熱海市伊豆山開発、盛り土工事に対して行政の指導が後手に回ったのは「同和」が影響した可能性が高い。熱海市議会、そして同市百条委員会等でも指摘されたことだ。黒塗り解除の県公開文書を見ても「同和」というワードは随所に見られ、関連性を物語る。しかも同和から意外な人物が浮かび上がったのだ。

「特別な会社」という マスコミの欺瞞

熱海土石流に関する静岡県公開文書「黒塗り解除分」の検証シリーズ第２弾！

土石流取材開始以来、「同和と関連付けするな」という批判、罵倒を幾度も受けた。熱海市議会、百条委員会でも「同和」が出るにも関わらず、だ。そればかりか新聞・テレビ報道で「同和」部分が報じられることはない。

2021年７月６日の配信記事によって本件はより注目されたと自負する。

【速報】 熱海市土石流 崩落の盛り土を したのは 「同和系列の会社」

同市伊豆山地区で2007年に土砂崩れが発生。その際、市側の指導が困難だった理由として2007年８月７日、熱海市議会建設公営企業委員会で「新幹線ビルディングそのものが同和系列の会社」という担当課長の答弁があった。

この答弁を報じた後に一般メディアも後追いしたが、各紙が「同和系列」を「特別な会社」と表現したのは苦笑する他なかった。「同和系列」とは議事録の表現であって、公の文書ですら正確に報じられないマスコミ。報道機関としての矜持がないものか。

こうした姿勢が発災後も静岡県、熱海市の見解を漫然と垂れ流す報道につながっているのだろう。

最初の登場は 2008年の名刺

前回から続く検証企画だが「黒塗り解除」と銘打ったが、各文書に若干、黒塗り箇所が残っている。残り部分は継続的に調査ということでご容赦頂きたい。

さて公文書内で初めて「同和」が登場したのは平成20年（2008年）３月25日の記録、ファイル番号A037だった。

赤井谷1076－３、1076－８の図面。

2008年３月７日、熱海市伊豆山字赤井谷1076－３、1076－８の宅地造成と残土処理をめぐり「無断開発」として新幹線ビルディングは現地指導を受けた。同地周辺は後に土石流の起点となる。

その後、３月25日に新幹線ビルディングの担当者が交代するとして故・古谷元雄不動産企画室長が静岡県治課を訪問した。古谷氏は土石流取材の初期に登場した人物だ。自由同和会神奈川県本部の役員でもあった。

A37　2008年3月25日　県東部農林事務所 口頭記録

「県に損害賠償請求を検討している」という強い言葉が見られる。会社の名刺とともに「自由同和会神奈川県本部副会長」の肩書が記された名刺を差し出す。これはどういう意味があるのだろう。一般的な行政職員の行動パターンを鑑みれば“萎縮 ”する可能性が高い。

同和が出てくるのはこの名刺以降。同年８月12日の復命書（A052）は“同和の圧力 ”を匂わすものだ。静岡県、熱海市役所、そして新幹線ビルディングが伊豆山開発について話し合った。

A052　2008年8月12日　県東部農林事務所打合せ復命書

「新幹線ビルディングから恫喝を受けたと人権同和対策室から本部（自由同和会）に連絡が行った。他県に入る時は、一応連絡を入れることになっているので本部に誤まった（謝った？）が、恫喝とは何事だ。（その後大声で終始話し続ける）」

天野二三男氏の主張は印象的だ。県の人権同和対策室も対応していたことが分かる。開発行為の申請で人権担当が関係するのもおかしな話だ。もっとも静岡県に限ったことではなく全国各地の自治体で起こりえることである。

静岡県が 本格的に 意識したのは 2009年か！？

平成21年（2009年）６月１日、「新幹線ビルディングによる不法投棄容疑事件」（ファイル番号A065）として「自由同和会」との関係性が説明されている。自由同和会の団体概要について解説が加えられており、静岡県側も単なる不動産業者ではないと認識していたのだろう。

A065　2009年5月29日　県廃棄物リサイクル課復命書

トランスファー 沼尾氏も 同和団体の 支部長だった！

伊豆山開発で重要人物の一人が（株）トランスファーの沼尾勝男氏だ。報道や百条委員会で「現場責任者」と呼ばれた人物。現在は土石流遺族・被害者の損害賠償請求裁判の被告として名を連ねる。

