【虻田郡 ニセコ町】「北海道が 中国に奪われる論」は 保守キャンペーン!?(前編)

By 三品純

保守団体、論者を中心とした「北海道が中国資本に買い占められる」「安全保障上の危機だ」「水資源が奪われる」等々の報道が始まって久しい。特に新千歳空港と航空自衛隊千歳基地の隣接地約50haを中国系資本が購入したことは象徴的に語られる。しかしそのことで実際に侵略を受けたことがあっただろうか。あるいは水資源が奪われ水が枯渇する――こんな事態も聞いたことがない。昨今の国際化、インバウンドといった政策に対しては抵抗があるが「中国に土地が奪われる」という言説は疑問だ。そこで本稿では北海道虻田郡ニセコ町で起きている外国人向け別荘建設を例に外国資本と北海道土地問題について検証していく。

自衛隊基地周辺は狙われているのか?

8810人の賛同者数は多いか少ないか?
ツイッターデモの呼びかけ。不慣れな人用に解説付き。涙ぐましい。

安全保障上の重要施設周辺地域や離島などを購入することに規制をかける「重要土地等調査法」が6月16日に成立した。左派団体、学者やマスコミからは「私権制限」などの反対論が起きたが、逆に安全保障専門家からは「規制レベルが甘い」との批判もあり実質“ 骨抜き法”という点は否めない。左派が反対する法案をめぐってはSNS上で「#ハッシュタグ」運動が起き、それを朝日、毎日、東京新聞、あるいはテレビの報道バラエティが後追いするマスコミの“まとめサイト化 ”が始まるものだ。

しかし本件の「#ハッシュタグ」運動は不発気味だ。同様の取り組みとして印象的なのは「#検察庁法改正案に抗議します」だが、大きな関心を集めたのは安倍前首相、黒川弘務東京高検検事長らトピックスになる人物がいたこと。さらに多数の芸能人が便乗したのもカンフル剤になった。

逆に重要土地等調査法は左派が丑の刻参りの如く呪い続ける「安倍晋三」が不在。また左翼運動に関心を持つ層は朝、目撃したヤフートピックスの話題に飛びつくのが実態だろう。連日、様々なニュースが飛び交う中で同法までフォローしきれない。すなわち「運動疲れ」も透けて見えた。

一方、重要土地規制派にも疑問点がある。もちろん安全保障上、重要な地域は国による厳格な管理が必要なのは同意したい。しかし重要土地、とりわけ自衛隊周辺地域は本当に危機的な状況なのか。

2020年2月25日の衆議院予算委員会第八分科会で山本朋広防衛副大臣はこう答弁した。

委員御指摘の件でございますが、防衛施設周辺における外国人あるいは外国資本による土地の取引、取得に関しては、国家安全保障にかかわる重要な問題と認識をしております。防衛省としましては、二〇一三年、平成二十五年十二月に策定されました国家安全保障戦略により、防衛施設に隣接する土地所有の状況について計画的に把握するための調査を行っております。本調査は、約六百五十の防衛施設について、二〇一七年度、平成二十九年度までに一巡目の調査を終えております。防衛施設周辺の継続的な状況把握の観点から、引き続き二巡目の調査を現在行っているところです。これまでの調査の結果、住所が外国に所在している、あるいは氏名から外国人と推察される方の土地が都内二十三区内において五筆確認をされています。ですが、現時点で、防衛施設周辺の土地の所有によって自衛隊の運用等に支障が起きているということは確認をされておりません。しかし、防衛省としては、防衛施設の安全保障上の重要性に鑑み、国会における御議論の状況を踏まえながら、国家安全保障戦略のもと、防衛施設周辺について常に関心を払い、引き続き土地所有の状況把握に努めてまいりたいと思います。

第201回国会 衆議院 予算委員会第八分科会 第1号 令和2年2月25日

「外国勢力が防衛施設を狙っている」という言説と実相はかなり異なっている。自衛隊基地や空港周辺の場合、「外部から基地を監視する」「テロの可能性」などと専門家は警鐘を鳴らす。しかし基地内の秘密情報は外部からの目視で確認できるものなのか? 

