林眞須美 死刑囚が 著作権侵害で 真宗大谷派を 訴えた深層

By 三品純

死刑囚の絵画、書画などの創作物を集めた「死刑囚表現展」(過去記事も参考に)をご存知だろうか。「和歌山毒物カレー事件」(1998年)で死刑判決を受けた林眞須美死刑囚も常連出展者の一人だった。しかし今年6月、自身の作品を無断で展示、改編されたとして真宗大谷派解放運動推進本部を著作者人格権侵害などを理由に300万円の損賠賠償を求め提訴した。人権問題に熱心な大谷派は林死刑囚にとってシンパのはず。それをなぜ訴えたか。取材してみたが残念ながら本音や明確な理由を突き止めることはできなかった。しかし実は彼女は「死刑存置派」であることが判明するなど意義ある調査だったと思う。

活動家たちが「あの事件」に見立てる

夏祭りでカレーを食べて住民4人が死亡という陰惨な事件。当時、非常に注目度が高く各地から新聞、テレビの報道陣がやってきた。「メディアスクラム」である。逮捕前の林を執拗に追いかけるマスコミにはいまでも批判は根強い。また「状況証拠」のみで死刑判決を下した司法も問題視されてきた。有罪判決の決め手となった放射光施設「スプリングエイト」なのだが科学捜査に疑問を呈する専門家は少なくない。

当時、いかに報道陣が殺到したかについては地元民からこんな話を聞いた。事実か否かは別として一応、サイドストーリーとして挙げておく。

「県外から来た記者たちは食事をする店が少ないから、みな和歌山ラーメンを食べたんですよ。すると“ これは旨い”と口コミで全国にも広がったのです」

それから支援者の中にはこんな“ トンデモ説”を主張する人がいたので紹介しておく。和歌山市園部に部落があったことから「林さんも狭山事件のようにでっち上げられた。冤罪だ!」と訴える者がいた。しかし園部の部落は林死刑囚と全く関係ないのは当サイトの取材で判明している。

現在の林死刑囚は再審を勝ち取るべく特別抗告中だ。今回の訴訟は2013年12月から翌年1月にかけて、真宗大谷派解放運動推進本部が東本願寺の参拝接待所で開いた死刑囚の作品展「いのちの表現展」で絵画作品を無断使用、また同氏の作品「国家殺人」を「国家と殺人」に改変されたと林死刑囚は主張。

東本願寺出版『月刊同朋』記事。
参拝接待所の展示スペース。

展示は随分前の話だから関係資料が乏しいが確かに大谷派の刊行物を見ると「国家と殺人」になっている。しかし京都新聞の記事に掲載された展示場の作品紹介は「国家殺人」という題だ。

裁判記録を閲覧してみると林死刑囚の直筆と思しき書面だった。いわゆる本人訴訟である。訴状には「無断で展示」とあるが、所有は基金にあり「死刑廃止運動」への利用が前提だ。それが「無断使用」というのは被告側も当惑せざるをえないだろう。

林死刑囚は死刑存置派だった

林死刑囚は展示により親族と関係悪化したと主張。「親族からはお金をもらって絵を売っている。こんなはずかしいことはないと言われた」「林家は真言宗なのに別の宗派に乗り換えたと言われますます疎遠になった」と訴えた。しかし獄中とは言え応募の段階で「大谷派解放運動推進本部主催」を把握できなかったものか? それに東本願寺の展示のみで「宗旨替え」と判断されたとは考えにくい。 林死刑囚に「精神的苦痛」というほどの行為を行ったかと言えば判断は難しい。 

訴訟能力にも疑問がある。第一回口頭弁論も出頭申立が不許可で口頭弁論ができないとの上申書も提出。救助申立書も提出され郵券、収入印紙代は訴訟の救助として2万円が付与されていた。こうした背景を見るに本訴訟は再審請求のための「獄中闘争」といった狙いもあるかもしれない。

