月別アーカイブ: 2013年9月

尼崎事件の一歩手前か!? 「伊崎おなべ喰い事件」の真相

By 鳥取ループ

鳥取ループ(取材・文)

「殺されるかと思った、ここは天国や」と語るのは、井上いのうえ麻里子まりこ(仮名)さん。彼は体じゅうが生傷だらけ、さらに約600万円の借金を抱えて自己破産の準備をしているところだ。なぜこんなことになってしまったのか。

「彼」と書いたのは、井上さんは実は性同一性障害(GID)である。特に女性のGIDのことを Female to male 略してFTMという。性転換こそしていないものの、見た目は男である。悪夢の発端は、一昨年FTMBOYRANKという、FTMが出会いを求める掲示板サイトで、伊崎いざきあかねという女性と知り合ったことだ。

2011年2月、彼は生まれて初めて自分がGIDであることを手紙で両親に告げた。しかし、両親は認知症の祖母への気遣いで手一杯の状況で、手紙の内容をしっかりと理解していなかった。また、本人から直接話をされていないため、大切な手紙は忘れられていた。

その年の6月、祖母の体調が落ち着くと同時に、彼は両親のもとを離れて、大阪府茨木いばらき市内のアパートで一人暮らしを始めた。

12月末、彼は両親にメールで「彼女」がいることを告げた。当然、両親は動揺し、父親は口にはしないが憔悴しょうすいしきっており、それがもとで顔面麻痺で入院。一方、姉妹や周囲は「好きにさせれば」という立場。もっとも、彼は自分で服を選べるようになってからずっと短髪で男物の服といういでたちだったので、今さらGIDと判明したからと言って何かが大きく変わるというわけでもない。しかし、母親は彼に対して「相手の両親に正直に伝えなさい」と話をしたが、一方で「あんたは男っぽいけど女」と言われた彼は、理解してくれないと電話口で怒鳴り、母親も感情的になり言い返すなど、両親との仲は険悪になった。もっとも後で分かったことだが、彼が実家と電話する時は彼女が常にそばにいて何を話すかを指示されており、家族と対立するように仕向けられていたとも言える。

同じ頃、彼は彼女とアパートで同棲を始めていた。同居のきっかけは、彼女が福岡県北九州市の実家で家族と喧嘩をして、家出するような形で、犬2匹を連れて本来はペット禁止・同棲禁止の彼のアパートに転がり込んだという。その頃から様子がおかしくなり始め、介護の仕事を度々無断欠勤するようになった。翌年の元旦、彼は実家にも顔を見せなかった。

実はその頃から、彼女が彼のカードで買物をさせたり、まともな食事をさせず、眠らせない、といった異常な生活が始まっていた。彼女が彼に対して暴力をふるい、携帯電話で殴って病院で2針縫う怪我をさせたこともがあった。また、彼は連日夜中までレンタカーを運転し遠出させられて、その結果事故を起こしてしまった。彼女は事故の後で「後遺症で痛い」「お前のせいだ」と彼を責め立てた。

引越しの予兆があったため両親が2人の同居するアパートに何度か訪れていた。アパートには彼女が実家から衣類などを送った小包があり、そこに書かれていた彼女の実家の住所を両親が書き留めた。

そして、3月18日に両親がアパートに訪れた時はまさに引越しの最中だった。それもその場を取り仕切っているのは彼女で、何を聞いても彼はだんまりだった。母親は「引っ越したら、今生こんじょうの別れになるよ」と言うと彼は涙を浮かべた。また、「本物の男には負けるのよ」と目を覚まさせようと思って言った。この時から母親は、彼が彼女にマインドコントロールされているのではないかと感じるようになったという。

両親は引っ越す彼を車で追いかけたが、信号に阻まれて見失ってしまった。

どこに行くのか確認するために、引越しの荷物を運んでいた佐川急便のドライバーに聞いても、本人の希望で行き先は言えないというばかり。父親が「自分は父親でアパートの保証人やぞ」と凄んでも、答えられないの一点張りだった。

