現在、関西生コン(連帯)の武建一委員長らが恐喝罪、威力業務妨害罪などを問われ公判中だ。そんな最中、連帯は『週刊実話』(日本ジャーナル出版)を名誉棄損で提訴。7月10日、東京地裁で第一回口頭弁論が開かれた。カンのいい人はこう思うかもしれない。 文春、新潮、フライデーでもなく 「なぜ週刊実話?」と。問題となった記事は、 一ノ宮美成&グループ・K21による今年2月21日、28日、3月7日号の3回連載記事「ブラックマネー」だ。記事を読む限りどこに名誉棄損的な要素があるのか分からないし、そもそも訴訟を起こす価値があるとも思えない。そこで連帯の現況を交えながら『週刊実話』裁判の意図と裏側を探ってみる。
前中後編、合計6ページの連載
今、話題の関西生コンが文春でも新潮でもなく『週刊実話』 を訴える。もちろんどんなメディアでも裁判沙汰の可能性はあるものだ。ただ週刊実話という点に「なぜ」という思いが払拭できない。
この「実話誌」というジャンル。通常、『週刊大衆』(双葉社)、『アサヒ芸能』(徳間書店)に週刊実話を加え「実話御三家」と呼ばれる。その特徴はヌードグラビア、風俗ネタがあること。 表紙を見ても「巨乳女子アナ早熟乳房」というタイトルの隣に「関西生コン」の文字があるのも週刊実話らしい。 それから実話誌はヤクザ記事が最大の看板ネタ。 男の欲望、ロマン、娯楽が詰まったワンダーランドなのだ。
東京都立多摩図書館という施設がある。ここは多数の雑誌の蔵書がある図書館だ。しかし週刊実話は創刊号以外、置かれていない。間違いなくパブリックな空間に似つかわしくないという判断だろう。むしろ実話誌は大衆食堂、中華料理屋の書棚がよく似合う。中には良記事、独自情報が報じられることもあるが、悲しいかなラーメンのスープやラー油の染み彩られコンビニ廉価版コミックあたりと並べられている。
もちろん記者や編集者がいて、また一ノ宮氏のような著名なジャーナリスト・作家の寄稿もある。取材活動自体はしっかりしているが、本格的な雑誌ジャーナリズムとはまた異なる存在とも言える。
あるいは実話誌というジャンル自体にピンとこない人。特に女性が実話誌を手に取ることはまずないだろう。「実話」という意味は「事実」というよりも働き盛りの男たちが休憩時間や居酒屋あたりで「実はなあ・・」といかにも事情通ぶって話すイメージの「じつわ・じつは」という理解で十分と思う。
そういうわけで書店、コンビニ、キヨスク、こうした表舞台では実話誌の肩身は狭い。しかし拘置所近くの差し入れ専門店などでは高らかに積み上げられている。いかにもアウトロー好みの雑誌らしい。そうした層にとって「関西生コン」は十分、興味の対象になりえるだろう。だから同誌が関生を扱う狙いは面白いと思った。が、にしても「週刊実話を訴えるって…」という疑問がつきまとって、「なぜ」が脳内を駆け巡る。
週刊実話を軽視しているわけではない。その影響力を考えると果たして提訴する価値があるのか不思議でならない。週刊文春が「文春砲」と呼ばれるように「実話砲」という定評があるならまだしもだ。むしろこの記事は週刊実話というよりも執筆者がジャーナリストの 一ノ宮美成氏という点に価値があるかもしれない。
同和関係の報道に興味がある人で 一ノ宮氏の名を知らない人はいないだろう。『同和利権の真相』シリーズの執筆者でもある。同氏は同和利権、暴力団といった関西の闇を追及する一線のジャーナリストだ。ただ関西の同和通の間で「一ノ宮さんの記事は党派色が強い」との評価を聞いたことがある。党派色とは主張やスタンスが『赤旗』など共産党系の刊行物と論調が同じということだ。関西生コンはかつて共産党系の組合だったが現在は離脱し、距離を置いている。こうした構図を考えると一ノ宮氏が反連帯の立場を取るのは不思議ではない。ともかくタブー化した関西生コンの話題が一般誌に掲載される意味は大きい。
