世田谷区・保坂展人区長の自宅(狛江市)が建築基準法違反だとして区議会、『フライデー』が追及している。議会で大庭正明区議(会派/F行革)が質問したことに区長派の会派「立無愛」の区議が「プライバシーの侵害だ」などと妨害したのだ。定番の〝権力の監視〟はいずこへである。また中学時代から学園闘争に身を投じた保坂区長は法令に対しても反抗とか?(写真は10月14日決算特別委員会)
バブル期に購入した中古物件を再建築

区長就任前は退職金を放棄すると宣言するも撤回。参考記事はこちら。
保坂区長は千代田区立麹町中学校時代に「麹町中全共闘」を結成し機関紙『砦』の発行など少年時代から左翼活動にのめり込んだ。活動歴をめぐり全日制高校は不合格になると国家賠償請求を起こした。本件は判例集などにも掲載されたほどだ。
その後、フリーライターとして活動し1996年の衆院選で初当選。落選後、2011年の世田谷区長選で保守分裂の間隙をぬって当選し、現在まで4期務めている。
反体制少年から区長という体制側に立つ保坂氏。昨年の新庁舎移転に伴い歴代区長の肖像画が紛失するという問題が起きた。原因について保坂氏は明言していないが、仮に運搬業者のミスならば賠償を求めるべきだ。政治理念は違ったとしても歴代区長に敬意を表する人格ではないだろう。何らかの意図を感じるのは筆者だけではあるまい。
麹町中時代の保坂少年が現在の自分を見た場合、理想的な大人に映るのか興味深いところだ。そんな保坂氏に向けられた自宅の違法建築報道。
以前、世田谷区長という立場にあって区内在住ではなく隣の狛江市が自宅であることが批判された。そこで同区代沢にマンションを借り、週末は狛江市で過ごすという生活スタイルだ。この狛江市の自宅について区議、フライデーが追及した。
狛江市の自宅は世田谷区とのほぼ境目にあり最寄駅は小田急「喜多見駅」(同区喜多見)だ。保坂氏の自宅は住宅密集地の袋小路の奥。航空写真でみるとまるでドーナツのような形状だ。強引な建築だったことの証左だろう。これが大人になった保坂氏の〝砦〟なのだ。
通常、建築基準法では幅4m以上の道路に2m以上接していない住宅の建築を禁じている。自宅を新築した経験者ならよく「4m道路」という用語を耳にしたことがあるだろう。つまり接道義務違反という指摘だ。
再建築不可物件だった中古物件を購入したのは、保坂氏がフリーライター時代の1985年。都内に戸建ての自宅が構えられたことは、当時のライター業にとって大きな夢を果たしたと言えるかもしれない。どころか再建築できない物件だからこそ、破格の値段だったという。
さらに、「親族からの援助があった」(地元住民)ので 購入できたようなのだ。1992年、保坂氏はこの家を取り壊して新築。しかし、接道問題をクリアするために、自分の敷地に他人の土地を算入して申告。さらに、 容積率と建ぺい率を規定より大幅に増やし、敷地目一杯の巨大な家を建ててしまった。フライデーはこの 手口を「地面師のような手法」と表現している。
都市部であっても格安で中古物件が売買されることがあるが、これは4m道路に接していない再建築不可物件だからだ。リフォームといっても実際は新築並みの予算がかかる。
しかし保坂氏の申請方法が通るならば都会の住宅事情は解消され、首都圏でも容易に新築物件が持てるというもの。万一、区長という地位によって容認されるのならば不公平どころの話ではない。
さらに問題は保坂氏を支持する会派「立無愛」の区議たちが議会で追及させまいと妨害行為を行ってきたこと。保坂氏から直接、与党区議に依頼があったとの見方もある。議会での対応は明らかに区長への忖度が垣間見えるのだ。
社民党時代の同志区議が区長を擁護
世田谷区議会はねじれ状態である。自民党区議は14名で最大会派だが、保坂氏を支持する革新系会派「立無愛」が与党という立場。同会派はリベラル系区議の寄り合い所帯である。もとは立民会派に2名の社民党出身の羽田圭二区議、現幹事長の桜井純子区議が加わった。現在は公明党と同数の8名で自民に次ぐ会派だ。
【世田谷区】共生社会の象徴として注目 立民・オルズグル区議が政務活動費で大量の書籍購入!