筆者が佐川急便の担当者に聞いてみると、個人情報保護の絡みで、最近はどこの引越し業者も親族であれ個人に関する事は言えないことになっている。言えるとすれば、警察や裁判所からの照会があった時くらいですかね、と語る。ここがポイントで、例えば「債権者」であれば裁判所を通して情報の開示を求めることは可能だ。だから、普通の引越し業者を「夜逃げ屋」として使えるわけではない。しかし、血の繋がりより金の繋がりの方が強いとは、世知辛い世の中だ。

その後、彼は職場にも出勤しなくなり、携帯電話でも連絡が取れなくなったことから両親は茨木署に捜索届けを提出。しかし、ほどなくして彼から警察に対して両親に居所を教えるなという申し出があり、警察も本人の希望があるから教えられないという態度になってしまったという。

しばらくして、ようやく本人から父親に電話がかかってきたが「沖縄にいる」「人工授精で子供ができた」「お金を送ってほしい」という内容で、どうも様子がおかしい。

ここから、父親による探偵顔負けの捜索が始まった。父親が茨木市の住所に郵便物を出し、ネットで見られる荷物の追跡サービスを利用したところ、引越し先の住所と思われる郵便局に転送されて、そこで荷物が留まった状態になった。そこで、GPS機能のついた携帯電話を小包で送って場所を突き止めるというアイデアも出たが、とりあえずは父親は郵便局に電話した。

郵便局に転送先を尋ねるも、当然教えてもらえなかった。しかし、詳しくは明かせないが特殊な交渉術を用いることにより配送先の郵便番号だけを聞き出すことに成功した。

その郵便番号に該当する大阪市中央区内の場所に直接出向き、現地を歩きまわって手がかりを探したところ、彼が昔から乗っており父親が何度も修理したことのある自転車を発見、ようやく居所を突き止めることができた。

しかし、無理に連れ戻そうとしたところで、また別の場所に引っ越されてしまうか、あるいは連れ戻しに成功したところで、家族との仲がこじれている状態では解決しないと思われた。そこで父親は、この時点ではとりあえず居所を突き止めたことは黙っておいて、何かあれば駆けつけるつもりだったという。

そうこうしているうちに、再び変化があった。父親が茨木市役所に出向いて、これまでの経緯を話して住民票が移されていないか聞いてみたところ、同情した担当者はすんなりと転居先を教えてくれた。しかし、本来であればこれは当然のことで、住民票は原則として公開であり、特にDV・ストーカー行為の被害者として閲覧の制限を申請しておかない限りは、家族の閲覧請求が拒まれることはない。

しかし、驚くべきことはその転居先が、以前アパートにあった小包に書かれていた福岡県北九州市にある彼女の実家になっていたことだ。大阪市からさらに引っ越していたのである。

それにしても、なぜわざわざ転居届が出されていたのか。これはある意味真面目なところがある彼が、仕事をするためには住民票が必要だということで、転居届を出していたのである。しかし、働こうとする彼に対し、彼女は就職が決まった矢先の相手の会社に勝手に断りの電話を入れるなどしてなぜか妨害した。彼の所持金はいつも0円だった。しかし、いざという時に公衆電話で助けを求められるように、お守りの中に買い物の時などのお釣りを貯めて隠し持っていた。

2012年7月7日の朝6時ごろ、彼の方から父親に電話で「助けてくれ」と救援要請があった。彼女はいつも夜更かしして午前4時頃に寝るので、彼女が寝ているすきを見て電話したのだ。

救援要請はとにかく慌ただしいものだった。彼が言うにはとにかく迎えに来て欲しいという。すぐに準備をした父親は新幹線で新大阪から小倉まで行き、さらに彼女の実家の近くまで電車を乗り継いだ。同時期に母親が地元の警察に連絡をしていたため、父親が現地につくと周辺にパトカーが停まって見張っている状態だった。

