昨年から紛糾している交野市役所のパワハラ問題について7月10日、全128ページに及ぶ調査報告書が公開された。調査対象は計16事案で、内部通報者A氏が訴えた複数職員によるハラスメントと、その通報を受けた交野市の対応が中心だ。委員会は、事案1~7について、A氏による複数職員へのパワハラと認定。だがその一方で、山本市長によるA氏への言動も1件がパワハラと認定されたのだ。(写真=昨年、NHKの取材を受けた山本市長)
報告書はどこだ?不誠実すぎる交野市

「交野市はあまりに不誠実だ」「市長に忖度したな」
市民からこんな声が寄せられた。こうした不満はよく分かる。普通、自治体は重要なアナウンスがあるとWebサイトのトップページに掲載するものだ。
ところが今回の報告書はアクセスが厄介だった。トップページの新着情報の欄には「交野市職員による不正な行為等に関する第三者調査委員会からの答申を受けた今後の対応等について(07月10日 人事課)」とある。
ところが市の新着情報をクリックして表示されるのは市長メッセージであり、そこには報告書本体への目立った導線がない。報告書を読むには、第三者調査委員会事務局のページまで移動し、さらにページ最下部までスクロールしなければならない。
すると第三者調査委員会事務局のページの最下部にひっそりと報告書のPDFファイルがある。これでは報告書どころか市長のアピールで情報公開の体を成していない。
極力、報告書を拡散させたくないという市側の意図が伝わる。
幸いSNS上では地元有志によって少なからず広まったようだが、さもなければ入手困難だった市民もいたはずだ。
筆者は過去、津市相生町自治会長事件、和歌山市連合自治会長事件といった行政事件を取材し、自治体が発表した報告集を読み込んだものだ。内容的には不満もあったが、誰でも容易に入手できた。
交野市の報告書の場合、適切に問題点をあぶり出したが、公開方法がおかしい。裏返せば市側、市長にとっては不都合な内容ということだろう。
ではどのようなことが報告されたか、内容を見ていく。
通報者に対して過度の負担

