大阪・関西万博反対派の急先鋒だった山本景市長が「万博ファシズム」「ゴミリング」(大屋根リングのこと)などと罵声を浴びせたことは問題視された。ところが「ルクセンブルク館」の部材を交野市に移設し、中学校跡地に子育て支援施設として再利用する計画を進めている。あれだけ忌み嫌った万博だが、山本氏の態度は矛盾しないか。しかも移設には約700万円の予算が必要で、事業スキームは市長自ら「脱法行為」と発言している。(写真=交野市Webサイトより。調印式)
配慮のない発言は本来、国際問題

大阪・関西万博で使用されたルクセンブルクパビリオンの一部が、大阪府交野市で子育て支援施設として再生される。パビリオンをそのまま移築するのではなく、鉄骨や屋根、空調設備などを再利用して新たな恒久施設を整備する計画。市は2027年度の完成を目指しているという。
もともと交野市とルクセンブルク側の協議は万博開幕前から進められていた。
市は2024年3月、ルクセンブルク政府と同国商業会議所が設立した経済利益団体「GIE」と、パビリオン施設の再利用に関する趣意書を締結。万博閉幕後に施設の所有権を交野市へ移し、公共施設などに活用する方向で協議を始めた。
その後、2025年11月に部材再利用に関する正式な協定を締結した。市によると、海外パビリオンの部材を自治体が公共施設として再利用する取り組みは、全国でも珍しいという。
再利用事業自体は否定しない。しかし問題は万博反対派だった山本氏が推進していることだ。過去の発言に対して憤る市民は少なくない。
ルクセンブルクはフランス、ドイツ、ベルギーの3国に囲まれた西ヨーロッパの内陸国。ベネルクス三国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)の一つだ。高い経済水準を保つ国だが、過酷な歴史を持つ。
1940年5月にナチス・ドイツの侵攻を受けたルクセンブルクは、短期間の軍政を経てドイツの民政下に置かれ、1942年8月にはドイツへ強制的に編入された。占領当局は1940年からフランス語を行政や公共空間から排除し、ドイツ語の使用や地名・人名のドイツ語化を推進。また、ルクセンブルク語を独立した国民言語ではなくドイツ語の一方言として扱うなど、ルクセンブルク固有の国家・民族意識を否定する徹底したドイツ化政策を実施した。
ファシズムの惨禍にあった当事者国である。
X上で言い放った「万博ファシズム」という山本氏の発言は広く拡散されてきた。もちろんルクセンブルクに向けた言葉ではないにせよ、ファシズムは同国にとって国家的トラウマだ。
大阪・関西万博が「ファシズム」ならば出展したルクセンブルクはその参加者ということになる。あまりに礼を失した発言。もちろんルクセンブルク以外の参加国に対しても無礼だ。

配慮のない発言であっても子飼いの市議、シンパは意に介していない様子。どころか支持する声すらあった。子育て、教育に敏感な市議、活動家も賛同するのが不思議でならない。
「みんなでつくるみんなの交野」は山本氏のスローガンだが、パビリオン再利用の方針は、市民への説明に先行して進められた。再利用に関する趣意書は2024年3月に締結され、第一中学校跡地活用についての市民説明会は2026年1~2月に開催された。その後、同年5月に基本計画が策定され、6~7月にも説明会や意見募集が行われた。
趣意書の締結から最初の説明会まで約1年10か月が経過しており、計画の早い段階から広く市民の意見を反映できたのか疑問だ。後述する大阪・関西万博の建築物再利用をテーマとした7月5日のトークイベントでは、質疑応答の時間は設けられていない。
パビリオン部材再利用事業の概要
事業概要を説明しておく。
ルクセンブルク館は、13の箱形の平屋建物を組み合わせた構造だった。交野市が譲り受けるのは、このうち展示室3室と多目的室に当たる比較的大きな4ボックス、延べ約430平方メートル分の部材である。
再利用の対象には、鉄骨の柱・梁・筋交い、鉄製屋根、自動ドア、開き戸、空調設備、照明、受変電設備、舗装材などが含まれる。一方、万博会場で特徴的だった白い膜屋根などは、費用や恒久施設への転用上の問題から、そのまま再現されない見通しだ。
部材は無償で譲渡され、再利用を前提とした解体費と交野市までの輸送費はルクセンブルク側が負担したと説明されている。ただし、交野市側には、新しい基礎や外壁、内装、設備、設計、建築確認、施工などの費用が発生する。
建設予定地は、交野市私部南にある旧市立第一中学校の跡地。老朽化した「青年の家」の地域子育て支援センター機能を移転し、未就学児から小学生までが利用できる施設として整備する。
基本計画の策定業務は、医療・福祉施設の設計やコンサルティングを手がけるアルキメディカ株式会社(東京都中央区)が受託した。契約額は737万円(消費税等67万円)で、履行期間は2025年12月11日から2026年3月27日までとされていた。
そもそもなぜ東京の会社が交野市のルクセンブルクパビリオン部材再利用業務を受注したのか。これも関係者が訝しむところ。それ以上に疑問なのが、工事について山本氏自らが「脱法行為」と言っていることだ。