彼が父親に連絡したことを知った彼女は怒ってかなりの暴力を振るったが、その一方でこの機に父親から金を無心しようと考えたのか、実家の近くのマクドナルドを待ち合わせ場所に指定した。3人はマクドナルドで落ちあい、話し合いをしたが、彼女は彼を帰すことに同意せず、父親がトイレに行くために席を立っているすきに彼を連れてタクシーで逃げてしまった。

ここで彼女は自分の実家が父親に知られていることを知らずに、2人で実家である市営住宅に戻った。しかし、しばらくして父親はそこに押しかけた。

彼女が彼にしがみついて泣いて引き止めるなどそこでも一悶着あったが、彼が帰るという意思を示したため、父親と共に大阪へと戻った。

そして、彼の口から今までの経緯が明らかにされた。彼によればずっと彼女に脅され、暴行されていたという。彼は後で大阪地裁に保護命令申立書を提出しており、そこには医師の診断書と共に脅迫と暴行の内容が生々しく書かれている。例えば「携帯の角で頭や首筋を10発程殴打された」「殺してやる、お前の家族も全員殺してやる、と言われ続けていました」「自分の兄はヤクザだ」といった内容である。一方、彼女もそれに対して反論する書面を提出しており、こちらは逆に「自分が暴行された」「ペニスバンドで責められた」といったものだ。

また、冒頭で述べた約600万円の借金は、彼女に脅されてカードなどで借りさせられたものだ。一時期沖縄にいたのは本当で、彼の個人年金を解約して得た約110万円がホテル代等の旅行費用にあてられた。

父親は、彼女のことだけでなく、警察に対しても憤る。

「麻里子が戻ってきた後で警察に行ったら、やっぱり自分らのせいでこんなことになったという負い目があるのか、すぐに北九州の警察にも連絡してくれましたよ。地元の警察からは札付きの人物として知られているみたいですね。警察はどうして居所が分かったのか不思議がっていましたが、どうやって調べたのかは教えてやりませんでした」

その後、彼女は暴行の疑いで警察に逮捕され、大阪簡裁に略式起訴、30万円の罰金の判決が確定して、現在は釈放されている。

なお、彼女の被害者は他にもおり、「FTMを理解している、そのような友人もいる」と言って信頼させてFTMに近づき、食い物にすることを繰り返してきたという。

ちなみに、彼女の実家の場所は北九州市小倉南こくらみなみ長行東おさゆきひがし、小字では彼女の苗字そのまんまの「伊崎」と呼ばれる地域だ。彼女の実家はそこにある市営住宅の一室だ。筆者はそのことに何か感じるものがあったので、特に北九州市の部落事情に詳しいという同和マニアに聞いてみた。

「この地区の部落姓は、伊崎と考えられます。昭和51年の住宅地図によれば同和対策の集会所があります。その隣に伊崎さんがいます。しかも、この地区にダントツ多い姓です。他にもこの地域には、北九州に多い部落姓が共存しています。これは被差別部落固有の現象であり単なる偶然とは考えにくいです」

ただし、現地に行ってみると、ごくありふれた住宅地という感じであり、同和地区という雰囲気はない。

GIDというのは同和とともに人権に関する課題として語られることが多い。本人の主張は大々的に取り上げられるが、家族の苦悩や、ましてや今回のようなどうしようもない話は、まずメディアに取り上げられることはない。また、個人情報保護はDV・ストーカーからの保護とからめて語られることがあるが、本人が脅されて誘拐されてしまった場合は、捜索を難しくするということは盲点ではないだろうか。

そして、何より興味深いのは、今回の事件の舞台である北九州市小倉南区に程近い北九州市小倉北区で、2002年に北九州監禁殺人事件があったことだ。家族を対立させ、破滅に追い込もうとする点で今回の事件と北九州監禁殺人事件は共通点がある。奇しくも2011年に発覚した尼崎あまがさき事件も同様の構図があったことから、再び北九州監禁殺人事件は注目されている。

