「社会運動というよりエンタメ」。昨今、政治デモは時間を持て余す人々の娯楽と化していないか。最近、多発する「財務省解体デモ」には無敵の人然とした参加者や反ワクチン活動家までが殺到し〝面白人間ショー〟の様相だ。大型連休を迎え休日難民の受け皿になりそうだが、その実体は故・森永卓郎の〝イタコ芸〟としか思えない。
セクト主導の前世代型から自然派生デモへ
庶民の休日。一般家庭の場合、家族でショッピングモールというパターンは多いだろう。あるいは自宅でネットゲームやYouTubeという人もいるかもしれない。しかし休日の娯楽が「デモ」「集会」という面々は世の中、一定数、存在する。
デモには同じ価値観を共有できる仲間がいる、そして仲間と声を挙げる。「共感できないこと」に嫌悪感を覚えると攻撃的になる人物は実在する。
通常、ネットで「限界系」「先鋭化」と呼ばれる。往々にしてそんな層がデモを支えるものだ。また持たざる人々の余暇の過ごし方としては最適だ。費用はせいぜい交通費だからコストパフォーマンスもいい。
だが主義主張問わずデモ好きな人々に聞きたい。デモ参加で得た達成感と充足感の後、日常に戻った後、不安感に苛まれた経験はないだろうか。
デモの政治要求が実現することはまずありえないし、また一部の大声だけで政治が変わるとすればそれは民主主義とは言えない。つまりデモ趣味人は「達成感」と「徒労感」を同時に抱えなければならないのだ。
最近の大規模デモと言えば神真都Qなど反ワクチン団体が思い出される。コロナ禍の閉塞感でとりわけ中高年にとってはストレス発散の場になった。特に高齢者の行き場になったことは特徴的である。公共スペースへあえてノーマスクで出向き注意されれば悪態をつく。
「今日もデモに来る途中に電車の車掌にマスクをつけろと注意された。だから怒鳴ってやった」などと勝ち誇る。そしてデモに興じていく。
【速報】神真都Q 初公判… ノーマスク傍聴、財布の中身チェック、東京地裁の 異様さが際立った!
そんな高齢者の一人は2022年9月6日、神真都Qの初公判の被告席にいた。宴の代償は大きかったことだろう。
さて現在のデモを分析すると傾向がある。かつてデモといえば共産党やセクト、労働組合、各種市民団体による主催が相場だ。しかし昨今の場合、自然派生的でSNS上のインフルエンサー主導というケースが目立つ。
セクトや労組等の主催の場合、救援対策、弁護士の手配、国会議員らゲストスピーカー依頼など準備は念入りだ。あるいは都内の場合、「港区はデモ申請が緩い」といった情報を持つ。デモのノウハウがあるということだ。逆に自然派生的なデモの場合は、とにかく勢いとその場のノリで進行していく。それからあわよくばデモで名を挙げたいという野心も垣間見える。
また自然派生的なデモの場合、政治主張自体に関心はなくとも「中継」でアクセスを稼ぐライバーたちの存在も見逃せない。
いずれのパターンでも共通するのは遠目から見ても〝無敵の人〟〝世捨て人〟と思しき参加者の存在は見逃せない。その点、現在話題の財務省解体デモも〝無敵の人〟感が漂ってきた。同様の受け止め方をしたウォッチャーもいるはずだ。
政治経済評論家・池戸万作氏にスポットライト

社会運動、社会起業は二階級特進のチャンス。「活動家」や「社会運動家」は今やアクティビストという洒落た名称を与えられるようになった。場合によってはマスコミ出演もありえる。
財務省解体デモにおいても新しい社会運動スターが登場している。その一人が政治経済評論家・池戸万作氏。れいわ新選組の経済政策ブレーンを名乗ってきた人物で、同党とも交流があったという。しかし現在、れいわとの関係を示すものはない。ブレーンというのも失礼ながら「自称」が実態だろう。
やはりれいわ新選組と関係が深い古谷経衡氏からも「相手方が了解してもいないのに「ブレーン」の肩書を使うとは、いかがなものか」と辛辣な言われようだ。さらに同党の大石あきこ衆院議員からも「池戸万作さんの発信が、れいわの政策や方針に、直接に影響を与えることは全くありません」とバッサリだ。