サングラスにトレンチコート姿のエージェントが双眼鏡を片手に自衛隊基地を監視する? むしろその姿を見てみたい。まるでコントだ。

転売目的を指摘する声もあるがそれならば外国資本に限ったことではないし、そもそも侵略・テロ目的ですらない。または「水資源が奪われる」という主張。確かに環境保全は重要だ。著者がこの種の言説を知ったのは2008年頃だが、水源地や水資源が収奪されるという事件を見聞したことがないしイメージできない。

つまり「土地が外資に狙われる」という言説は保守派の“キャンペーン ”という性質を含むことも勘案しなければ問題の本質は見えてこない。

ニセコで見た別荘開発への反対運動

ニセコアンヌプリの麓。視界不良で申し訳ない。
羊蹄山より。
https://niseko-tourism-zone.com/より

虻田郡ニセコ町は外国資本による開発、また移住者が多いことで全国メディアでも報じられることがある。同町は俱知安町、蘭越町を含め「ニセコ観光圏」と称し観光産業に力を入れている。古くから「温泉とスキー」のニセコと観光リゾート地としても人気だ。道外の住民からすると移住、開発問題はニセコ町を連想するのではないか。しかし地価上昇などが深刻化したのはむしろ「東洋のサンモリッツ」(*スイスの観光・保養地)と称される俱知安町ひらふ地区だ。後述するがニセコ町の住民からは「ひらふ(比羅夫)のようにしてはいけない」という意見が聞かれた。

さて当のニセコ町に滞在中のこと。道道343号沿いの「フォレストアベニュー」という別荘地に株式会社Planet(本社:東京都千代田区、代表取締役:遠星誠)が35棟(当初計画)の宿泊用住宅「WhiteVillas(仮)」が建設予定で、反対運動が起きている。こんな話を地元住民に聞いた。

同社の代表者は遠星えんせい氏。聞きなれない苗字だ。こんな時は弊社の強み「人名力」である。しかし遠星姓は確認できずどう見ても新姓だろう。地元で確認したところ香港から帰化されたという。このため同社を「香港系」と呼ぶ人もいた。同社を一概に「外資」というのも無理があるが、物件は外国人を対象に販売される。

書体を見ると中国系と言われても仕方がない?

同社名で検索してみると確かに地域団体の呼びかけで署名活動が行われていた。「ニセコ町フォレストアべニューにおける別荘の建設計画を変更してください!」。しかし6月24日時点で賛同者は350人。さほど大規模な反対運動でもなさそうだ。署名に名を連ねるメンバーを見るといわゆる「保守団体」というよりも地元の市民団体が中心だった。

完成予想図。
スイスのロッジをイメージしたニセコ駅。かつては人気リゾート地だった。

フォレストアベニューは同駅から西に約8km。蘭越町とのちょうど中間点だ。尻別川が流れ、東に羊蹄山、北にニセコアンヌプリ、自然環境は申し分ない。

バスの停留所があった。定住者もいる。
建設資材が置かれている。工事車両への注意看板も。
上記の完成予想図の予定地。
キリストの壁画だろうか。
テニスコートもあった。

ニセコの別荘というから爽やかな保養地を予想していたが、どちらかと言えばごく普通の住宅地のイメージだ。まだ開発途中のようで建設中の物件もあれば、すでに空き家となった家屋もあった。あまりリゾート感はない。テニスコートもあったが、使用感はなかった。川の流れが響きとても涼しげ。夏はとても快適に違いない。避暑地には絶好の場所だ。

住民は都会を離れナチュラルライフを楽しんでいるようだ。各家屋には薪がたくさん積まれていた。ある住民は「別荘地と言っても17件の定住者もいます。住宅群の反対運動ですか? 地域住民で盛り上がっている感じはあまりないですね」と語る。同氏にネット上の署名活動を見せていたところ「こんな運動があるのか」と驚いていた。

また別の住民。「道路沿いにコンビニができるという計画がありましたが、中止になりましたよ。コロナの影響? そうではなくて開発業者と住民の話し合いの中でコンビニを開店するのは止めることになったのです。レストランの計画も白紙になったんじゃないかな」

生活インフラを理由に抵抗を感じる住民もいた。

「やっぱりひらふ地区(俱知安町)のことを考えるともともとの住民が暮らしにくくなるという不安がありますね。だから“ひらふのようにしてはいけない ”という意見があるのも事実です。それからここ(フォレストアベニュー)は水道がないから井戸水を生活用水にしています。いきなり住宅群ができると水が足りなくなる不安があります。それからご存じの通りニセコは豪雪地帯だから冬季は除雪が必要になります。現在は管理組合で除雪作業をしていますが、住宅が増加すると現状の管理組合の人員では足らなくなる可能性も出てきます」

Planet社物件のモデルハウス兼管理事務所。

確かに水道インフラは重要だ。ニセコ連山から流れる自然水は通称「甘露水」と呼ばれる名水である。しかしそのことと生活用水の確保は別の話。都会の喧騒を離れ北海道で田舎暮らしを始める――夢の生活。しかし生活水の確保に苦労された方も多いのではないか。