今回の「伊崎事件」も、一歩間違えば北九州監禁殺人事件あるいは尼崎事件の再来となっていたのかも知れない。

その後、井上さんは自己破産が認められ、介護の仕事に戻っている。母親は実のところ熱心な仏教者であり「麻里子が五体満足で帰ってきたのは信心のおかげ」と感謝している。(鳥)

B-CASカード書き換えで捕まった“平成の龍馬”氏第2回公判

By 鳥取ループ

鳥取ループ(取材・文)

前回に続いてのレポートです。

今日は前回に続いて証人尋問が行われました。

前回はWOWOW、スターチャンネル、スカパーJSATの各衛星放送事業者に対する尋問が行われましたが、今回は最後の衛星放送事業者である(一般社団法人デジタル放送推進協会)DPAの社員が尋問に立ちました。

DPAは難視対策衛星放送を運用しており、無料放送であるという点が他の事業者と違います。

検察、弁護士の双方から、難視対策衛星放送とは何なのかについて質問がされました。そこでDPA社員から最も多く出たのが「緊急避難的」という言葉です。その意味は、放送法に基づいて定められた基幹放送基本計画、電波法に基づいて定められた基幹放送用周波数使用計画により地上波の放送範囲が限定されており、難視対策衛星放送はその原則を破って本来は首都圏に限定された放送を衛星を使って全国に再放送しているということです。言い換えれば法律上の根拠がないということだと思われます。

難視対策衛星放送を受信できる視聴者の条件は4つあり

  1. 視聴者の住所を確認する書類がない場合
  2. 利用規約を遵守すること
  3. 知的財産権を侵害するおそれがないこと
  4. 放送法等に反する利用をしないこと

これらの条件はDPAが定めたもので、B-CAS社との契約は有料衛星放送事業者と同じです。つまり、B-CASとの契約上はDPAは誰にでも視聴をさせる権限があります。

ただし視聴には申請が必要で、視聴者は最小限にするという方針があり、視聴世帯数を総務省に報告しているということです。視聴者を最小限にしている背景には基幹放送基本計画で地上波の受信地域が放送局ごとに限定されていることがあります。しかし、その理由についてまでは「答えられる立場にない」ということでした。

前回の有料放送事業者の社員がかなりぶっちゃけて答えているのに比べると、DPAは少し奥歯に物が挟まったようなところがあるのが印象的でした。

ではB-CAS書き換え騒動でDPAがどのような損害を受けたかというと、金銭的な損害はなく、ただ総務省に正確な視聴世帯数を報告できなくなるということでした。

次に、休憩を挟んで多田被告への被告人質問が始まりました。まずは弁護士から、現在の被告の状況、逮捕されるまでの経緯が質問されました。

多田被告は今年の4月末に京都大学を退職。その理由は事件後に教員や学生との接触を禁じられ、隔離部屋で1人作業をさせられることになり、居づらくなったためでした。現在は、東京に引っ越してそこで別の職場に就職しています。

事件前は2011年ごろからオピニオンサイト「アゴラ」や「平成の龍馬 blog」で言論活動を開始。そこで難視対策衛星は誰もが見られるべきだといった主張をしていました。きっかけは、2010年10月に池田信夫が地デジ不要論を唱え、それに多田被告も共感したことでした。要は衛星放送で全国にあまねく放送できるのだから、高コストの地デジは無駄だというものです。

2011年6月にアナログ放送が停波された時に、DPAが停波により一時的に視聴できなくなる世帯のために、暫定的に難視対策衛星の視聴申請を受け付けており、多田被告は実際に申請して2012年1月に視聴期限が切れるまで難視対策衛星を見ていました。