この通り、れいわ関係者からは「経済ブレーン」を否定。そもそも池戸氏の「政治経済評論家」というのも名乗るに資する実績があったのか見方は分かれるだろう。
2023年、ABEMA Primeで行われた経済学者、成田悠輔氏との対論もSNS上では大半が成田氏の主張を支持したようだ。また経済政策に疎い筆者の目にも池戸氏の自説は根拠が薄いと感じた。特に「政府がお金をバラまいた国は経済成長する」といった主張は〝総ツッコミ〟が入った印象だ。
池戸氏は政府は通貨発行権を持つため赤字を考えなくてもいいとするMMT(現代貨幣理論)の信奉者である。またれいわ新選組の経済政策はMMTに依拠したものだ。れいわ新選組・山本太郎代表のアジテーションに「現金よこせ 現金!現金!」があるが、まさにMMTの支持層と合致する。
池戸氏自身も通貨発行について「打ち出の小槌」と表現したこともあった。れいわ新選組支持者やMMT派からは池戸氏を支持する声もあったが決して多数でもない。むしろ池戸氏はMMT信奉者たちの間でカルト的な人気を集めるようになった。2023年9月頃から財務省前でのデモを主催したことで状況は一変。マスコミ取材や報道番組への出演など注目された。
これまでは発言等をいじられてきた池戸氏が一部から「論客」として扱われるようになった。池戸氏自身も「元祖!財務省デモの先駆者」と自負している。財務省解体デモ後、身辺はどう変わったのか。
池戸氏に質問してみると『新日本文化チャンネル桜』が4月8日に配信した「財務省の正体と解体」の視聴を勧められた。同回には池戸氏も出演したからだ。
生活の変化については「収益は少しありましたよ。生活が変わったというのは、3月中はずっと取材がありました」と話す。また財務省解体デモには財務省や経済問題と無関係の反ワクチン、DS(ディープステート)支配といった問題を持ち込む活動家もいた。これについては「財務省前デモには持ち込まないで欲しいです。あくまでも、経済財政一本でデモを行います」と応じた。
一枚岩ではない財務省解体デモ
財務省解体デモについて池戸氏は元祖と銘打っているが、デモが全国的に波及したのは同氏の力だけではない。もとは2月21日、政治団体「新生民権党」の塚口洋佑代表が行ったことでメジャー化した。塚口氏自身は『現代ビジネス』(4月2日)配信記事「なぜ「財務省解体デモ」を始めたのか、なぜこんなに盛り上がっているのか…?主催者に直接、話を聞いてみた!」でこう語る。
「初めに『財務省解体デモ』を名乗り、抗議活動を始めたのは『風の吹くまま市民団体』の副代表のころんさん(50歳)です。また財務省前でデモを始めたのは政治経済評論家の池戸万作さん(41歳)です」
時系列を補足すると財務省前デモは池戸氏が最初に始め、「財務省解体デモ」と銘打ったデモを昨年12月27日に「風の吹くまま」が行い、世間に周知させたのは新生民権党のデモ。老舗の池戸氏、名付け親はころん氏、育て親は塚口氏といったところだろうか。
こうなると往々にしてイニシアティブ争いが起きそうなものだが、今のところは共存しているようだ。統一的な行動ではなく、主催者がめいめいで参加者を募るというスタイルをとっている。
全国展開していく中で3月14日、愛知県でも東海財務局前で抗議デモが行われた。参加者の一人で大村知事リコールでも活動した水野昇氏はこんな印象を語る。
「私もスピーチしたから主催者みたいに思われているのだけど、実は誰が音頭をとったのか分からないんですよ。東京で盛り上がったのを見た有志が始めましたが、高齢者や障害者の方も来て窮状を訴えていました。カンパ目的とかそういうのではなく純粋な怒りでしょうね」
逆に東京開催の場合はライブ中継者にカンパが集まったという。各地で主催や活動スタイルが異なっているがそれには理由があるようだ。
「LINEグループも監視されており、団体を分散させることで当局のデモ潰しを防ぐ」と主催者の一人は説明した。しかし確認したところ監視どころか非常に自由闊達な情報交換をしている。
