８月13日、大阪府泉南市で開催された音楽イベントに出演した韓国人歌手、DJ SODAさんが観客から胸などを触られたと訴えた問題。マスコミは小躍りして「性被害」と報じつつ、主催企業の管理責任は不問だ。しかも行政と関係が密の会社。同社など中国系企業で顧問を務める「警察庁OB」の存在はとても意味深だ。

マスコミ、真夏の ボーナス記事

問題のイベントは株式会社TryHard JAPAN（トライハードジャパン、以下トライ社）が主宰する「ミュージックサーカス2023」。大阪・泉南りんくう公園で８月11日から13日の３日間、開催された。今年で10周年を迎える人気イベントで後援には大阪観光局、泉南市が名を連ねている。

今年のMUSIC CIRCUSは、水かけ祭り×音楽×花火×グルメ10周年を記念して、水かけ祭りとして有名なアジア最大級の音楽フェス「SIAM Songkran Music Festival」とコラボが決定！放水銃から発射される大量の水しぶきを浴びて、ずぶ濡れで盛り上がろう！

WEBサイトより。

当日は飲酒も可能。また元AV女優やセクシータレントの出演などアダルト要素も強く、単なる音楽フェスティバルとは趣きが異なる。昨今、水着撮影イベントというだけでフェミ活動家らが激怒するものだ。お色気要素が強い音楽イベントを自治体が後援することは容認するのだろうか。

後援理由について泉南市成長戦略室プロモーション戦略課は「主催者から提出のあった後援名義使用承認申請書に基づき、申請事業について確認を行ったところ、泉南市後援名義の使用の承認に関する事務取扱要領に定める承認要件を充たしているものと判断されたため、後援名義の使用の承認を行ったもの」と回答。また元AV女優らの参加は「イベント出演者による演出内容については詳細を把握していない」とした。

この通り、お役所もお墨付きのお祭りなのだ。

トラブルが起きたのは13日、DJ SODAさんがステージから降りて観客席に向かう。そしてフェンス越しにパフォーマンスをしながらファンと交流。この際に男女らと接触したとみられる。

その翌日、セクハラ被害を受けたことをSNSに投稿した。

日本の大阪ミュージックサーカスフェスティバルで公演を終えましたがその時に凄く悲しい出来事がありました。
ファンの方々ともっと近くで楽しんでもらうために、
私が公演の最後の部分でいつものようにファンの方々に近づいた時、
数人が突然私の胸を触ってくるというセクハラを受けました。 pic.twitter.com/fuidZ0sliD

— djsoda (@dj_soda_) August 14, 2023

韓国人女性が日本人から性的被害を受けたとの告発は、日本のマスコミにとって大好物だろう。 SODAさんにお得意の“寄り添い報道”を展開した。特にSNS上の意見は草刈り場だ。「ネットは～」「SNSでは～」とごく一部の投稿をまるで大多数のように伝えている。

マスコミ、活動肌ジャーナリストにとっては夏の大ボーナスの騒動だった。

「服装論」に終始する マスコミ報道

事態を受けて運営会社のトライ社は15日に声明を発表。刑事事件になる以前に「性暴力、性犯罪、卑劣な犯罪行為、犯人を特定」といった強い言葉が並ぶ。そして21日に同社は男女３人を不同意わいせつや暴行の疑いで刑事告発した。

マスコミ報道が活発になると状況の不自然さ、また警備体制を論じることですらSODAさんへの二次被害という風潮が出てきた。マスコミ、特にテレビではコメンテーターなる人々のお気持ちが表明されたがいずれも「（露出が多い）服装は関係ない」と服装論が中心だ。

SODAさんの当日の衣装は下着や水着に近い。表現は異なるがいずれも「露出が多いからセクハラをしていいわけではない」といった趣旨の話を天下御免の印籠のように振りかざす。しかし「露出が多いから誘発した」という声がどれだけあったことか。

当日は飲酒も可能で、その他セクシータレントも参加する雰囲気だ。となると盛り上がった観客の目前にSODAさんが登場することは接触のリスクがある。アイドルの握手会の類でもいわゆる「剥がし屋」というスタッフが必要以上のコンタクトを制止するが、当日の映像を見ても完全に放置である。

