7月3日午前10時30分、静岡県熱海市伊豆山で発生した土石流は26名の人命を奪い、半壊・全壊家屋131軒、避難者約200人という甚大な被害をもたらした。本来は今頃、犠牲者、被災者たちも師走の喧騒を過ごしながらも元日の静寂を迎えたに違いない。これだけの大惨事に行政の初動は遅く後手に回った対応だ。特に今年10月に静岡県、熱海市が公開した黒塗り行政文書は遺族、被災者のみならず市民からも落胆の声が…。当サイトも発生以来、情報発信を続けたが黒塗りの解明に至っていない。だが県や捜査陣が注目する最重要資料があるという。それが熱海市逢初川源頭部の盛土公表ファイル番号「A135」なのだ。
公の場に出ない沼尾氏が 甲府市内で目撃された
「天野二三男氏がモンゴルに行った」
11月末、奇怪な情報を入手した。ご本人にショートメールで確認したところ帰国次第、取材を受けてもいいとの反応を得た。年明けにでも実現するため交渉を続けていく。一方、伊豆山開発の現場責任者、トランスファー株式会社・沼尾勝男氏は現在、行方知れずだが甲府市内でその姿が確認されている。目撃した地元知人の話。
「ニュースになってしばらく見かけなかったけど、奥さんと一緒にいましたよ。湘南ナンバーの車の後部座席に毛布を積んでいました。車中泊をしているんでしょうかね」
沼尾氏は公の場に現れていないが、まるで放浪生活だ。
開発関係者に確認したいのは「土の採取等計画届出書」を提出した2007年から2009年頃の状況。なぜなら行政が杜撰な許認可を行っており、土石流の原因になる土砂はこの時期に形成された可能性が高い。
黒塗り公開文書で最も問題視されたのは関係人物・企業が全て非公開であること。現状は元関係者ですらイニシャルの特定は困難だという。土石流事件はSNS上でもウォッチャーが多いから、メディア・関係者でなくともA社は新幹線ビルディング、C者は麦島善光氏、D社はトランスファーと判別できるだろう。
造成工事、盛り土を行った現場責任者は故・後藤和夫氏。また沼尾氏だがもう一人、捜査で浮上しているのが11月15日配信記事で紹介した千場氏だ。同氏も盛り土、土搬入に関与し事情を知る重要人物だと先の記事で指摘した。千場氏の存在で重要なのは“書類上 ”に存在しない業者も土砂搬入を行った可能性があること。
静岡県の調査によれば盛り土の起点付近から二宮町の指定ごみ袋が発見されたのは、伊豆山が投棄場になっていたことを裏付ける。また都内飲食業者の証言も興味深い。
「Hという会社の方で、自由同和会の名刺を持つKさんが“ 産業廃棄物を処分するのにいい場所がある。一つは熱海市でもう一つは長野県”という話をしていました」
本件で長野県というのは聞き慣れぬ人も多いはずだ。同会関係者は「長野県」に記憶があるという。
「熱海市が処分場というのは知らないよ。長野県と新潟県の県境付近の土地を購入して処分場にするという事業計画は確かにあった。神奈川県本部の人も出資を打診されて視察に来ていた。計画は中止になったけどね」
様々な業者が絡み、人間関係・関連業者も複雑。静岡県内で調査に携わる関係者は業者の不法行為はもちろんだが「市の責任は免れないのでは?」と指摘する。同氏がターニングポイントとして挙げるのは2006年(平成18年)なのだ。
開発許可の権限一部が県から市に移譲した途端…
問題の2006年から今回、重視した2009年12月9日「ファイル番号A135」までを年表にまとめた。
同関係者が06年を重視するのはこんな理由がある。
「平成18年(2006年)に開発許可権限の一部が県から市に移譲したんですよ。ご承知の通り熱海市は傾斜が多い地域だから開発はより慎重でなければなりません。ところが⑤開発(通称まる5、写真参照)は権限委譲とほぼ同時期に完成しています」
この点は偶然の一致か、何らかの思惑なのか。今後の調査に託す他ないが、ともかく通常よりも“ユルい ”審査というのが関係者、専門家の一致した見方。同氏は続ける。
「⑤は地域計画対象民有林が含まれた規制区域ですよ。このため土地変更する場合は森林法また都市計画法の許可が要ります。しかしどうも公開資料や関係資料を分析してもこうした許可を“飛ばした ”エリアがありました。熱海市の許認可がかなりいい加減だったと推測する他ありません」
