安倍元首相 一周忌【後編】献花台 クラファン騒動、暗殺陰謀論、妨害…虚しき 安倍ロス 模様

カテゴリー: 政治, 社会 | 投稿日: | 投稿者:
By Jun mishina

7月8日は各地で安倍元首相一周忌の法要が行われた。都内では増上寺で、また事件現場の大和西大寺駅前では献花台が設置され政界関係者、一般献花で大勢の人が集まった。悼む声、それでも罵声を浴びせる人々、そして政界といえば安倍派は後継者問題で揺れている。安倍ロスは現在進行形であり、そして今後も影を落とすだろう。

凶行から 一年、警備体制の 教訓は?

8日、近鉄「大和西大寺駅」は改札付近で多数の警官が配置され、自民党奈良県連の議員、職員らが参列者を誘導した。早くから報道関係者、一般参列者が詰めかけて会場の西大寺サンワシティ前は人で溢れかえっている。

本来は静かに悼むことはできないものかと思うが、そうはならないところが「安倍晋三」の存在感を物語る。様々な参列者が続々と訪れた。

右翼団体の街宣車の音響が鳴り響くと周辺は騒然となった。

大和西大寺駅からみた献花台会場。

また政界関係者や著名人が現れると、報道陣が一斉に囲み取材を始める。国民民主党・玉木雄一郎代表、榛葉賀津也幹事長が揃って参列した他、事件当時の国家公安委員長、二之湯智氏も訪れた。

県連関係者で注目したのは先の県知事選で荒井正吾前知事を推した有力県議の姿もあったことだ。前編で報じた通り、一周忌の事務局は高市早苗事務所。

知事選では対立したが法要はまた別ということだろう。しかし歓迎されない参列者もいた。

国民民主党・玉木雄一郎代表。涙ぐんだようにも見えた。
囲み取材に応じる二之湯智前国家公安委員長。

政治家という職業である以上、賛否両方の意見を受け入れるべきだ。かといって安倍氏に対するヤジ、罵声は一線を越えたように見えた。演説会場で赤ら顔(飲酒と思われる)で酩酊しながら「安倍が、森友が」と叫ぶシーンはどこかの会場で見た既視感がある。そして特徴的なのはヤジが一線を越えつつあること。昨今、演説会場でも「直接行動化」の傾向が強く偶発的なヤジというよりも計画的で組織だったケースが目立つ。

今回は一周忌。さすがに徒党を組んで“ 故人攻撃”は起こらないと思ったが、やはり安倍ロスは続いた。模造銃や壺の絵(統一教会の霊感商法)をイメージしたであろうイラスが描かれたボードを掲げた若者が献花台付近を徘徊する。現地ではコーン男と呼ばれていた。参列者に安倍氏のイラストを見せつけるようだ。

特にアジテーションをするわけでもなくただイラスト(タイトル写真右参照)を掲げて周辺を歩くだけ。しかし何も読経にまでつきまとう必要はあっただろうか。もちろん挑発目的なのは言うまでもない。

コーン男が僧侶の隣に。右隅には鈴木エイト氏の姿も。

そこでついに他参列者と口論になったのであろう。現場が騒然となり2名の若者が警察によって排除された。模造銃を持った男(20代)はその後、軽犯罪法違反で逮捕。アジテーションの文言から活動家と思しき男は現場の警官に囲まれても怒鳴り続けていた。周辺からは「早く逮捕しろ」といった声がかかるが、警官の態度は穏健的で宥めるといった態度に見えた。

「アベは反知性主義」

デモや集会でよく聞かれたフレーズだ。しかし一周忌に銃を模した不審物を持ち込み、会場を荒らす。またSNS上では慰霊碑に何のひねりも皮肉もないコラージュ写真で狂喜している。こういった行動が知性のある行為なのか理解に苦しむ。

直接行動化を どう防ぐのか?

