4月予定の和歌山県衆院一区補選だが、まだ自民党候補は決定していない。現状、有力視されているのは衆院への鞍替えを狙う鶴保庸介参議院議員。一時は門博文前衆議院議員を推す動きもあったがその線は消えた。昨年末、自民党本部で二階俊博元幹事長同席のもと門氏を公認しないことが伝えられた。側近の戦力外通告だがドンは沈黙したという。
圧倒的な存在感も ついに終焉を迎える
親中派議員の筆頭格、公共事業、地元への利益誘導、ありし日の田中角栄元首相を想起させる二階俊博元幹事長。このところ田中元首相の再評価の声は強いがその点、二階氏は今後どのように評価されていくか。おそらく現在の世論ではネガティブなイメージが強いだろう。
ただし確実に言えるのは地元和歌山で二階氏は圧倒的な存在ということ。二階氏取材の契機になった芦原連合自治会長事件。和歌山市の同和地区「芦原地区」を背景にした自治会長の詐欺事件である。背後には和歌山市役所と自治会長の癒着があったが、反自治会長派から“芦原地区の窓口役職員 ”として忌み嫌われたN氏(故人)への取材は今も筆者の脳裏に刻まれている。
末期ガンながら退職後に再任用されたN氏。市長自らの要請だったという。その様子は実に痛々しかったが、彼でなければ処理できない問題もあったのだろう。
「退職してのんびり阪神でも応援しようと思ったらこれや(病気)」と苦笑いされていたのは悲壮感に満ちた。市職員が同和地区住民と向き合うことの困難さを感じたものだ。
そんなN氏は陳情で二階氏と面会したこともあったという。
「我々みたいな末端の職員でも丁寧に応対してくださった」と振り返っていた。この辺りがドンたるゆえんだろう。「地元の声を聞く」という作業にとても熱心な人物なのだ。
自民党の中枢である幹事長の通算在職日数は1498日で最長。この実績の原点は「話を聞く」という姿勢であろう。大物政治家と呼べる最後の人物かもしれない。しかし今回の補選候補選定で二階氏の存在感と影響力は消えたようだ。二階王国の終焉である。
補選候補者の選定作業をみるに県連会長代行、世耕弘成参議院議員の存在感が高まっている。
12月23日、自民党本部で 門氏に戦力外通告!
同補選をめぐっては全国ニュースにもなっており、大手メディアもその動向を報じてきた。それはもちろん二階氏の存在があってのこと。まずは昨年からの騒動を振り返ろう。
【和歌山 衆院補選】門博文「公認おねだり音声」流出で 見えたドン二階の 落日
和歌山衆院一区は長らく岸本周平現和歌山知事が国民民主党所属で衆議院の議席を守ってきたのはご存じの通り。「岸本党」と呼ばれる強固な支持グループに支えられており、先の衆院選では自民党候補・門博文氏の比例復活すら許さなかった。そこで強い岸本氏を知事に擁立し、一区を自民の議席にするというわけだ。当初の狙い通り岸本知事誕生には成功。だが強敵が消えたものの、皮肉なことに肝心の候補者選定で混乱している。
そこで門博文氏が二階氏に補選の公認を依頼したが、その音声が流出。それが週刊新潮に報じられることになる。
【音源入手】「会長の決裁で……」“不倫路チュー”の自民党「門博文」元代議士、「二階元幹事長」に政界復帰を懇願する「生々しい録音」が流出 本人を直撃すると
地元記者によれば「自民党市議団が門氏を候補として全員で署名しそれをもって二階さんのもとを訪れた」という。この時点では門氏で一本化が濃厚だった。
ところが先述した通り、二階氏ー門氏会談の音声内容が流出してしまう。
「11月25日の市議団の会議で録音主の市議が“ 二階先生もお考えが変わるから確認のために録音した”と報告しました。また1月7日の新年会前の総会で同市議が謝罪しています」(自民党関係者)
知事選直前の11月25日に同市議が音声について説明した直後、鶴保氏も録音の事実を把握したという。
「知事選終了後(27日投開票)、鶴保氏が二階氏と俊樹氏(長男)に報告しました。その後、門氏と市議が大目玉を食ったというわけです」(同前)
ここは補足が必要だ。門氏と鶴保氏は同じ二階派所属のはご存じ通り。二階氏の薫陶を受けた両者だが実は微妙な関係にある。
「門氏は事あるごとに“参議院は… ”と見下ろした言い方をしています。ただ党内で格上の世耕氏も参議院でしょ? つまり参議院を下に見るのではなくて鶴保氏を意識した表現なのです」(地元議員)
長年の盟友であればともかくこうした関係上、鶴保氏が一区に鞍替えすることは遠慮の必要がない。
さらに自民党本部も動いた。
「12月23日、党本部に門氏が呼ばれ、林幹雄衆議院議員と二階先生が同席のもと“補選の公認はできない ”と伝えられたのです。側近の門氏への“戦力外通告 ”ということになりますが、二階先生は一言も発しなかったと聞いています」(前出関係者)
直前には音声流出という失態もありさすがのドンも沈黙せざるを得なかったか。
選挙区で一度も勝てなかった門氏が国土交通政務官のポストを得たのも無論、二階氏の後押しがあってのこと。しかし今回ばかりは力が及ばなかった。
原則的に自民党は衆院選で2回以上連続で落選した候補者を公認しない。門氏は選挙区で連敗続きだったがそれでも和歌山一区で公認されたのは二階氏の意向と考えがちだ。
しかし実際は「岸本氏が選挙に強いということは中央でも有名な話。そういう場合は党本部も配慮しますよ。例えば茨城県第7区で中村喜四郎衆議院議員(無所属→立憲民主党)は圧倒的に強いから、同じ選挙区で自民候補の永岡桂子文科相が選挙区で敗れ続けても公認してきました」(政治記者)という背景がある。
門氏が長らく一区の候補だったのは二階氏の威光というよりも党の事情だった。
NHKが 鶴保氏擁立を 報じた怪
余談だが気になるのは新潮に誰が音声を流したのかという点。実は二階音声は自民党和歌山市支部連絡協議会のグループLINEだけではなく、その他地元関係者のLINEにも投稿されていたという。外部にリークされやすい状況があったのだ。
状況的には鶴保氏周辺からリークされた可能性が高い。新潮が二階音声を報じたのは昨年12月17日のこと。
そして昨年12月23日、NHKが鶴保氏擁立を報じたのは記憶に新しい。NHKといえば先の知事選で自民党が青森県・小谷知也総務部長擁立を検討していることを一切報じなかった。
奥サマのNHK? 和歌山知事選 自民候補を報じない NHK和歌山は“ 岸本周平妻デスク”への 忖度だ!