ではその辺り開発業者はどんな対策を講じているのか。住宅群の建築エリアにPlanetの事務所があると教えられ、詳しい事情を聞こうと行ってみた。しかしスタッフが常駐しているわけではなくモデルハウス兼管理事務所の前に関係資料が設置されてあった。丁寧に不在ボックスに梱包され持ち帰り自由だという。

資料は2種類。一つはPlanetと住民側の説明会の議事録とhiteVillasの事業概要書であった。説明会議事録を見るといくつか興味深い点が見られる。それはフォレストアベニュー以外の住民も参加していること。しかも中には外国籍住民もいた。おそらく定住外国人で環境問題に敏感な人物なのだろう。

弊社も北海道以外の地域の開発計画を取材することがある。その多くは業者による強引な開発計画だが、Planet社の場合は想像以上に丁寧に住民と向き合っている印象がある。それから議事録を見ると前出の住民の証言通り、住民との話し合いの上でコンビニやレストランの計画を中止していた。5月15日の第1期第2回住民説明会議事録から発言を拾ってみる。

(山口) 60坪にギリギリ一杯に建つのは理解しがたい。せめて1区画置きに建ててほしい。PLANETは自分達の意見ばかりが目立つ。他の事業者は変更を受け入れている。

(斎藤) 道路の西側に位置する説明会の対象外地域は9~8棟に変更になったのか? イメージ図では既存の住宅が消えている。広々とした空間を求めて移住してきた方が多い。そのことに関してPLANETがどう考えているのか?(pt) 第1回の住民説明会での住民の皆さんのご意見を取り入れて、今回コンビニ、レストランを廃止させて頂きました。また、植栽計画等を考えています。

(南野) 予約販売と確認しているが間違いないか?

(pt) 販売に関しては、景観と全く関係がない話になってしまうので、お答えすることはできません。棟数に関しましては計画通り進めていく予定でおります。

PTはPlanetの略

様々な指摘が入る中で住民の意見も取り入れているのよく分かる。ただPlanet社も反論しているが販売について住民が意見するのは「余計なお世話」という気もした。

(南野) 今後事業計画がどのように進捗するのか大変気掛かりである。第3回住民説明会で対応してくれるのか?(pt) ホームページ上に質疑に対する回答を掲載させていただきます。また16号棟に住民説明会の議事録を掲示させていただきます。その他要望があれば、その都度個別に電話対応させていただきます。

(南野) 第3回の説明会は開くのか?(pt) 弊社で協議して必要であれば告知します。

(梅田) PLANET側は景観条例を理解していない。建物の並び等納得していない部分が多々ある。是非第3回説明会の開催を求む。これはPLANETだけで決める問題ではない。

(大山) このコロナ禍において説明会を開けと言えるのか?役場の意見を聞きたい。

(役場職員) PLANETも札幌の会社であり、毎回のように大勢の人が一律に集まるのは厳しい。改めて説明会を開くのか、もしくは別の方法で周知するのか協議して対応したい。

さすがに役所側も見かねてか説明会を重ねることに慎重なようでフォローしていた。ともかく以上がニセコで見たフォレストアベニュー内の宿泊型住宅建設への反対運動の概要である。さて本件をどう検証すべきかここは慎重にならないといけない。

というのは一般メディア特に“市民に寄り添い系 ”の新聞やテレビならば反対住民の意見をそのまま記事化するのは目に浮かぶ。または保守系メディアの場合、「海外向けに販売する別荘の強引な開発計画」という論調にするだろう。

当初、著者個人も心情的には反対側にシンパシーを抱いたがそれも早計だった。さて次回はニセコ町、そしてPlanetの取材結果を通じて問題の本質に迫ってみたい。

「反対住民の大半がフォレストアベニュー外の人でした」(地域関係者)

この証言が重要になると予告をして「北海道が中国に奪われる論」についても論考してみる。

(次回に続く)

【虻田郡 ニセコ町】「北海道が 中国に奪われる論」は 保守キャンペーン!?(前編)」への2件のフィードバック

  1. うましかの一つ覚え

    適応できない・しようとしない人たちが世の中の変遷に抵抗してるだけのようにしか見えないなぁ。

    >“市民に寄り添い系 ”の新聞やテレビならば反対住民の意見をそのまま記事化するのは目に浮かぶ。
    >保守系メディアの場合、「海外向けに販売する別荘の強引な開発計画」という論調にするだろう。
    なんかやっぱりみぎもひだりもねっこが同じというのを改めて感じました。

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  2. いぬ

    ちょっと論点がおかしいと思う。
    「今現在危機的かどうか」じゃなくて、「妨害される恐れがあるかどうか」だよ。
    安全保障に対するものの考え方ではない。

    返信

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