草津市ゴージャス隣保館ぶっちゃけ裏事情(同和と在日2011 3)

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By 宮部 龍彦
鳥取ループ(取材・文) 月刊同和と在日2011年3月号

自立したくても自立できない、甘やかしと甘えの構造

 本誌二〇一〇年一二月号「グラフ特集・草津市ゴージャス隣保館見学記」(示現舎ムック「同和と在日」に収録)で、滋賀県草津市の四つの同和地区にある隣保館をレポートした。そこから導きだされた結論は、作ってしまった施設は何とかして広く市民が利用するしかないということであった。しかし、その後隣保館の実情を知る地元住民から話を聞いたところ、そのような簡単な問題ではない状況が次第に見えてきた。隣保館が隣保館である以上、広く市民に使われるということはなく、さらには、隣保館こそ同和地区住民が自立できない原因だというのである。
 草津市のある同和地区の住民であり、部落解放同盟支部員でもある増田(ますだ)秀夫(ひでお)(仮名)氏からお話をうかがった。
「(同和地区は)自立できない、永遠に。自立する気ないもん」
 隣保館の事業は教育・啓発・就労の三つがセットになっている。「教育」は学校の教員による、同和地区の児童生徒を対象とした学習会である。一方、「啓発」は社会教育指導員、「就労」は職業安定協力員という市の嘱託(しょくたく)職員により行われている。隣保館の嘱託職員は、ほとんどの場合地元住民の中から採用される。つまりは〝同和枠〟である。もちろん、隣保館のトップである館長をはじめとする正職員はそうではなく、様々な部署から異動してきた普通の市職員だ。
 増田氏によれば、隣保館の正職員と嘱託職員の関係は歪(いびつ)なものであるという。
「隣保館は地域のためにあるので、館長さんも役所も地域の人にも逆らえないですよ。とくに、町会長、支部長には絶対逆らわないです」
 各同和地区に一人いる町会長は同和事業促進協議会(同促)会長でもあり、税の減免、同和住宅の入居など属人的な同和対策事業の対象者を認定する権限を持つ。「支部長」とは、言うまでもなく部落解放同盟滋賀県連合会の支部長である。これも各地区に必ず一人いる。
「支部長や町会長というのは市と対等な立場で話し合えるし、逆に市の方が気をつかいよるね」
 増田氏は、市の職員である館長について「洗脳されている」と表現する。とにかく同和地区住民が相手だと役所の職員が気を遣うというのだ。実は同和地区を一番腫れ物扱いしていて、同和地区住民を怖がっているのは、日頃一般市民を啓発する立場である行政職員ではないかと筆者は日頃から疑っているのだが、増田氏によれば、「まさにその通り」であるという。
 放課後に同和地区の児童生徒に対して行われる学習会について、増田氏は「隣の地区はそんなことやっていないのに、なんで僕らだけこんなことまでしてもらえるんだろう」と不思議に思い、特別扱いに感謝さえしていたという。しかし、中学生になって教師からそのことの意味を初めて知らされて、ショックを受けた。
 また、草津市では今でも小中学校の教師の「現地研修会」がある。教職員も、どこが同和地区で、誰が同和地区の児童生徒かということを把握させられるのである。
「そういうことをするのは、先生方に『この子らは特別に扱わないといけない』と知らしめること。半分脅しみたいなものが入っているでしょうね」
 また、草津市の同和地区には自治会館がない。自治会館といえば普通は地区の共同所有となっており、そこで町内会の活動が行われたりする。また、同和地区には公有ではあるが行政職員が常駐しない地区会館があり、地区住民の自主的な活動に利用するということもあるのだが、草津市にはそのような施設は一切ないという。隣保館自体が自治会館のような役割を果たしているのだ。例えば祭りなどの町内の行事の世話も隣保館員が行う、町内会の会計まで隣保館が手伝うこともある、地区の会合にも館長が出てくる。そのために、隣保館は夜遅くまで明かりがついている。
「こんなことしてたら、絶対に自立できない」
 増田氏はそう語り、さらに「俺らは永遠に同和で差別されるんだ、だから同和行政を続けてくれ」と言わんばかりに、行政に甘え続ける一部の住民の姿勢も問題視する。増田氏は、行政に対して同和対策事業の継続を求めている地元有力者の名前を挙げ、こう批判した。
「自立するための議論をして欲しいけど、自立してしまったら終わってしまうからね。俺らは一般市民より下でいいんやと、差別されてもいい、あいつらはそういうとこやと指さされてもいい、その代わり施策を続けてくれと。同和が好きなんや、あの人らは。税金をいつまでも奪い取りたい。過去に江戸時代に身分制度があって理不尽な扱いをしてきた先人がいる、だから施策を受ける権利があると。それなら、一般人と仲良くしたいとは思えないもんね」
 よく「2(に)ちゃんねる」等でも揶揄(やゆ)されるように「差別がなくなったら困る人達がいる」という疑いは、「内側」にも同様にあるのだ。もちろん、そういった指摘に対しては、「いや、それは逆で差別があるから施策が必要なんだ」といった言葉が返ってくる。しかし、増田氏は本当に当事者に「部落解放」に向かおうという意思があるのかについても、疑いを向ける。
「(講演などで)歳いったおっさんは『差別がなくなっても施策を続けて欲しい言っているんちゃうんや、差別をなくせと言っているんや』と、どこでも言うでしょ。でもその割には当の地区の人は誰も来てないし、無関心だね」
 啓発や講演あったとして、地区内の各戸に声をかけても人が集まらない。何とか来てもらえるように落語家や歌手を呼んで工夫しても、来るのは地区住民の一割にも満たない。
「隣保館に出入りするのは地区の者でも限られているから、例えば同盟員でも『俺らノータッチだから勝手にやってくれ』と、そんな感じの人ばっかりですよ」
 小中学校では学習会があり、解放運動に触れる機会があるが、高校生になり、そして社会人になれば解放運動との関わりが薄れる。女性であれば婦人向けのサークル活動、子供がいればPTA関係で再び解放運動と関わる機会があるが、特に独身の男性であれば、積極的に関わろうとしなければ、解放運動関係の行事に関わることはほとんどない。