なにしろこの連帯報道について一般メディアは『産経新聞』『週刊朝日』がわずかに報じる程度でその他、新聞・TVは「見ざる・聞かざる・言わざる」かのようだ。そんな状況だから 一ノ宮氏のレポートが貴重なことは言うまでもない。
問題になった記事は今年2月21日(前編)、2月28日(中編)、3月7日(後編)の3週連続の連載で各2ページずつ。「連載ブラックマネー 関西生コン事件【前編】逮捕者39人「連帯ユニオン」存亡危機」、「中編」が業界のドン武闘派素顔、「後編」が政界工作で闇献金疑惑、となっている。いずれも見開きの記事。一記事約2000字という構成である。労働争議や関西生コン特有の「コンプライアンス活動」などを抑えることで「解決金」を100億円集めたというエピソードが書かれている。
とてもニッチな話題なのにわずか2千字程度の記事だ。上手に要点がまとめられた印象もあるが、こうした特定分野の記事にしてはページ数が少ないと思った。関西生コンという特異な存在を検証するのに3回連載で総文字数約6000字というのは物足りない気もする。問題はボリュームではなく「内容」というのはもちろん理解しているが、この記事で名誉棄損裁判なら世の中、法廷闘争だらけになりそうだ。
確かにショッキングなエピソードは多いが決してセンセーショナルな表現を用いているわけでもなし。また週刊誌特有のスキャンダラスな煽りも感じない。 正直、この記事のどこが問題だったのか一読しては分からない。もちろん裁判で事実認定は行われるだろうが、にしても訴訟の価値があるか本当に謎である。
反論ではなく「決起文」の意見陳述書
さて裁判当日の様子である。7月10日、支援者たちは12時から裁判所でビラまき、14時から警察庁前で抗議、そして15時30分から傍聴という流れで行動。この日、所要があり残念ながら抗議活動には間に合わず、裁判の傍聴しか参加できなかった。
連帯の裁判といえば大規模な動員があることは過去にも報じたが、この日、東京地裁705法廷37席の傍聴席を求め支援者が集結。抽選にはなったが希望者45人中の37席ということでさほど激しい競争でもなかった。動員はかかったが関西ほどの数ではない。大阪地裁、大津地裁の傍聴人は作業服やスーツ姿でごつい人が目立つ。ところが東京地裁に集まった傍聴人たちは連帯の運動家というよりも一般の活動家、新左翼系の活動家が散見された。一見して人生迷路な面々だ。
「ヒト殺し――――っ」
殺人事件の裁判で死刑判決が下ると判事席にむかってこう絶叫する女性活動家がいる。なぜかその活動家も参加していた。おそらく同女を含めて連帯当事者でなく「救援対策」「反警察」のスタンスで来ているのだろう。関西と違ってガテン感はなく、むしろ全共闘感というべきか高齢者が多数を占めた。バッグなど持ち物を見ると「アベ政治を許さない」のステッカーがついている。いかにもだ。
少し開廷が遅れてざわつく中で裁判官が入廷し始まった。 被告の日本ジャーナル出版側は欠席。いわゆる「擬制陳述」だ。原告側は関西生コンの書記長で武建一氏のいとこ、武洋一氏が意見陳述書を読み上げた。この間に前列からA4用紙で8ページの意見陳述書が回覧してきた。記事に対する反論ではなくて、武氏の生い立ちや関西生コンの歩み、運動史が書いてある。
これは解放同盟や左翼団体にありがちな、「反論」ではなくて「決起文」「演説」の類だ。だから週刊実話のどの部分が名誉棄損なのか書かれてない。「詳細は訴状に書かれたとおり」とあるが、裁判終了後、担当書記官に裁判記録の閲覧について尋ねると制限などはないが、まだ1週間から10日ほどかかるという。またこれについては閲覧次第、お伝えしよう。
先に述べた通り陳述書はA4で8ページというボリューム。 洋一氏はこれを全部読もうとしていた。すると裁判長から意見陳述は10分程度ではなかったか、と指摘が入る。すると傍聴席から「裁判官、おかしいぞ」「不当だ」との声が挙がった。原則、法廷で傍聴人が声を挙げたり拍手をしてはならない。裁判の中立性を担保するためにも傍聴人は静粛というのは絶対的なルールだ。普段、左翼団体は「民主主義」「法治国家」を訴える。しかしそんな彼らがそのルールを犯しているのは身勝手だ。
