大垣市の”解放の盆踊り”で垣間見た「融和」のカタチ

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By Jun mishina

一介の荒くれ者が事業を起こし、やがて岐阜の同和行政を牛耳る――――。株式会社イシイ(大垣市)の創業者で、部落解放同盟岐阜県連前執行委員長、石井輝男(故人)その人である。輝男の人物像、その長男、涼也とその一味が2015年に起こした殺人未遂事件は、『同和の会長』(小社刊)にまとめた。そんな岐阜の“同和のドン”石井輝男が「地域を盛り上げなければならない」と願いを込め、1993年(平成5年)から始めたのが部落解放同盟大垣支部主催の「納涼盆踊り」である。言うならば“解放の盆踊り”なのだが、最盛期には市内外から4000人を集めたほど地元で人気なのだ。しかし皮肉なことに、この盆踊りは、涼也が起こした殺人未遂事件とも浅からぬ因縁がある。一体、どんな盆踊りなのか以前から興味を抱いていた。そんな折、今年は、8月24、25日、大垣市西地区センターで開催されるというので、追跡取材をかねて盆踊りを取材してみた。


ビール、酎ハイ100円、焼きそば、フランクフルトも100円。納涼盆踊りのパンフレットを見ると酒好きにはたまらない文言が…。しかし楽しそうな盆踊りだが、きな臭い過去もある。というのも冒頭の殺人未遂事件で涼也と被害者男性の関係を深めたのがこの盆踊りだからだ。被害者男性は輝男とも親しく涼也とも顔なじみ。盆踊りで涼也がヤクザ者に絡まれた時にこの男性が間に立ち解決した。こんなこともあり、涼也は被害者男性を「お兄ちゃん」と慕うようになった。

もっとも祭りには荒くれ者が訪れるもの。しかし解放同盟が主催する盆踊りにヤクザ者という話がなんとも意味あり気で興味を持っていた。もしや何かが起こるか? そんな予想をしていたが、しかしあまりにも健全すぎて拍子抜け…それどころか感心すらしてしまったのだ。

さて肝心の解放の盆踊りの中身だ。残念ながら都合のため初日ではなく2日目の25日の参加となった。会場は、大垣市西地区センターに隣接する公園だ。開始時刻の17時丁度にやってきたが、まだ準備中。関係者以外は、祭りを待つ子供たちぐらいだ。しかし18時をすぎるとだんだん人が集まり、露店も活気を帯びていく。せっかくだから100円の焼きそばを食べてみた。魚粉がかかってきて香りよし。麺は中太麺で豚肉、キャベツの量も多い。100円だからボリューム自体は、そう多くはないが、味はなかなかだ。その他、フランクフルトも100円、生ビール、レモン酎ハイも100円。接客しているのは、支部員や地域の関係団体、ボランティアたちだ。また市役所からも職員が派遣され、やぐらの上の太鼓方は市の職員ということだった。

この盆踊りは、大垣市から補助金も支給されているし、そもそも収益を目的としていないから100円が実現できたのだろう。場内には、プロのテキ屋の露店も出ているが、100円露店の方が圧倒的に人気だ。

対して来場者たちから情報を得ようと、交流を図るが、意外と「市外から来たからこの辺のことは分からない」という人が多かった。どうも100円の飲食物という情報が他地域にも広まっており、それを目当てに参加した人も少なくなかった。

同和の会長がヤクザにからまれた騒動の真相

それにしても全く「解放運動」「部落解放同盟」を感じさせるものがない。強いて言えば実行委員会の本部席の横断幕に荊冠旗けいかんきのロゴがあったことぐらい。それも毒々しい荊冠旗ではなく、デザインも心なしか“ゆる荊冠旗”といった体裁だ。それから岐阜県や愛知県は、盆踊りになると80年代のヒットソング、荻野目洋子の『ダンシングヒーロー』が定番曲として使用されるが、ここでも多分に漏れず同曲が使われていた。要するに荊は冠すれど、実際はどこにでもある盆踊りなのだ。ではまるで解放運動とは無縁か? と言えばそうでもない。

