昨日、行われた名古屋市長選。元副市長で日本保守党、減税日本が推薦する広沢一郎氏が自公、立民、国民が推薦する大塚耕平氏らを抑えて当選。有力政党をバックに大塚陣営は盤石の布陣だったが、河村たかし前市長からの〝減税人気〟は崩せず。案の定、大塚氏、メディアともに「SNSのせい」を始めたが―――。
名古屋市でも 強まる第三極の波
告示日(10日)直後の調査では横一線だった両者だが結果は、広沢氏が39万2519票、大塚氏は26万1425票、予想以上の大差。19日頃から広沢氏優勢が伝わり、そのまま逃げ切った格好だ。
旧民社党系以来、民主系が強い名古屋市だが、日本保守党、減税日本など新興政党が推す広沢氏が当選。名古屋にも第三極の波が押し寄せた。
兵庫県知事選に続いて名古屋市長選も「マスコミ、既存勢力」VS「SNS」という構図で対立が煽られた。奇妙なことに普段、マスコミは自民党や政府閣僚に対しては「人格否定」に近い激しい論調で攻撃するものだ。ところが兵庫県知事選、名古屋市長選についてはむしろ自民に近い立場。
もちろん、SNS言説を意識してのことだろう。中にはネット規制論を持ち出すメディアもある。
マスコミとは不思議なものだ。政府や行政に対しては「反権力」「反体制」の顔だ。ところが一般人に対しては「体制側」を演じ、規制を強いる。
このような状況の中で広沢氏当選も「マスコミ対SNS」という構図を持ち出すメディアもあった。
また大塚氏自身も敗戦の弁として「(SNS上で)デマ、誹謗中傷、レッテル張りの影響があった」と語ったが、あくまで一現象に過ぎないのではないか。
増税派批判に対して 大塚氏が元祖減税派
ネット上では大塚氏が「増税派」という言説が広まりこれを打ち消すため情報発信に注力した。大塚氏は敗因を増税派イメージなどSNS言説と考えているようだ。はたしてそうだろうか。
大塚陣営は自民、公明、立民、民主という連合軍。しかも「大塚陣営は元中日ドラゴンズの山本昌さんによる応援のオートコールが流れた」(名古屋市民)と地元スターの協力もあった。
表面上は圧倒的な陣容だが地元選挙通の間では「張子の虎」という見方が強い。現地政界通はこう分析する。
「愛知、名古屋市の自民党は高齢化、世襲化が進み支持者からも疑問視されています。このため自民支持層の約40%が広沢支持。無党派からの支持は50%半ば。大塚陣営は選対頭ごしで大村秀章知事が応援に入ってきましたが、これを拒否。自民色がつくのを嫌ったのでしょう」
さらに愛知といえば連合票。大塚陣営は労組の組織票を固めたというのが前評判だったが…。
「名古屋市にはトヨタ労連傘下企業がないため、労組票も多くを期待できません」(前同)
自民から連合まで確かに一見はオール体制のようだが「実際に選対の主力になったのは国民民主党だけ」(同)という状況だ。確かに国民民主党は勢いがあるが、単独で名古屋市長選をリードするほどの組織力はない。また玉木雄一郎代表の不倫スキャンダルの影響がないといえば嘘になるだろう。
それに政党、労組など既存勢力は固めたかもしれないが、大塚陣営には無党派を引き込む上積み要素に欠けた。
「選対本部長の古川元久衆院議員がSNS対策について工夫したといいますが、あまり有効だったとは思えません。逆に広沢氏には著名なYouTuber らが4~5人張り付いていました」(現地記者)
大塚氏、マスコミともにSNS、YouTuber を危険視するが、有権者が既存政党、既存勢力に不信感を抱いているのもまた事実。SNSへの責任転嫁というよりも、早い話が大塚陣営の選対が〝グダグダ〟というのが敗因とみられる。
それでもマスコミがこだわるのはSNS批判。有権者の政治指向までコントロールしたいというのは傲慢そのものだ。テレビ、新聞というだけで「社会の木鐸」を演じられるほど甘い時代ではないことを自覚してもらいたい。