標準化問題が今、各地の自治体を悩ませているのをご存知だろうか。住民記録や税などの情報システムを国の仕様にそろえ、行政の効率化を目指す取り組みだ。しかし、既に共同運用を進めていた地域でも費用増が生じ、浜松市では年間運用費が9.1億円から21.1億円へ膨らむ。取材に回答した同市は、移行期限を優先したことによる課題も説明した。何が負担を押し上げ、どう改善するのか。地域の実情と市の回答から考える。
自治体のシステムをそろえる「標準化」とは

自治体の情報システム標準化とは、住民記録、税、福祉などの基幹業務20業務について、システムの機能やデータの形式を国が定める標準に合わせる取り組みである。自治体ごとの個別改修を減らし、制度改正への対応やデータ連携を円滑にする狙いだ。
これと併せて進められているのが、国が調達するクラウドサービス「ガバメントクラウド」の利用。標準化はシステムの仕様をそろえること、クラウド移行はシステムを動かす基盤を変えることであり、それぞれの費用と効果を検証する必要がある。デジタル庁は、共同利用によるコスト削減やセキュリティ対策などを利点として説明してきた。
ところが、実際の移行では運用費の増加が問題になっているのだ。中核市市長会は2025年1月、標準化に関する緊急要望をデジタル庁と総務省に提出。効率化を目指す政策が、自治体財政の新たな負担になりかねない状況である。
要望を受けて平将明・デジタル大臣(当時)は記者団から自治体の負担軽減を問われこう回答した。
「自治体の情報システムの運用経費については、自治体が現行システムで負担する運用経費に相当するものであることなどを踏まえ、各自治体が負担することが基本となりますが、今お話しがあったとおり、ガバメントクラウドの利用料等については、当庁で把握している見込み等を踏まえ、所要の地方交付税措置が講じられることとなっております」
国から自治体に対して何らかのサポートがあるようだ。
標準化により自治体の業務も円滑になり、ひいては我々の生活にも効果をもたらすだろう。しかしコスト増ではむしろありがた迷惑になりかねない。
既に共同化した自治体にも、再び移行負担

岐阜県内では、岐阜県市町村行政情報センターを通じて、既にシステムの共同運用を進めてきた。自治体が個別にシステムを持つ無駄を減らしていた地域で、全国標準への対応によって再び構成を変えるのは、二度手間にならないのか。
実はこの問題は、2025年2月27日の衆議院予算委員会第一分科会でも取り上げられた。仙田晃宏衆院議員は、美濃市の試算として、従来の年間運用費3,790万円に対し、移行後はガバメントクラウド利用料3,900万円と標準準拠システムの運用費4,080万円、計7,980万円となり、約2.1倍に増えると説明した。
さらに、標準化対象と対象外のシステムを二本立てで維持することによって、維持管理費に「分割損」が発生すると指摘した。
地域での共同運用と全国共通の標準仕様は、目的も範囲も完全には一致しない。そのため、既に共同化していることだけで全国標準への対応が不要とは言えない。しかし、これまで積み上げてきた効率化を崩し、費用を増やしてしまうようでは、効率化という狙いへの疑問が生じ、自治体の理解も得にくいだろう。
問われているのは、全国で仕様をそろえるという方針と、地域ごとに築いてきた仕組みを、いかに無駄なく両立させるかという点だ。
浜松市が回答 年間12億円の増加にどう向き合うか
Web上で危機意識を表明したのは浜松市だ。
令和7年度 浜松市一般会計及び特別会計歳入歳出決算の審査意見1
この中で同市は「国は移行後の運用経費の削減を目指しているが、全国の多くの自治体で移行後の運用経費の増加が見込まれている」と警鐘を鳴らす。
浜松市でも、年間運用費が9.1億円から21.1億円へ、約2.3倍になる。増加額は年間12億円である。
同市は取材に対し、比較対象は同様の業務範囲・条件だと説明。新たな回線費や運用管理費、セキュリティ強化、物価・人件費の上昇に加え、移行期限を優先したことでクラウドに適した運用への最適化が十分にできなかったことも挙げた。
また、国の財政措置で不足する分を国費で確実に措置するよう要望している。費用増を深刻な課題として受け止めているようだ。
取材に回答した自治体は限られていた。その中で浜松市は、期待する効果だけでなく、独自機能の廃止や運用上の課題も説明してくれた。丁寧な回答に感謝したい。以下、質問と回答を全文掲載するので他自治体もぜひ参考にしてもらえれば幸いだ。
(1)運用経費9.1億円と21.1億円は、それぞれ何年度の、どの業務・システムを対象とした年間費用でしょうか。両者は同じ業務範囲・条件で比較した数字でしょうか。
・令和5年度と令和8年度における標準化対象業務が対象。
※令和9年度以降に標準化移行を予定している標準化対象業務は除く。
・両年度は同様の業務範囲・条件で比較した運用経費。
(2)運用経費の増加の原因はどのように分析されていますか。
