「ゴジラは皇居を避けて通る」。特撮マニアからしばし論考の対象にされるこの現象。通常、菊(皇室)タブーとされる。対して「マスコミは同和を避けて報じる」いわゆる“部落タブー ”は同和不祥事報道の常識だ。部落マニアならずともよく知るところだろう。奇しくも津市相生町自治会長事件でも「逮捕が免罪符」とばかりに報道が過熱するものだが、やはり同和の「ど」の字も触れていない。これぞマスコミ鉄の掟。一方、先月は和歌山市で給付金詐欺事件が起きたが、やはり部落タブーが作用したようだ。逮捕された同市内リフォーム業の北橋雅也容疑者は自由同和会和歌山県本部の代表だった。報道では各社、自由同和会(保守系、自民系の同和団体)の役員という肩書には触れていない。だがこの経歴を報じることで政治、社会背景、様々な事象が見えてくるはずだが――。
自由同和会近畿ブロックの理事だった
自民党・二階幹事長のお膝元、和歌山県内は話題に事欠かない。
暴力団関係者による持続化給付金詐欺は他地域でも発生しているが、本事件についても広域暴力団と無関係ではない。県警本部組織対策課が捜査した点からもうかがえる。北橋容疑者は1月に貸金業法で逮捕され、2月に持続化給付金詐欺の疑いで再逮捕。各社はどう伝えたか。
再逮捕されたのは和歌山市のリフォーム業、北橋雅也容疑者(48)と自称・マージャン店経営の男らあわせて3人です。警察によりますと3人は去年6月、自称・マージャン店経営の男が「内装業を営んでいる」といううその申請を行い、持続化給付金100万円をだましとったとして詐欺の疑いが持たれています。警察は3人の認否を明らかにしていません。捜査関係者によりますと、北橋容疑者は和歌山市にある山口組系暴力団とつながりがあるということで、警察はことし1月、貸金業の許可を得ないで、違法な金利で金を貸し付けていたとする別の容疑で逮捕し、その関係先として暴力団事務所を捜索していました。
NHK 和歌山 NEWS WEB3月1日
逮捕されたのは、いずれも和歌山市のリフォーム業、北橋雅也(きたはし・まさや)容疑者48歳と、アルバイト店員、永山真一(ながやま・しんいち)容疑者57歳、それに、不動産業、木村成吉(きむら・せいきち)容疑者57歳の3人です。県警本部組織対策課などの調べによりますと、去年(2020年)6月、3人は共謀して、永山容疑者を個人事業主として虚偽の申請をして、永山容疑者の口座に100万円を振り込ませ、だまし取った疑いが持たれています。北橋容疑者は、先月(1月)、違法な貸し付けをしたとして、貸金業法違反などの疑いで逮捕され、警察が詳しく調べていました。
和歌山放送ニュース2月7日
その他、毎日新聞、産経新聞もほど同一の内容。いわゆる“ 横並び報道”だ。毎日はアルバイト店員について処分保留で釈放と報じた。例の和歌山市芦原地区連合自治会長事件について毎日は「同和行政」の言及がないものの積極的に報じたのが印象に残る。
マスコミは把握していたか定かではないが北橋容疑者はもう一つの顔がある。自由同和会和歌山県本部代表だった。地元からも「自由同和会の役員が給付金詐欺で捕まったで!」との情報が寄せられた。
自由同和会中央本部HPには和歌山県本部の代表、また役員名簿(令和元年・2・3 年度)の名簿に近畿ブロックの理事として掲載されている。NPO法人自由同和会として認可されたのは昨年8月20日のこと。まだ設立して間もない。
自由同和会中央本部によると「逮捕された時に弁護士を通じて退会すると連絡がありました」という。
自由同和会に限らず同和団体の場合、「一人支部」というのがありがちだが今後の和歌山県本部は「他にも会員はいますから活動は継続します」(同中央本部)と説明していた。
また北橋容疑者が代表を務める「自由民主党自由同和会和歌山県支部」の事務担当者に聞いた。
「(北橋について)特にこちらから言うことはありません。木村(容疑者)さんという人も知りません。暴力団との関係が指摘されている? 分かりませんが私どもは人権問題に関心を持って活動しているだけです」
興味深いのは暴力団との関係は指摘できても、同和団体の役員とは指摘できないことだ。もちろんニュースと直接的に関係ないにせよ、こうした犯罪を生む背景に「同和」は少なからず影響しているはずだ。過去の不祥事を鑑みれば「偏見」で片付けるのも早計というもの。
連合自治会長人脈にも連なる
なぜ組織対策課が動いたのか。関西の裏社会に詳しい人物もニュースを見て思い当たったと話す。
「北橋は和歌山のK会に出入りしていました。記事にある山口組系とはそのことでしょう」
また共犯の木村成吉容疑者にはこんな活動歴があった。「紀三井寺にある中学出身、和歌山市の有名暴走族グループ、オーロラのメンバーでした」(前同)
