「新・破産者マップ」が話題に 出口が見えない 官報の 破産者公告問題

By 宮部 龍彦

2019年3月に「破産者マップ」が登場しいわゆる炎上状態となったが、先日から「新・破産者マップ」がインターネットメディア等で話題となっている。共通するのは、官報に掲載された破産者の情報を実名と共に地図上に配置していることである。

実は、筆者は先月の時点で「新・破産者マップ」の存在を把握していた。今回は、筆者が独自に調査した、この問題の全容を法律上と技術的な面からできる限り解説する。

タテマエと 現実の矛盾

まずは法的な側面について、筆者はおよそ3年前に破産者マップについて解説したが、ほぼ当時の予言通りになっている。破産者マップは何度も復活し、しかも根本的な法的規制はできないでいる。

SNSやヤフコメ等を見ると、破産者マップに対する賛否はほぼ半々のようである。公式には弁護士や大手メディアの論調は「否」で一致しているが、しかしその理由付けが苦しいものであることは認めざるを得ないようだ。「否」の理由は大体次のようなものである。

  • 破産を躊躇させ、経済的に追い詰められた人をさらに追い詰める
  • 破産者に対する差別につながり、再チャレンジを阻害する
  • 紙の官報は奥ゆかしいメディアであり、無制限に情報が広まるネットとは違う
  • 個人情報保護法違反である
  • 有料で削除要請を受ける阿漕な商売をしている

一方、「賛」も同じくらいあり、その理由は次のようなものだ。

  • 借金を踏み倒して迷惑をかけたのだからペナルティは当然だ
  • そもそも破産者に不寛容な日本社会がおかしい、破産を何とも思わない国もある
  • 官報は法令も掲載されており、その内容は無制限に知られることが前提だ
  • 破産者マップが法律違反というなら官報の存在自体が法律違反だ
  • 個人情報保護法によれば開示手数料を取ってもよいとなっている

賛否は左右のイデオロギーや党派とは無関係で、賛否の理由も人によって様々なところが、この問題の特徴だ。

これほど大きな問題となっても、官報で破産者が公示されているという根本部分が何も変わらないのは、この問題の根深さを示している。破産法では破産者を官報で公告する旨が定められている。公告とは「法令上の義務により特定の事項を広く一般に知らせること」なので、破産者は文字通り大衆に晒されることが法律の定めなのだ。

一方、破産に関係した業務を行う弁護士は「官報なんてほとんどの人は見ないから、破産しても身近な人に知られることはまずないですよ」といった説明をしてきた。しかし「破産者マップ」の登場でその説明は崩れてしまった。そもそも、法律を文字通りに解釈するなら、弁護士は法律に反する説明をし、むしろ情報格差という「法の下の不平等」の上にあぐらをかいてきたに過ぎないことになる。

弁護士からは「破産者マップ許すまじ」の大合唱だが、弁護士に頼ったことのある庶民からすれば「弁護士に騙された」「報酬を得るために安易に破産を勧めてきたのではないか」ということになり、世論が諸手を挙げて弁護士に同情する方向に進まないのは、このような背景があるだろう。

今からでも遅くないから破産者を官報で公告することを止めないのかと疑問を持つ人も多いだろう。しかし、筆者が3年前に解説した通り、それは破産という制度の根幹部分に関わるため、実現は難しい。

例えば破産者情報へのアクセスを金融業者や弁護士等に限るという考え方もあるが、誰かに金を貸すのは金融業者だけではない。それだけでなく、例えば売掛金という形で誰かに債務を負わせることは、商行為をしている人全般に当てはまることなので、破産ということは結局ほぼ全ての国民の利害関係に関わってくる。現状の制度を変えてしまうと、あらゆる経済活動に予想もつかないような影響を与えてしまうことになる。

確かに誰もが頻繁に破産者情報にアクセスすることを必要としているわけではないが、いざ必要となった時に誰でもアクセスできる状態にしておかないと、現状の経済活動は成り立たない。例えば、何か物を売って代金がいつまでも支払われない時、相手が破産していると分からなければ、いつまでも損金処理できないことになってしまう。

今年4月に施行された改正個人情報保護法で、不適正な個人情報の利用が禁止されたが、これも小手先だけの対応と言わざるを得ない。

その理由の1つは、破産者情報の公開が「不適正な個人情報の利用」に該当すると法律には明示されておらず、個人情報保護委員会が法解釈として破産者情報が該当すると主張していることだ。このような玉虫色の法改正がされたのは、破産者を公開するということはしなくても、個別に名前と住所を官報と照合して破産者を採用から排除するといった差別的な処置は以前から官民問わず行われており、またこれからも行われるはずで、それに対する後ろめたさから「破産」という文言を法律に明示することを避けたのではないだろうか。

もう1つの理由は、情報の流通や利用を規制したところで、情報の出処が放置されたままでは規制の実効性がないからだ。出しっぱなしの水道の前に「水を汲むな」と立て札を立てたところで、水が流れていく先で誰かが汲むのを止めることは無理な話だ。

そもそも、官報で公告された情報が個人情報保護法の規制対象なのかという、もっと根本的な問題もある。個人情報保護法施行令によれば不特定多数に販売されていた出版物のようなものは規制対象から除外されており、官報はまさにそれに該当するのではないかという考え方もあるだろう。

なお、筆者は「アンチ個人情報保護」シリーズで、個人情報保護制度自体が根本的な欠陥を抱えていることを指摘してきた。破産者マップ問題はまさにそれが顕在化した実例と考える。ぜひ本シリーズもお読みいただきたい。

破産者マップの 情報源は インターネット版官報

「破産者マップ」はどうやって作られたのか?