同和地区と一般地区に立ちふさがる壁

 増田氏が一貫して主張するのは、「同和地区は永遠になくならない」そして「隣保館は一般の人に使ってもらえるはずがない」ということだ。
「一般の人から利用してもらうにはどうすればいいか、市の職員から相談されるけど、隣保館である以上それは無理やで。どれだけ努力しても無理」
 その理由の一つは、やはり「差別」である。
「一般の人が地区の家を買って、キャンセルしたことがある。不動産屋は、そこが同和地区なんてことは言えないもんね」「近隣の人の方が差別がすごい。なんでかというと、邪魔なんですよ。目に見えてるから」
 増田氏はそんな話をとめどなくする。そして、隣保館が一般に開かれているということも、形だけのもの過ぎないことも指摘する。
 その原因の一つは、冒頭でも触れた〝同和枠〟の問題だ。嘱託職員は同和地区の住民で、同和地区のための就労相談や、啓発活動をしているのだから、一般市民が気軽に来れるような雰囲気ではない。また、隣保館は同和地区の自治会の活動を隅から隅まで面倒を見ているが、同じことを周囲の地域にもやっているわけではない。
「〝ああゆう連中〟の施設に行けるかと周囲の人は思うよね。出入りしているだけで〝ああゆう連中〟なのかと思われてしまう」
 また、一般の人が施設を使う場合は当然使用料がかかるが、同和地区の活動のためであれば、光熱費、チラシのコピー代、料理教室の材料代まで全てタダであるという。これでは一般市民は使う気になれない。
 そして、隣保館が解放同盟が「勝ち取った」施設であることが、さらに隣保館を使いづらいものにしている。解放同盟に入っていない人は、気を遣わざるを得ない。
 ちなみに、住民と解放同盟の関係は地区によって違う。例えば、西一(にしいち)、橋岡(はしおか)地区では町内会と解放同盟支部は別だ。一方で新田(しんでん)と芦浦(あしうら)地区では町内会と解放同盟がセットになっている。つまり、町内会に入るのであれば、同時に解放同盟にも入らなければならない。
「隣保館じゃなくて公民館にすればいいかと思ったけど、それも無理やね。よく考えたら公民館は既にあるし、一集落の隣保館なのに公民館とは規模が全然違う。建物がある限り隣保館は隣保館、壊してしまうしかない」
 一二月号(示現舎ムック「同和と在日」)でもレポートした通り、草津市の隣保館はどう考えても異常であり、周囲から浮いている建物である。それは地元でも言われていることで、公民館よりも浮きすぎていて評判が悪いという。
 財政面の問題もある。現在は隣保館の運営費の四分の三が国と県から補助されてるが、公民館であればそれをほとんど市で負担しなければならなくなる。取り壊すにしても、隣保館建設にかかった費用の大部分が国からの補助であるため、その返還のために市は大きな負担を強いられることになる。結局、隣保館はそのまま続けるしかない。そして、隣保館に付随(ふずい)する啓発や就労相談などの事業も何らかの形で残り続けることになる。
「どうして自立するかという真剣が議論がないんだよ。もっと部外者の、市民の目からの意見をぶつける機会を設けてくれたらいいのに、そういう場を作らない。まあ、作れるわけないんやけど」
 そう増田氏は言う。それはその通りで、同和対策事業を批判することはおろか、同和地区名を口にするだけで差別と言われてしまうような世の中で、一般市民が意見をぶつけるなどということは期待できないだろう。