取材開始当時から重要人物として注目していた。

【熱海市 土石流】天野企業役員が 捜査対象へ　浮上した 関係人物は誰だ！？

同氏は熱海市百条委委員会で証人喚問を受けたが、残念ながら著者は同氏から「拒否」ということで傍聴できなかった。因縁がある人物だが、土の処分場の成形工事をめぐり天野氏‐麦島氏の板挟みになった過去も。伊豆山開発における二巨頭の狭間でとても困難な立場であったことは同情を禁じ得ない。

「現場責任者」だけあって沼尾氏も公文書内で多数、登場するがA100の内容には驚いた。A100は熱海市が沼尾氏に聞き取り調査した内容を「情報提供」として県に伝えられたものだ。後日、全て公開するので今回は要点だけ抽出した。

A100　2010年7月1日　県東部健康福祉センター 口頭記録

解除分の２枚目「政治団体関連の沼尾氏の発言」を見て驚いた。

なんと沼尾氏も同和の関係人物だったのだ。発災以来、追跡した人物だが全くの初耳。沼尾氏を知る元社員も「聞いたことがない」と驚く。それも運動体の役員だという。沼尾氏は熱海市の聞き取り調査に対して「私は小山の同和の支部長をやっている」と説明。小山とは静岡県駿東郡小山町のことだ。

「皆、外見からは私が同和関連の人間とは判らないようだ」というのが味わい深い。同和関係だからといっても何も“異形の者 ”でもなかろう。こうした発言もやはり同和を匂わす、という意図があったのではないか。

開発工事で業者が行政に対して同和と名乗る理由は「圧力」以外に思いつかない。それでも「関連付けるな」と批判する人があればあえて同和を名乗る必然性をご教示頂きたい。

小山町に関する補足

小山町でも不法投棄問題が起きていた。ハーパー湘南という社名が文中に出てくる。同社経営者は「全日本同和会」の役員ということも追記しておく。

自民党・粕谷茂元 北海道開発長官秘書が アプローチ

政治家との関わりをめぐっては天野氏は【熱海市土石流】“元所有者 ”天野二三男氏インタビュー(前編)でも自民党、故・源田実元参院議員との交流を打ち明けた。公開文書からも自民党議員の名が挙がったのは興味深い。

A150　2011年1月14日　県東部農林事務所 口頭記録

黒塗り文書だと伊豆山の造成地購入を望む何らかのアプローチがあったのが読み取れた。もちろんこれだけでははっきりしない。

北海道開発庁長官などを務めた故・粕谷茂衆院議員と交流があり、事務所の秘書から連絡があった。粕谷茂氏事務所が伊豆山造成地に関心を持ったというのだ。この点について熱海市は「新幹線ビルディングの天野氏は自由同和会の代表であり、この会は自民党とのつながりがある。かすや茂事務所代表粕谷茂は元自民党代議士で、以前から天野氏と懇意にしており、その関係で土地売買の話があったようだ」と報告している。

粕谷氏は自民党東京都連会長も務めたほどの人物。天野氏と有力政治家との交流も行政を悩ませたことだろう。

東洋時事新報・原中記者登場

百条委員会の参考人として取材当時を証言した東洋時事新報・原中栄伸記者が県東部健康福祉センターへ取材に訪れた。熱海案件で早期から取材してきた人物である。発災後も原中氏のもとにメディアが殺到した。

後に原中氏は百条委員会で当時に触れ「マスコミが私のところにやってきたが“書けないなら取材をするな ”と伝えた」と証言した。新聞・テレビの報道を振り返っても原中氏由来と思われる情報はほとんど見つからない。

2021年７月から８月頃、マスコミの中には無関係の業者、その家族を追い回す社もあったが一体、何の仕事をしている人々なのか理解に苦しんだものだ。

A219　2015年4月16日　県東部健康福祉センター口頭記録

公開文書ファイル番号Ａ219についてはこの２枚以外は全て黒塗り。まずは黒塗り解除前を掲載する。

解除文書をみると東洋時事新報の記事や原中氏の名刺だった。

さて公文書中の「同和」に絞って検証してみたが、「意外な人物が浮上した」といった意味がお分かり頂けたはずだ。それから静岡県、熱海市ともに天野氏、新幹線ビルディング一派への「萎縮」「配慮」があったのは容易に想像できる。

しかしそんな天野氏も現在、行政から梯子を外された格好だ。

なぜなら現在、静岡県は天野氏へ責任転嫁する姿勢がはっきり見てとれる。天野氏以上に配慮しなければならない人物がいるからだ。この点については別の解除文書、行政代執行の結果を交えて検証していく。