はっきり言ってしまえば、オリジナルの「破産者マップ」の情報源はインターネット版官報であることは間違いない。紙版の官報を発行している国立印刷局が運営する、インターネット版官報の有料サービスは検索可能になっているだけでなく、官報の内容を文字情報として取得できるようになっている。

普段は人間が操作しているウェブブラウザをプログラムによって自動操作して、インターネット上の情報を自動保存する「スクレイピング」という手法を用い、さらに取得した情報からプログラムによって破産者の情報を取得し、国土地理院等が公開している住所ごとの座標データを使って地図に落としたのが破産者マップである。

無論、これらは筆者による推測だが、99.9%の確度でこの方法を用いたと確信している。掲載された情報の特徴がインターネット版官報の文字情報データによく似ているからだ。

インターネット版官報の規約では文字情報等を自動的に動作するプログラムによって取得することは禁止されているが、少なくとも破産者マップが登場し、その後も長い間文字情報が技術的に取得できる状態であったことは間違いない。文字情報を提供しないようにすることは技術的に可能なはずだが、そうしなかったのは、国立印刷局が何らかの理由で文字情報を提供することを黙認していたと考えざるを得ない。

その理由は、官公庁や企業等において、文字情報化された破産者の情報を照合する需要があるからだ。

「破産者マップ」の後に、地図でなく文字情報だけにした「モンスターマップ」が登場し、それが個人情報保護委員会の命令により閉鎖されると、今度は有料で破産者の情報を提供する「破産者情報提供サービス」が登場した。

「破産者情報提供サービス」は、運営者として神奈川県伊勢原市の「フロネシス合同会社」「政治団体オープンサイエンス」(代表:遠藤有人)が明示されており、これは最初の「破産者マップ」の運営者と同じである。政治団体を名乗っているのは、個人情報保護法が政治活動を規制対象外としているため、規制回避のためと考えられる。

しかしながら、「破産者情報提供サービス」も個人情報保護委員会から閉鎖を命じられ、今年の3月の時点で破産者の情報を提供するサービスを停止している。

一方、今回登場した「新・破産者マップ」は旧破産者マップの運営者とは別の者が行っている可能性が高い。

まず「やり口」が全然異なる。旧破産者マップ系のサイトは今年の3月まで常に官報の最新情報を掲載していた。しかし、「新・破産者マップ」は2018年までとやや古いデータを掲載している。

さらに、情報の削除料金が6万円または12万円という、旧破産者マップでもやらなかった、あからさまな脅しのような金銭要求をしている。それならば、常に最新の情報を掲載した方がより「儲かる」はずなのに、あえてそれをやらないのは不自然である。

「新・破産者マップ」はおそらく旧破産者マップから抜き出したデータを利用した二番煎じのサイトだろう。

個人情報保護委員会の メンタルが崩壊?

旧破産者マップの運営者であった遠藤有人氏が、「遠藤有人の研究ノート」というサイトを公開している。ここでは、旧破産者マップに関連する法的措置の経過が書かれている。それによれば、国立印刷局から官報の販売を拒否され、旧破産者マップに関連して民事訴訟を起こされ、一方で遠藤氏自身も個人情報保護員会に対してサイトの閉鎖命令を取り消すよう法的措置を続けているということである。

昨今、個人情報保護委員会が法的措置に対応するために人員を増やす等、体制強化を進めていると報道されているが、これは間違いなく一連の破産者マップへの対応のためである。

事情を知る関係者は「個人情報委員会の担当者は、破産者マップの件の対応に忙殺されて、本来の業務ができないとぼやいていました」と語る。また、個人情報保護委員会のコールセンターに破産者マップへの対応を求める苦情が殺到し、担当者が精神的に疲弊しているという。

筆者の疑問は、そもそもこれは個人情報保護委員会が担当するべき業務ではないのではないか、ということだ。

「新・破産者マップ」は国外で運営していることを主張しているところ、一応個人情報保護法は日本国内向けに情報を提供する国外の業者にも適用されることになっているが、相手国が承認しない限りは日本の法律は執行できない。極端な仮定をすると、例えば「新・破産者マップ」は北朝鮮の政府機関によるもので、日本の破産者情報を利用して外貨を稼ぐ企みであるのなら、お手上げということになってしまう。

また、国立印刷局が官報の販売を拒否したということも、尋常なことではないように思う。

個人情報保護委員会の本来の仕事は、大企業などが独占的な立場を個人情報を収集し、それによって国民のプライバシーが侵害されるような事態を防ぐことである。国立印刷局に至っては、言わば技術者集団であって政治的な判断をするような機関ではない。

「破産者マップ」の問題は、個人情報保護というよりは、古くから行われてきた破産者の公告制度や官報の存在意義に関わる、もっと高度な政治的調整が必要な問題であって、新しくできたばかりの個人情報保護員会が担当するには荷が重すぎないか。

今のままでは問題の出口が見えておらず、しかも責任を負うべき政府与党が全ての対応を個人情報保護委員会に丸投げして逃げているようだ。

なお、さきほど北朝鮮の例を出したが、外国勢力が日本の法制度の欠陥を突いて、日本の一行政機関を混乱に陥れるための策略に使うとすれば、よく出来たものだ。

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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「新・破産者マップ」が話題に 出口が見えない 官報の 破産者公告問題」への1件のフィードバック

  1. 社会運動等標ぼうゴロ

    尼崎問題「自治体web例規集」「egov法令検索」「条例Webアーカイブデータベース」等は役に立ちませんか。「尼崎市営住宅の設置及び管理に関する条例」「社会福祉法第2条」「隣保館.com」はどうでしょう。奴等(ツイ速、ネタウヨ)何も判ってない。指導してやって下さい。

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