この状況に対して管理責任を問うことと服装の誘発論は別問題だ。ニューズウィーク日本版の記事などは管理責任を隠そうと必死さすら伝わる。

DJ SODA事件の「警備体制に問題あった」は本当か？

「客側がまともに振る舞えば、現行の警備体制で何も問題はないのである」との記述には驚いた。イベントの観客に何を期待しているのだろうか。真夏の開放的なイベント、そして飲酒も可能の状況、不特定多数の成人が熱狂する中で「まとも」でいるはずがない。それを制御するのが主催者責任ではないか。

にも関わらず一連の報道は主催側の管理責任を避けているかのようだ。

大阪観光局、泉南市が 後援

渦中の「ミュージックサーカス」とは初耳という方も多いだろう。実は地元ではかなりの人気イベント。昨年３月３日の泉南市議会で竹中勇人市長（当時）はふるさと納税の物品以外の返礼品について問われた際、「ミュージックサーカスのチケット」を挙げた。

これもまたイベントの知名度、人気を物語るだろう。泉南市の観光の目玉になったことも事実だ。だがその反面、2021年９月14日の決算審査特別委員会ではDJ議員こと、添田詩織市議から

10個イベントがあるということで、ここにも1,500万円補助金が投入されるということなので、今後これについても、これからいろいろ議論がなされると思いますので、今のうちに透明性を持った資料の提出などをお願いしますというところです。

と指摘された。泉南市のイベントがトライハードジャパン一社に集中していることから運営の透明性を求めたものだ。

これに対して市長は

そういうイベントをやる企業と市との関係ということで、私とこの代表の方とは面識はございます。しかし、それ以上の関係ではございません。

という説明に留まった。大阪観光局、泉南市が後援している通りトライハードジャパンは行政の事業に深く食い込む。ところが同社の設立は2013年でつまり新興企業。それもミュージックサーカス初開催の年に創業したわけだ。そして議員から指摘を受けるほど市の事業と密である。非常に不自然ではないか。

こうした場合、モノを言うのが「特定政党」「特定団体」「特定民族」いずれかの関与。

特にここは大阪。“ 訳ナシ”企業が公共事業に関われるほど甘い世界ではない。

この論理に従えばトライ社の場合、「特定民族」に相当するだろう。同社は一般社団法人日本中華總商会の会員企業だった。もちろん役員にも東アジア系出身者が並ぶ。

だが今回、本稿が注目したいのは「顧問」だ。

同社HPによると顧問に元警察庁長官官房長、菅沼清高氏の名がある。過去、日本維新の会と中国の関係をレポートしてきたがその取材の過程で浮上した人物。そして同じく中国系企業、株式会社大倉の顧問を務める。

同社の顧問も総務省元事務次官、東京地検元特捜部長、ＮＨＫ理事、また顧問には橋下綜合法律事務所ら錚々たる顔ぶれだ。

本稿とは直接関係ない企業なので概要だけを紹介しておくが、不動産事業、医療関連器具の販売、海外事業のコンサルティング、アスリート支援などを行っている。

同社・清瀧静男社長は中国政界ともパイプが深い。というよりもある人物を介しての交流なのだ。中国のソーシャルメディア「微博（Weibo）」の広告・PRの総合販売権を有するZ-ホールディングス株式会社代表・周帆氏である。

「習近平氏の兄貴分のような人物。周氏がタバコを吸おうとすると習近平がさっとライターを差し出したことも」（在阪華僑）

中国系の実業家の間では一目置かれた人物で日中友好40周年記念映画『明日に架ける愛』は製作総指揮が周氏、エグゼクティブプロデューサーが清瀧氏だ。

中国政財界にもつながる大倉の顧問を務める菅沼氏がトライハードジャパンでも同職にある。しかも警察庁OBという肩書きはイベント事業にとって有利ではないか。新興の中華系企業に警察庁OBが顧問を務める。菅沼氏はいざという時のケツ持ち、行政とのパイプ役…。今回の騒動でもマスコミが一切、トライ社の管理責任を問わないことの関係を疑いたくもなる。

そこでトライ社に質問してみた。

―飲酒可能、アダルト系の出演者など雰囲気作り、また管理体制は適切だったとお考えですか。

申し訳ございません。捜査にも影響のあるご質問となりますのでお答えは差し控えさせていただきます。

ー菅沼清高(元警察庁長官官房長)氏が顧問になった経緯は？

申しわけございません。 本件とは関連がないため回答いたしかねます。

降って湧いたようなミュージックサーカス騒動だが、これを単なる「セクハラ事件」と捉えるのは現在のマスコミの短絡さ。むしろ本件は関西の行政、中国、維新の関係を世に問う引き金と言ってもいいだろう。