「猫の真実」天使と悪魔の間に

カテゴリー: 社会 | タグ: , , | 投稿日: | 投稿者:
By Jun mishina

「ネコノミクス」と言われて久しい。毎年2月22日は「ニャンニャンニャン」と読めることにちなみ「猫の日」になった。猫をキャラクターにしたテレビCMも多数。NHK『岩合光昭の世界ネコ歩き』など猫を扱うテレビ番組、関連書籍も人気だ。また普通、一般メディアとネットでの「人気」には乖離がある場合がある(例えば韓流ブーム)。ところが猫人気は本物だ。SNS上では猫の動画、写真が投稿されると大量にシェアされ殺伐としたネット上での猫はオアシスになっている。まさに猫は天使だ。ところが無数にいる愛猫家の批判や怒りを恐れず言おう。猫は「病原体の主」「希少動物の捕食者」「生態系の破壊者」という悪魔の顔も持っている。もしアナタが本当に愛猫家というならば、この負の部分と向き合わなければ猫との共存は難しい。

猫は人類とともに生きてきた動物だ。その起源は古代オリエント、現在のシリアからエジプトに至る地域の「肥沃な三日月地帯」で農耕が発展する過程で穀物を荒らすネズミを捕る役割から飼育されるようになった。現在、ペットとして飼育されている猫はヨーロッパヤマネコに属する亜種リビアネコのことだ。日本には奈良時代頃に中国から輸入されたというのが通説。日光東照宮の回廊にある左甚五郎作の「眠り猫」を見るといかにも“和猫 ”のような固有種がいたようなイメージだが、実は「外来種」だったのだ。

昨年、ペットフード協会が報告した「平成30年(2018年)全国犬猫飼育実態調査結果」によれば犬が890万3千頭、猫は964万9千頭で犬より猫の飼育数が上回った。年度別データを見てみよう。2014年、犬は971万3千頭だったのが、2018年になると890万3千頭にまで落ち込んだ。逆に猫は2014年が949万2千頭、2018年が964万9千頭、例年920万~960万頭の間で推移しており、猫の飼育頭数の方が安定していることが分かる。

ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査より抜粋。猫の飼育数の方が増加傾向にある。

もちろん飼育状況に格差や良好・不良、様々だろうがともかくペットとしての猫はこの数値となる。しかしこれがいわゆる野良猫となると正確な数を把握するのは困難だ。覚えているだろうか? かつて我々の日常生活には「野良犬」というものが存在したことを。街にごく普通のように飼い主のいない犬が彷徨っていた。しかし今、野良犬を見かけることはまずない。ところが猫となると話は別だ。少し町を散歩すれば飼い主がいないであろう猫を見かける。最近ではこうした猫は「野良猫」ではなく「地域猫」とも呼ばれる。一部の愛猫家、ボランティアらによるエサやりで生きている。

ただエサやりではなくボランティアによって保護され去勢手術が施される。その印として耳がカットされる。その模様が桜の花びらのようなので「さくら猫」としてこれまた愛猫家たちに親しまれる。つまり本来は野良猫だが、「地域猫」というまた異なる存在になる。状況的には「野良」に違いないが、ここにボランティア、愛好家の手が加わると地域猫となるわけだ。しかし地域と冠しては決して地域住民と同意があったわけではない。地域住民の中には「不快」と感じる人もおり、これがトラブルの火種になることも少なくない。

愛好家にとっては自宅に野良猫が寄りついてもおそらく「不快」ではないだろう。ただ嫌いな人、あるいは猫アレルギーの人にとっては苦痛そのものだ。猫の好き嫌いに限らず世の中、ただ単に「小動物が嫌い」という人もいる。猫への虐待事件も報告されているがこんな行為は言語道断としても、「猫が嫌い」というのもまた認められるべきだ。ただ現実問題として「動物愛護」は社会において「上位概念化」しつつあり、拒否しにくいという側面もあるだろう。

あるいは猫の保護は今や政治案件と言ってもいい。犬や猫の「殺処分ゼロ」を公約に掲げる自治体の首長、議員はとても多い。小池百合子東京都知事は「ダイバーシティ」「飲食店の原則禁煙」「待機児童ゼロ」といったトピックスになりやすい公約を取り込み一部からはパフォーマンスと揶揄されたが、機を見るに敏な小池都知事らしく「殺処分ゼロ」も盛り込んだ。 なにしろ犬や猫の処分をめぐって自治体は一歩対応を誤れば凄まじい抗議が待つものだ。殺処分問題については優しさ、愛情を超えて狂気性すら感じる。 政治家や自治体が配慮するのも無理からぬことだ。