監視があるのか否かは別として、自然派生的なデモというスタイルによって動員力が向上したのは事実だ。そしてマスコミにも注目されるようになった。だが一方で自由参加がゆえに財務省問題以外の反ワクチン、反移民政策、陰謀論系など便乗グループも出没している。こうした現状に抵抗を感じる参加者も少なくないという。
そしてこれからゴールデンウイークにかけての大きなイベントになりそうだ。特にデモを「エンタメ」と捉える人にとっては心待ちにしていることだろう。
しかし過去の参加者たちに意見を聞いてみると、デモのあり方についてそれぞれスタンスが異なりやはり一枚岩ではないようだ。
「財務省解体」とのアジテーション。参加者にすれば痛快だろう。
しかしどのように解体されるのか、また解体後に再編されたらどうなるのか明確な答えやプランは提示されない。一部からは「歳入庁と歳出庁に分離する」との主張があった。要するに省から庁へ格下げをして財務省の権限を奪うという意味だ。しかしそのことがデモ参加者が望む「天からの金」(積極財政)につながるのか分からない。
中には「アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)がある」と実例を挙げた参加者もいたが、同庁は日本で言うところの「国税庁」に相当し、国の財政問題とは異なる。
財務省解体を掲げたデモだが具体策というよりは「財務省に権限が集中しすぎる」「増税ばかり」という不満がデモになって具現化したものだ。非常にポピュリズム的なのだが、確かに物価高の一途で声を挙げたくなるのは心情的に理解できる。だが解体を叫んだところで生活向上に寄与するわけでもなく残念ながら〝ガス抜き〟の範囲を出ないだろう。
森永卓郎氏の受け売りはイタコ芸?
非常に熱気はある財務省解体デモだが、疑問を持ちながらの参加者も少なからず存在した。
「主催はバラバラですが結局のところ故・森永卓郎さんの著作『ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト』の受け売りという気がしています。池戸さんご自身もデモの時にザイム真理教と印字されたTシャツを着ているから森永さんからの影響を受けているのでしょう。また〝信用創造〟という用語をプラカードに書いた参加者もいます。信用創造も森永さんがよく引用されていましたね」
信用創造とは銀行用語で銀行が貸し出しを行うことで預金通貨を新たに生み出す仕組みのこと。銀行はお金を作り出すことができるから国家の財政も同様に通貨を発行し続けられるというロジックである。MMT信奉者たちが根拠とする一つだ。しかしそうなった場合、インフレを引き起こす可能性は高くまたコントロールが容易とは思えない。こうした点からしてもMMT派の主張は危うさを感じてしまう。
財務省解体デモの内情を検証してみたが結局のところ森永氏のイタコ芸に終始しているというのが率直な感想だ。
「財務省解体デモという名称を改めより広く市民に周知するため今後は〝財政の民主化運動〟に改称されました。また別の動きでは反コロナワクチン運動家が主導する財務省解体・厚労省解体パレードデモが開催されます。ゴールデンウイーク初日の4月29日に全国で一斉に開催されますから注目されるでしょうね」(デモ参加者)
4月29日と言えば都内では霞が関周辺で左翼団体による昭和の日反対デモが開催される予定だ。財務省解体デモの中には右派の参加者もいるためトラブルもあり得るだろう。もっともそうした睨み合いによる刺激もまたデモのエンターテインメントなのだ。
5月には自民党解体デモを企画する地域も予定されている。自民党に厚労省まで加わればさらにマスコミの関心が高まるに違いない。しばらくは各地でデモが活況になりそうな予感だが、デモ隊の“大願成就”は果たされるのだろうか。ただ老婆心ながら一言、どんなに大声を挙げても金の雨は降りることはない。