「フレンテみえ」アンケートから見る 迷走する LGBT問題

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By 宮部 龍彦

ここ数年、いわゆるLGBT問題がどこでも大きな話題となり、メディアは差別解消のための施策の実現を支持する論調がほとんどだ。確かに「総論」として差別解消を掲げられれば、それに反することは言い難いが、「各論」となれば一筋縄ではいかないことは賢明な方は気づいていることだろう。

やや旧聞になるが、2018年3月に三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」から、三重県内の高校生を対象とした「多様な性と生活についてのアンケート調査」という報告書が公表された。このアンケートを通して…とは言ってもアンケートの結果よりもこのアンケート自体や周辺事情を通してLGBT問題について“一筋縄ではいかない”実情を見ていく。

「多様な性と生活についてのアンケート調査」 は 「フレンテみえ」 (これは三重県の施設で、公益財団法人三重県文化振興事業団が指定管理者となっている)が実施して公表しているものだ。公表とは言っても、ウェブサイトで自由に見られるものではなく、同施設にメールすると個別に郵送されてくるというものになっている

筆者は早速、その調査資料を取り寄せてみた。

その内容を見て気づいたのは、独特の集計の仕方をしているということだ。例えば男女それぞれのイメージとして「仕事が第一」「食事代を払う」等の選択肢が並べられており、これ自体はいわゆる男女共同参画関連のアンケートでもありそうな項目だが、この調査では男女別に集計するのではなく、代わりに「当事者層」「非当事者層」という分け方がされている。

こういった質問の場合、男女で大きな違いが出るものだが、あえてそれを無視するところが、この調査のユニークなところであるのだろう。そして「当事者層」「非当事者層」とは何を意味するのか? 言い方を変えれば、それぞれ「性的マイノリティ」「性的マジョリティ」ということになる。

そして、 「当事者層」「非当事者層」 を分ける分類表がこれだ。

同じ表が「男性」でもあり、そのうち「体の性」「心の性」が一致しており「好きになる性」が異性になる場合が「非当事者層」というわけだ。

しかし、分類の仕方を注意深く見ると、どう感じるだろうか。おそらく多くのひとがイメージするであろう「同性愛者」つまり①と㉛(身体と心の性、好きになる性が全て同じ)は約1%である。しかし、「当事者層」はこの調査では10%程度にのぼっている。「当事者層」 の残りの9%は「両性愛者」に該当するのかと言えばそうではなくて、「わからない」を含めた雑多な指向をひとまとめにしており、その内訳は明白でない。

例えば「心の性」 が体の性と一致しないと答えている人が、どのような趣旨で答えているのか釈然としない。それは文字通り性的な意味でのことなのか、自己のアイデンティティが揺らいでいる、言ってみれば別の意味でメンタルヘルスに問題を抱えている人なのか区別できない。

これでは、「性的マイノリティ」についての調査をしているのか、他の「メンタルヘルスに問題を抱えている人」の調査をしているのか、はっきりしていないのではないだろうか。

しかも、男女別の集計がされているのはいわゆる 「同性愛者」 だけで、それ以外は男女でどれだけの偏りがあるのか分からない。仮に 「当事者層」「非当事者層」 に男女の偏りがあるなら、それぞれの集計結果の違いは男女の意識の違いを反映したに過ぎないということになってしまうだろう。

さらに、定時制・通信制高校と特別支援学校に対する調査をしていながら、結果から除外されている。

2018年3月17日、朝日新聞に「性的少数者の高校生「自傷を経験」3割 1万人調査」という結果が掲載された。記事では、この調査を引用して「わざと自分の体を傷つけた」は、非当事者の12%に対し当事者は32%に達した」とある。

一方、定時制・通信制高校を対象とした集計結果では「非当事者」「当事者」別の集計はされておらず、全体の集計結果で 「わざと自分の体を傷つけた」と答えた割合が33.3%となっている。なお、この結果はフレンテみえは積極的に公表しておらず、情報公開請求の手続きを取った場合にだけ開示されるものだ。

定時制・通信制高校の結果

先述の通り、 「非当事者」「当事者」 という分け方が適切なものなのか疑わしい一方で、 定時制・通信制高校の生徒が 「わざと自分の体を傷つけた」 と答えた割合が多いことは明白なので、アンケートの結果からすると、むしろ性的少数者よりも 定時制・通信制高 の生徒の抱える問題の方が深刻なのではないかということになる。

アンケート結果の最後には自由記述欄の回答が掲載されているが、ほぼ全ては今回のアンケートやLGBT施策に肯定的な内容となっており、極端に否定的な内容は見当たらない。「抜粋」と書かれている通り、全てを抜き出したわけではなくて、いわゆる「差別的な」回答は除外しているということだ。

このアンケートが何か客観的な検証をする上で参考になるかと言えばならないだろう。具体的に政策に生かすというよりは、とにかく実績を作るための「やってみました感」が見え見えなのである。

LGBT施策への取り組みは「ずさん」ではないか?

おそらく我々が 「性的マイノリティ」と言えば、まずは同性愛者を思い浮かべるだろうが、高校生を対象としたこの調査ではそれは全体の大体1%程度。残りのほとんどはその他の性的指向ということになる。いや、そもそも性的指向と言ってよいものか分からないものも含まれている。こういった「性的マイノリティの水増し」は他の同様な調査でも日常茶飯事なのだという。

このアンケートについて弊舎に知らせていただいた、本アンケートを問題している「フレンテみえ「多様な性と生活についてのアンケート調査」について考える有志の会」の1人に実情を聞いた。

「私自身は性同一性障害ですが本来これはLGBTの中に入れるべきではないと思います。それは同性愛とは違って“病気”であると思います。昨今のLGBTブームの弊害で、仙台で温泉の女湯で下着泥棒をした人が、身体上は男性であるけど性自認は女性だと主張して、温情判決を下されることが起きています。これはおかしいです」

「LGBTの問題については、表に出て発言している人ばかりが目立っていますが、実際は「クローゼットにいる人」つまりは主張しない人がほとんどです。当事者と言っても、そういう人の意見は反映されません。メディアや政治の場で出てくる「当事者」は一部の人だけであって、そのような「当事者」にとって都合の悪い別の「当事者」の意見は黙殺されています。他人の性自認や性的指向を暴露する「アウティング」がしばしば非難されますが、私自身は周囲に性同一性障害であることを隠していたのに、LGBTが政策の俎上に載り講演等が周囲で行われるために三重県内に居づらくなってしまった経緯があります」

「LGBTに対する施策は必要なのかも知れないですが、明らかにそれを金儲けや自分の仕事上の実績作りに利用しようとしている人たちがいます。しかも性自認は突き詰めれば自己申告に過ぎないので、本心に反して自称することができてしまいます。こういったことになってしまうなら、国や自治体が出てくるべきではない。民間の活動に任せるのがいいのではないかと思います」

いわゆる人権問題、差別問題が論じられる時に「当事者」という言葉がよく出てくる。そして「当事者は傷ついている」「当事者以外にとって当事者の苦しみは想像でしかない」と言って自由な議論が阻害されてしまうことがありがちだ。しかし「当事者」とはどの範囲を指しているのかはっきりしない場合が多いし、いわゆる主流派にとって耳に痛い意見を言う当事者はその「当事者」の範囲に含まれないことがしばしばある。そもそも、平等や差別解消を目指しながら、あたかも「当事者」かそうでないかで常識や感覚が違っていることが当然であるかのように言うことが矛盾していないだろうか。

与党が提出を目指していたLGBT法案は目下頓挫してしまっているか、それはなるべくしてなったことではないか。

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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