そこまで難視対策衛星にこだわるのは「東京への憧れ」のためだと強調していました。

そして、2012年5月にB-CAS書き換え騒動があり、多田被告もカードを書き換えて、ブログに書き換え方法等を掲載し、6月に事件が起こるということになります。

ここで弁護側と多田被告が強調したのは、あくまで難視対策衛星を見るのが目的であったが有料放送を除外して難視対策衛星だけ見られるようにする方法がなかったということです。ただし、有料放送には関心がないとしながら、なぜ有料放送を録画したのか問われると、そこはよく覚えていないと返答につまる場面がありました。

検事もその点について、有料放送が見られるようになると分かって書き換えたのではないかと追求しました。しかし、多田被告の答えは、あくまで有料放送には関心がないということでした。

また、難視対策衛星の視聴を申請したことがあるのなら、視聴が限定されるというB-CASの仕組みをよく理解していたのではないかと問われると、それは知っているが、法律上犯罪にはならないし、倫理的にも見ることに問題はないと考えていると多田被告は答えました。

そして、無罪になればまたカードの書き換えをするのかという問いには、多田被告はしないと答えました。その理由は「今は東京にいるので東京のチャンネルが見られるので」ということでした。

最後に、裁判官からいくつか質問がありました。

裁判官が「2038年化とは何ですか?」と聞くと、多田被告は「それはカードの書き換えで2038年まで見られる状態になるから」と答えました。

裁判官も、なぜ有料放送を録画したのかに関心を持っていましたが、多田被告の答えは弁護士や検事に対するものと同じようなものでした。ただ、カードを書き換えた後に気が変わって有料放送を見たくなったということではないということでした。

そして「有罪になれば司法の判断を受け入れますか」という裁判官の問いに、多田被告は「有罪になれば書き換えはしません」と答えました。

また、B-CAS社からは損害賠償の請求をされていないことが明らかにされました。

次回公判は10月30日13時20分から、京都地裁209号法廷で行われます。そして、12月3日11時30分に同法廷で判決が言い渡されることになります。

私の予想ですが、第1審は執行猶予付きの有罪判決の可能性が高いと考えられます。というのも、無罪が予想されるなら、裁判官が「もし有罪だったらどうするか?」というような質問はしないと思います。まず、有罪ありきでその上で情状酌量の余地があるかどうかを探っているように感じました。あの場で「有罪になってもやる」と答えたら即実刑になるということなのかも知れません。

では、仮に有罪であるとしたら、B-CASカードを書き換えてDPAの難視対策衛星を視聴したことについても罪とされるのか、あるいはWOWOW等の有料放送を視聴したことに関してのみ罪とされるのかが注目されるところでしょう。なぜなら、後者の判決が確定すれば、2015年までのわずかの間ですが、B-CASカードを書き換える等の方法で堂々と難視対策衛星が視聴される現象が発生する可能性があるためです。

ここは非常に微妙な問題です。私電磁記録不正作出は私文書偽造の延長線上にある犯罪で、私文書偽造は文書の内容の真実性よりも、文書の作成者に文書を作成する権限があるかどうかが重視されるからです。そういう意味では、いくら放送法上は難視対策衛星を誰でも見てよいとは言ってもB-CASカードを書き換えるのはアウトと言えますが、そもそもDPAの業務に法的根拠がないため、DPAには視聴を制限する私電磁記録を作成する権限がないという考え方もあるためです。

検察が有料放送を視聴したことについて追及していたのは、その予防線の意味もあるように感じられました。

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B-CASカード書き換えで捕まった“平成の龍馬”氏の公判が始まる

By 鳥取ループ

鳥取ループ(取材・文)

弊舎刊「B-CAS 事故 ‘8674422’ 2012年テレビ視聴制限崩壊の真実」で取り上げたB-CASカード書き換え問題に関連し、昨年の6月20日に逮捕された“平成の龍馬”こと多田光宏被告の公判が9月3日から始まりました。既に複数のメディアが報じていますが、本誌はどこよりも詳しくレポートします。

