完成後1年でなんと120か所のひび! 昨年3月に完成した大和高田市クリーンセンターをめぐり議会が紛糾。過去記事で追及してきた森本尚順市議が委員長を務める特別委員会は5日、施工業者を招致しヒアリングを行った。森本市議に近い議員らは当初鼻息が荒かったというが、追及は終了の見通しだ。背景を追った。
施工業者を吊るし上げるはずが…

「120か所にクラック(ひび)が入っている」
「車が走ると振動が起きる」
大和高田市クリーンセンター(同市今里川合方、3階建て)の現場職員たちから不安の声が寄せられてきた。完成わずか1年にして1階から3階までひびが入ったというのだ。
クリーンセンターは23億3860万円を投じて建設。昨年完成したばかり。同センターはごみ収集、処理を目的とした施設である。建設を請け負ったのは新明和工業(東京都台東区)。
大和高田市クリーンセンターは天理市の新ごみ処理施設と燃えるごみを共同管理するための中継施設という位置付けだ。
クリーンセンター問題について関心を寄せる建設コンサルタントによれば「新明和工業は環境機器、設備の機械メーカーなんです。〝機械屋〟としては実績はあってもごみ処理施設の分野では新興かもしれませんね」と説明する。
ところがわずか1年足らずで1階の搬出エリア、圧縮設備室、3階まで広範囲に「クラック」(ひび)ができた。しかも全部で120か所というから深刻な状況だ。
このため今月5日に大和高田市議会は「クリーンセンター施設整備特別委員会」で新明和工業やコンサル企業、設計業者などを呼びヒアリングを行った。
「5日の委員会は間違いなく荒れる」と事前情報が寄せられていた。
委員会は会派絆・日本維新の会の萬津力則代表、また仲本博文市議、そして森本氏が委員長というわけだ。これに同会派と歩調を合わせる公明党会派の米田昌玄市議が追及の主戦派。

これまで「奈良の闇」の連続記事で森本市議、萬津市議、仲本市議らに近い事業者、親族企業が市の公共事業を請け負っていることを指摘した。こんな指摘も。
「もともと会派絆・日本維新の会が推した業者がクリーンセンター建設を請け負えなかった経緯があります。このため何としても施工業者にミスを認めさせたかったのでしょう」(市民オンブズマン)
委員会では環境建設部長に対して質問が続く。余談だが委員会中、気になったのは途中、委員長の森本市議と市職員が何やらヒソヒソと話し出した。すると会場後方席に座す筆者のもとに「どこの社ですか」と職員がやってきた。
社名を告げ名刺を渡すと委員会席で共有されたようだ。もちろん森本市議、また仲本市議も「奈良の闇」記事については承知しているだろう。
環境建設部長、新明和工業の説明では一貫して「コンクリートの収縮によるヘアクラック」を繰り返した。市側も事業者側の調査を信頼した前提で対応している点も気になったことだ。
また「耐震は問題ないとは誰が判断したのか」(米田市議)という質問に対しても市側、事業者側の説明は十分とはいえない。また「私の自宅も数十年前に建てたがひびなど見たことがない。家を見にきてほしい」(萬津市議)といった指摘も飛び出した。
質問や指摘は確かに的を射ており妥当な内容だ。しかし当初、聞いていた〝吊し上げ〟〝業者の公開処刑〟というほどでもない。主戦派の筆頭であろう森本市議は委員長だから進行役。直接、質問や追及ができない。
その他議員も技術論や法律論ではなく事業者への「道義的責任論」に終始した印象だ。また建設工事に詳しい関係者らは「委員たちがクラックについて十分、理解していない気がした」という意見で一致した。
クリーンセンターはかなり危険な状態
膨大なひび割れがあるにも関わらず事業者側の説明はあたかも建設物には「起こりえる損傷」といったニュアンスだ。
ところがクリーンセンターは「小さくても4t車クラスのトラックが一日、何度も3Fまで上がってきます」(市関係者)という状況。施設内は日々、重量物が通過していることになる。
先の建設コンサルタントはこう疑問視した。
「委員会で事業者側はコンクリートの膨張によるひび割れだと強調していました。しかし通常、コンクリート構造物にはクラックを防止する『目地』を入れます。目地によって膨張が吸収されるのです。もちろんセンターにも目地を入れていますから、そんな簡単にクラックが起きるわけがない。しかもわずか1年ですよ」
同氏は続ける。
「膨張が原因とはどうしても思えません。鉄筋か柱の本数が少ない、または振動と強度の計算を間違えたなどの可能性があります。設計した業者も専門ではないと聞いていますしね。想像よりも深刻な状況といえますね。このままひび割れが進むと水分や湿気がコンクリートに入っていきますから、コンクリートの経年劣化や侵食が進みます。すると当然、建物全体の耐震性や強度が弱くなります」(同前)
また別の建設事業者は「ひび割れの数だけが問題ではない」とした上でこう指摘した。
「ひびの深さは調査しているのでしょうか。特に3階部分。ひびの数よりも深さを調べた方がいいと思いますが、委員会ではそうした指摘はありませんでしたね」
しかも大和高田市を含む奈良盆地には中央構造線断層帯が横断する。県内では地震リスクが高い地域である。
「ただちに影響はない」とは政府答弁、行政発表における定型句。しかしクリーンセンター内のクラックは警戒すべきなのだ。
ところが後日談を聞いて驚いた。「クリーンセンターについての追及は5日の委員会で一区切り、というより終わったようです」(市関係者)
もとは会派絆・日本維新の会が問題視して始まったのがクリーンセンター。特に仲本市議は過去、議会でも取り上げてきた。この方針転換はどうしたことか。
建設コンサルタントはこう苦笑する。
「実はクリーンセンターの外壁塗装を請け負ったのは仲本市議の会社なんですよ。現在、代表者は従業員になっていますがね。完成当時は議員や関係者を招いて見学会があったのですが、その一行には仲本市議も参加していました。公共事業に関わったのが市議の関係企業というのはある意味、大和高田市らしいですね(笑)」
施設の欠陥を追及する側が施設の塗装を行っていたとはブラックユーモアの世界。
仲本市議は自由同和会奈良県本部会長でまた関連団体「奈良経済商工連合会」理事長でもある。
【奈良の闇⑦】告発スクープ!大和高田市議(自由同和会奈良県会長)による土地転がし疑惑
【奈良の闇⑧】続!大和高田市・仲本博文市議(自由同和会奈良県会長)による土地転がし疑惑
仲本市議といえば「一般社団法人葛城メディカルセンター」に医療施設が建設できない土地を売却したことを昨年末報じており、現在も追跡取材中の人物である。
市議であり実業家でもある。塗装だから設計、建設に直接関与したわけではない。だが問題がある建設物の工事に関わったことには違いない。
しかも同和団体幹部を務める議員の関係企業という事実は「奈良の闇」というに相応しいのではないか。