陳述が長すぎると指摘を受けた原告側は要点だけ主張することにしたが、決意表明のような文言があると傍聴席からは「ヨシ」との声が挙がる。そして終わると拍手が起こった。いずれも禁止行為。本来は一発退場だ。職員たちは注意するが退廷を命じられた傍聴人はいない。下手に退席させると、後で「弾圧」「排除」と喧伝するかもしれないから裁判所としても少々のことは見逃しているのか。連帯の裁判を見るとかなり法廷ルールが緩い気がしてならない。
その後、原告側は若干の補足をした後にいきなり「閉廷します」と裁判官が言い残し終了した。これに対してブーイングが発生。なんとも「強制終了」的な閉廷なのだが、裁判官としては延々と連帯の歴史を語られてもという思いだろう。裁判官の「聞く耳もたん」と言いたげな露骨な態度には失笑してしまった。
記事への反論はないのか?
とにかく不思議な意見陳述書だ。というのも文中、『週刊実話』、日本ジャーナル出版、一ノ宮美成氏、この名が一つも出てこない。一ノ宮氏の名前については陳述書表題の部分の被告欄にあるだけ。
(1)私は、生コン運搬車の運転手を中心に組織されている産業別労働組合である、原告全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下、通称である「関西生コン」「関生支部」等に従います)の書記長を務めています。
(2)本来の代表者は、委員長である原告の武建一でありますが、現在組合は、大阪府警・京都府警・滋賀県警・和歌山県警・奈良県警・兵庫県警他が一体となった戦後日本の労働運動史上未曽有の、大規模な不当弾圧を受けており、委員長は全く違法な拘留中のため、組合の諸執行行為につきましては、暫定的に書記長の私が代行しております。その立場から、本件訴訟が開始されるに当たって関西生コン労組の見解を明らかにし、裁判所に訴えたいと思います。
こんな書き出しで始まっている。
関西生コン支部は、1965年10月に5分会180人で結成されました。当時の生コンの現場は、暴力団の無法な暴力支配が常態であり、半ばタコ部屋同然の宿舎に缶詰にされて、違法な前借金などに縛り付けられて、例えば、盆暮以外は休日も無く、時間外労働が毎月何百時間にも達するなどの、奴隷的労働が現実でした。中学卒業後、1960年代初頭に徳之島から裸一貫で大阪に出てきた武建一は、そのような劣悪極まる状況に於いて、身を粉にして懸命に働き続け、故郷に送金していました。
まさに人生劇場。浪花節な過去が綴られた。とにかく当時の生コン業は劣悪な環境にあったことが言いたいらしい。
組合結成後も更に、そうした破壊活動は熾烈を極め、例えば、使用者に傭われた山口組系暴力団によって、生コン支部の若い有力な活動家が2名も、殺されるという悲劇もありました。武建一自身も暴力団によって2度も拉致監禁され、殺されかかりました。
このくだりは必要だろうか。むしろマイナスなようにも見える。暴力団とトラブルがあったということは自身らもそうした「要素」や「関係」があったことの裏返しではないか。そして「8 今回の大弾圧」という項目に目を移す。
(1)1980年代の関西生コン支部破壊活動に対する闘争には、上記のとおり勝利としましたが、しかし、このときに公言された「関西生コンの存在を許さない」との資本・権力の攻撃意思は、その本質性ゆえに根強く生き残っていたのであり、それが大規模に健在したのが、昨年からの未曾有の大弾圧なのです。すでに逮捕者は75名・捜索箇所は150カ所以上にも達しています。この不当な大弾圧の背景は次のとおりです。