そもそもアベガーは一種の娯楽でもあった。乾いた尿の臭いが充満する公共施設の一室で繰り返される政治集会。「アベ政治を許さない」も行き場を失った人々や高齢者のオアシスだった。通常、講演の登壇者の話が終了した後、会場のゲストがスピーチをする。

「安倍がまたお腹痛い痛い(第一次政権時の健康不良問題)」

この一声で会場はスタンディングオベーション、大ウケだ。裏返せばこの程度で十分である。今の政界を見渡しても罵倒一つで溜飲が下げられる政治家は存在するだろうか。

不思議なものでメインテーマへの関心よりも「アベガー」の時の方が熱気に満ちている。そして三々五々と帰っていく。ただこの種の催しは“ 昼間の丑の刻参り”といったもので実害はない。

ところが左派、野党支持者いわゆる活動家のデモや抗議スタイルは直接行動化の傾向がある。ある意味、山上徹也被告はその頂点ともいえよう。現に本人不在の一周忌にすら怒りをぶつけにやってくる。彼らが政治に対してどんな不満を抱くか分からない。だがこうした直接行動によって政治が変革するとは思えないし、それ以前に彼らの生活が向上するわけでもなし。それでも抗議に及ぶのは“ 安倍ロス”ならではだ。

図面をもとに作成。台は献花台、Kは事情聴取場所、赤丸は警備、青い矢印に沿って献花台に行く。

当日の警備図面をみると西大寺駅から約10~11カ所に警備が配置されていた。駅改札から警官が配置され非常に厳重な体制だ。しかしそれでも妨害者はやってくる。

参列者からは「なぜ警察は早く対応しなかったんだ」と不満が漏れてきた。また自民党奈良県連関係者も「県警には抗議したい」と怒り心頭だ。もちろんせっかくの一周忌を荒らされた気持ちは理解できるが、警察も対応に苦慮したのは見てとれた。

「妨害といってもただプラカードを掲げて歩いているだけ。明らかな挑発行為ですが、式の進行を妨げたとは言えないでしょう。今時、公務執行妨害というのもかなり無理があります」(公安関係者)

2019年参院選、札幌市内で演説中の安倍首相(当時)にヤジを飛ばし警官に排除されたことは「表現の自由の侵害」として男女の活動家が北海道に損害賠償を求め裁判を起こした。奈良県警としてもこうした実例を意識したはずだ。

抗議行動は何も大声のヤジやアジテーションだけではない。安倍氏に限らない問題だ。仮に演説会場へ献花台前のコーン男のような手段(ただイラストを見せつけ徘徊するだけ)で活動家がやってきた場合、「妨害」と言い切れるだろうか。不快だが演説を阻害するものではない。

しかもこうした活動家たちは著名人、文化人、大学教員、メディア関係者、あるいはSNSユーザーから絶賛されるものだ。つまり事実上の現場助勢が行われる。それは山上徹也被告に作家で法政大・島田雅彦教授の「暗殺成功して良かった」発言などは最たるものだ。

警察当局はもちろん議員にとっても左派の直接行動化は今後の選挙、政治活動でも意識した方がいいだろう。

暗殺陰謀論、イタコ芸、保守派の 安倍ロスも深刻

週刊文春ですら暗殺陰謀論記事を掲載した。

一周忌ですら抗議にやってくるのも安倍ロス。そして一周忌を迎えてもなお安倍氏に執着する一部保守派も安倍ロスにあるといえるだろう。

LGBT法(LGBT理解増進法)の論議の頃、自民党議員&支援者の間では「安倍さんだったら法案を潰してくれた」という言説が多々聞かれた。しかし安倍政権下の「参議院選挙公約2016」で同法を公約に入れていたことをお忘れだろうか。旧民主党政権ですらできなかった部落差別解消推進法も安倍政権下で制定されたもの。安倍政権の政策が全て保守派の要求を満たしたとは到底、思えない。

そして今でも一部保守派著名人や支持者の間で叫ばれる暗殺陰謀論。特に印象的なのは保守系のネット番組『文化人放送局』の一部論者だ。別の保守系メディア関係者によれば「文化人放送局の陰謀説を茶化したところ本人から直接抗議が来た」と打ち明けた。

暗殺をめぐる謀略説は多数存在するが、おおよそ実証的でなく伝聞推定に過ぎない。それでも主張を続けるのはそこに支持者がいるからだ。

論者と支持者は一種の協力関係で安倍ロスを持続させている。そして安倍ロスによって起きるトラブルも見逃せない。ネット上で署名と募金を募る「Voice」で「安倍晋三元総理の一周忌に現場献花台実現を」が立ち上がった。投稿主は堀友和氏。実業家で自民党員だという。