以前、同会派のオルズグル区議が政務活動費で書籍を大量購入した問題を取り上げた。その後、同区議は立憲民主党を離党したが会派にはそのまま残った。立無愛が副議長ポストを獲得するために会派に残ってもらったというわけだ。

そこで副議長になったのが羽田圭二区議。保坂氏とは高校の同窓生だという。羽田氏は委員会でも巧みに保坂氏をサポートしたが、想定外だったのが同会派で元れいわ新選組・みやかおり区議(1期)が暴走したことだ。話は9月30日の決算特別委員会に遡る。
同日は「無所属・世田谷行革110番(F行革)」の大庭正明区議が保坂邸問題を追及。次いで10月8日、14日の決算特別委員会でも取り上げた。そして最終日の14日、みや氏が暴走したのである。
決算特別委員会前の運営委員会でみや氏は保坂邸問題に関する追及に対して「区長のプライバシーを侵害しており聞くに堪えない。不快に思う区民がいるので委員長から注意してほしい」と発言したという。
一方、委員長としても誰に対する注意なのか分からない。そこで誰に対する発言なのか問うたところみや氏は「大庭委員」と実名を挙げた。保坂氏の違法家屋問題はプライバシーなのだろうか。首長自ら違法な建築をしていたというのは大いに追及すべき問題だ。
確かに一部区議からは「所管は狛江市になるから、大庭氏が3度も質問するのはやりすぎだ」という意見があった一方で、「それならば運営委員会に出席しているF行革の委員か、会派幹事長を通じて、大庭氏に注意するよう依頼すれば良かったのではないか」との意見もある。
どうあれ議員は質問権を有しており、回数を制限される規則はない。しかも国会を見ても左派政党は執拗に同種の質問を繰り返している。今回の対象が革新系の区長だからといって、議員の質問を制限するのはおかしい。普段の威勢で追及してもらいたいものだ。
さらに委員会開催中に、羽田氏が各会派の幹事長に「大庭区議の質問は、区長のプライバシーを侵害していて問題だ」と触れ回ったというのだ。さらに驚くべきことに、大庭氏に懲罰動議を出す準備すらしていたという。この点も革新政党らしさがあると失笑するのは議会ウォッチャー。
「自公の議員なら議長、副議長でも立場をわきまえて中立でいられるのですが、立民は初めての副議長ポストでしょ。羽田氏は偉くなったと勘違いして、おかしな行動に出てしまったのかもしれません。ベテランなのに恥ずかしい話ですよ」(前同)
副議長でなおかつ当選回数も多い羽田氏の行為は、あまりにも軽率だ。それ以上に迂闊だったのがみや氏という 。
「みや氏は会派であらかじめ用意したものを読み上げるだけのつもりだったようですが、なぜかその直後に大庭委員を侮辱する発言をしたそうです。いくら1年生議員でも認識が甘すぎますね」(前同)
その点では言えば羽田氏は狡猾だ。10月14日の決算特別委員会補充質疑では羽田氏がフライデー記事について保坂氏に見解を問うた。保坂氏は「地面師というタイトルがついたが私が詐欺を行ったかのようだから(講談社に)抗議する」と述べた。これも保坂氏に主張の場を与えるための羽田氏の配慮だろう。
逆に大庭氏からはみや氏に対して地方自治法第133条に基づく処分要求書が提出された。定例会最終日の10月17日に「みやかおり議員に対する懲罰動議」が議事に追加。立無愛は区長を守るつもりが逆に懲罰される可能性が出てきたのだ。
昭和の名漫才師・青空こうじ区議も苦言
10月17日に設置された懲罰特別委員会では意外な人物が立無愛の幹事長・桜井幹事長に苦言を呈した。
昭和の名漫才師「青空球児・好児」の青空こうじ区議が「終わった後に先輩区議がみや氏を連れて大庭氏に謝罪してれば大きな問題にならなかったのでは」と指摘。これは一理ある。ややもすると内輪になり議員・会派間の対話や人間関係の構築ができない革新系を物語っていないか。
では懲罰動議はどうなるのか気になるところ。
「大庭区議が属するF行革は当然、賛成。また公明党会派も、羽田氏の暗躍やみや氏の言動について問題視しているようです。立無愛と共闘している共産党は反対するでしょう。後は自民党です。世田谷区自民党は一枚岩 でないため、態度はバラバラです。政治理念は異なるとは言え保坂氏は区長だからすり寄る区議もいるのです。懲罰の結果は自民会派の態度次第ということになります」(議会関係者)
またみや氏にも今後の対応についての質問状を送ったが返答はなかった。
旧社会党、社民党出身でかつては政権と対峙した保坂氏が現在は区長として当選を重ねた。彼らが好んで使う「権力者」になった保坂氏による違法行為の追及を社民党系区議が潰そうとする。まるで旧社会党の亡霊たちが〝永遠の反体制少年〟保坂展人を守っているのだ。
かつて反体制、反権力を唱えた者が権力者になった場合、どう振る舞うのか。世田谷区議会は良い見本になるだろう。