初公判は9月3日13時20分から京都地裁で行われました。

担当は高橋孝治裁判官です。当初は206号法廷で行われる予定でしたが、急遽101号法廷に変更されました。冒頭でその理由について裁判官から、傍聴人が多くなることが予想されたので、傍聴席が多い法廷に変更したと説明がありました。なお、傍聴人は20人前後で、主に記者、放送業界関係者と思われる人が来ていました。

被告席には弁護士が3人、現在保釈中の身である多田被告は黒いスーツ姿で、終始落ち着いた様子でした。もっとも、殺人のような凶悪犯罪でもなく、破廉恥罪とも言いがたいので、裁判官、検察官、被告関係者、そして今回証人として出席した放送業界関係者も1つの手続きとして淡々と裁判を進めているという状況でした。

最初に行われたのは、裁判官から被告人の身上(姓名、住所、本籍地、生年月日、職業)の確認という型通りの手続きです。そして、検察官が起訴状を読み上げました。

起訴状によれば、今回の罪状は刑法161条の2、1項・2項。つまり「電磁的記録不正作出及び供用」であり、なおかつそれ以外の罪状はないことが示されました。

次に、これも型どおりに裁判官から黙秘権の告知がされた上で、被告人側の罪状認否が行われました。これは被告側が事前に提出した文書を、多田被告本人が読み上げる形式で行われました。被告側はカードを書き換えてタダ見した事実は認めたものの、これは罪にはあたらないとして無罪を主張しました。

次に、検察から犯罪事実について詳細な説明がされました。それによれば、多田被告は自宅と実家で計2回多田被告B-CASカードを書き換えてタダ見し放題にし、実際にWOWOW等の有料放送チャンネルと難視対策衛星を視聴していました。

次に、なぜ無罪なのかについて、弁護士から説明がされました。

まず、そもそも今回の逮捕は“見せしめ逮捕”であり、当初は多田被告がB-CAS書き換えプログラムをばらまいたとして不正競争防止法違反で捜査したものの、そのような事実がなかったことから“脱法的”に刑法161条の2を適用したものだと弁護士は主張しました。

では、なぜ脱法的なのかと言えば、有料放送のスクランブル解除については放送法・不正競争防止法・著作権法により規制されるものであって、なおかつこれらの法律は有料放送のタダ身には罰則を設けていないことから、有料放送のタダ見を罰しないことが立法者の意図するところであるということです。

そして、刑法161条の2が適用されるためには、改ざんされたデータが「権利義務に関する電磁的記録」「人の事務処理の用に供する」ものであるという条件があるります、改ざんされたのはデータではなく「プログラム」であること、そしてスクランブル解除は被告が所有する機器の中で完結しており、放送事業者とは何もやり取りをしていないのだから「人の事務処理」にあたらないということです。

また、確かに有料放送も受信したがそれは3番組だけで、ほとんどは難視対策衛星であり、被告の興味は専らそちらで有料放送を受信する意図は最初からなかったという点、なおかつ難視対策衛星は無料放送であって本来は誰でも受信する権利があることも主張しました。

ここで憲法の「知る権利」ということを弁護士は述べていたので、最終的に最高裁まで行くことになった場合に、そこでは主に憲法問題でしか争えないので、そのための布石かなという印象を受けました。

もちろん、多田被告の兼ねてからの持論である「B-CASは独占禁止法違反」という主張もされました。

ここで、裁判官から今回の裁判の、5つの争点が示されました。それは次の通りです。

  1. 検察の主張は刑法161条の2の脱法的適用で、罪刑法定主義に反するか
  2. B-CASカードの中にある情報は権利義務に関する電磁的記録にあたるか
  3. B-CASカードによる有料衛星放送の視聴が人の事務処理にあたるか
  4. B-CASカードを改ざんした目的は何であったのか
  5. 専ら難視対策衛星を受信するという目的であっても罪にあたるか