このため殺処分ゼロの成果を周知する自治体も多。例えば東京都千代田区は例年、「ちよだ猫まつり」を開催している。愛猫家の間では人気の催事だ。一種のチャリティイベントなわけだが、会場には猫にちなんだ宝飾品、衣類、小物、関連書籍などの物販ブースが並ぶ。もうお分かりだろう。「殺処分ゼロ」「猫の保護」自体がマーケティングと化しているのだ。

タブー化する動物愛護の裏にある危険性

後にも述べるが日本の固有種、希少動物保護に当たっている研究者、活動家にとって猫は厄介な存在だ。特に奄美大島などの離島では猫が希少動物の「捕食者」になっている。このため猫被害を防ぐ被害を講じるがこの際、愛猫家や保護団体からクレームや抗議も少なくない。しかし「保護団体や愛猫家にはできれば敬遠したい」(希少動物の研究者)と声を潜める人もいる。

仁徳天皇陵古墳に入っていく猫。皇族でも入れないエリアだ。微笑ましい光景ではある。だがこれが希少動物の生息地だったら可愛い猫も「捕食者」になる。

著者も大変な猫好きだ。殺伐とした日常生活で数少ない癒しが日常で出会う猫との戯れだ。弊社近くにも綺麗な三毛猫がいてとても可愛がっていた。この三毛猫が突然、消えた時の喪失感は表現できない。だから猫を愛でる気持ちは分かるが、しかし同時に猫が持つリスクにも目を向けなければならない。

9月7日、早稲田大学で開催された外来ネコ問題研究会公開シンポジウムはまさに猫が持つリスクに警告を発するものだった。希少動物に対する猫の脅威、人獣共通感染、ペットをめぐる法整備や動物愛護法の問題点など猫をめぐる問題が多面的に報告、討議された。

特に離島における猫問題は深刻だ。南西諸島にはケナガネズミ、アマミノクロウサギ、オキナワトゲネズミといって希少生物が猫に捕食されるのが確認されている。また生態系に及ぼす影響も甚大だ。海鳥の糞は窒素やリンを含み島の植物の肥料になっている。しかし猫が海鳥を襲うことで減少し、ひいては生態系に影響を及ぼすという。だから離島の自然を守る上で猫対策が重視されるようになった。ところが愛猫家の間では離島の猫ウォッチが一種の観光資源にもなっており、単純な猫の頭数管理だと今度は観光にダメージがある。この点も猫対策の悩みのタネのようだ。

さらに猫が持つリスクは希少動物や生態系だけではない。人体への感染リスクも無視できない。 重症熱性血小板減少症候群(SFTS) 、「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」、「トキソプラズマ症」などを引き起こす。猫の飼い主はもちろん、猫の保護活動を行う人にとってこれらの症状は無視できない。2017年、野良猫を保護した西日本在住の女性(50代)が SFTSで発症し死亡していた。またCNNニュースによると海外では昨年、モロッコを訪問したイギリス居住者が猫に噛まれ狂犬病に感染して死亡していた。

いかに猫が愛くるしいと言えども生態系への影響、そして感染症という2つのリスクを持つ現実を愛猫家たちは直視すべきだろう。

美しき動物愛護のウラ側で

さてシンポジウムでは様々なデータが公開されたが、興味深いのは海外の事例だった。生物、自然景観、生態系への影響を考慮して各国でも猫対策が進めらている。もっとも活発なのがオーストラリアでモノフルオロ酢酸ナトリウムを混入させた毒エサで猫を駆除しているという。さてオーストラリアという時点で少し気の利いた人ならば違和感を覚えるはずだ。そうオーストラリアは大変な鯨保護国で、反捕鯨の立場を取り日本を非難する。しかしそんなオーストラリアが猫に対して毒エサをまく。かたや保護を訴え、その一方では駆除をする。

この背景としてオーストラリアでは「ホエールウオッチング」が観光資源になっているため鯨を保護せざるをえない実情がある。逆に猫を駆除するのは生態系に被害を与え自然景観を損ないひいては観光産業にも影響を及ぼす。こういう思惑があるようだ。