堀氏は6月19日に献花台設置の正式に決定したと投稿。これに対して保守派のユーザーや安倍氏支持者から賞賛の声が寄せられた。クラウドファンディングの提出先をみると奈良市と自民党奈良県連だ。県連からは「勝手に名前を使った」と堀氏に抗議。双方の支持者が反目する事態になった。

堀氏周辺によると「献花台を設置するのかはっきりしなかったのでそれならばやりたい人でお金を集めてやればいいじゃないか、ということになったのです。ただ県連の名前を勝手に使ったわけではありません。『Voice』のシステム上、提出先を明記しなければならなくて奈良市と奈良県連にしたのです。この点については認識不足だったと思います」と説明する。

結局、堀氏の元には100万円以上の寄付が集まったが、使用されることもなく堀氏は返金の予定だ。

堀氏ー県連側で支持者も分断されたが、特に堀氏支持者で散見されたのは「奈良県連が何もしていない」という意見だった。外部の眼にはそう映ったとしても、献花台設置は水面下で進めざるをえない事情があった。

「県知事選でもご存知の通り、奈良県連で安倍‐高市系統のグループは多数派でもないんですよ。今年3月に『日米地位協定の抜本的見直しを求める意見書』を奈良市議会は採択しましたが、政府の方針とは逆行していますが自民党会派も賛成しているんですよ。保守王国といってもいわゆる安倍路線とは違っています。このため献花台設置も有志で水面下で進める必要がありました」(地元党関係者)

こうした事情を知らずに起きてしまったクラウドファンディングのトラブルと言えよう。それにしてもここで着目すべきなのは「安倍さんの慰霊」というだけで多額の寄付が集まることだ。そしてたびたび発生する暗殺の謀略説。いまだに死を受け止められないのか、それとも商業利用、政治利用のためなのか。そして繰り返すのは

「安倍さんがいたら…」

だ。

揺れる 後継者問題、これからの 安倍ロスは

命日に先立つこと今月6日、安倍派は党本部で会合を開き今後の派閥運営について討議した。党内は萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長、松野博一官房長官らを中心とした集団指導体制と新会長を選出する案で対立したという。

前編でも指摘した通り、安倍派にとって後継者問題は深刻。突出したリーダーが不在だ。というよりも安倍氏の存在感が抜きん出たこともあるが、関係者から「会長選んでも集団指導体制でも求心力低下で分裂必至」と懸念の声が伝わる。

安倍氏への取材経験を持つ政治記者の証言は興味深い。

「閣僚経験を持つベテランは“安倍派でまともなのは松野(官房長官)ぐらい。松野が内閣に入っては派閥がまとめられないと安倍さんが嘆いていた ”と言っていました。ただ松野さんの官房長官任命は安倍さんが健在の頃で当然、安倍さんの意向もあったはず。なので松野さんを内閣に送ったことを安倍さんが嘆くというのも不自然なのかな、と」

その上で

「安倍さんが松野さんを評価していたのも事実なんでしょう。要する様々な人が一様に“安倍さんはこう言っていた、こう漏らした ”というのですよ。それで収まるからでしょうね」(同)

シンパ・アンチに問わず「安倍晋三」は政治利用しやすく、またそれぞれのシーンで、それぞれの主張や思惑を満たせたのだ。

だがもうその安倍氏はいない。本人不在のイタコ芸ももう限界が来るだろう。

自民とその周辺は後継者に悩む、親安倍・反安倍問わず安倍頼みのメディアは最大のキラーコンテンツを失った、さらに安倍憎しの一点で一致した野党や左派の面々は攻撃目標を失い、下手をすればその不毛なエネルギーは内に向かう可能性も高い。左右問わず安倍依存を深めた結果であり、安倍ロスが落とす影は大きいだろう。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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安倍元首相 一周忌【後編】献花台 クラファン騒動、暗殺陰謀論、妨害…虚しき 安倍ロス 模様」への2件のフィードバック

  1. うましかの一つ覚え

    右も左も偏った奴はろくでもないね、というのを再認識させられるだけだよね

    返信
  2. 匿名

    大和西大寺駅前に安くて美味い良い立ち飲み屋があったんだけどまだやってるかな?
    #72d2e37d2b09d805eb5ff6156e2745f7

    返信