東ちづるのLGBT映画 『私はワタシ』の残念な中身

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By Jun mishina

女優の東ちづるさんがLGBTの啓発映画『私はワタシ 〜over the rainbow〜』(増田玄樹監督)をプロデュースした。全国の小中高校に教材として配布しようと現在、クラウドファンディングも募集中だ。5月31日、本作のPRを兼ねて参議院会館で上映会が開催された。また東さんのトークやLGBTを公言する文化人らのスピーチもあり盛況だったのだが、肝心の内容はというと疑問が残った。

東ちづるさん他、名だたるLGBT著名人が参議院会館に集まった。

本作は映画というよりもドキュメンタリー映像である。NPO法人「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」理事、長谷川博史(前代表)さん、ピーターこと俳優の池畑慎之介さん、タレントのはるな愛さんら著名人や活動家、ドラァグクィーンらが出演。各氏へのインタビューで構成されている。ナレーターには声優でゲイをカミングアウトしている三ツ矢雄二さんを起用。三ツ矢さんはアニメ『タッチ』の上杉達也役が有名だが、最近では声優活動よりもバラエティ番組の出演が目立つ。この通り話題性あるLGBT芸能人が協力した作品だ。

かつてはお嫁さんにしたいナンバー1芸能人が社会派に転身。

このところ芸能人が政治発言をする機会が増えているが、東さんも護憲、反戦といったメッセージを発したり人権講演会の講師を務めることもある。発信力がある彼女がプロデュースしたこともあり、会場には報道陣も多く詰めかけた。異様にハイテンションで会場内を駆け回る東さんの姿が印象的だ。また上映前は福島みずほ、川田龍平、尾辻かな子ら議員も登壇し、LGBT差別禁止推進法案の成立などを訴えた。この辺りはいつもの通りの光景。だが問題は作品の内容だ。

東さん、たぶん子供たちは“ポカーン”ってなるよ!

まず人権啓発映画の類について触れておきたい。これは小中高時代、一度は見たことがあるはずだ。また図書館、人権情報センターなどの施設でも視聴可能。それから企業や公務員の研修で使用されることもある。作品はたいていドラマ仕立てか、またはナレーションが資料映像を交え解説を読み上げるパターンだ。ドラマの場合、強引なストーリー展開の上、芝居も下手なので学校で視聴した場合は子供たちの「ネタ」にされがち。


※視聴するにはこちらをクリック

この作品などはもはや“笑ってはいけない人権啓発ビデオ”である。

後者のナレーターが解説を読み上げるタイプの作品は博物館、資料館にありがちだ。同和問題の場合、例えば「部落差別とは江戸時代、身分制度の下で・・」こういうナレーションで淡々としている。特有の語り口で感情の抑揚を抑えた無機質な調子で進む。いずれも予定調和的な内容で、「火星人はタコ」ぐらいステレオタイプな「人権」の世界が広がる。まあともかくおおかた「啓発映画」とはこうした性質のものだ。

対して『私はワタシ』の場合、インタビューに時間を割いている。開始直後は「LGBT」についてのレクチャーで始まる。この部分は人権啓発ビデオにおける「資料映像」パターンだ。本作は小中高生への配布が目的というから基礎知識の解説は必要だろう。ここまでは分かる。しかし場面は切り替わり、長谷川さんの生い立ちや恋愛遍歴などの一人語りが始まる。

「アナタはご存じないかもしれませんが、私の血にはHIVのウィルスが混じってますの」

このセリフがひたすら繰り返される。同氏はゲイ雑誌『バディ』を創刊したその道で有名な業界人だ。またHIVに感染し、糖尿病との合併症で片足を失った。しかし申し訳ないが、小中高生たちは長谷川さんが誰なのかまず知らないだろう。またHIVがどういう病気か理解しているかどうか。基礎編からいきなり超応用編に飛んでしまった格好だ。ドキュメンタリータッチで“社会派”めいてはいるが、唐突すぎて小中学生など“ポカーン”となるだろう。いきなり一人語りで窮状を訴えても、予備知識がない者にとって「お気の毒」という以外、どう反応していいものやら。

またHIV感染は何もLGBTへの無理解、差別が原因ではあるまい。一つに性交渉時の予防に問題があるのではないか? エイズ動向委員会報告「平成29年12月31日現在のHIV感染者及びエイズ患者の国籍別、性別、感染経路別報告数の累計」によれば日本国内ののHIV感染者及びエイズ患者の感染者は日本国籍・外国籍合わせて19842人。そのうち男性が17420人で、うち感染経路は同性間の性的接触が11781人。つまり実態としてHIV感染者・エイズ患者の原因は男性間の性的接触が大半である。

平成29年12月31日現在のHIV感染者及びエイズ患者の国籍別、性別、感染経路別報告数の累計データ(エイズ動向委員会報告)。

ならばただHIVに感染したと訴えるだけではなく、男性間の性行為、性的接触のリスク、注意喚起、予防策も同時に伝えるべきだ。参考に東京レインボープライドのスキンメーカーの展示を掲載しておく。男性間の性行為における注意点が簡潔に説明されていた。小中高生には刺激が強すぎる内容という指摘もあるかもしれない。しかしそもそもこの映像自体が小中高生にとって刺激が強い。また出演者が語る内容も難解だ。それでも見せる以上、より丁寧な説明が必要のはず。例えばどんな原因でHIVに感染するのか補足がなければ、逆にゲイはHIV感染やエイズが発症すると無用な偏見を与える可能性もある。何も青少年相手に男性間の性行為における「タチ=男役」「ネコ=女役」を教えろと言わない。「ゲイ当事者がHIVに感染した」という事実を訴えるだけでは「教育」「啓発」として不十分だ。