裁判記録だけでは事情は掴めないので関係者に取材を申し込んだが、「現在係争中であり、訴訟・審理に影響する可能性がありますので、回答は控えさせていただきます」(真宗大谷派宗務所総務部)、また被告側弁護士事務所も「回答は控える」ということだ。 また大阪拘置所にいる林死刑囚に質問状を含めた手紙を送付。しかし同封した関係資料の引き取りを告げる通知が同所から送られてきた。

そこで「和歌山カレー事件林眞須美死刑囚長男」名で『もう逃げない』(ビジネス社)を著書に持つ林死刑囚の長男に取材を申し込んだ。すると意外な回答があった。 

「母は死刑廃止の為に家族や事件を利用されたくないと昔から話しています。冤罪を主張しているなか、他の悲惨な事件をおこした死刑囚の作品と同列に作品を並べられるのがとても嫌だったとも面会時に話していました。母もそうですが、父や僕も現段階では死刑存置派ですが、廃止を目的とした方々にご支援をいただいている事もあり、少し複雑な関係性です。事件の再審を願う母と家族と事件をきっかけに死刑廃止や検察批判、事件で利益を得ようとする事を目的とする方々との間に溝、距離感があるように感じています」(原文ママ)。 

なんと林死刑囚は死刑存置派だというのだ。もっとも死刑囚として冤罪を訴えることが「死刑廃止派」とは限らない。凶悪殺人の死刑囚と冤罪の可能性がある自身と同列の扱いを受けたくないという思いも理解できた。彼女は書面でも「展示内容が知らされていない」と主張。主催者、支援者らが展示趣旨、内容を伝えていないとすれば問題だ。 

加えて「死刑囚表現展」自体がすでにマーケットになっている点も見逃せない。この取り組み自体が非常に関心が高く各地で開催される表現展は人気だ。

今年10月23日から25日に部落解放同盟中央本部内松本治一郎記念館で開催された「死刑囚表現展二〇二〇」では林死刑囚の出展はなかった。主催者によれば「応募がなかった」という理由だ。同展の鑑賞者によれば大変盛況でこのご時世ながら客入りも良好だったという。

一方で「会場内は撮影禁止でした。まあ普通、美術館などでも撮影できないから仕方ありませんが」(鑑賞者)という様子。

以前の死刑囚の表現展は撮影自由という場合もあったが、このところ管理が厳格になっている。しかし「死刑反対運動」が同展のコンセプトであることに違いはない。

これに対して林死刑囚は自身の政治利用に対して反発する。こんな見方もできよう。確かに死刑廃止運動が持つ「政治臭」には内部からも疑問の声がある。

大谷派は1998年6月以来、死刑執行の都度、「死刑執行の停止、死刑廃止を求める声明」を発してきた。だが声明は大谷派僧侶たちの「総意」でもない。ある大谷派寺院の住職は複雑な心境を明かす。

「明らかな殺人事件には死刑もやむなしと思いますよ。しかし宗教者として、特にうちの宗派は死刑容認と言えないのです。大谷派には65人の宗議会議員がおり、死刑執行となると宗議会で抗議声明が決議されます。自分たちが選んだ宗議員の決定事項だから反対表明しにくいんですよ。とは言え宗議員になる僧侶は声が大きく政治活動好きなもの。決議は一部の『大きな声』だけで進められるという疑問は正直ありますね」

こういった風潮に林死刑囚が嫌悪感を抱いたのか。それとも再審を勝ち取るための戦略上の民事訴訟なのか。真相は本人が知るのみ。ぜひ本音を聞きたかったが…。

林眞須美 死刑囚が 著作権侵害で 真宗大谷派を 訴えた深層」への2件のフィードバック

  1. コリアンアイランド

    豊島のアミューズ保養施設を調査してください
    日本版エプスタイン島と呼ばれてる島です

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      豊島ってあの廃棄物で有名なところですか。
      これは初耳です。実は昔、キャンプしたことがあるんですよ。
      参考にさせて頂きます。

      返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

wp-puzzle.com logo