「巡回バスの早期廃止」を掲げた岐阜県岐南町の後藤友紀町長。しかし町は、公約を掲げた時点で、運行継続、途中解約、代替交通にかかる費用を個別具体的に試算していなかったと認めた。廃止の根拠や再編の日程が明らかにならない中、この問題を追及してきた三宅祐司町議の一般質問が不受理となった。町のバス政策と、議会で説明を求める機会が失われた経緯を検証する。(写真=後藤町長)
バス廃止は前町長への反発か

岐南町のコミュニティバス(巡回バス)は、年間約3500万円の公費が投入されてきた。町内を巡回し、鉄道駅などにつなぐ公共交通だ。町の資料によれば、巡回には1周約70分を要する。高齢者や障害者などの生活を支える役割がある一方、町長の議会答弁では、利用目的のおよそ半数を通勤・通学が占めるという。
町には、バスとは別にコミュニティタクシーもある。今後の再編案では、バスは主に通勤・通学、タクシーは主に買い物・通院に対応させる方向性が示されている。
再編議論の背景には、後藤町長が2024年の町長選で「廃止」を公約に掲げたことがある。廃止公約の背景には、前町長との政治的な対立もあったと指摘する声がある。
「コミュニティバスは小島英雄前町長が停留所を増やすなど拡充しました。ところが後藤町長は町議時代から反小島派だったため公約にバス廃止を掲げたのです」(町関係者)
同町はコンパクト(面積7.91km²、東西約7km×南北約3km)だが町民約2万6千人が暮らす人口密度は高い地域だ。住宅街、公共施設、商業施設が分散しており、徒歩だけではカバーしきれないエリアがある。コミュニティバスは、名鉄岐南駅や笠松駅、スーパー、病院などへの移動を支えている。
もちろん行政として費用対効果の検証は必要だが、いきなり「廃止」というのは乱暴すぎた。
2024年6月の議会では、通勤・通学利用が約50%を占めることなどを挙げ、高齢者や障害者などの日常生活を支えるという事業目的と、利用状況に「ミスマッチ」があると後藤町長は説明した。
代替手段を提示することを前提に、遅くとも2026年度末で事業を終了し、その後の継続は考えていないと答弁。条件が整えば、廃止時期が早まる可能性にも言及していた。
だが、早期廃止の判断を裏付ける費用比較は示されていない。廃止後の移動手段についても、実施時期や必要経費を明示した具体的な計画は示されていない。
町の方針が見えてこない
この点を具体的に追及したのが、2025年10月議会の三宅祐司町議の質問だ。
三宅氏は、町長就任から約1年半が経過したにもかかわらず、財務的な分析が示されていないと指摘。次の3案について、試算結果と提示時期を求めた。
①廃止した場合
②継続して改善・改革した場合
③現行方式を維持した場合
廃止案には、事業者への補償や債務負担も含めて比較するよう求めている。単に「バスを残せ」という質問ではなく、どの選択が合理的なのか、数字で示すよう迫ったものだ。
これに対し、総合政策部長は「試算は行っていません」と回答した。
さらに、事業実施までの検討が十分でなかったとの認識を示し、契約満了後に現行の巡回方式を継続することはないと説明した。
しかし、現行方式を続けないという結論と、どの方式が優れているかという比較は別の話だ。3案を比較する試算がないまま、選択肢の一つを除外する理由は十分に説明されていない。
三宅氏は実証運行についても尋ねた。笠松駅への直行バスなどを最低3カ月間走らせ、効果を検証する予算を次年度に盛り込めるかという質問だ。
部長は、財政状況、運行システム、関係機関との調整、住民への周知など、準備には時間が必要だと説明した。実証後に元の運行に戻せば、公共交通への信頼を失う恐れがあるとも述べた。
一方、実証に必要な予算を次年度予算編成の最優先事項として盛り込む方針も示した。しかし、実証の開始時期や具体的な工程は明らかにしなかった。
準備や調整が必要なことは理解できる。だが、それなら、いつ準備を終え、いつ実証するのかを示す必要がある。
また三宅氏は、今からでもプロジェクトチームを立ち上げ、2026
年4月を目標に実証運行計画や試算に取りかかれないかと町長に問うた。
町長の回答は、議会だよりに掲載された要約では、次の一言だ。
「町の考えは、これまで申し上げてきた通りです」
この回答からは、提案を採用するのか、採用しないならなぜなのか、いつまでに具体案を示すのかが分からない。三宅氏が求めた判断と期限に、町長自身が答えたとは言い難い。議会での説明だけでは、廃止の根拠も、その後の運行も分からない。そこで筆者は、後藤町長と町に対し、公約を掲げた際の試算、現在の存廃方針、契約満了後の運行などについて質問状を送った。以下、主な質問と回答を項目ごとに整理する。
町は「公約時点で具体的な試算なし」と回答

町の回答から、問題は3点に整理できる。
第一に、早期廃止を掲げた根拠だ。町は、公約時点で運行継続、途中解約、代替交通の費用を個別具体的に試算していなかったと認めた。「税金の無駄」と判断した客観的な基準も、今回の回答では示されなかった。廃止が継続・改善より合理的だと、何をもって判断したのか。