運営関係者は、こう話す。

「大垣市・広瀬幹雄副市長が挨拶に立って“この祭りは、部落解放運動が発端で始まったもので、地域の人々に親しまれる祭りになった”こんな風にスピーチしていたよ」

盆踊りは、輝男と人権問題に取り組む大垣市役所の一部職員が中心になって企画されたもの。始まった当時は、支部員しか集まらず閑散としたそうだ。一時は、中止が検討されたものの、粘り強く続けた結果、一地域の祭りながら、市外からも参加者を集める人気イベントに成長した。

そして例の涼也がヤクザにからまれたトラブルについて、長年参加している男性に尋ねてみると、意外な答えが待っていた。

「そんなこともあったね(笑)。だけどその時だけじゃなくて、少し前までは、暴力団まがいの連中がしょっちゅう来ていたよ。なぜ? そりゃビールや酎ハイが100円やん。悪酔いして悪態つくやつもおったな。だけどもうここ数年は、そんな連中も来なくなったよ」

大垣市を中心とした西濃地方は、小規模の暴力団事務所が乱立する時代があった。そこの末端の構成員が100円のビールや酎ハイを目当てにやってくるという光景は、容易に想像がついた。とは言え、今回の祭りを通じて別にトラブルもなく、またトラブルメーカーらしき参加者もいなかった。とても健全である。

涼也にからんだという話も、例えば同和事業や公共事業をめぐる”大人の事情”が原因なのかと想像したものだが、どうやら単純に「目が合った」「肩が触れた」といったレベルのようだ。涼也の周辺人物に取材をした時に「小心な性格」というのが一致した見方だった。ただその一方で、彼は、親族のトラブルに介入した際、相手方に「部落解放同盟をなめとるのか」と見得を切ったこともあった。団体をバックに虚勢を張ることも多かった涼也。盆踊りでヤクザ者にからまれたというのも、証言を総合すると単純に”イキった”末の騒動かもしれない。

地域活動を部落解放同盟が担うという意味

夜が更けるほどに盆踊りは盛り上がっていく。場内には、大垣市のゆるキャラ「おがっきぃ」もやってきて子供たちに囲まれる。スイカ割、子供へのお菓子の配布、意外とイベントは盛沢山なのだ。それから特徴的なのは、とても外国人が多いことだ。西濃地方は、工場も多く、南米系、東南アジア系のニューカマーも多いが、そんな彼らも浴衣や作務衣を着込み、祭りを楽しんでいる。

「地域振興、住民交流ができて結構なことじゃないか」

単純にそう思ってしまった。なにしろ今のご時世、夏になれば「セミがうるさい」「盆踊りがうるさい」、冬になれば「除夜の鐘がうるさい」といったトラブルが伝えられている。なんとも世知辛く、無味な社会になりつつある。だがこの種のトラブルは、単に「クレーマー」という以上に「旧住民と新住民の対立が根底にある」(クレーム対応の経験を持つ自治体職員)という背景も見逃せない。日本社会全体でそんな風潮が蔓延するが、この盆踊りは、地域の軋轢を解消する一助になるはずだ。

それに当初は、もっと“運動臭”に満ちた祭りと思っていたが、予想に反し”解放色”をかき消し、地域の融和や交流に一役買っていた。冒頭、感心したとはこういう意味である。

ただ意地悪な見方をすると、これがごく普通の町内会や団体が主催した場合、役所はここまで協力するものだろうか。やはり「解放同盟がやることだから役所も動く」という点も否定できない。また他地域を見ると、解放同盟や役所があえて住民を分断している、そんな実態も目の当たりにしてきた。だが少なくとも大垣市の解放の盆踊りの”出自”はどうあれ、団体、一般住民、ニューカマーとの交流が実現していた。いわば今の時代流の融和のカタチを見せてくれた。そんな思いである。

Jun mishina について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

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大垣市の”解放の盆踊り”で垣間見た「融和」のカタチ」への11件のフィードバック