・4つの要因が挙げられる。1点目として、構造的な要因。ガバメントクラウド移行によりクラウド接続回線費や運用管理補助委託などの新たな経費が発生。2点目として、機能強化要因。ガバメントクラウドへ移行したことにより、セキュリティレベルの高度化などサービスレベルが向上したことによるもの。3点目として、外的要因。物価上昇、賃上げによる人件費の増加等の経済環境の変化が考えられる。4点目として、標準化の移行期限に間に合わせることを優先した結果、標準化後の運用が十分にガバメントクラウドに最適化できず費用削減が見込めなかったことから、今後、運用の最適化を進め、経費削減を図っていく。
(3)貴市が運用経費の大幅な増加を初めて把握したのはいつでしょうか。標準化及びガバメントクラウドへの移行を進める際、どのような費用削減効果を見込み、どのように総費用を比較・検証したのでしょうか。
・標準化に向けて移行を進める中、移行後の運用経費を見積る令和7年度当初要求段階で把握。
・当市としても標準化移行対応をすることで、標準仕様書に準拠し、法改正等で発生していた個別カスタマイズ箇所の改修費が不要になるなどの効果を見込んでいた。
(4)標準化後のシステムについて、主な契約先、契約内容、契約期間、契約金額、契約方式をお示しください。
・契約先:日本電気株式会社 浜松支店
・契約内容:浜松市住民情報システム等ASPサービス利用
・契約期間:令和8年度の1年間
・契約金額:1,103,031,600円
・契約方式:随意契約
(5)為替変動による負担ということですが、国内企業に発注すれば為替の問題は解決できると思いますが、外国企業に発注するメリットをお教えください。
・デジタル庁が整備するガバメントクラウドは、5つのクラウドサービスから選定することとなっている。5つのうち1つが国内企業(事業者)、他4つが外国企業(事業者)であり、国内企業のクラウドサービスは、令和5年に条件付きで追加されたもの。
当市は令和4年度に標準準拠システムへの移行計画を策定し、当時、外国企業が提供するクラウドサービスの利用実績があり、安定的な構築・運用が可能になるメリットがあることから選定した。
(6)運用経費の増加に対して、地方交付税措置や国の補助制度によって、どの程度の財源が確保される見込みでしょうか。
・地方交付税や補助金など国の財政措置を活用するが、それでも運用経費の増加によって不足する分は国費で確実に措置するよう要望している。
(7)職員の作業時間の削減や住民サービスの改善など標準化によってどのような効果が見込まれるでしょうか。また効果をどのように測定して、評価されますか。
・税証明書の様式が統一化され、用途別の交付が不要となり、住民の負担が軽減される。
・カスタマイズで実装していた機能を廃止したことにより、改修経費削減が期待できる一方で、標準仕様書外の機能は実装できず、これまで重宝していた個別の機能が搭載できなくなった。
・ガバメントクラウド利用による情報システム全体のセキュリティレベルの高度化。
・様式やデータの持ち方が共通化されることにより、今後、国・地方を通じた全体としてデータ連携・活用により業務効率化が図られることが期待できる。
・標準化移行直後であるため、今後、効果測定方法を検討し、評価していきたい。
浜松市の回答からは、費用増を放置せず、運用の見直しと国への財政支援要望を進める姿勢が読み取れる。今後は、その取り組みを具体的な数字と工程に落とし込むことが重要となる。
まず、12億円の増加を要因別に整理すれば、市と事業者の工夫で削減できる部分と、国の制度や料金体系の見直しが必要な部分を区別できる。運用の最適化についても、削減目標と実施時期を示せれば、住民にとって見通しが分かりやすくなる。
独自機能の廃止については、改修費が減る効果と、職員の手作業が増えていないかも併せて検証する必要がある。税証明書の様式統一などの改善も、住民の手続きや職員の作業時間がどれだけ減ったかを確認すれば、成果として示せるだろう。
なお、質問では国内企業への発注と為替の関係を尋ねたが、国内企業と契約しても、その企業が外国製クラウドを利用していれば、為替の影響が残る場合がある。契約先の国籍だけで判断せず、実際のサービスや料金の仕組みを確認することが必要である。
今後は「移行できたか」から「負担を減らせるか」へ
標準化問題は、システムを移し替えれば終了というわけではなさそうだ。今後は、毎年発生する運用費をどこまで抑え、住民サービスや職員の業務改善につなげられるかが問われる。
国も、2025年6月に移行後の運用経費に関する総合的な対策を公表。費用の問題は、自治体ごとの努力だけで解決すべき課題とは扱われていない。
今後、クラウドの利用構成や運用の共同化が進めば、費用が下がる可能性は大。標準仕様によって制度改正への対応やデータ連携が容易になり、中長期的な効果が出ることも期待される。一方、新たに加わった回線費や管理費、サービス水準の引き上げに伴う経費が、最適化だけですべてなくなるとは限らない。
そのため、自治体には削減できる費用と残る費用を明らかにすることが、国には財政支援と制度の見直しを進めることが求められる。国費で補填すれば市の負担は軽くなるが、公費全体の支出が減るわけではないからだ。
浜松市のように課題を具体的に説明する自治体の声を集め、地域の実情に応じて改善していく必要がある。標準化の成否を測る基準は、移行件数だけでは足りない。
要は住民と自治体の負担を減らし、行政サービスを持続できる仕組みになったかどうか。ここを重視してほしい。