「一般の人に部落の歴史から何から勉強させるなら地区名を出すのも理解できるとか言ってますけど、そんなこと言ってたらきりないですよ」
 さらに、増田氏が指摘するのは隣保館員など啓発に関わる人が、あまりに浮世離れしていることだ。
「この前来た人権センターの人。私は高校出たときに、どえらい就職差別を受けて、県連や解放県民センターの人が動いてくれた、その恩返しを含めて職員になって働いていると。そんなんばっかりや。普通の人がそんなこと言わないよ。時代の流れに全然ついてきていない」「甲賀(こうか)の水口(みなくち)の隣保館の人が来て、結婚差別で自殺しただのという話をする。何年前の話かと思ったら平成四年か五年の話なんですよ。未だにそんな話をするのかなと。そんな話聞いてたら洗脳されますよ」
 隣保館は紛れもなく同和地区施設であり、そこで働く人も、ほとんど同和地区住民、同和問題と接し続けることになる。すると、働く人の感覚も、一般社会とはかけ離れたものになってしまうという。増田氏はそのような人を冷ややかに見ている。
「未だに結婚差別があるとか言っている人は限られてますよ。例えば会社に勤めたら、自分から同和と言うわけでもないのに、隣保館の連中は限られた世界に住んでる。だから隣保館はおかしい」
 さらに増田氏が問題視するのが、隣保館職員の採用と待遇である。
 草津市の隣保館は大きいだけでなく、職員の数も多い。例えば新田は一七人、橋岡と西一は一〇人、一番小さな芦浦でさえ七人だ。採用方法にも問題がある。
「普通は市の嘱託職員の募集があれば何十人も応募があるのに、隣保館は支部長か町会長が『あんたがやれ』と言ったらそれで通る」
 隣保館の嘱託職員の月給は一八万円。本来であれば市が定めた要綱により、嘱託職員の雇用期間は五年までで、週の勤務時間は三〇時間を超えないのが原則である。しかし、隣保館には明らかにこの原則から外れた職員がいる。
 例えば、新田会館には、かれこれ一三年間隣保館で勤務している嘱託職員がいる。また、別の隣保館のある嘱託職員は支部長をやりつつ月に一〇〇時間残業しているという(註:残業時間の問題については二〇一一年九月現在、是正されている)。
「地元採用で職員になった人が残業で金儲けしとるんですよ。それに支部長の役職の人が隣保館の嘱託をしていても、嘱託としての仕事をちゃんとまっとうしているのかと思いますよね」
 草津市職員課によれば、確かにそのような職員がいることは把握しているという。ただ、五年を超えて勤務していることについては、隣保館の嘱託職員は市長が特別に認めて長年勤務させているという。また、残業については上司の指示で行っているものなので、問題はないという。
 しかし、増田氏はこう語る。
「職業安定協力員は仕事してないですよ。これは本人が悪いんじゃなくて、もともと仕事がないのに与えている人に問題がある」
 同和対策事業終了間際に、滑り込みで国からの予算を確保して建設した隣保館。一館あたり約三億円という巨額が投じられているだけに、何とか活用の方向を模索したいところだが、考えるにつけ、どうにもならないのである。
「全部税金なのに、そのありがたみをわかっていない。だから、なくしてしまえばいい」
 増田氏は、そう切り捨てた。(鳥)

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。