第二に、「廃止」と「再編」の関係だ。2026年1月の協議会資料には、通勤・通学を主目的に、平島地区から笠松駅へ直線型の路線を設け、朝に便を集中させる案がある。当初、通勤・通学利用の多さを事業目的との「ミスマッチ」と説明した後藤町長が、その需要を再編の柱に据えた。役割分担を見直すのであれば、その理由と、公約との関係を説明すべきだ。
第三に、契約満了後の運行日程だ。町は、新たな公共交通体系への移行を進めると回答したが、2027年4月1日から何が利用できるのかは明答していない。運行空白が必ず生じるとはいえないものの、それを防ぐ工程も示されていない。最終判断の具体的な年月日も未定だという。
―「早期廃止」公約を掲げた時点で、①現行運行継続費用、②契約途中解約時の違約金・補償額、③代替交通費用を調査しましたか。
公約を掲げた時点において、ご質問にある各項目について個別具体的な試算を行っていたものではありません。
―町長が 「税金の無駄」と判断した基準について
現行のコミュニティバスについては、利用実態や運行経費等を踏まえ、現在の運行形態をそのまま継続するのではなく、より効率的で持続可能な公共交通体系への転換が必要であると考えています。
―「ミスマッチ」と評価した通勤・通学需要を、今後のバス運行の主目的とした理由は?「真に必要とする方」の定義について教えてください。
現行の運行形態を見直し、通勤・通学を含めた多様な移動ニーズに対応できる、より利便性の高い公共交通体系への転換を目指すものです。また特定の年齢、障がいの有無、運転免許の有無、所得等のみをもって「必要な方」を
定義するものではありません。町民の多様なニーズを踏まえて検討します。
―後藤町長は現在も「早期廃止」の公約を維持していますか。
現行のコミュニティバスの運行形態を見直すという考えに変更はありません。「早期廃止」とは、利用者への影響を考慮せず直ちに運行を停止するという趣旨ではなく、現行の運行を漫然と継続することなく、より適切な公共交通体系への転換を進めるという考えです。
―現行契約満了後の運行について説明してください。運行空白が生じる可能性について。
現行契約については契約期間中の運行を継続し、契約満了後については、新たな公共交通体系への移行を進める方針です。利用者への影響をできる限り生じさせないよう、新たな交通手段への円滑な移行を検討しています。
―実証運行の内容と実施時期について、住民意見の反映について、最終判断する具体的な年月日は?
AI オンデマンド交通を含む新たな移動手段について、導入に向けた具体的な検討を進めています。実施内容等については、決定した段階でお知らせします。利用実態や町民の移動ニーズ、町民の皆様からいただいた意見等を踏まえながら検討していきます。現時点において、最終判断を行う具体的な年月日は決定していません。決定事項については、適切な時期に議会及び町民の皆様にお知らせします。
公約を掲げた時点では、バス廃止に伴う費用の具体的な試算がなかったことは明らか。つまり見切り発車の公約だったわけだ。
質問を不受理にしたのはなぜか
バス政策への説明が十分でない中、この問題を追及してきた三宅町議の一般質問が不受理となった。政策の問題に加え、議会で説明を求める機会が失われた経緯も検証する必要がある。
三宅町議に事情を尋ねたが、「回答は差し控えます」と述べるにとどまった。一方、町関係者は次のように説明する。
「三宅町議は9月議会で質問に立つ予定でした。ところが8月17日の通告期限は守ったのに、通告期限以前に職員とすり合わせを行っていなかったを理由に質問が不受理になったのです。そこで三宅町議が議会事務局長に抗議したところ〝質問はできないわけではない。ルールを破ったのに質問するのは議員の品格に関わる。人間性に問題がある〟と事務局長は反論したというのです。通告期限以前にすり合わせをしていなくても質問した議員はいたのに不当な対応ではないでしょうか」
バス関係の質問外しという憶測も飛び交う。
事務局長にも事実関係について説明を求めた。
「(三宅町議の質問の不受理は)質問の内容を吟味した結果です。事前のすり合わせも全員協議会でルールを確認しています。(議員の品格、人間性に問題という発言は)事実ではありません。コミュニティバス事業の担当でしたが、今回のこととは全く関係ありません」
という回答だ。
関係者は、事前のすり合わせをしなかったことが不受理の理由だと説明する。一方、事務局長は「質問の内容を吟味した結果」と答えた。質問内容のどこに問題があり、事前調整のルールとどう関係するのか、この回答だけでは不十分だ。
バス政策については、廃止の費用比較と契約満了後の運行日程が示されていない。質問不受理についても、判断の具体的な根拠は見えなかった。町長と町には政策の説明を、議会側には不受理の判断過程の説明を求めたい。