岸本知事の妻がNHKデスクという背景が原因だと当サイトは指摘した。
知事選では沈黙したNHKだが、補選情報についてはなぜか前のめり。和歌山1区補選 自民 鶴保庸介参院議員を擁立する方向で調整と報じた。記事の配信日を見てほしい(画像参照)。12月23日とは門氏の戦力外通告の日である。妙にタイミングが良すぎないか?
岸本知事の選挙活動で最も協力的だったのが他でもない鶴保氏。こうした経緯から同記事はNHKによる鶴保氏の後方支援という見方もできよう。
「もともと鶴保氏は1996年の衆院選で新進党から立候補したんですよ。新進党といえば地元大物の中西啓介元防衛庁長官も所属していました。岸本知事の支持母体である岸本党とは旧中西氏の支持者グループです。鶴保氏と岸本知事が蜜月なのはこうした経緯があります」
岸本知事当選に尽力した鶴保氏への見返り報道なのか?
世耕氏「山口県連モデルはどうか?」
鶴保氏は岸本知事の協力も得られるだろう。しかも支持率でも門氏を上回っているというのだ。
県連関係者はこう説明する。
「そちらの記事で紹介した補選の支持率調査とは別の調査結果があるんですよ。世耕氏ー維新ー共産党、鶴保氏ー維新ー共産党、門氏ー維新ー共産党、3つのパターンの調査が行われています。それでも世耕氏がダントツの人気。次いで支持率が高かったのが鶴保氏でした。そこでまず県連は世耕氏に補選を打診したところ固辞されたので次点の鶴保氏が有力候補になったのです」
ただ先述した通り、市議団はもともと門氏擁立で動いたが一方で執行部は鶴保氏を推してきた。そうした不満があって
「12月24日に県議団、市議団を交えて会議が開かれました。しかし同日は鶴保、門という話ではありません。知事選も含めて候補者の選定方法がおかしいと紛糾したのです」(前同)
そこで存在感を発揮したのが世耕氏なのだ。
「安倍元首相の死去に伴う山口県衆院4区補選で同県連が候補者を公募にしたことを例にとり世耕氏は“ いつまでも上層部の一声で決めるのではなく、山口県方式(公募)を採用してはどうか”と提案しました」(同)
これは場合によって知事選候補にあがった小谷氏の可能性も匂わせるが
「このタイミングで落下傘候補はありえませんよ。世耕氏と鶴保氏は関係が良好ではないので“ 簡単には公認しないぞ”という世耕氏のメッセージと言えます。また門氏もこのところは世耕氏を相談相手にしています」(前出地元議員)
と対立関係は複雑だ。
しかしそうはいっても鶴保氏が公認されるのはもう時間の問題。1月9日の紀伊民報が「候補者決定先送りに」と報じたが
「1月7日に鶴保氏は和歌山市加太の旅館で岸本知事と支援者を集めて新年会を開きました。もちろん補選立候補を想定してのことです」(前同)
ということもありすでに鶴保陣営は臨戦態勢にあるようだ。
また一区で圧倒的だった岸本氏はいなくなったが、今度は維新という強敵もいる。関西で強い維新はもちろん和歌山でも例外ではない。
しかしそんな維新も「門氏なら可能性があるが、鶴保氏には勝てないということで候補者擁立は諦めた雰囲気です」と同党に詳しい地元記者は明かす。
特徴的なのは一連の流れの中で二階氏の動向や発言が全く出てこないこと。もう影響力は失い代わって世耕氏の存在感が高まっているようだ。
長らく党内、県政ともに権勢を誇った大物、二階氏だがついに世代交代を迎えようとしている。
テレビを見ていると、二階さんはもう自分が生きているのか死んでいるのかも、分からなくなっているような気がします。