市民病院の予算案をめぐり堀内大造市長と市議会の対立が続いている。市長が病院事業会計への5億円貸付を盛り込んだ補正予算を専決処分したことに対し、市議会は「議会の意思を無視した」と反発した。この遺恨は続き、6月12日、本会議で窪西駿介副市長が反論したことについて自由同和会奈良県本部会長・仲本博文市議らが「人権問題」まで持ち出したのだ。その後、副市長との話し合いでは全く無関係な「部落」といったワードまで飛び出したという。
専決処分巡り市長と議会が全面対決

奈良県大和高田市で、大和高田市立病院への5億円支援を巡り、堀内大造市長に対して市議会が攻勢を強めている。3月19日の大和高田市議会で総額298億7500万円の2026年度一般会計当初予算案など25議案が可決された。ところが市立病院への貸付金を含む関連3議案は反対多数で否決。
これに対して「病院への早急な資金支援が必要」「電子カルテ更新を急ぐ必要があった」「中東情勢の影響でマイクロチップなどの医療材料の調達が不安定」などの理由を挙げ、堀内市長は原案通り専決処分。これに対して議会が「議会軽視」と市長を批判したのだ。
専決処分は市長に認められた例外的な権限のことだ。地方自治法179条に
地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。
と定められており、違法行為ではない。しかし議会側としては議論する時間は十分あったと反論。
そこで5月11日、同市議会は専決処分を不承認とし、市長辞職勧告決議を可決したのだ。経緯についてもう少し詳細を説明しておこう。
もともとの原因は市立病院の厳しい経営状況にある。市は病院の資金繰りを維持するため、一般会計から病院事業会計へ5億円を貸し付ける補正予算案を3月議会に提案。しかし市議会は、「病院支援なら貸付ではなく一般会計からの繰入れで対応すべきだ」として関連予算を否決した。
議会側は、経営難に陥った病院に返済能力があるのか疑問視している。貸付であれば病院には返済義務が生じ、利息負担によって経営がさらに圧迫される可能性があるとの指摘もあった。実態としては赤字補填に近いにもかかわらず、貸付金という形式を採用していることへの批判も根強い。
今回の問題は単なる病院支援策の是非にとどまらない。病院経営の悪化、一般会計からの財政支援のあり方、そして市長と議会の権限関係が複雑に絡み合っている。特に大和高田市では、病院建て替え問題や財政運営を巡り、これまでも市長と議会の対立が続いてきた。
例えば昨年3月、奈良県大和高田市議会は、堀内市長が提案した2025年度の一般会計当初予算案と修正案を否決。議会は十分な歳出削減や行政のガバナンス不全を理由に市長に対する問責決議も記憶に新しい。
それともう一点、見逃せないのが辞職勧告決議は、来年4月に任期満了を迎える堀内市長への〝けん制〟との見方も強い。というのは辞職勧告決議を提出した戸谷仁史市議は市長選への立候補が囁かれる。また反市長派の筆頭、会派絆・維新がとある幹部職員を市長選に擁立しようと画策中だ。
「議会軽視」と憤る戸谷市議だが、市長選狙いという意図もあったのではないか。同市議に聞いた。
「そういう噂は流れていますけど、私にはそんな人気はありません。それに辞職勧告は全く別問題です。昨年3月の問責決議も私が提出しました。その流れもあり、今回の辞職勧告決議も私が提起しました。地方自治法179条の専決処分とは緊急性を要する場合です。ところが令和8年度予算であれば3月末まで約12日の猶予期間があったのだから再修正案を提出し、再審議することもできました」
また市長も6月11日に市のWebサイトで声明を発表。
「今回の専決処分の不承認については、提案者である市長として、結果を大変重く受け止めております。今後、このような事態が起こらないよう適正な事務執行に努めて参る所存ですので、議員の皆様をはじめ、市民の皆さまには、引き続き市政運営に御理解と御協力を賜りますようお願い申し上げます」
市長派の中には「専決処分がなければ病院が支払いできなくなる」「議会がまとまらないから専決せざるを得なかった」といった擁護論も少なくない。
市長派、反市長派それぞれの立場で言い分が異なるのはやむを得ないこと。だが問題は病院問題をめぐる対立によって一部市議による〝暴言トラブル〟が起きたことだ。
「訴えたろか」(森本市議)、「人権侵害」(仲本市議)

大和高田市は財政悪化が懸念され、一部報道では財政再生団体への転落も囁かれる。また堀内市長が2期連続で無投票当選だったことに対しても市役所の内外から批判論が出てきた。そんな中で絆・維新会派を中心とした反市長派が専決処分について不快感を示している。
そんな中で市職員、副市長への暴言問題が起きたのだ。
6月12日の全員協議会でのこと。病院関係の予算をめぐる議題で市民病院事務局長が地方自治法179条を根拠に専決処分は違法行為ではなく、問題はないとの説明に立った。
市関係者はこう明かす。
「すると森本尚順市議が〝訴えたろか、訴えるわ〟などと事務局長に詰め寄ったのです」
【奈良の闇⑫】「100万円取りにこい!」と市職員を脅す萬津力則市議の〝同和〟パワハラ音声
