2019年に登場して以来、消滅と復活を繰り返している、いわゆる「破産者マップ」。いくつかのバリエーションが存在するが、共通するのは官報に掲載された破産者情報をインターネット上で容易に検索しやすくしている点だ。直近では、最初の破産者マップと同様に破産者情報を地図上に配置した「新・破産者マップ」が登場しており、こちらは6万円から12万円の削除料を求める等、より“凶悪化している”。
一方、最初の破産者マップを創設し、後に「破産者情報通知サービス」を開設した遠藤有人氏は、破産者から民事訴訟で提訴されている。その遠藤氏は個人情報保護委員会に個人情報の提供の停止を命じられたことについて、命令の取り消しを求めて国に対して行政訴訟を提起している。2つの訴訟の打ち後者の行政訴訟の方が影響が大きく重要であると考えられる。しかも、直近の口頭弁論で国側が遠藤氏に一旦反論を諦めていたことが分かった。
国側が一旦、遠藤氏の 主張を認めた?
遠藤氏が国を訴えた裁判の資料によれば、遠藤氏は今年の3月23日で個人情報保護委員会が破産者情報通知サービスに対して出した個人情報の提供を停止せよとの命令を取り消すことを求めている。
その主な理由は破産者情報通知サービスは「政治団体オープンサイエンス」が個人情報保護法に反対する政治活動の一環として行っており、個人情報保護法が政治団体の活動を規制対象から除外していることから、個人情報保護委員会の命令は違法であるというものである。
また、国立印刷局が既にインターネットや官報情報検索サービスを提供していることから、破産者情報通知サービスにより破産者に新たな権利侵害が切迫していることはなく、命令の必要がないとも主張している。
その他、破産者情報の提供は個人情報保護法の規制対象外である「報道」に該当する、規制対象であったとしても個人情報保護委員会に届け出をする等形式的には規制を遵守していた、憲法が禁止する検閲であるといった主張も行っているが、おそらく今回最も重要なのは前の2点であろう。
一方、国側は、原告側は当初は「フロネシス合同会社」として運営していたものを法規制を逃れるために途中から政治団体の運営に変えたもので、政治団体との主張は形だけの脱法行為だという旨の反論をしている。
そして、官報については瞬時に広範囲に情報が拡散されて官報発行後にも永続的に閲覧され続けることを想定しておらず、破産者情報通知サービスにより個人情報保護委員会に400件を超える苦情が来ていると主張した。
その後、直近の口頭弁論が行われたのは今年の7月28日である。
遠藤氏は、個人情報保護法に反対するために、特定の政党や候補を支持・推薦し、団体や政党に資金援助をしたとし、あくまで政治活動をしていると主張した。ただし、裁判記録には神奈川県選挙管理委員会に政治団体としての届けをしたという証拠はあったが、具体的に誰やどの政党を指示したのかという証拠等は見当たらなかった。
もう1つの論点として、官報についてはインターネット官報は毎朝8時半に破産者などの個人データを瞬時かつ広範囲に拡散しているし、官報情報検索サービスは昭和22年5月3日以降の官報を掲載しているから、永続的に情報を拡散している。そして、個人情報保護委員会あった400件の苦情のうち、ほとんどは破産者情報通知サービスとは別件ではないかという反論をした。
その後の経過は裁判記録からは分からなかった。
遠藤氏によれば、7月28日の口頭弁論で、国側は一度反論しない姿勢を示した。しかし、結局は国が次回の口頭弁論で反論することになったという。
「国側は私の準備書面を認め、反論しないと言いました。それに対して、裁判官が特に国立印刷局のインターネット版官報が破産者情報を広めていることについて何度も国側に確認していました。裁判長は国側を勝たせたいみたいで、言葉の端々から感じました」
実は破産者情報通知サービスは当初の破産者マップとは違い、無料で見られる期間は長くともインターネット版官報が無料で公開している範囲に限定し、それより前の破産者情報については官報情報検索サービスと同様に有料版に限定していた。
情報提供サービスに関係した裁判では「紙とネットは違う」という論理が展開され勝ちだが、破産者情報については実は官報が公式のサービスでインターネット上での情報提供を行ってきたことから、何としても裁判所が国に勝たせるとすれば、破産者情報通知サービスとの違いをどのような論理で説明できるのかがポイントだろう。
なお、直近で開設されている新・破産者マップについては遠藤氏は関与を否定している。個人情報保護委員会は7月20日に新・破産者マップに対して個人情報の提供停止を勧告したが、現在のところ強制力のある「命令」を行ったという情報はない。新・破産者マップは現時点でも存続しており、2009年から2020年までの破産者情報が掲載されている。
新・破産者マップについては言わば“身代金”を要求していることから現時点で既に違法性が高く、個人情報保護委員会が命令を出しても無視する可能性が高い。命令を出すことがかえってサイトの知名度を高めてしまい、なおかつ個人情報保護委員会の命令を無視したほうが利益になるという実績を作ってしまう可能性を個人情報保護委員会が危惧しているのかも知れない。
民事訴訟の行方は
一方、昨年の8月5日に提起された望月宣武弁護士らによる民事訴訟は1年以上経過した現在も続いている。弁論回数は既に6回に達している。
直近では8月9日に口頭弁論が行われている。
裁判記録によれば、「そもそも破産者マップに原告の情報が掲載されていたのか」という部分で双方のやりとりが停滞している。原告側の提出した証拠に、直接的に破産者マップに掲載されていた状態を示すようなものは確認できず、代わりに破産者情報通知サービスの運営ブログのコメント欄に列挙された破産者情報等を示している。
それに対して遠藤氏は、それらは破産者マップではなくインターネット官報から転記された可能性もある、官報をOCRで電子化したものは精度がよくないから官報に掲載されたからただちに破産者マップに掲載されたとは言えないと主張している。そして、望月宣武弁護士らはリーガルファンディングで多額の金を集めていることから、出資者の手前、本人の意思に反して強引に原告を立てているのではないかという主張である。
通常の裁判なら、早々と結審し、被害者であるという証拠がないことから「原告不適格」として裁判所が門前払いしてもおかしくないような事件だが、前例がなく、注目度や影響が大きい事件であることから、裁判所が慎重になっていることが想像できる。
ふたつ目のパラグラフ
2つの訴訟の打ち→2つの訴訟のうち
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どうでもいいだろ アホ