それから内容とは別の話。特に後半部分の音声がとても聞きにくく、インタビュー時の声もモヤモヤしていた。広く普及したいというならば技術面、演出面も改善の余地があると思った。

東京レインボープライドのスキンメーカーの展示。男性間の性行為の注意点が説明されている。

『私はワタシ』というよりも「ワタシが、ワタシが」

この後は、著名人と活動家へのインタビューが続く。語られるのは苦悩、悩み、あるいは周囲のとの軋轢、無理解、一般人の人権意識、こんなところだ。はるなさんの場合、バラエティ番組などでは自身の性をネタに笑いを取ることもあるが本作では苦悩も語っていた。はるなさんは性同一性障害で性別適合手術を受け、現在の性別は女性だ。LGBTのカテゴリーではTのトランスに相当する。「LGBT」という言葉が広まって以来、それぞれを同一視しがちだが本来、それぞれ抱える問題が異なる。

トランスジェンダーという用語は広義に使用されるが、公的な場面では医学用語である性同一性障害を使うのが一般的だ。すなわち医学的には「疾患」という位置付け。レズビアン、ゲイ、バイセクシャルとこの点が異なる。本来、各自の立場で抱える問題が違うのになぜ「LGBT」とひと括りにするようになったのだろう。

本作に限らず「LGBT」という言葉だけが先行している気がしてならない。東さんは「LGBTにSをつけLGBTSと呼びましょう」と提唱した。これはSをつけることであらゆる性的マイノリティを包括するという意味らしい。こうした呼称をめぐってはLGBTにQ=クィアをつけて「LGBTQ」とする考え方もある。呼称がそれほど問題なのか!? なんだかこの風潮、LGBT大喜利、名フレーズの言いっこ大会にしか見えない。こうした現象は他分野でも起きることだ。憲法論議でも政治家や運動家たちは「論憲だ」「活憲だ」「創憲だ」と言葉遊びに走る。原発問題でも活動家は「脱原発だ」「卒原発だ」これまた大喜利だ。活なり、卒なり、善いこと言いっこ大会で成果があった試しがない。性的マイノリティ問題は個人の権利や生活が直接、関係するわけだから、政治運動のような善導者ごっこに堕してはいけない。

それに小中高生の性的マイノリティも少なくないことだろう。そんな子供たちに提示するのは「絶望」ではなく「希望」であるべきだ。特に思春期、そしてこれから思春期に向かう子供が相手ならなおさらだ。ところが映画はLGBT著名人のお涙頂戴話に終始した。これを子供たちが見て勇気付けられるとは思えない。むしろ性別を乗り越えて豊かな人生を歩むLGBTのポジティブな話を伝えてもいい。ここに取り上げられているLGBTの人々は著名人やパフォーマー、活動家たちだ。苦悩あれ、苦労あれ、社会的立場を得た面々だからこそ「アナタは悩む必要はない」と力強いメッセージを発することもできたはず。

あるいは非有名人・非活動家のLGBT当事者を取り上げたり、または街頭に立ち一般人に向けLGBTへの意識を尋ねてみてもいい。東さんにマイクを向けられたら応じる一般人も少なくないことだろう。「日本は悪気のない差別が多い。エンタメで見やすく作りました」と東さんは訴える。ところがエンタメというほど工夫がないし、音声の問題も含め分かりづらい。インタビュアーである東さんのあいづちや間投詞は聞こえるが、彼女の意見は聞かれない。非LGBTからの問いかけがなく一方通行なのだ。

それに知識、人生経験も乏しい未成年に視聴させるならば、当事者の話を第三者が嚙み砕く作業も必要だ。ところがそうした労力もない。『私はワタシは』というよりも「ワタシが、ワタシが」という発表会の域であり、既存のLGBT教材より優れているとは思えない。本作から伝わってきたもの。それは東さんの「私は性的マイノリティーに寄り添っている」という自己アピールだけだった。辛口評になったがせっかく発信力もあり、ポリシーもある人たちが参加しているのだから今後の参考にしてほしい。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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東ちづるのLGBT映画 『私はワタシ』の残念な中身」への3件のフィードバック

    1. Pochy

      アベノセイダーズ恐るべし。
      こんな所にも足跡を残しに来てるのかぁ。
      記事はアベさんと全然関係ないでしょ。

      記事を読ませていただいて、悶々としていたことがスッキリしました。
      いろんな意味でパフォーマンスなだけですね。
      人権問題と思えば、何でも顔出す なんたら党のオバちゃんも居るし。
      T は疾患として認められているので別問題として、
      LGBについては、受け止め方によっては偏見を助長してしまうような感じがしました。

      LGBの中にも色々な考えを持つ人が居ます。
      活動家さん達の行動をよく思わない人も多いです。
      皮肉なもので、活動すればするほど差別感が浸透していっている気がします。
      LGBTの権利を! なんて主張する集団に対して違和感すら覚えます。

      Gとして普通に生きてきて、カミングアウトする必要性すら感じたことがありません。
      Gは疾患でもないし、ある意味「性向」なので、それを人に公表する必要も無いと思います。

      LGBに限らず同和や在日も同じで、マイノリティーだから差別されていると主張しているだけ。
      たとえ理解してもらえたとしても「差別」は無くなりません。人間ですから。
      人権派の方々にとっては、解決することも、ネタが無くなることも無いと言うことですね。
      なんたら党からすると、「差別問題」は絶好の材料ってことでしょう。

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      1. 三品純 投稿作成者

        福島みずほさんは慰安婦問題の火付け役みたいな存在なのに最近は声も潜めて
        動物愛護が流行れば犬に寄り添い、LGBTが流行ればゲイやレズビアンに
        寄り添う。あの界隈の人は流行りのキーワードに食いつくだけだからそのうち飽きるでしょうね。

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