今回の事案は非常に複雑な構造である。というのはA氏は事案1~7まではパワハラ加害者として扱われたが、事案13~16までは被害者という立場だ。
委員会は、事案1~7についてA氏による複数職員へのパワハラを認定した。うち事案2では、単なる暴言ではなく、被害者に対する「暴行」も認定したのが特徴的だ。
逆にA氏は山本氏からのパワハラを訴えており、同氏による調査前の加害者、刑事告発の発言(事案13)がパワハラだと認定された。
一方、事案8、9、11、12、15についてはパワハラに該当しないと判断し、有印公文書の虚偽作成が疑われた事案10も非該当とした。市長による配転命令など事案14、16は、別の審査機関が判断すべき問題などとして、委員会は判断を示さなかった。
個々の加害行為と同等に重要なのは内部の体質だ。
委員会は、交野市役所内に
「ハラスメントを軽視・容認する文化」「上下関係を誇示する言動」「見て見ぬふりの姿勢」「職員間の対立や不信」「幹部層のガバナンス不全」「相談窓口、内部通報制度の機能不全」
が根付いていたと分析している。
特に内部通報については、通報から1年以上にわたって具体的な調査が行われず、通報者に「客観的・合理的な根拠」の提出を求め続けた結果、事実上、調査が停止。委員会は、市の内部通報制度そのものが公益通報者保護法の趣旨に沿っておらず、運用面でも機能不全だったと結論づけた。
それから過去記事でも指摘したが1年以上、告発が放置されてきたのも問題だ。
令和6年7月26日、Aや別の職員を加害者とする複数の事案について内部通報が提出。だが市は、通報者に録音などの「客観的・合理的な根拠」を求め、提出されなかったことを理由に検証を行わなかった。放置の状態が1年以上も続いたのは明らかに失態だ。
さらに内部通報後、市長や幹部職員は、通報者・被害者から十分に事情を聞く前に、被通報者側へ通報内容を伝え、被通報者側の説明を中心にヒアリング。委員会は、この過程について、通報者の保護を犠牲にし、中立性を欠いた対応だと指摘した。
制度面でも問題点は多々ある。交野市の内部通報要綱には、通報者が「客観的・合理的な根拠」を示すという条項がある。もちろん客観的な証拠がなければ、相手を陥れるための通報も起こり得る。このため対応は慎重であるべきだが交野市の場合、通報者に過大な立証負担を課していた。もっとも明確な証拠があったとしても適正な対応があったのか疑問だ。
職員たちは市の体質を悟っていたのだろう。そのためか交野市の内部通報制度は平成28年に始まったものの、今回の通報以前には平成29年の1件程度しか利用実績がなかった。またハラスメント相談窓口も平成30年度以降、確認できた相談例は人事課への相談9件程度にとどまり、そのうち1件は口頭注意で終了。制度が機能していないことが分かる。
山本市長のパワハラも認定した
当初、報告書は山本氏に対して配慮した内容になると予想した。だが山本氏のパワハラも認定しており、予想以上に踏み込んだ内容となっていた。これが事案13だ。
報告書の指摘からは、山本氏の対応の軽率さが際立つ。
委員会は被通報者であるAを、正式な調査や十分な本人聴取を行う前に「加害者」と断定し、ブログや記者会見で公表した行為について、山本市長によるパワハラと認定。
市長が組織のトップとして絶対的な人事権・指揮監督権を持ち、公の場で「加害者」「刑事告発する」などと発信したことが、Aに強い心理的圧迫を与えたと指摘された。
委員会はA本人への十分なヒアリングをしていない、弁明を十分に聞いていない、第三者委員会による調査を行うと表明しながら、その前に結論を発信した、と批判。山本市長は調査する側でありながら、裁定者・告発者・広報者を一人で兼ね、手続きの中立性を壊したという指摘は非常に重たい。
当時、山本氏はブログや記者会見で、証拠がそろい次第、刑事告発するとの方針を表明。委員会は、刑事告発への言及自体には一定の業務上の必要性があるとしながらも、「加害者」と断定した表現と組み合わさったことで、Aに対する強い心理的圧力を指摘した。
SNS上の発言通り、場当たり的な発言が目立つ山本氏らしい問題だ。
市長は交野市を統括する立場にあり、人事、評価、懲戒などに強い権限を有する。その市長が、調査前の職員を名指しに近い形で「加害者」とし、刑事告発まで公言したことは、一般の上司による叱責よりもはるかに重大というわけだ。
少なくとも一連の経緯を見る限り、刑事告発への言及が十分な調査と慎重な検討を経たものだったのかは疑わしい。要するにマスコミ向けに〝厳格な対応〟を演じたに過ぎないのではないか。
NHK報道とは何だったのか
「市長や幹部職員は、提言に述べた取組みを率先して推進していくことが、トップ層の責務であることを自覚し、この責務を果たしていくことが肝要である」
報告書は非常に踏み込んだもので、市長と幹部に苦言した内容だ。
市が報告書の公開場所を分かりにくくしたのもよく分かる。
その上で筆者個人の疑問点や問題意識も挙げておきたい。
先述した通り、筆者も行政内部のパワハラ、暴力的行為を取材したものだが、原因の多くは同和地区を背景とした外部の「特定住民」だった。それは特定市民とそれに追従する一部幹部らが職員に経済的、精神的負担を強いるというものだ。
ところが交野市の場合は内部で起きたことだ。しかも首長自らがパワハラと認定された。今後、どのように組織として自浄作用を働かせるのか。
疑問はまだ残る。報告書が作成される中で、職員A氏と関係が深いとされた艮幸浩・前副市長が新年度早々、退職したことだ。事情をよく知る艮氏がこのタイミングで役所を去ったことは闇の深さを痛感する。
そしてパワハラ発覚以前の状況も不可解だ。

報告書では当サイト記事も紹介された。「令和7年10月24日、ある出版社により」として
【交野市③】市長も黙殺 都市まちづくり部次長のパワハラ事件 〝フェイク改革派〟山本景市長の正体
過去記事が引用されてた。一部マスキングされたが、もちろん当サイト記事と判別がつく。
その後、10月27日に通報者らが記者会見を開き、パワハラを告発した。
当時、筆者は山本氏の言動、交野市内の公共事業を中心に取材しており、市内部のパワハラを知ったのはその渦中のことだ。しかし関係者からは10月18日にNHKが報道する予定で、告発を効果的にしたいので、NHKの第一報を待ってほしいということだった。
しかし18日前後にNHKの報道は確認できず、マスコミが報道したのは27日の記者会見後だ。
このため筆者は24日に本件パワハラ問題を報じたのだ。
ところが17日、山本氏のブログには「午後1時半、NHKの取材を受けました」と書かれている。一体、何の取材だったのか謎だ。同時期に、山本氏や交野市を取り上げたNHKのニュースは確認できなかった。わざわざ市長がブログで報告する以上、何らかの報道があっても不思議ではない。
昨年、同市を通じて山本氏に説明を求めたが、回答はなかった。
そこで実は取材ではなく、パワハラ問題の報道を見合わせるよう求める場だったのではないか、という疑念も囁かれている。
山本氏は反万博であり、また反維新というスタンスのため政府批判の中でマスコミが取り上げることも少なくない。
公人の発言を利用したいわゆる〝キリトリ記事〟や〝コタツ記事〟を作成するにあたっては格好の発信源。マスコミとしてはとても有難い首長なのだ。そうした関係上、NHKが何らかの忖度をした可能性も否定できない。
報告書の公表によって、問題はいったん区切りを迎えたが、交野市の病巣はなお残っている。



