「破産者マップ事件」裁判の全貌が 分かってきた

カテゴリー: 社会 | タグ: , | 投稿日: | 投稿者:
By 宮部 龍彦

本サイトでも取り上げ、様々なメディアでも話題となった「破産者マップ」のことを覚えているだろうか。当初から様々な弁護士が過敏に反応し、運営者に対して法的措置を取るためにクラウドファンディングまで行われていたが、ようやく運営者が提訴され、裁判が始まっている。

11月26日に東京地裁で2回目の口頭弁論が行われ、被告側の弁護士が出廷し答弁書が提出されたことから、ようやく事件の全容が分かってきた。

2回目の口頭弁論が行われるということが分かったので東京地裁に来てみたが、開廷表では原告被告ともに「(閲覧制限)」と表示されていた。この事件がメディアに注目され、原告側弁護士が記者会見を開いたことから事件の存在や弁論の日程が明らかになっているが、そうでなければ裁判の存在を知った上で傍聴することはほぼ不可能だっただろう。

弁論は比較的小さな法廷で行われたが、20人程度の傍聴人が来ていた。原告側代理人は望月宣武弁護士その他であり、被告側代理人は浦川祐輔弁護士である。

今回の口頭弁論では被告側提出の答弁書の陳述が確認され、次回までに原告から被告側に対する反論と釈明を求める書面を提出こととなった。裁判官からは非公開の弁論準備手続も提案されたが、原告側が公開の口頭弁論を希望し、次回も同様に裁判が続行されることになった。

なお、被告側は神奈川県内の簡易裁判所に移送を申し立てていたが、これは取り下げられた。

次回の口頭弁論は1月21日午前10時から東京地裁705号法廷で行われる予定である。

被告が特定された経緯

裁判記録等から今回の裁判に至った経緯も明らかになった。

実は破産者マップの運営者が誰かということは、ずっと前から明らかになっていた。破産者マップのサーバーと同じIPアドレスを指しているドメイン名が複数あったことから、それらのサイトの内容から神奈川県伊勢原市の「フロネシス合同会社」が関係していることが分かり、その代表者の「遠藤有人」という人物ではないかということがネットで話題となっていた。

今回の裁判では被告名には閲覧制限がかかっているが、提訴されたのがその人物であることは、もはや公然の秘密である。

しかし、実際に提訴に至るためにはもっと確実な情報が必要である。裁判記録によれば、2019年8月30日にサーバーのホスティング会社である、さくらインターネットに発信者情報開示を命ずる仮処分命令が出されており、同年9月5日に被告の住所氏名が開示されている。つまり、2年前には被告が特定されていたわけである。

それなのに、提訴に至るまで時間がかかったのは、原告側は遠藤氏が海外に行ったことと、原告になる人を探さなければいけなかったと説明している。

原告・被告は互いに全面的に争う姿勢

ともかく、今回の口頭弁論で双方の主張内容がようやく見えてきた。

原告側は2人の破産者で、いずれもここ数年のうちに破産手続開始決定を受けて、免責許可を受けている。その事実を破産者マップに掲載したことは名誉毀損、プライバシー侵害に該当し、それぞれが11万円の損害賠償金の支払いを求めている。

それに対し、被告側は主に次のことを主張している。

  1. 被告はサーバーの管理者であったが、破産者マップは匿名の研究者が情報科学の研究として始めたもので自身は直接の運営者ではない。
  2. 破産法32条1項で破産者の公告が定められ、51条で法律上は公告された時点で利害関係者は破産の事実を知ったものと推定される等、これは立法政策論の問題であって被告に責任転嫁するのは筋違いである。
  3. 破産者マップの実質稼働日数は5日に過ぎず、具体的に原告らにどのような不利益があったのか立証されていない。
  4. 原告弁護団はメディアに会見したりクラウドファンディングをしたりしたので成果を出す必要があり、原告らは自発的にではなく弁護士に無理やり担ぎ上げられたものである。
  5. 原告らが破産者マップに掲載されていたという事実の立証がされていない。

メディアや法律家にとっては2番目の論点が興味深いだろうが、これは裁判であるという視点で言えば、実は一番最後の論点が重要になると考えられる。

破産者マップは注目されてから早々と閉鎖されてしまったため、そこにどのような情報が掲載されていたかという記録がほとんど残っていない。裁判記録を見たところでも、2人の原告が破産者マップに掲載されていたという証拠らしきものがないのである。

しかも、 さくらインターネット に対する発信者情報開示の仮処分を請求した債権者(仮処分も当事者がいてこそ出来ることなので、本裁判の原告に相当する「債権者」が必要である)は今回の裁判の原告とは異なる人物である。つまり、今回の提訴が遅れた主な原因は、最初の破産者が本裁判に加わることを辞退し、原告弁護団が別の当事者を探すことに苦労し、しかも証拠が不十分な状態で提訴に至る決断をするのを躊躇していたからではないかと考えられるのである。

この裁判に注目するメディアや法律家には残念なことであるが、裁判所が法律上の判断を避けて「原告不適格で却下」つまりは門前払いしてしまう可能性は低くない。下世話な言い方だが、裁判官にとってはそれが一番楽であるからだ。裁判というのは、世の中が期待するほどドラマチックでない場合が多い。

なお、後に「Monster Map」という破産者を掲載するサイトが登場し、現在は「破産者情報通知サービス」という有料の破産者検索サービスが遠藤氏によって運営されているが、それらについては裁判の争点にはなっていない。

宮部 龍彦 について

ジャーナリスト、ソフトウェアアーキテクト。信州大学工学部卒。 同和行政を中心とする地方行政のタブー、人権ビジネス、個人情報保護などの規制利権を研究している。「ネットの電話帳」管理人。

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「破産者マップ事件」裁判の全貌が 分かってきた」への3件のフィードバック

  1. 菅四ジャイアンツ

    原告2名が勝ったとしても賠償金は各1万円ぐらいでは? 弁護士費用を出したら赤字でしょう。望月弁護士らは、無料奉仕しているのでしょうか?

    返信
    1. 鳥取ループ 投稿作成者

      別の方がコメントしている通りです。リーガルファンディングでお金を集めていました。

      返信
  2. 清水陽平

    望月宣武弁護士はリーガルファンディングとの名称のクラウドファンディングサービスを経営してます。望月宣武弁護士はそのリーガルファンディングを通し408人から182万円を集めました。その資金を使い、代表弁護士として自分を指名する形で、合計8名の弁護士(現在は6名)と共に「破産者マップ被害対策弁護団」を組織し現在にいたります。原告2人は何ら資金を出していません。

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