万博トイレ「トイレ5」の設計者・米澤氏との対談で
もともと移設事業自体がかなり無理な計画だった。
万博の海外パビリオンは、半年間の会期を前提とした仮設建築物である。閉幕後に別の場所で恒久施設として再建築する場合は、通常の建築基準法令に適合させなければならない。
2025年4月に全面施行された改正建築基準法では、平屋かつ延べ面積200㎡以下の建築物を除き、構造規定などに関する建築確認審査の対象が拡大された。ルクセンブルク館は各ボックスが平屋で200平方メートル以下だったため、他の大型海外パビリオンと比べて再利用しやすい構造だったと市は説明している。
そこで市は敷地内に道路を設けて建築敷地を分け、各棟を延べ面積200平方メートル以下の平屋4棟として整備する計画だ。
①敷地に道路を1本通して、建築敷地を分割する。
②分割したそれぞれの独立した敷地に、「1棟あたり200平方メートル以下」の平屋ボックスを離して建てる。
③これにより、法的には「1つの大きな施設」ではなく、200平方メートル以下の小さな平屋が4棟並ぶ。
7月5日、山本氏は万博トイレ「トイレ5」の設計者・米澤隆氏(米澤隆建築設計事務所代表)とトークイベントを開催。同日の『EXPO-COMPASS』によればこの事業計画について山本氏はこう述べた。
「脱法行為と言われたらそれまでかもしれませんが、そういうやり方でもらって建てないといけないくらい、今の日本の建築基準法は非常に厳しい」
首長自らが「脱法行為」と表現した計画に基づき、パビリオンの部材が再利用されるということだ。
もっとも200平方メートル以下であっても建築基準への適合義務がなくなるわけではない。都市計画区域内では原則として建築確認も必要であり、最終的な適法性や安全性は、正式な設計と確認審査を通じて判断される。
今回、移設事業についての公文書を交野市に開示請求した。事業についての不明点、また市長が「脱法行為」と語った計画でパビリオン移設は行われるのか聞いた。
移設事業を担当する秘書政策課に質問すると「確認します」と言った後で、なぜか企画財政部情報マーケティング課広報担当から「メール」が送付されてきた。
本日、秘書政策課にお問い合わせいただいた件につきましては、本市として貴社の取材活動の一環と見なしております。貴社におかれましては、令和7年11月12日付でお送りしたメールにて回答いたしましたとおり、取材や問い合わせに対する協力はいたしかねます。
つまり情報公開で入手した公文書の疑問点にすら市は説明しないというのだ。おそらく「回答するな」という天の声によるものだろう。
それにしても不思議なもので、万博反対に同調した市議や左派市民がパビリオン移設に全く無批判だ。本来は革新系の市民オンブズマンが公共事業に対して厳しくチェックするものだが、交野市に限ってはそれもない。