今後は以上の点が重要であり、逆に言えばそれ以外の主張(B-CASは独占禁止法違反であるなど)は裁判官により無視される可能性が高いと考えられます。

次に、証拠の取り調べ手続きで双方の証拠が提出されました。

検察側から出されたのは、改ざんされたB-CASカードの解析結果や被告のPCやレコーダーの解析結果で、特に被告に不利な証拠としては有料放送番組の番組表を見ていたこと、WOWOW等の番組を録画していたことが示されました。

一方、弁護士側からは特に被告に有利な証拠として、有料放送のタダ見は処罰されるほどの重罪ではないとの議論がされてきたことが、法律の解説書や国会の議事録、政府の審議会の議事録により示されました。

ここで20分ほど休廷となり、公判は放送業界関係者に対する証人尋問が行われました。個人的にはここから先が見どころでした。裁判の証人尋問では、証人が事実を語ること、知っていることを隠し立てしない旨を宣誓し、嘘をつくと偽証罪にあたることを裁判官から注意された上で証言をします。すると、普段は大っぴらに語ることができないことを、公開の法廷で語らなければならないという特別な状況が生じます。

この日の証人は3人、それぞれWOWOW、スターチャンネル、スカパーJSATで今回のB-CAS改ざん問題への対応を担当している社員です。最初に検察官から、後に弁護士から証人に質問がされました。

全体的な印象ですが、検察官は特に被告に不利な事実を引き出そうとするというよりは、各社の業務内容、B-CAS社との契約内容についてなるべく詳しく答えてもらうように、淡々と質問していました。一方弁護士は、どうして今回の問題に対処できないのか、各社はどのような権限を持っているのか、視聴者の情報をどれだけ把握しているのかに興味を持っていました。

おそらく問題について一番知識があり、詳しく答えたのは最初のWOWOWの証人の方でした。検察官からB-CAS社との契約内容について突っ込んで聞かれた時に、事業者番号の占有料とシステム利用料としてそれぞれ年間で2400万円、計4800万円を支払っていることが明らかにされました。

「事業者番号の占有」というのは、B-CASカードの中に事業者ごとに視聴期間を記録する部分があり、そこを変更する権限がB-CAS社から各放送事業者に与えられていて、契約した視聴者のカードに対して電波を送って視聴期間を最大で1年先に設定するという運用をしているということでした。

また、なぜ今回のカード書き換え問題に対処できないのかという弁護士からの質問について、各社とも自社ではどうにもできずB-CAS社に対応を丸投げしている状態であることが証言されました。また、WOWOWの証人によれば視聴を不可能にするEMM(いわゆる“毒電波”)は、月あたり2~3万枚のカードに送るのが限界であって、既に2億7000万枚発行されたカードに送ることは現実的には不可能であるといいます。

今後の裁判の流れは

次回公判は9月10日13時20分に設定されました。この日は引き続き証人尋問が主となります。

その次は10月30日13時20分で、この日は論告弁論で検察官から求刑が行われます。

そして、予定通りに進めば12月上旬に判決が言い渡される見込みです。

平成の龍馬氏に勝算はあるか

日本の裁判では起訴されたら無罪判決を得ること自体が非常に難しいので、今回もその例に漏れないことには変わりはないですが、「放送法・不正競争防止法・著作権法でタダ見行為への罰則の適用が見送られたのに、同様の行為に刑法を適用するのは脱法的だ」という弁護側の主張には一定の理があるので、勝算が全くない裁判ではないと見ています。

また、仮に負けても執行猶予が付くでしょう。多田氏の場合は否認して真っ向から検察と対立してはいますが、B-CAS書き換え絡みで他の事例では執行猶予付き判決になっている例があり、なおかつ多田氏の場合はその中でも最も悪質性が少ないケースだからです。多田氏が実刑になってしまえば、他の事例との整合性が付きません。

次回もレポートする予定です。