京都の古村については、1953年に部落問題研究所により出版された『京都府未解放地区の生活実態 : 調査報告』にほぼ掲載されている。今回訪れた古村も「相楽郡加茂町小谷」として記載がある。
そして、現地に行くまでもなく、木津川市のウェブサイトを同和、小谷といったワードで検索すれば、同和地区指定がされていることが隠されているようには見えない。そしてフル装備と言えるほど実に様々な施設がある。
ここには天満宮と岡田鴨神社がある。祭神は賀茂建角身命(鴨建角身命)で、これが加茂町という町名の由来でもあるという。
ここから東に進むと、公営住宅群が見えてくる。ここが小谷という古村である。
年代 | 戸数 | 人口 |
---|---|---|
大正10年(1921年) | 71 | 345 |
昭和10年(1935年) | 73 | 382 |
昭和15年(1940年) | 76 | 415 |
昭和25年(1950年) | 123 | 582 |
昭和25年の主要職業内訳
職業 | 人数 |
---|---|
農業 | 71 |
工業 | 3 |
商業 | 4 |
運輸業 | 11 |
自由業 | 1 |
公務員 | 1 |
その他 | 32 |
上記が『京都府未解放地区の生活実態 : 調査報告』に掲載された情報。戸数・人口とも昭和に入ってから急増したことが分かる。農業が多いが、様々な仕事をしていた。
ここにも神社があり、「加茂八幡宮 七福権現大明神」とある。
ここが村の寺で、浄土真宗本願寺派である。
途中で目に入ったのがこの車。アストロとリンカーンだろうか?アメ車好きな住民がいるに違いない。
この左右対称な建物もニコイチ住宅である。
そして、加茂町と言えばこの「解放橋」。古村をクエストする勇者にとっては非常に有名な場所で、もはや観光名所と言っていい。
解放橋については、比較的最近補修の入札公告が出ていた記憶があるのだが、検索すると工事の様子の動画が出てきた。コンクリートのひび割れを補修し、防水性を高めて劣化を防ぎ、なおかつ滑り止めにもなるらしい。「施工性がよく早期の交通解放が可能です」とある。
昭和45年3月竣工とある。同和事業が始まる前なので、早い時期から解放運動があったことが分かる。
橋はJR関西本線の線路をまたぐもので、古村の中を通っている。重要な橋ではあるが、動画で解説している通り、橋の幅は広くはなく、傾斜がある。アストロはギリギリ通れるかも知れないが、リンカーンはちょっと無理かも知れない。
橋の前は急坂で、ここに人権センターがある。
墓地もこの付近にある。
ここが小谷下共同墓地。橋の前が「小谷区下」、橋を渡った先が「小谷区上」となる。
「上」は文字通り山の上を切り開いたような場所にある。
ここが教育集会所。
山の上は工場や倉庫のような建物が多い。小高い場所にあるので、水田を作るのは困難なはずだ。奥に「小谷共同製茶」という文字が見える。
確かに付近に茶畑がある。
明治末期の地図では「下」に水田が多く、「上」には果樹園と茶畑の記号がある。農業が多かったのはそのようなことだろう。
この建物は「小谷共同作業場」で、「昭51」の前の何かの文字が消されているように見えるのが気になる。
建設業、運輸業の形跡が見え、金糸工場から機械の音がする。
これは今は使われていないようだが、鶏小屋だろう。田舎の山の上に、実に様々な産業がある。
表札を見ると、辻本、森井が多い。そう言えば、岡田鴨神社の木札にも「小谷区上」としてこの名字があった。一方、「下」には同じ名字が見られない。それぞれ起源が違うのではないか。
明治時代の地図には山の上には家が多くないように見え、昭和になってから人が集まってきたと思ったが、名字の傾向から類推すると、山の上にも既に多くの人が暮らしていたのではないか。
朝田善之助『新版 差別と闘いつづけて』には、昭和初期に小谷上の茶摘みの辻本姓の人物が職場で部落差別を受け、仕事の世話をした片岡姓の人物が金10円と詫び状を得たという記述がある。なお、片岡という名字は「下」に多い。
再び、解放橋を渡って「下」に降りてきた。
よく見ると、寺の近くにソーラーパネルがある。
そして、その近くにあるのがこれ。精米所があるのは、やはり「下」では米を作っている農家が多いのだろう。そして「同和対策事業」の文字の配置に注目して欲しい。小谷共同作業場で消された文字は「同和対策事業」で間違いないだろう。伏線回収である。筆者は様々な古村をクエストしてきたが、同和対策で作られた施設で、そのことを示す文字が消されているのは何度か見てきた。やはり隠したいと考える住民は少なくないのだろう。
そして、何とここには風呂もある。とても安く、大人が200円である。ただ、よく見ると市外の方は倍の値段になっている。差別すんのか!と一瞬思ったが、それでも安いし、逆に考えるとよそからわざわざここに入りに来る人がいることを前提としているということではないか。
繰り返しになるが、ここはフル装備と言えるほどに様々なものが揃っている。名前のインパクトが強い物件もあるが、寂れていないのが意外であった。