発生以来、熱海市と接触しても取材に対して拒絶反応を感じた。新幹線ビルディングの窓口職員といわれたK氏を直撃したところ2007年8月7日、熱海市議会建設公営企業委員会で当時の水道温泉課長の答弁「同和系列の会社でございまして」に対して「不適切」と語った。当時はまだ復旧作業の最中で被災の傷跡も痛々しい。この期に及んでも「同和」は優先されるのかと脱力したものだ。そうした姿勢が事故の温床になったのはいうまでもない。この間、人権派と思しき人やSNSユーザーから「同和と関連付けるな」「差別だ」と罵倒されてきた。しかし再三の指導でも開発を止められなかった事情が他にあればぜひ教示してもらいたい。
熱海市の情報公開が鈍いのも過去の対応が影響しているのではないか。逆に業者側にすれば適否はともかく「市側が許可を出した」という反論も成立するだろう。
次いで問題の「A135」に移る。
ロックフィルが土堰堤、申請よりも多い盛土量
現在、静岡県や専門家が最も注目しているのが2009年(平成21年)12月9日のA135文書。県庁内での研究会でも同文書が重視されている。当時の工法が土石流の温床という推測だ。
「黒塗り部分の届出者は天野さんだけど、現場責任者は後藤(和夫)さんじゃないかな。申請は後藤さんが担当したはず」(元社員)
盛り土データを確認しておこう。土砂発生の盛り土(伊豆山赤井谷)の盛り土は当初、盛土高は15メートルだったが、2009年と2011年の航空測量では35~50メートルに達していた。申請以上の盛り土が起きたことは公式発表、報道でご存じの人も多いだろう。
A135についての変更手続きデータを確認しておく。
面積9,446㎡→9,696㎡、盛土量36,276㎥→36,640㎥土砂対策としてロックフィルダムから土堰堤。ロックフィルダムとは、石や岩石を主材料としたダム。地質が悪い場所でも建設できる特徴がある。もちろん土堰堤よりも強度が高い。
ロックフィルダムではなく土堰堤になったのは単にコスト上の理由だけではなさそうだ。「将来的には土堰堤そのものを埋めて宅地造成地を拡大したかったのでしょう」と元社員は推測した。
先の関係者はこう解説する。
「A135の盛土量は 36,640 ㎥ですが県が届出書などのデータをもとに分析したところ、可能な盛り土量は6,000~8,000㎥ 程度と判明しました。おそらく搬入可能量を偽って申請したとみられます。それに当初、計画では大型ロックフィルダムですが結局設置されたのは土堰堤 。正確には転石積土留と丸太の柵です」
本来の搬入可能量以上の土が運ばれたのだ。それに対して丸太の柵では飾りでしかない。当初の届け出は15メートルの盛り土だったが実際の高さは最大で50メートル。粗雑な土留めで流出を防げるはずがない。業者側の悪質な開発があったにしても結局は市側が許可を出した。開発者側からはこうした反論も可能ではないか。しかも行政側は何より当の業者から警告を受けていた。それは公開文書A231からもはっきり読み取れる。
■■氏は■■■■■■■についてマスコミの取材を受けた。
とある。これも白々しい。新幹線ビルディングについての取材を受けたという意味である。伊豆山と熱海市日金町の盛り土の危険性について業者側が注意喚起していた。こうした情報提供を受けても対処しなかった静岡県、熱海市の責任は免れない。
しかも2015年4月16日、報道関係者が東部健康福祉センターを訪問し「情報提供者が刺し違えてもよいと決心して
県に訴えかけたにもかかわらず県が動かなかった理由を知りたい」(A219)と指摘を受けた点について行政側は今、何を思うか。
弊社はここ数年、福井県高浜町助役問題、和歌山県連合自治会長事件、津市相生町自治会長事件、そして熱海市土石流と「同和と行政」が大きく関わる事件に遭遇してきた。事件に共通するのは同和関係者に対する「恐怖と配慮」。そして自治会長2事件について共通するのは行政側、特に幹部クラスはほぼ無傷で乗り切ったことだ。
一方の熱海市土石流、黒塗り行政文書からしても行政の本気度は伝わらない。26名の犠牲者を前にそれでも行政は責任回避できるか?