「西の青山騒動?」。今年初旬、大阪府摂津市鳥飼野々で外国人労働者向け研修施設の反対運動が報じられた。結論から言えばすでに施設の建設工事は着工しており建設計画は変わりない。しかしなぜこのタイミングで本誌が扱うのか? それは在阪ジャーナリストとの雑談の中で聞いた「鳥飼野々は同和地区らしいけど反対運動を取材しなかったのですか?」という話だった。『全国部落調査』を見ると確かに「鳥飼野々」という地名は掲載されている。「まだ反対ののぼりや横断幕がすごいから見てきては?」(同氏)と言う誘いに乗っかり摂津市鳥飼野々を訪ねた。
摂津市の反対運動の僅か前に東京・南青山の児童相談所建設に対する住民の抗議活動が起きた。これは読者諸氏にとっても記憶に新しいことだろう。「青山の地価が下がる」「青山のブランド価値が落ちる」「治安が悪くなる」等々、TVのワイドショーなどでは抗議集会、説明会で発せられた住民の音声が紹介されたものだ。エキセントリックな住民の態度に対し特にネットで反発が強かった。このような背景を生んだのは“ 意識高い系住民 ”あるいは「青山・麻布・白金」こういった高級住宅街を好む“成金系住民”に対する強烈なアンチテーゼがあったかもしれない。そこにマスメディアの煽りもあって南青山児相問題は大きく世論を喚起した。
そのほぼ同時期に摂津市の住宅街で「千里経営サポート事業協同組合」(摂津市)が進める外国人研修施設建設に対する反対運動が起きたわけだ。このためメディア的には第二の南青山児相騒動に仕立て上げようとしたフシがある。
さて現地である。反対運動のビラ、のぼりなどは探す必要もないほどにすぐに目に飛び込んできた。府道16号沿いのフェンスにいきなり横断幕が飛び込んできた。
近隣住民意見を無視した施設の建設反対
千里経営サポート・セフティライフを鳥飼野々地域は断固拒否
地域の住環境を守ろう 施設計画は撤回せよ
という具合に様々な文言が並ぶ。通常、こうした地域の反対・抗議活動は特定政党・団体の意思・方針が色濃く見えるものだが、鳥飼野々の場合はそうした“色 ”を感じさせない。加えて個々の家々のドア、壁に抗議ビラが貼り出されており地域住民主導の運動というのはすぐに見て取れた。実際にビラを見ると抗議声明は自治会長名で発せられたものだ。
疲弊した住民…きよっちゃんって誰だ!?
ともかく地域の人の声を聞いてみたい。犬の散歩中の男性がいた。ご主人と呼び止め「反対運動のことで・・」と言いかけた瞬間、「来るな、知らん」と怒鳴る。連れていた犬も吠える。ついでに隣にいた地域猫まで「シャー」と威嚇する。犬猫まで巻き込んだこの全力の拒否はなんだ? ただ反対運動と言いかけただけでこの反応だ。この男性がたまたま気難しい人なのだと思い、別の住民に当たる。すると僅かな沈黙後、睨むように「出てって、こっちにこんで」と拒否した。
施設建設予定地の隣に真福寺がある。ここの住職に話を聞こうと訪ねたが、同氏もまた「みなさんがそういう態度なのに私が話すわけにはいかないです。お葬式もあるしちょっと勘弁してくれんかな」と口を閉ざす。
またこんな話もあった。ある住民に「自治会長に聞いたらええがな。きよっちゃんのいとこの橋本さんや。知らんのかい」こう吐き捨てるように言われた。いきなりきよっちゃんと言われても…。実はこの「きよっちゃん」とは元PL学園野球部のエースで元読売ジャイアンツで中継ぎ投手として活躍し“勝利の方程式 ”と称された橋本清氏のことだった。野球好きとしては実にワクワクする話で自治会長宅を訪ねたが応答はなかった。また近隣の住民に聞いても全く無視…。
何かがおかしい。建設が決まったのに今でも派手に横断幕や抗議ビラがある。ネットを見ると鳥飼野々の抗議活動に対して「差別」「時代遅れ」という声が散見された。ネットユーザーもどちらかと言えば南青山的なゴネる住民をイメージしているようだ。青山児相施設の場合、付近にはマンション、公共施設、大学などもあるし道路も広い。しかしここ鳥飼野々の建設予定地は民家に囲まれているし、道もとても狭い。少なくとも北側から車で進入するのは不可能である。本当に昔ながらの住宅地で旧家も目立つ。つまり南青山の反対運動とはまるで事情が異なる。実際にもし自分がこの地の住民ならばやはり抵抗を感じたと思う。
それともう一点、抗議が起きた背景として元は一般の宅地として開発予定だったのが途中、一部の土地が転売され外国人労働者の研修施設にすり替わったことだ。予定地は北半分の右が研修生の宿泊施設、左側が研修施設という位置関係だ。そして南部分が一般の宅地として整備中である。
住民側としては当初の計画と異なり、降ってわいた外国人研修施設の建設に疑問を感じたようだ。ところが「外国人研修施設」に対する反対運動という側面だけが、一人歩きしてしまい早い話が「排外活動」のように伝わってしまう。この点は住民の中でも意見が分かれ、住民同士が不信感を抱いてしまった。前出の拒否した住民たちも「懲り懲り」だったのだろう。たびたびメディアに取り上げられたことも建設に関心がない住民にとっては大変なストレスで疲弊したに違いない。