(2)上記の大阪広域コンクリート協同組合は、私たちとの共同した大資本に対する闘争の結果、2015年には大阪に於いて大きなシェアを占めるに至り、大きな収益をうるに至りました。ました(原文ママ)。もちろん、これによるメリットは当然に、中小企業・生コン労働者に還元されるべきはずのものでした。ところが幹部業者は、一旦安定した経営権を獲得するや、労働組合との約束を実行しようとせず、完全に利権団体化していました。そこで、私たちは、2017年12月、事業者協同組合に対して、原点に返って、弱小資本・労働者・社会公共の利益を重視するよう要求して、ストライキに入りました。
(3)ところがこれに対して、広域協は全くの居直りの姿勢を強行してきました。そして、労働組合無視の不当労働行為を連発しつつ更に、例えば、かの悪名高いレイシスト・排外主義者である瀬戸弘幸ら多数を手先に雇い(何と「費用として10億円が支払われた」と、瀬戸自身が著作に於いて豪語しています)、暴力的な闘争破壊に乗り出してきました。
被告の一ノ宮氏の名前すら出てこないのに、なぜか本件と全く無関係な「瀬戸弘幸」が登場する。執筆者よりも対立する活動家の方に重きを置いていた。この記述を見ても分かる通り、反論というよりも「決意表明文」という性質のものだ。これを読んだ裁判官がどういう印象を持つだろう? 「記事に対する反論はないのか?」裁判官に限らず被告側も疑問に持つに違いない。これについてはやはり訴状を見なくてはなんとも判断がつかない。だが労組・運動体の性質を考えると、もしかしたら訴状にも同様の「演説」が繰り広げられているのではないか。こう予想している。
ガス抜き提訴という見方も
もし興味があればぜひ週刊実話の記事を読んで頂きたいが、ちょっと訳知りの人ならばやはり何が問題なのか違和感を抱くはずだ。例えばこんな部分だろうか。こんな話が書かれていた。「武委員長がボディーガード、運転手付きで高級車を乗り回し、高級ホテルで朝食を取る」こうした話の証拠を提出するというのはかなり難しい。だから実話側からどのような証拠が提出されるのか興味深いところだ。あるいは提訴したばかりに連帯側に不利な話が出てくる可能性もある。
それから裁判では勝っても得がない場合、負けても得する場合がある。本件の場合、被告が例えば朝日新聞、NHK、文春、新潮あたりならば、批判報道に勝利したというプロパガンダにもなる。しかし関係者に失礼だが、日本ジャーナル出版・週刊実話に勝訴したところで一体、何のメリットがあるのか分からない。長年、週刊実話や一ノ宮氏が関西生コンを報じ続けて、その対立関係の中での訴訟というのならばまだ理解できる。しかし記事は一時的な連載にすぎない。
創価学会が文春、新潮と係争になり勝訴すれば『聖教新聞』にでかでかと祝勝記事が載るだろう。対して関生支部機関紙『くさり』が「週刊実話に勝訴」と掲載したところでどれほどの戦意高揚になるのか。
果たして訴訟の意味は? ここは連帯に詳しい在阪の捜査関係者の分析に委ねてみると
「 連帯の取り締まりが強化されて以来、続々と脱退者が増えています。コンプライアンス活動も今は警察の目があるから以前のようにはいきません。現在は八方塞がりとも言えます。だからガス抜き的な提訴ではないでしょうか」
という見立てだ。確かに打つ手がないから、苦肉の策で週刊実話に矢を向けたとしか思えない。でもなければ同誌を訴えるモチベーションが見当たらないのだ。そこで連帯側にどの点が名誉棄損だったのか尋ねてみようと全日本建設運輸連帯労働組関西地区生コン支部に連絡してみた。すると担当者が不在ということで再度、連絡してみると今度は、裁判についての担当窓口は全日建連帯労働組合(全日建)・小谷野毅書記長と告げられた。全日建に問い合わせてみたが同氏は不在。この点については今後、継続的に追跡していきたいので続報を待ってほしい。
とはいえ、関西生コンは宝島社代表取締役の蓮見清一と一ノ宮美成を名誉毀損で提訴した時には、東京地裁で勝ってるんですね。確定判決かどうか知りませんが。
平成26年ということですから記録を見てまいります。