旧鈴鹿郡関町には28戸の部落があったとの記録がある。過去の文献では木崎町、木崎区20番組。『管内◯◯部落と其人口 』には七軒町の記述がある。皮革や牛馬商をやっていたとも。

正確な場所は分からなかったが、昨年末にリニューアルされ掲載情報が増えて検索機能が大幅に強化された国立国会図書館デジタルコレクションで調べた情報をもとに現地を探訪し、特定に成功した。

部落問題研究所の雑誌『部落』1996年3月号で「谷本幸雄」という人物が「鈴鹿郡関町には若干の部落があるんですけど、結婚以来ずっとそこに住んでいます」と発言している。この言い回しは関町にある部落は1つではないことを示唆している。

「結婚以来ずっとそこに住んでいます」は、生まれた時からそこで暮らしている訳ではなく、途中からそこに住んだということだろう。問題は「そこ」が部落を指すのか、関町全般を指すのかということだが。同じ記事で「私は地区に住んでますから」と発言しているので、文字通り部落に住んでいるのであろう。

個人名が分かれば、電話帳、住宅地図で特定できる可能性が高まる。そうして、特定されたのがここだ。

現地には真宗高田派の寺があり、墓地には「谷本」の墓石が確認できる。東海の部落は高田派の檀徒であることが多いが、この寺は一般も檀徒であるはずだ。

幸いにも現地で詳しい方に聞くことが出来た。「谷本さん？先生だよ」「確かに昔は7軒あった、今は4軒に減ったな」。確かに部落で、もしかすると皮革や牛馬商をしていたのかも知れないということだ。

ということは、ここが「七軒町」ではないだろうか。

実は地図で調べると、町外れの川に近い辺りに明治時代から7軒の家が並んでいる場所があるので、そこが七軒町だと思っていた。しかし、関町は東海道の宿場町。今までの経験上、宿場の部落は街道のすぐ裏手にあることが多い。とすると、7軒の家の並びはあまりにも離れているし、「町」とも言い難い場所にある。

ここが7軒なら、当然、過去の記録にある28軒には到底届かない。ということは、最初の見立通り、少なくとももう1つの部落があるということだ。

その位置は文献では分からなかったので、過去の航空写真から推測する。かつては宿が並んでいたであろう街道から少し外れた場所で、20軒程度の家の集まりを探してみる。

すると、宿場町の北東辺りにそれらしい場所を見つけた。さらに「マッポン！」で名字の分布を分析すると「北川」「中谷」「松本」姓による20から30戸程度のコミュニティが浮かび上がってきた。

決定的なのは「木崎地区集会所」の存在である。これはここが関町木崎の中でも特に木崎町と言われていることを示唆している。何よりも亀山市のウェブサイトに答えが書かれてしまっていた。亀山市木崎地区集会所は地方改善事業により建設されたと書かれている。とすると、指定同和地区である可能性が高い。

住民によれば、この道路から北側が「木崎地区」なのだそうだ。「なぜ木崎地区？木崎地区集会所があるからじゃない？」と住民は言う。

ここに来て、はっきりと確信した。他の宿場町でも見た部落と雰囲気が共通している。

住民によれば、確かにここは部落と言われていて、今は大体30軒くらい。ただ、同和事業の存在を意識したことはなく、運動団体も昔何人かがそういうのをやっていたくらいだと言う。今はめっきりそのような活動はなくなっており、住民は意識しなくなったということだ。

ちなみに、この辺りが自治会の「3番組」と言うそうだ。西に向かって数字が増えていくことから、七軒町の辺りが20番組だったということもあり得るだろう。

もとは農家が多く、農耕のための牛や馬を飼ってはいたが、皮革業や斃牛馬の処理をやっていたとは聞いたことがないという。むしろ、そういうことをやっていたのは、もっと街道に近い側だという。あるいは、皮革や牛馬というのは七軒町だけのことなのかも知れない。

寺はこちらも真宗高田派で宝林寺。なお、かつて熊野皇大神社という名前だった関神社の氏子でもある。寺も神社も一般と同じで部落だけのものというわけではない。

ということで、今回も勝利してしまった。