オーロラとは二階ウォッチャー、当サイト読者なら思い当たるだろうか。あの二階幹事長と芦原地区連合自治会長のツーショット写真にも出てきた良誠工業、中山勝裕社長らが所属した暴走族グループ。
木村容疑者の身辺はキナ臭い情報が飛び交う。
「山口組系S組に出入りしていたとちゃうかな。先々代はやり手でその縁で劇場の支配人も木村(容疑者に)やらせた。中古車をやったり、麻雀店も経営したり金に困った印象はなかったんやけどね」(和歌山市新内関係者)
木村容疑者が支配人を務める劇場にも連絡をしてみたがWEB上の問い合わせ先の番号は休止のアナウンスだ。自由同和会と木村容疑者を関連付けるものは確認できず、北橋容疑者との個人的な交際とみられる。
こんな意外な接点もあったから世間は狭い。
今年1月13日の記事で紹介した昨年末12月28日放送のBSプレミアム『ハリウッド 華麗なる物件案内』に出演した米不動産業者・宮本ブライアン氏とNHK受信料を支払わない方法を教える党(旧N国党)の間に奇妙な因縁があったと指摘した。木村容疑者は宮本ブライアン氏といとこの関係というから狭いもの。和歌山の政財界が不思議な縁でつながるから面白い。
北橋容疑者の身辺を探るだけで様々な社会背景が分かってもらえたはずだ。
マスコミの続きはWEBで現象
3月9日8時台。テレビではいわゆる各社がワイドショー、報道バラエティーを放送している。その中、『とくダネ!』で津市相生町自治会長事件を大きく扱っていた。逮捕された田邊哲司容疑者の横暴が解説されたが、「なぜ自治会長がそんなことを」という司会の小倉智昭氏の問いかけに明確な答えはなかった。
しかも出演者たちはまるでCMの「続きはWEBで」と言いたげな態度で「テレビでは報じられない」と言っていた。これではネットスラング「ネットで真実を知った」と同じことではないか。本来は口に出すのも恥ずかしい。マスコミはこうした風潮に対して冷ややかに見てきたのでは? だが何より自身が「ネットで真実」と言い放ったのは明らかに失態だ。
無論、これも「同和タブー」が影響したのは言うまでもない。もちろん新聞報道も同様。
面白いことに全く別件で立憲民主党関係、同和絡みでとある共産党自治体議員に取材を依頼したところ「野党共闘の関係があるから私の口からちょっと…」とやんわりと断られた経験がある。もう共産党議員や赤旗ですら同和利権は風化しつつあるのだ。そんな時代にあって大手マスコミに期待する方が難しいかもしれない。
自民党の揚げ足取りにちょうどいいのに
自民党、保守系議員の問題に対しては小躍りして報じる大手マスコミ。先の持続化給付金についても報道発表以上に追跡すればいいのに。そんな風に感じた。少し話は脱線する。
自由同和会は前身の全日本同和会の不祥事を受け、複数の県連が離脱し1986年、結成された。設立当時の話。同会・平河秀樹事務局長が語るところ新団体を作るという情報が広まると「ヤクザ連中が派遣され鉄砲玉が飛んでくる」という状況だった。このことは同和行政と暴力団組織が無縁ではないことを物語る。本来は正常化を目指して結成された自由同和会だが、北橋容疑者の事件によってやはり暴力団、反社組織と無縁ではないことが伺えよう。
それともう一点、自由同和会は自民党と非常に関係が深いことだ。北橋容疑者も自由民主党自由同和会和歌山県支部という資金管理団体を持っていた。
自民党・古賀誠元幹事長、二階俊博幹事長らと深い関係にある。交渉窓口といっても差し支えない。古賀、二階両氏に共通するのは公共事業に強みがあることだ。自由同和会に所属する会員は土木建築業者が非常に多い。北橋容疑者がリフォーム業とある通り。こうした特徴は前身の全日本同和会も共通する。
こと公共事業への要望は団体の骨子、中核といってもいい。古賀、二階こういった議員と近いのも「公共事業」と無縁ではなかろう。同和特別措置法あるいはそれ以前から「同和行政」と「公共事業」はいわば表裏一体の関係。もちろんそれは自由同和会に限らず部落解放同盟、全日本同和会にも共通する。しかし同和に公共事業を持ち込んだことで数々の不祥事を生んだ。
北橋容疑者が自由同和会の役員だったことを報じ検証するだけでも、日本の政治状況や人権施策が見えてこないだろうか。本来、報道は極力様々なデータを提供するべきであって「同和」もその例外ではないはずだ。マスコミが報じないのは配慮、自主規制の類にあらず。単なる自己保身にすぎない。
「マスコミは同和を避けて報じる」という現象。
このことがどれだけ国民の知る権利を阻害しているか。本来、言論を守る立場であるはずのマスコミが何よりも「障害」とは情けない。
容疑者のFacebook(と思われる)に、国会議員や、県議市議が複数あるのは、そういうことなんですかね。
機関紙のバックナンバーをみるとそこそこ名前が出ていますよ。
金井さん人脈もつながっていて関心を寄せています。