淡路島5人殺害事件で 鑑定人が法廷でバトル

カテゴリー: 社会 | タグ: , | 投稿日: | 投稿者:
By 宮部 龍彦

去る7月17日、大阪高裁である事件の控訴審の第2回公判が行われた。2015年3月9日に起こった淡路島5人殺害事件の平野達彦被告の裁判である。この事件では、被告人の言動の異常さから精神障害が疑われ、そのためかマスメディアがあまり詳細を報じない状況が続いている。

平野達彦は一審で責任能力ありとして死刑判決を受けたが、控訴審においても異常な言動を繰り返したため、検察も弁護士も必要性を否定したにも関わらず村山浩昭裁判長が職権で再度の精神鑑定を行った。

7月17日は、高裁が指定した鑑定人による鑑定結果が明らかにされたのだが、それは原審(一審)の鑑定結果と異なるものとなり、それぞれの鑑定人が証人として出廷し、互いに批判し合うという奇妙な展開となった。

今回明らかにされた控訴審鑑定結果は、一言で言えば「平野達彦は妄想性障害だ」ということである。一方、原審では「薬剤性の精神障害」という別の鑑定結果が示されていた。

もう1つの違いは、精神障害が犯行に与えた影響の評価で、原審では平野達彦の症状は軽度の統合失調症と同程度で大きな影響はなかったとする一方、控訴審では犯行時には妄想性障害が悪化した状態で、大いに影響を与えたということである。犯行前の異常な言動だけでなく、5人を殺害するという凶行も含めて妄想によるものいうのだ。

控訴審鑑定人が原審鑑定人を最も批判したのは、「薬剤性精神障害はあり得ない」という点である。 そう主張する根拠は、確かに平野達彦にはメチルフェニデート(リタリン)と呼ばれる薬剤を乱用した過去があったが、犯行時はリタリンの服用を止めてから7年が経過していたことだ。そして、控訴審鑑定人は様々な論文を調査し薬剤性精神障害の専門家にも助言を求めたが、メタンフェタミン(覚せい剤)では乱用の後遺症として精神障害が残る事例があるものの、リタリンではそのような事例は見つからず、原審鑑定人は根拠を示していないということである。

この控訴審鑑定人の主張には説得力があって、確かに原審鑑定人が示した論文は覚せい剤によるものか、リタリンを服用している最中に起こる症状に関するものばかりであった。控訴審鑑定人が原審鑑定人に対してその点を追及すると、原審鑑定人は「論文はある」としたものの、具体的にその論文が何なのか答えられなかった。

一方、原審鑑定人は自身は平野達彦の精神鑑定に直接立ち会ったのに対し、控訴審鑑定人は平野達彦に拒否されたため、原審鑑定の臨床心理士のレポートだけで鑑定した点を批判した。そして、平野達彦の犯行は計画的で、犯行前も普通に生活出来ており、統合失調症の急性増悪期に相当するような重篤な精神症状はなかったということである。

原審鑑定人が平野達彦の症状を「軽い統合失調症様の症状」と表現したのに対し、控訴審鑑定人は「妄想性障害による妄想が悪化した状態」と表現した。ただし、いずれの鑑定人も統合失調症の可能性は否定している。

読者は気付いたと思うが、刑法39条で 心神喪失及び心神耗弱による刑の減免が定められていることからすると、刑の軽重を判断する上では控訴審鑑定の方が平野達彦にとって有利と言える。しかし、ここにはジレンマもある。

控訴審鑑定人は平野達彦の刑が減じられるべきことを示唆する一方で、次のことを指摘している。犯行直前に平野達彦がSNSで「告発活動」と自身が呼ぶ「テクノロジー犯罪」についての投稿を急激に増やしていることは、明らかに精神状態が悪化していることを示しており、そのことを警察や行政は把握していたのだから、直ちに措置入院等をすべきだったということだ。

つまり控訴審鑑定は平野達彦に対して「甘い」ように見えて、同様の犯罪を予防するために今後同様の犯罪をしそうな精神障害者には「厳しい」措置を求めている。

今もSNSで「テクノロジー犯罪」「集団ストーカー」で検索すれば、平野達彦がしたのと同様の情報がひっきりなしに発信されている。中には、宗教や在日コリアン、部落問題に結びつけた非常に差別的な内容もあるし、政権批判のような政治的な内容もある。

無論、それが犯罪行為に至るのはごく一部のケースであることも事実だ。どうするべきなのか、ある精神疾患研究者に聞いてみると、答えはこんな具合だ。

「表現の自由というものがありますし、そういったものを全て取り締まってしまったら、とても窮屈な社会になってしまいます」

研究者によれば「宗教精神病説」というものがある。世の中の主要な宗教は、実は統合失調症等の妄想を発端としているという説だ。とすると、宗教に対する評価と同じ用に、一方的に精神疾患を有害なものと決めつけることはできない。

これは筆者が調査している最中だが、宗教だけはなく政治にも、確実に精神疾患の妄想は影響している。例えば昨今有害性が指摘されている「反ワクチン運動」がある種の妄想と結びつているという意見がある。

妄想性障害あるいはそれに相当する精神障害者の中でも有害なものをSNSで見つけて、片っ端から措置入院させるということがあり得るのか?

SNS運営会社はいよいよ反ワクチンのような陰謀論の拡散防止に取り組むようになったし、いわゆる「ヘイトスピーチ」を現実社会で刑事罰により取り締まろうという動きがある。表現活動に対して予防的措置を取ることが容認されるような動きが社会に広まれば、あり得ないことではないのかも知れない。

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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淡路島5人殺害事件で 鑑定人が法廷でバトル」への2件のフィードバック

  1. Tea Light

    反ワクチンについて。

    ワクチンに関しては、近年になって激増した「発達障害」「自閉症」などの原因もありますし、それ以前の問題としてワクチン接種後に死亡する乳幼児がいることは、なかなか情報として公には出てきません。余談ではありますが、私も以前、MRIで撮影する際の造影剤で激しい副作用(ショック)が起こりましたが、医療機関にとって不都合な情報は隠されているのが現状です。

    話は戻りますが、ワクチンなどを含め今まで議論にすらならなかった社会の問題や疑問をすべて、あたかも「陰謀論」であるかのように片づけるのは危険だと思います。被害に遭ったすべての人が声を挙げられる人たちだとは限りませんし、大きな声が正しいとも限らないからです。

    私の周囲にも反ワクチンを声高く叫んでいる人たちがいますが、彼らは同時に「オーガニック信者」でもありますし「原発被害を祈りで収められる」と本気で考え、集団で祈っているような人たちです。そのことからもわかるように、行き過ぎたスピリチュアルと連動しているようなところがあって、私はこの背景にはどこかの宗教団体が関与していると見ていています。それは、勧誘やビジネスとして利用していると思えることが多すぎるからです。この方々は大麻を肯定的に見ている人たちでもありますが、私の印象としては社会の問題を深く考えることはなくファッションのような感じで、その時々の、誰かの思想に同調する傾向が強いような気がします。いかがでしょうか?

    それから精神障害者についても書きたいことがありますが、もう少し考えがまとまってからにします。犯罪や迷惑行為についても社会への寛容さを求める一方で、迷惑行為に対しての言及がすべて差別とも限らないように。皆それぞれに生活があるわけですし、安心安全を求めることは変わりません。

    とりとめのない文章で申し訳ございません。

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