事候補が オッサン政治自民と『連帯』に 疑問の声

岸田首相と登壇した谷口氏(左から2番目)。

おっさん政治と呼ばれたラグビー協会だが昨年12月7日、「セーフガーディング推進ガイド」を発表した。これはこれまでスポーツ界で横行した体罰、パワハラを排除し、またあらゆる人種が集うことから差別排除を打ち出したもの。これ自体は他スポーツでもみられ、また世界的な潮流ともいえる。

その一環からかW杯前の7月、ラグビー協会は「LGBTQ+への理解の促進を目的としたレインボーカラーグッズ販売のお知らせ」としてレインボーカラーでデザインされた各種グッズを発売した。

ラグビーファンにこうしたアイテムの需要があるのか分からない。しかし一部ファンから「不要」「LGBT利権に飲まれた」といった声も起きた。

こうした風潮から「ポリティカル・コレクトネス化」(ポリコレ化)と感じた向きもあるだろう。そこで取材を進めてみるとニュージーランドの影響、「ビジネスと人権」といった商業的事情が見えてきた。

ニュージーランドとの覚書はなぜ非公開?

「日本ラグビー協会は“ オールブラックス信者”といってもいいでしょう」

協会に疑義を抱く関係人物は吐き捨てるようにこう言い放つ。

ニュージーランドが「オールブラックス」の愛称で世界的に親しまれているのは有名だ。ラグビーに関心がない人であっても一度ぐらいはこのニックネームを耳にしたことはないか。同時にニュージーランド、オーストラリア、オセアニアのラグビー強国は国策として多文化主義を採用する。

ニュージーランドで印象的なのは2020年、外相に先住民マオリで顎に伝統の入れ墨「モコ・カウアエ(moko kauae)」を施したナナイア・マフタ(Nanaia Mahuta)氏を起用した。いわゆる「極めて多様性に富んだ内閣」だ。日本ラグビー協会関係者には世界屈指の強豪、ニュージーランドの信奉者が多いという。今年5月、日本ラグビー協会はニュージーランドラグビー協会(NZR)との覚書を締結した。次いで7月にはオーストラリアラグビー協会(Rugby Australia)と覚書を締結。ところが内容については一切、明かされていない。覚書の内容について日本ラグビー協会に問い合わせたが「非公開としています」(広報担当)とした。

ラグビー関係者によると「日本側に片務的な内容ではないか」と指摘する。ニュージーランドチームとの交流試合、コーチ陣の派遣、チャリティー、各種イベントなど要は“お接待 ”ということだろう。海外には手厚く、かといって日本代表の選手たちに還元されているかというと疑問を抱く。そもそも前大会では日本代表はベスト8入りし健闘したが、それでも報奨金は1人100万円。

それ以前に優勝チームですら賞金がないのがラグビーW杯。しかも大会の収益は開催地に還元せず、主催団体であるワールドラグビーが総取りする流れだ。2019年大会は約68億円の黒字と言われながら、日本ラグビー協会の同年決算が11億円の赤字。開催国にも関わらず奇妙な現象だ。強くなったと言われる日本ラグビーだが不平等な条件を飲み続けた末に開花したのか。

強豪国に肩を並べようと必死なのだ。

ポリコレ化というよりも 企業の論理

「ラグビーとサステナビリティ」。企業のIRのような標語だが、これはワールドラグビーが掲げているものだ。特に企業のお抱えスポーツという性格が強い日本のラグビー界にとっても重要な標語となる。

2022年1月からスタートした「ジャパンラグビーリーグワン」はチームの強さ順にDIVISION1(D1、12チーム)、DIVISION2(D2、6チーム)、DIVISION3(D3、5チーム)に分かれ、勝敗を競う。長年、プロ化が叫ばれた日本ラグビーだがプロ・アマ混在型と言える。従来の社会人ラグビーよりも前進したがいかんせん“実業団 ”の色が濃い。