昨年6月、温泉施設「高田温泉さくら荘」(同市池田)の運営をめぐって絆・維新会派の勉強会で萬津力則市議が同和問題をタテに市職員を威圧したという事態が起きた。その場で同席したのが森本市議だ。同氏もパワハラとまではいかなくともかなり強い語気で市職員に迫った。
森本氏、仲本氏、萬津氏も市内部では〝剛腕肌〟で通る三人衆。その上、同和まで持ち出されてはたまらない。
森本氏によれば「それはキリトリですよ。他の議員でも〝法廷で白黒をつけよう〟という意味で訴えるということはありますよ」と反論した。議会でエキサイトすることは起こり得ることであり、むしろ無風よりも激しい応酬、緊張感があって当然だ。しかし議員の立場で「訴える」というのは市職員を萎縮させる上に、なにしろ先述した通り、武闘派の会派だからより言葉の意味も大きくなる。
だが絆・維新会派の怒りは収まらない。
「本会議で窪西副市長が専決処分についての質疑応答中、森本氏の認識に誤りがあるとして、副市長が指摘する場面がありました。それに対して森本氏、そして仲本氏が激怒。散会するやいなや両氏は議会事務局前で副市長を捕まえて〝馬鹿にしている〟などと詰め寄ったのです。その上、仲本氏に至っては〝人権侵害や!〟とまで言い出したのです」(前出市関係者)
仲本氏は自由同和会奈良県本部の会長を務める。行政マンに対して同和団体の幹部が「人権」を持ち出すことの恐怖感は計り知れない。
そこで仲裁に入ったというのが先述した幹部職員。大和高田市議会の定数は17議席だが、市内部では同職員について「18番目の議員」との異名もある。
前出の関係者によれば幹部職員も「副市長は森本氏らをバカにしている」などと発言したという。単に認識不足を指摘しただけというのだが…。
同職員によれば「人権侵害といった発言は私は知りませんし、〝バカにしている〟とも言っていません。ただ副市長には〝ちょっと上からモノを言っている印象があったから少し落ち着きましょう〟として別室で話し合ってもらいました」と当時の状況を明かす。
庁内では森本市議に近いと目されてきた同職員。まさか市長選を意識して擁護的なのか。
「それはありません。もし市長選に立候補するなら妻から離婚すると言われていますよ。それに私が森本市議の派閥なんてことはないです。むしろ私ほど意見してきた職員はいません。(森本氏が)議長時代は出入り禁止になったぐらいですよ」(同前)
議長の立場で職員を〝出禁〟にするというのもおかしな話だが、いずれにしても市長・副市長と絆・維新会派との溝を物語っている。
問題の副市長と森本氏、仲本氏との話し合いについて「仲本氏から〝部落解放〟〝差別〟〝人格否定〟といった発言も聞こえた」(別の市関係者)との証言も見逃せない。
森本氏についてはこれまでも批判的な記事を報じてきたが、それでも堂々と説明に立った。ところがより強い言葉を投げかけた仲本氏にも言動について説明を求めたが、応じる気配はない。
仲本氏については建設不可の土地を医療機関に売却したという問題を報じた。
【奈良の闇⑨】続!大和高田市・仲本博文市議(自由同和会奈良県会長)による土地転がし疑惑
当時も「勘違いしている部分がある」としたが、まだ具体的な反論は得られていない。同和団体の幹部が人権問題を持ち出す意味は十分、理解しているはず。副市長とのやり取りのどの辺りが「人権問題」だったのか、またなぜ同和問題が関係するのか説明してもらいたい。
予算審議をめぐる認識の違いが、なぜ「人権問題」や「部落解放」「差別」といった言葉につながるのか。そこが本件の最大の疑問である。
奈良県議会をめぐって維新会派が分裂含みか
森本、仲本両氏の絆・維新会派が非常に有利に議会運営をしてきたのは事実で、そうした中での暴言と言えよう。市議会では最も有力な会派であるが、県議選をめぐって〝亀裂〟が囁かれているのだ。
「実は次期県議選で奈良維新の領袖、松尾勇臣県議と原山大亮衆院議員が大和高田市・堀口由美市議(絆・維新会派)を擁立するというのです。ところが一方で、森本氏は息子を県議選に出馬させようとしています。今年5月の地元の祭りでも息子を挨拶させていましたね」(地元政界通)
森本氏の子息は石井苗子参院議員の秘書を務めており、以前から県議選を狙っていたという。
2024年5月に大和高田市内で福田倫也県議(当時)が不審死を遂げたが、福田氏は堀口氏と懇意にしており、逆に森本氏とは距離があった。そうした関係から何としても身内を県議会に送り込みたいのだろうか。
堀口氏にすれば奈良維新の有力者がバックにいるのは心強い。対して森本氏も大和高田市内では影響力を持つが、果たして松尾、原山両氏に対抗できるのかは不透明だ。
県議選をめぐり維新内部で勢力争いが始まったのだが、これに対して地元記者はこんな疑問を投げかける。
「2年前、福田元県議が亡くなったことについて党内の人間関係や金銭問題などいろいろな憶測がありました。党ガバナンスにも関わることなのに、原因の調査も何もなかったでしょ? 地元県議の怪死について何ら検証もなく〝森本だ、堀口だ〟というのは順番が違うと思いますよ」
一見、堀内市長に攻勢をかけた維新会派だが、内部では複雑な問題を抱えている。そんな焦りや動揺から「人権侵害」というパワーワードを持ち出してしまったのだろうか。