どうもこの「動物愛護」というものは人間のエゴイズムとしか思えない。

さて少し話題を変えよう。弊社は人権問題のタブーに切り込んでいるのはご存じのことだろう。また動物愛護の問題も定期的に取り扱っている。(盲導犬アトム号事件)。一つにはマスコミ、一般メディアが正面からこの問題を取り組むことなくタブー化していることに「ノー」を突き付ける目的がある。それから人権、反差別、この種の活動と動物愛護の構造が酷似している点も見逃せない。

通常、人権集会ではどんなことが行われているのだろう? ご存じだろうか。専門家の講演の他、活動家の取り組み報告などが通常だ。例えば

「行政の文書の元号を廃止させた」
「役所に中国語、韓国語の文書を作らせた」
「企業に認めさせた」
「鉄道会社に撤去させた」

役所も企業も人権運動家には圧倒的に弱い。つまり絶対に反論できない相手に要求を突き付けたことの勝利宣言大会という側面がある。特に行政から何かを成果を引き出すことは彼らにとって一種のアイデンティティといってもいい。

動物愛護運動家もやはり対行政には並々ならぬ熱意を見せる。要求闘争という点で人権運動と動物愛護は共通点が見られる。それに加え愛護活動には強い自己愛の世界を感じてしまう。

地域猫活動、猫保護、この関連のシンポジウムは実に特徴的だ。もちろん人権運動のように行政との折衝、殺処分ゼロを求めたなどの成果が報告される。 最も大きな特徴としてここに集結する参加者の大半は30後半~60代の女性が目立つ。男性はあまり多くない。だから著者などはとても浮いている。 その報告は実にストーリー性に満ちている。そしてより感傷的、感情的、愛護に燃える女性の琴線に触れる構成だ。

さだまさし氏の『関白宣言』をパロディにして猫の飼育について注意喚起をしている。これを「面白い」で済ませてはいけない。

ボロボロの野良猫、生まれて間もないのに捨てられた子猫、こんな猫たちが保護され元気になっていく様を収めたビデオやスライドが讃美歌「アメイジング・グレイス」をBGMに流される。一種の成長物語として見事に編集されているものだ。すると会場では方々ですすり泣く声が…。実にありがちな光景である。

ところで成長記録を 「アメイジング・グレイス 」とともに流すという演出はどこかで見たことはないだろうか? これは人間の結婚式でありがちな演出だ。そう! ここに集まった人にとって保護猫なり犬は「我が子」同然なのだ。子供も自立し手がかからなくなった女性がその愛情を猫や犬に振りまくのだからその思いは実に鮮烈だ。果たしてこうした人々が猫が生態系に影響を及ぼし、感染症リスクを持つ、という現実を受け入れられるかどうか。天使のような可愛い猫も、見方を変えれば「悪魔」になりえる。辛い事実ではあるが本当に愛猫家というのならば決して目を背けてはいけない。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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「猫の真実」天使と悪魔の間に」への14件のフィードバック

  1. 名無し

    野良に限らず飼い猫の外へ自由に
    出させる事も問題がありますね。
    公園の砂場や他所の庭で糞尿、
    喧嘩等して感染症を持ち帰る
    危険性・・・。

    外飼いで散歩中に刺激されて
    やはり在来野生動物を狩る。
    猫に限らずペットには
    負の側面もたくさんありますね。

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      ご一読いただきありがとうございました。
      お詳しいですね。実は飼い猫の外出も大きい問題です。これは一度奄美にでも
      行って取材してみたいのですが、南西諸島はご存じの通り暑いと思います。
      暑い上にまた地域も牧歌的で家の戸を開けっ放しにしてしまい猫たちが
      出入り自由になっているというのです。そして野生動物にいるエリアまで
      行ってしまうと。飼い猫の自由行動はもちろん本土でも問題ですので
      飼い主には注意してもらいたいです。

      返信
  2. 名無し

    飼い猫による狩りがより罪深い
    ところは食が保障されていて
    無用な狩りをしているところです。
    飼い主もいる為安易な
    処分も出来ない。

