美しい言葉の波動を受けると水は美しい結晶を作る――。『水からの伝言』(江本勝)はベストセラーになり道徳の教材に採用されたほど。だが疑似科学、荒唐無稽との批判が強くブームは過去のものになった。と思いきや別のスピリチュアル商品に姿を変えセミナー商法、SNSによって生き続ける。まさしくゾンビなのだ。
コロナ禍で 拡大した陰謀論、疑似科学、ホメオパシー
約3年に渡るコロナ禍は政治経済、ビジネス、教育、ライフスタイルに至るまで影を落とした。さらに人々の疑心暗鬼によって陰謀論、疑似科学が拡大。反マスク、反ワクチンを掲げた抗議活動で逮捕者を出した「神真都Q」は最たるものだった。
また立民・原口一博衆院議員、参政党・神谷宗幣参院議員、各地の首長、自治体議員など政界関係者、または芸能人、有名学者、文化人でも陰謀論、疑似科学に同調する人物は少なくない。
そして著名人、有力者らによる情報発信で一般人に拡散されていく。これらはコロナ禍以前から存在したスピリチュアル、ホメオパシー、オーガニック、ニューエイジの信奉者とも親和性がある。
面白いもので信奉の対象が異なれども「水」に重きを置くものだ。おおかた「ガンが消えた」「運気があがった」などという水の詐欺商法は行政からも注意喚起が行われる。
水は生命の源。貴重な資源だが同時に怪しげなビジネスに利用されるのも事実。『水からの伝言』などの著書で知られる故・江本勝氏が日本に持ち込んだ「波動」は代表的なものだ。波動測定器や波動水を国内で紹介しビジネスを始めた。
『水からの伝言』『水は答えを知っている』では言葉の波動が水に影響を与えると提唱。水に「ありがとう」といった良い言葉をかけると美しい結晶ができるが、汚い言葉になると歪な結晶になるといったものだ。
顕微鏡を通して撮影した結晶の写真を紹介する江本氏の著作はベストセラーになった。また同氏の主張は積極思考や自己啓発でも採用され、学校の授業で道徳の教材になったほど。
対して科学者からは疑似科学、荒唐無稽との批判を受けたが、江本氏からは明確な反論、実証はついぞ聞かれなかった。
また2014年に江本氏は死去したが、現在ではその著作も古本店のワゴンセールにひっそりと鎮座する。しかしその継承者たちが存在し、現在でも「水」を冠したスピリチュアル商法は続く。
シリカ水、ケイ素水は 国民生活センターから 注意喚起
波動水、そして2007年頃からは「水素水」がブームになり大手メーカーも関連商品を発売した。だが水素水は2016年に国民生活センターの注意喚起によって姿を消す。代わって勃興したのがシリカ水、ケイ素水である。特徴的なのは水素水もケイ素水は仕掛け人が同一ということ。
補足をするとシリカとケイ素(珪素)は同一の成分だ。学名上は二酸化ケイ素。これ自体はガラスの原料、乾燥剤、耐火材料など多用途で有益な物質だ。
しかしこのケイ素を健康食品に利用できるとして関連商品が登場する。
だがそのプロモーションは非常に怪しい。その旗振り役である内藤眞禮生氏が日本酵素・水素医療美容学会理事長として水素水を推進した。ブームが終焉すると、日本珪素医科学学会理事としてケイ素水を持ち上げる。
そしてケイ素水と同じ成分の「シリカ水」は芸能人、有名人を巻き込んで一時的なブームになった。一時期はタクシー車内のデジタルサイネージ広告を席巻したかのような勢い。
しかし水素水と同様に効果効能に明確な根拠はない。
国民生活センターが2022年12月に「シリカやケイ素を摂取できるとうたった飲料、健康食品等に関する調査-ケイ素の摂取は美容や健康に良い?」として有効性については明確な情報がないと注意喚起した。
そればかりかシリカ水の旗振り役としてCMにも出演したDaiGo氏自ら効果を否定している。DaiGo氏は「水自体は良い物という意味」という論法でシリカ推しではなかったと強調した。
この時点で普通の消費者なら「怪しい」と思うはず。国民生活センターの注意喚起後もSNSを通して「シリカ」は確実に生き残っている。
蘇った江本勝『水からの伝言』
それは岐阜県岐南町からの情報だった。そうは言っても県民以外、この町の名を知る人は間違いなく少数だろう。現在、絶好調の『週刊文春』によって昨年、同町・小島英雄町長のセクハラが報じられたといえば思い当たる人もいるかもしれない。
当の岐南町住民から「町立中央公民館で2月16日に怪しいセミナーが開催される」との情報がもたらされた。
「波動セミナー」
疑似科学、スピリチュアル、こうした分野に関心を持つ者にとって定番といってもいいワード。近年、この分野の信奉者が増加している反面、厳しい眼を持つウォッチャーも多い。
だが「X」をみると関連情報は乏しく逆にFacebookを検索してみるとセミナー情報、またはインフルエンサーらの情報発信、プロモーションが多数、投稿されていた。
公共施設で「波動セミナー」というのは地元住民でなくてかなり違和感と抵抗がある。と主催者側と同町中央公民館に確認してみた。講師を務めるシリカ(ケイ素)製品の卸業者、牛王太雅章氏によると「確かにストーンなどの物販を行います。しかし問題があれば会場を変更します」とあっさりしたものだった。
牛王太氏はシリカ商品を中心に各地でシリカのプロモーションや波動セミナーの講師を務めている。
逆に公民館側は当初、申請内容が運営規則に沿っていたため施設の貸し出しを許可したという。「波動セミナー」という時点で察知してほしいものだ。
牛王太氏が国民生活センターから注意喚起を受けたシリカ製品を扱っている業者ということを確認した上で公民館側は貸出を中止。その後、会場は羽島市内の寺院に変更になっていた。
さてセミナーも関係人物も初見だったが、概要欄に重要な文言があったのだ。
セミナー内では、吉野内聖一郎先生が発明した「数霊REIWA」という波動修正装置を使って、貴女に合う波動水をお作りしてプレゼント致します。ので、お気に入りのミネラルウォーターをご用意ください。その持参して頂いたお水に、波動転写致します。
ウォッチャー、または疑似科学を検証した科学者、研究者は即座に看破するかもしれない。一時期は教育現場まで混乱させた『水からの伝言』の著者、故・江本勝の波動商法の系譜を継いだセミナーだった。
吉野氏は江本氏に波動を学んだという。そして開発したのが「数霊REIWA」なのだ。先の牛王太氏のFacebook(2023年11月19日)にはこうある。
ほとんど無収入だった女の子がシリカを飲み出し、数霊REIWAを使う(波動修正)ことで翌月から月収200万円を超えた、と聞いたらどう思われるでしょう?(^^)
健康食品どころかもはや新興宗教の領域だ。確かに江本氏の波動商法自体は過去のものになったが、それでも同氏が提唱した波動は生きている。それどころかシリカ、ケイ素といった新たなアイテムが加わった。しかも水素水ブームが消えると今度はケイ素水に変わり、同様に江本氏に代わって「数霊REIWA」が登場する。
江本氏の波動商法は生きている! そして水に関わる疑似科学商法は姿を変えてゾンビのように生まれ変わり消費者を惑わすのだ。