東京都の 住民監査請求は 身バレせずに できる!?

カテゴリー: Colabo問題, 地方 | タグ: , | 投稿日: | 投稿者:
By 宮部 龍彦

昨年、示現舎は東京都に提出された、一般社団法人Colabo関係の住民監査請求の内容を情報公開請求していたが、結果は「特定の個人を識別することができる」等の理由で非開示とされた。それだけでなく、東京都の住民監査請求は請求人の氏名住所を公開しない運用がされているということが判明した。

つまり、身バレの心配なしに住民監査請求できるということだが、それは利点と言える反面、従来の常識とは異なり、極めて重要な意味がある。この事実が、なぜ重要な意味を持つのか、解説する。

暴走する 個人情報保護

本来、住民監査請求をすると、監査請求人の氏名住所が公開されるものである。

住民監査請求は地方自治法242条に定めがあり、1年以内にされた自治体(都道府県市区町村等)の公金の支出について、違法または不当なことがあれば、住民は誰でもそれに対する適切な措置を求めることができるというものである。地方自治法には監査結果がどうであれ、それらを公表する旨が定められており、監査請求人の氏名住所も住民監査請求の内容に含まれるので公表されることになる。

個人情報を公開するのは個人情報保護法違反では?と思われるかも知れないが、個人情報保護法が施行されたのは2005年のことであり、自治体の住民監査請求は個人情報保護という概念がない時代からあったものである。なおかつ長らく自治体は個人情報保護法の規制対象になっておらず(今年の4月1日から施行される改正個人情報保護法では規制対象となる)、各自治体の個人情報保護条例で定められてきた。

ただ、条例よりも法律が優先するため、例えば東京都の個人情報保護条例は「法令等に定めがあるとき」は個人情報の提供の制限はない旨が明示されている。

情報公開請求の根拠となる東京都の情報公開条例でも、個人情報は原則として開示の対象にならないが、法令による定めがある場合は開示するとされている。

誤解されがちだが、2005年移行施行されてきた個人情報保護制度は、従来の法律を上書きするものではないし、ましてや情報公開制度は情報を公開するためのものであって、慣例的に公開されてきた情報を非公開にするものではない。

しかし、筆者から見れば個人情報保護は暴走しており、当初は「過剰反応」と言われていたものが、そのまま制度化してしまったり、従来の慣例や法律を上書きするような行政や司法の「超法規的」とも言えるような対応が見られるようになった。これらの問題は筆者が「アンチ個人情報保護」シリーズで指摘してきた。

地方自治と 個人情報保護の矛盾

古くからある地方自治法は、現在の個人情報保護に関する「市民感覚」とずれたところがある。

例えば愛知県リコール不正問題等で話題となった、署名だ。首長のリコールの請求等のために集められた署名に対しては縦覧制度があり、集められた署名は誰でも見ることが出来る。言ってみれば、住所氏名と共に住民の思想信条が明らかにされてしまうわけだが、現に昨今でも署名が偽造されるケースが起こっているのだから、署名という制度から縦覧をなくすことは考えにくい。そうでもしなければ、不正が行われても誰も発見できないということになってしまうからだ。

そもそも、政治活動は個人情報保護の規制がそぐわない分野であり、政治団体の活動は個人情報保護法の規制からも除外されている。

住民監査請求人の公開については、自治体に対して何か物申すのであれば匿名ではなく、どこの誰かということを明らかにして堂々とやるのが正道というのが従来からの感覚だろう。また、制度の濫用を防ぐという意味もあると考えられる。実際、岐阜県の安八町では1人の住民が膨大な情報公開請求と共に住民監査請求を行って町の業務に支障が出たという例がある。

住民監査請求の制度は個人情報保護の風潮が広がっても特に改正されておらず、法律の解釈上は請求人の氏名住所は公開されるものである。

しかし、昨今の実情は、自治体によって対応が分かれており、例えば広島県は「住民監査請求の手引き」に「監査結果及び勧告内容を公表する場合,請求人の住所,氏名は公表します」と明記している。また、鳥取市は請求者の意思により公表・非公表が分かれるが「本監査請求に係る行政文書の開示請求があった場合は、同意書の意思表示に関わらず、個人に関する情報は開示します」としている。

では、東京都はどうなのか。東京都監査事務局に問い合わせたところ、東京都の場合はウェブサイトでの公表をもって監査請求の結果の公表としており、そこでは請求人の氏名住所は掲載していない。そして、情報公開請求に対する結果は、前述の通りである。つまり、東京都は住民監査請求について、請求人の氏名住所を一切公表しない運用をしていると見て間違いない。

地方自治が 新たなフェーズに入った?

「個人情報保護」がここまで広まった現在では、当たり前と感じる人が多いかも知れないが、筆者から見れば、これは極めてインパクトが大きいことである。

何か法律の改正が行われたわけでもないのに、運用で新たな個人情報保護規制が生まれるという現象が、住民監査請求制度においても起きている。世の中の個人情報保護の動きを観察してきた筆者の経験上、このことは既成事実化され、司法においても追認される可能性が極めて高い。

おそらく、地方行政に詳しい識者やオンブズマンの間では、住民監査請求を行えば氏名住所が公表されるということが常識だったはずだ。ここにきて、その常識が崩れつつある。

このことは、身バレの心配がなくなるので、住民監査請求をもっと気軽に出来るという利点もある反面、濫用の危険もある。

住民監査請求は他の問題も抱えており、現状の制度では住民側は1年以内の公金支出しか対象とできず、自治体側は60日という短い間にその結果を出さなければならないことになっている。昔に比べて、行政の事業の外部委託が増え、その内容が複雑になっている状況では、タイトなスケジュールと言える。

現実問題として、住民監査請求する側は事前に監査委員に根回しし、結果は誰の目にも明らかと言えるくらいに具体的で明確な証拠を揃えてやらないと、住民監査請求が通る可能性は低い。大きな利権が絡むような案件では、その上で住民訴訟を前提とした準備をして実行しないと自治体に「ナメられて」しまうのが現状である。

しかし、東京都の公金支出等について、ぐうの音も出ないほどの不正の証拠を掴んだら、躊躇せずにやってみるべきだろう。ただし、大した証拠もないのに非常識なほど大量に住民監査請求を乱発すると、逆に自治体から訴えられてしまった例もあるので注意が必要だ。

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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