森山市長も反対していたが…
わずかだが話に応じてくれた住民はこう話す。
「外国人の人が来て日本で働くのは全く反対していない。だけどこんな密集した住宅地にまるでだまし討ちみたいな形で転売して、建設するのは許せない。ここの研修生は1か月ごとに67人が交代して研修・宿泊をしていくという説明だった。門限は11時というけども高齢者としてはやっぱり夜に外国の人がいるのはちょっと怖いわ。ただ介護の仕事で働く人らというから頑張ってほしいけども、ただ当初から説明をしてほしかった」
ところが意に反してネットや一部メディアではまるで「排外」かのように扱われたことは心外だったことだろう。
それから住民たちに失望感が広まったのはもう一つ理由がある。施設建設予定地近くに「藤森神社」があるが、同社は摂津市・ 森山一正市長が神主を務めていた(現在は子息が神主)。つまり鳥飼野々は森山氏の地元であり、地域の要望を受けて市長も反対の立場だったが結局、市も建設を認可したわけだ。
「市としては建築基準に適合した以上、反対する理由がないのは分かる。ただ森山さんはもう少し頑張ってほしかった」(建設予定地付近の地域住民)。
確かに法令上、違反などの行為がなければ自治体としても許可せざるをえない。前出の住民によると12月21日には地鎮祭も行われるという。横断幕、ビラはまだ残存しているが果たしてどういう形で収束するのか今後も見ていきたい。
さて施設の話はここまで。ところで鳥飼野々の同和地区云々という話だが、マニアにとってはそちらの方が気になるだろう。結論から言えばこの施設予定地付近は同和地区とは無関係だった。その辺りの事情や歴史的背景については別稿の曲輪クエストをお楽しみに、としておこう。
恥ずかしながら、この出来事を全く知りませんでした。「千里経営サポート事業協同組合」の詳しい事業やその方針は分かりませんが、営利団体であれば多少の強引さは付きもののように思います。しかし、時間をかけてジンワリ合意を形成してゆくのもこの手の事業を営む団体には必要です。研修施設の建設を急くのは経営上切迫したものがあるのか、はたまた真実は底知れぬ闇の中に隠されているのか。いずれにしろやがて研修施設は出来上がると思いますが、平穏な生活が住民のもとに戻ることを願っています。
袋小路みたいなところに突然大きな施設ですからね。道も自動車が一台やっと通れるぐらいです。
住民のコンセンサスをちゃんと得てから着工すべきでした。
でっち上げられたんでしょうねぇ…
関西では、無理無理やりやりなこういったお話を聞くことが時にあります
何かこういった差別が無いと都合が悪い方々がおられる様ですから
言葉狩りとも言うのでしょうか?
普通に考えたら分かると思いますが、残念ながら一般市民にはよくわからない正義をかざして、何の差別心の無い一般市民を追い込むことが正義な様です
それを見て、一般市民がどう思うか…
ああ…それも差別なのでしょうね!
私は、勿論差別を無くしたい それでも同じ立場である方々から共感を得られない様で…
それが凄くつらいのです
まあ青山が盛り上がりましたからね。ただあまりに状況や住宅事情が違いすぎますからね。
こうした組織で働いたことがありますが、まぁあれですよ。言葉は悪いけど端的に言い表すと外人奴隷輸入業。
1週間から2週間に1回は失踪の報告も上がってましたし。
顧客も外人入れないと成り立たないような業者ばかりだからそれなりのとこが多かったです。
宿泊施設としてビル一棟借りしてたりしましたけど、不思議と雰囲気悪くなります。
反対するのもそらそうだよなぁって思います。
反対派のリーダー格の人も外国人労働者自体の権利や必要性は十分に理解していると言っていました。
ただやはり突然の計画変更というのが納得できないご様子でした。
持ち家だとそう簡単に逃げるということもできないですしね
話が違う上に来るのがそう言う団体と施設と聞けば私でも嫌かなぁ
内情の一端だけでも知ってしまうと余計に嫌かも
あまり滞在できなかったから
深追いできなかったけど住民も関係が悪くなったみたいで気の毒でした。
60年代に開発された新興住宅地に、80年代に入って地元にマンション計画が持ち上がったときに行われた反対運動のような手作り感。
なんかすごく懐かしい気がします。
部落研究(69)のYoutubeを拝見しました。
これまで、てっきり鳥飼野々の地区というのは、7~8年前に取り壊された3丁目にあった
市営鳥飼野々住宅のあたりだとばかり思っていました。
周囲に民家が建ち並んだのは昭和50年代に入ってからだったような気がします。
東京五輪前の建築だったようで、老朽化が著しく改良住宅感が満載でした。(笑)
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