日本人のおなまえ研究(2)
在日の通名で一番多い名字は?

By 鳥取ループ

前回に続き、『日本姓氏語源辞典』の作者である宮本洋一氏に、「在日の名前」について聞くシリーズ。今回は、在日コリアンの通名はどのように付けられたのかを解説していただいた。

在日の通名で一番多い名字は?

Q. 在日の通名で一番多い名字はずばり何か?

A. 新井が最多と考える。

新井が一位の原因としては、在日コリアンの典型的な通名のように思われてきた、金本のような「金」を含む名字が減ったことにある。

『金英達著作集Ⅰ 創氏改名の法制度と歴史』(金英達著、伊地知紀子編、明石書店、2002)の150ページにある1959年のランキングでは1位が金本で809人、2位が金山で673人、3位が金田で559人と「金」を含む通名が上位で、4位が新井で426人だった。なお、このランキングの本来の出典は『朝鮮の姓字をめぐる諸問題について』(警察庁警備局外事課、1963)とあって未見である。

また『在日韓国人名録 1981年版』(統一日報社、1980)に出ている通名を集計した1980年のランキングとしては1位が新井で303人、2位が山本で199人、3位が金本で173人と変化していた。

結論としては、1960年代から1970年代に「金」を含む通名はわかりやすすぎると考えて使用しなくなった結果として新井が最多となったと考える。

Q. 金の付く名字と言えば、例えば「金村」が多いと感じるが。

A. 人口が多いことと、比率が高いこととは異なる。

金村は推定人口は約六千人であって金本、金田、金山といった名前に比べると人口は少ない。

しかし、金村のコリア系の比率は『在日韓国人名録 1981年版』(統一日報社、1980)にもとづく推定では約70パーセントであって金本、金田、金山といった名前よりも在日コリアンの比率が高いということは言える。

Q. 金の付く名字の中でも、非常によく見かける「金子」は在日の名字と言えるか?

A. 金子の推定人口は約二十七万人であって、確かに「金」を含む姓で一番多い。

「金」を含むだけで「在日」との印象を持つとしたら金子を「在日の名字」と考えてしまう。しかし、実際は『在日韓国人名録 1981年版』(統一日報社、1980)にもとづく推定では金子のコリア系の比率は約2パーセント程度に過ぎない。

在日コリアンはどのように通名を決めたのか

Q. 在日コリアンの最多姓「新井」の由来を日本姓氏語源辞典で調べると、蘿井(ナジョン)のほとりで新羅王の朴赫居世(パク・ヒョッコセ)が誕生したという伝承から、朴氏が新井にしたとある。他の名前でも似たような伝承はあるのか?

A. 朴から新井にしたことは『金英達著作集Ⅰ 創氏改名の法制度と歴史』(金英達著、伊地知紀子編、明石書店、2002)の38ページにでている。

他の例としては、同書の同ページに全州李氏が李氏朝鮮の王を出した国の本ということで国本としたことが出ていた。

なお、国本は推定人口は約一万人で『在日韓国人名録 1981年版』(統一日報社、1980)から約三分の一がコリア系と推定している。

Q. 他には、どのような規則で通名を決めたのか?

A. やり方としては、戦中戦前の創氏改名での名前を踏襲した。

通名に関して『在日コリアンの名前に関する一考察』(金英達『関西大学人権問題研究室紀要 34号』(関西大学人権問題研究室、1996)所収)の15ページでは「一九四七年の外国人登録開始時の行政的混乱(在日コリアンの民族団体による外国人登録反対運動や本国との戸籍証明事務連絡の困難性)もあって、法律的根拠を失ったはずの創氏改名による日本式氏名での登録が認められたことに淵源している」とある。

『金英達著作集Ⅰ 創氏改名の法制度と歴史』(金英達著、伊地知紀子編、明石書店、2002)の38ページでは創氏改名の創氏を七つに分類しているので以下に記す。

1. 一字を追加
金→金村
張→張本

2. 本貫(コリアにおける本籍地)の地名
金海金氏→金海
河東鄭氏→河東

3. 本貫の地名の旧称
清州韓氏→西原
淳昌薛氏→玉川

4. 本貫を一部使用
星州李氏→星山
坡平尹氏→平沼

5. 先祖の由緒
密陽朴氏→新井(新羅王の蘿井の伝承から)
全州李氏→国本(李氏朝鮮の王を出して国の本となったことから)

6. 漢字を分解
朴→木下
崔→山住

7. 日本での発音に変更
南→南(みなみ)
林→林(はやし)

Q. 福や徳といった漢字が入った名字が在日コリアンに多いように感じる。

A. 福、徳は好字で日本人の名前でも多く使用する。

もし、「徳」が多いと感じるとしたら「徳山」が目立つことからではないかと考える。

なお、『官報』の帰化の記録を調べると「徳川」を通名としている例もあった。

Q. 時代や地域で在日コリアンの通名に違いがあるのか?

A. 時代による変化として1960年代から1970年代に民族性を残した通名が減った。

民族性を残した通名の減少は『本名を阻むものについて』(金時鐘『本名をはばむもの』(調布・ムルレの会、1983)所収)の17ページに「十年サイクルで、在日朝鮮人の通名は、日本人にもまして日本人的な名前を使う人が量的に多くなってきます。それはそのまま帰化申請の件数に付合します。金本なんていいません。叶とか木塚とか日本人的な名前になる。そして朝鮮の集落から切れたところで最も日本人的な表札を掲げて生きています」とあることからわかる。

地域に関しては『日本のコリアン・ワールドが面白いほどわかる本』(康煕奉、樂書館、2001)の174ページに「大阪には済州島出身が圧倒的に多いのに、逆に京都は慶尚道出身者がほとんど。隣同士の府でもこれほどの違いがある」とあるように出身地の違いはある。

結果として済州島に多い高、梁から派生した名前が大阪府に多いという特徴はあった。

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」への3件のフィードバック

  1. .

    解放同盟長野県連の中山英一は通名として「徳川」「近衛」を使ったことがあるそうですが、在日にも大名や貴族に憧れる俗情があったというわけですね。

    近衛や鷹司や一条・三条・九条など、公家華族の苗字を冒称した在日コリアンもいるのでしょうか?

    返信
    1. 鳥取ループ 投稿作成者

      日本姓氏語源辞典を検索してみましたが、コリア系の近衛や鷹司や一条・三条・九条はないようです。
      華族なら多いと思いますが、冒称したのかたまたま同じになってしまったのかは分かりません。
      徳川にしても、朝鮮民主主義人民共和国平安南道の徳川(トクチョン)市由来という可能性もあります。

      返信

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