つまり運営、スポンサーともに企業の論理の影響を受けざるを得ないのだ。

日本ラグビー協会は昨年7月にマスターカードとラグビー日本代表オフィシャルサポーター契約を締結した。マスターカードの名が出たところで「表現規制」を連想する人は多いだろう。

アダルトビデオの販売、アダルト動画の配信などを手がける「DMM.com」は2022年7月29日付でマスターカードによる決済が終了したことを発表。アダルト系コンテンツに対するカード会社の自主規制とも囁かれた。

企業に依存するラグビー界としてはスポンサー企業に対してクリーンなイメージを印象付ける必要があるのだ。日本ラグビー協会の“ レインボーアピール”もその一環かもしれない。

昨今、企業はSDGsへの取り組みや当節流行りの「ビジネスと人権」を重視する。ジャパンラグビーリーグワンに参加するチームも大手企業が並ぶが、いずれの企業もサステナビリティ(持続可能性)といった指針を掲げる。もちろん政治、行政も推奨する指標だ。

「政治とスポーツを切り離す」という理念を飛び越えて政治どころか行政、財界の意図を汲むのが日本ラグビー協会なのだ。

より企業への依存度が強いラグビーにとってこうした指針に準じる必要がある。このためレインボーカラーグッズ販売はスポンサー企業にとっても望ましいのだ。

こうした風潮に対して冷ややかにみるラグビー関係者も少なくない。実際にチーム運営に関わったスポーツコンサルの話は分かりやすい。

「例えば中日ドラゴンズが不振で経営的にも厳しいと言われます。そこでファンからよく“トヨタ自動車が買収したらいい”という不満が漏れます。しかしトヨタがプロ野球に進出することはまずないでしょう。というのはプロ野球の場合、薬物使用、パワハラ、女性問題で週刊誌を賑わすことがあります。世界的企業トヨタにとってプロ野球はビジネス的にメリットがないのです。むしろアマチュアスポーツ、パラスポーツを重視する傾向があります」

今のご時世、大手企業であればあるほど不祥事、特に「人権案件」「反社絡み」はダメージが大きい。プロスポーツ運営=宣伝、広告塔という発想は令和の世で通用しないようだ。

そこで企業丸抱えを前提とするラグビー協会にとって「セーフガーディング」の推進と順守は存続がかかっているといってもいい。つまりポリコレ化というよりも「ビジネスと人権」を重視する企業の論理をそのまま反映したのが現在のラグビー協会というわけだ。

その他アマチュアスポーツよりも華がある。しかし完全プロ化できるほどの人気はなく、企業依存を深める他ない。その結果、今企業で蔓延する「ビジネスと人権」を踏襲せざるを得ないのだろう。それがラグビー協会がポリコレ化に見えた要因かもしれない。

むしろ涙ぐましい努力とさえ思えるが、こんな失態も見逃せない。日本ラグビー協会は「ジャパンラグビーアンバサダー2023」として契約していたジャニーズ事務所所属の櫻井翔氏との契約を継続すると発表。同事務所創業者、ジャニー喜多川氏による性被害で紛糾する現在、番組・CMのスポンサーから撤退中だ。そんな中での協会の判断に批判が殺到。

「ビジネスと人権」の影響を受けたはずの日本ラグビー界だが、協会のこの判断はオセアニア、ヨーロッパなど意識が高い諸国にどう映るだろうか。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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日本ラグビー協会がポリコレ化は本当か?「ビジネスと人権」に追従する悲しき事情」への2件のフィードバック

  1. さとう

    現在ラグビーはW杯を開催しているが、興味はなかったです。
    成る程、記事のような背景もあるのですね、参考になりました。
    #92e2a6d2a37404a81ee2c1d31aca2851

    返信
  2. 匿名

    記事でなく随筆かな
    いろんな考えがあって当然
    しかしラグビーW杯は楽しませてもらってます。
    がんばれニッポン!
    #059235b0b5691de884a600a2e178707f

    返信