  1. 一研究者

    面白い記事です。
    そして、これが本体目指す融和なのだろうと思いました。主催の解同も、協力する市側も、住民も他市町村の住民も何も部落差別問題を認識して當盆踊りに来てはいないでしょう。トラブルメーカーなヤクザな人達が徐々に来なくなったのも、全体が無意識に協調して排除に成功したからなのではないかと思います。

    新しい時代の盆踊りですが、末永く続くことを願います。

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      自治体が作るものはたいてい大手広告店を経由するから画一化するんじゃないでしょうか

      返信
  2. 東京都民

    “ゆる荊冠旗”って、どんな荊冠旗だろう? もしも、画像があれば、アップお願いいたします~。

    返信
  3. とある隣保館職員

    夏祭りが今も行われている地域もあるんですね。
    うちの近所では、14年法が切れたときに終わったり、一般対策で続けていたけど開催を担う人が年々少なくなっていって消滅したりとなくなっていく方向です。
    とある地域では若い人たちが中心になって再開しようという動きがあったのですが、組織を立ち上げられずじまいで立ち消えになってしまいました。

    要は金の切れ目が縁の切れ目だったのかなと。

    返信
    1. 三品純 投稿作成者

      祭りにいた人も同じようなことを言っていました。今後、地域を振興していく時に住民の自発的な動きよりもどうしても特定の団体の力に依存しないと難しいかもしれません

      返信
  4. しつもん

    すみません。質問させていただきます。

    同和教育はお互いの文化を知る目的なのでしょうか。

    私は部落のことがよくわかりませんが、
    文化差はあるのではないかなー、と思ってます。

    韓国人は大声で怒鳴りあったりが頻繁です。
    その代わり次の日には気にしないで付き合うそうです。
    ところが一般的に日本人は「気を使う」し「根に持ち」ます。
    だから、似てる国のようでわだかまりができやすい。

    明治や大正の時代を生きたおじいさんやおばあさんを見ていると、意見を言うときは言います。
    外国人とも怒鳴りあいしてたのではないかな、と思います。
    ところが今はあまりそういう機会がないし、あってもおとなしく振舞う。

    部落といわれるひとも怖いと思われるかもしれませんが、
    おそらく韓国と似てコミュニケーションが異なる世界なだけかもしれません。

    それと、差別だといわれて交流がなくなる、これも困るのではないでしょうか。
    たまには怒鳴りあいしたほうが気楽なのかもしれません。
    デモやネットでの中傷よりお互いを理解できますから。

    おそらく、食べ物の習慣も違うと思います。
    どこかの飲食店で「かすうどん」を出したら人が来なくなった話がありました。
    でもホルモンがいまや普通の食品になったのですから
    隠さないで交流を増やしたほうがいいと思うんです。
    確かにそれで差別する人も出るかもしれない。
    でも、差別する人が悪いんですよ?
    それにおびえて隠すなんておかしくないですか?

    もうひとつ質問です。
    部落の人は戸籍の扱いをわからなかったりしますか?

    私の父がめちゃくちゃな人で戸籍にひどいことをしました。
    父の実家の地名は第二とあり川沿いの地域です。
    屋号も「糞」という言葉が屋号の一部となってます。
    ほかにもいろいろあり父が許せないのですが、
    もしかすると部落の出身で戸籍が理解できないのかな、と思っています。

    とはいえ戸籍は差別になるから何をしてもいい時代なのでやりたい放題なのかもしれません。
    こういう父親を恨んでいますが、部落の人で理解できないのでしたら
    ある程度情状酌量の余地はあるかもしれません。
    これからこういう悲劇を生まないよう日本国内の文化差についてきちんと教えてほしいと思っています。

    また、父は再婚したらしいのですが、再婚先の親戚からも認められていません。
    おそらく戸籍の扱い方がひどすぎて信用されていないのだと思います。
    このように戸籍を理解できない人にも苦難をもたらします。

    返信
    1. 鳥取ループ

      同和教育は、本来は同和地区の子供の学力保証が目的です。
      誰が部落民と教えたり、特別に部落のことを教えたりするようになったのは、狭山闘争を契機に教育現場に解放同盟の方針が持ち込まれたからです。
      部落はそれぞれ違います。部落の文化はどうだとか、一般論を言うことはできません。

      返信