    侵略的外来種ワースト100として
    世界的に問題視されている
    事にも目を向けて欲しいですね。

    そして野良猫と避妊や予防接種を
    しない無警戒な外飼いが
    減れば猫の殺処分も減る事も・・・

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      神奈川県内のデータなんですが、最も猫が殺す動物が「キジバト」ということです。
      鳩の糞害もあるから駆除してくれていいじゃないか!
      こういう愛猫家もいるようですが、病気移されるんですよね。
      多面的に猫を見てもらわないと。

      返信
  3. 賃県民

    キジバトは糞害が問題になるような鳩じゃないとおもいますがね。

    大阪市の住吉区で鳩に餌を撒きまくってるのも愛猫家。

    猫は愛くるしいけれども、猫のやることはすべて許される。というような視座の持ち主は困りますよね。
    イデオローグですよそれでは。
    解放同盟とかといっしょ。

    返信
  4. 賃県民

    https://sp.fnn.jp/posts/00047360HDK/201907242010_goody_HDK
    近畿では結構ニュースで取り上げられてるのですが、大阪市には餌やりに関する条例がなくて、地域住民が警察や自治体に訴えても、条例がないから罰することができず、好き放題にやっているそうですね。この間地域住民が自治体に陳述書を提出して話題になりました。
    場所は住吉区我孫子です。
    結局行政としては手出しできなくて住民はかなり困っているらしいですよ。
    どのような人物が餌やりしているのか、既存メディアが報じない部分を追及してくれたらありがたいのですが。

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      こんなのあったんですね。テレビ局もなかなか面白い取材しますね。
      ありがとうございます。

      返信
  5. 烏のぽっぽ

    以前は、一部メディアの放送だけでしたが、ここ数日動きがありまして、何年もたまりかねた地元住民が大阪市に罰則を求めたことで、市長も罰則を検討してくれるそうです
    JR阪和線が高架化したのでその跡地に出没して餌を撒いているそうです
    是非に取材していただけたらと期待しております

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      阪和線で住吉区ってことは長居、安孫子、杉本町駅、このあたりのエリアに出没するって感じですか。ぜひ扱ってみたいです。

      返信
  6. 烏のぽっぽ

    そうなんです
    まさにそのエリアで、ニュース画像で金網越しに餌を撒いていたりも見かけますが、まさにそれが今の高架化された杉本町駅以北の辺りの元線路があった場所(高架の横)の様なのです
    動物愛護も気持ちも分からないではないですが、一定のルールというか常識がないと、一般市民のその動物に対する憎悪も生まれてしまいいい結果にはならないと考えております
    私も愛猫家です 三品さんにもこの思いは伝わると思っています
    是非に取材に来てください!

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      やっぱりこういうことやる人は精神が病んでるというか
      独居老人とか孤立という問題もあると思うんですよ。
      そういう複合的な感じでやっていければいいと思っています。

      返信
  7. ネコ目イヌ科タヌキ属

    感銘を受けたエントリでした。
    ところでちょい前、大阪で公園に保冷剤まみれの餌を置いて、それを食べた犬が死ぬ事件がありました。
    あれ複数回にわたって餌が置かれていたようなので確信犯だと思うのですが、続報がありません。
    これはおそらく犬の飼い主と公園利用者とのトラブルと思いますが……
    猫、地域猫活動家でもそれは起きます。犬の飼い主でリードを付けない人とも対立します。
    (実は僕も地域猫に餌をやっていて、無軌道な犬の飼い主と対立しています)
    また、狂ったような愛猫家は実際人格的におかしくなってることが少なからずあります。福祉案件です。

    僕個人としては、野良猫もヒトが与えるキャットフードがないと生存できないので、野良とは言えどもペットや馬と同じ「経済動物」になり果てたと思っています。だから不景気になったり何か人間側の事情によって死ぬことになってもしかたない、と考えています。それはヒトの労働者が首を切られるのと同じです。
    ただ、僕はそうなっても自分が好きな猫だけは引き取って生かすつもりです。どうせすべての動機は「エゴ」であって、動物愛護とかの理想から発したわけではないので、最後までエゴを貫徹すべく。

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      ありがとうございます。もちろん虐待や毒まきなどの行為は言語道断として
      愛犬家、愛猫家さんたちの行動にも疑問は多々あります。
      ご指摘の通しのリードさんなしの犬の散歩ですが、小型犬でもあっても
      不快な人は不快です。自分にとって宝物でも人には苦痛でしかない
      ということを愛犬家や愛猫家は肝に銘じないと。

      返信