令和5、6年度に実施した関市映像作品撮影事業の補助金2千万円を受けたイロハ社が実績報告書等に偽造した書類を提出。これに対し関市は同社代表取締役・系谷瞳氏を偽造私文書行使の疑いで関警察署に刑事告訴し、先月30日に受理された。映画撮影の責任者は新原光晴氏だが、問題は系谷氏がどこまで金の流れを把握できていたかだ(写真は2017年の新原氏(右)と系谷氏。)
偽造私文書行使の疑いだけか?
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「新原は逃がす気か?」「偽造私文書等行使だけじゃないだろ!」「微罪で済ますのでは」
関市の刑事告訴を受けて関係者らは様々な反応を示した。系谷氏が刑事告訴の対象になったのは関市映像作品撮影事業の誓約書(下記参照)、申請書や報告書は全て同氏の氏名で提出されているからだ。関市とイロハ社の関係資料で唯一「新原光晴」の名が出てくる書類がある。関市がイロハ社との随意契約で発注した「デジタルサイネージ」の納品報告書だ。
それにしても関市と新原氏は不思議な関係である。市観光プロデューサーから選考漏れした新原氏に対して板取地区の施設を斡旋した上、電子機器を発注し、2千万円を与えて映画まで撮らせた。


しかも関市内にも関連業者がいるにも関わらず、地元企業でもないイロハ社になぜデジタルサイネージ400万円分を発注したのか、理解に苦しむ。筆者はこの発注についてイロハ社が経営する板取川流域観光案内所「SEKIMORI」、「いろは 風のとおり道」に対する補填だと推測する。当時の担当職員にも事情を尋ねたが「市内に業者がいなかった」という不可解なものだった。刑事告訴に踏み切った以上、デジタルサイネージの発注についても正確に説明してもらいたい。
そして今後の問題は系谷氏がどこまで把握していたかである。映画『名もなき池』の製作の中心人物は紛れもなく新原氏。4月4日、新原氏と系谷氏は弁護人同席で記者会見を行い補助金返還について「法的根拠がない」と主張。非常に強気な記者会見だったがイロハ社側はその後、方針転換し一部返還、分割返還を提案してきた。
イロハ社側は状況が不利だと感じて態度を軟化させたのだろう。ここで気になるのは新原氏と系谷氏はどのように役割分担をしてきたのかである。これまで映画製作の撮影現場や実務、または板取カフェ運営については新原氏の〝専決事項〟で系谷氏は〝名義貸し〟というのが専らの見方だった。
だが関係者、元スタッフを取材すると異なる実態が見えてきたのだ。
系谷氏と新原氏は家族ぐるみのつきあいか?
両者の関係を示す情報がネット上で残されている。2015年、『ビーフシチューはビールで煮込んで』という演劇に系谷氏とその親族がスタッフとして協力していたことがブログ『モノづくりっていいね!』に記されている。また新原氏が「総合プロデューサー」として紹介されていた。新原氏と系谷氏は家族ぐるみの交流があったようだ。
また2017年、豊岡市内で開催された下駄の展示販売会。ゆかた専門店「yukata shop&rental IROHA」代表としての系谷氏、そして新原氏が出席した。メーカー側の投稿文には「地方創生プロデューサーの新原さんに終日同行させていただきました」と綴られている。この当時から新原氏はプロデューサーと名乗っていたようだ。投稿したメーカーに確認したところ「今はイロハさんと交流はありません。新原さんについては当日、販売会で会ったという程度です」と話す。
「yukata shop&rental IROHA」の設立は2016年、イロハ社は2018年。ゆかたや着物の販売やレンタル業からスタジオジブリグッズを扱うイロハ社も経営するようになった。新原氏の影響であることは言うまでもない。
少なくとも両氏はイロハ社設立以前から交流があったようだが、しかし映画製作について系谷氏の関与が見えてこない。新原氏に主演・伊達直斗氏を紹介した実業家M氏はこう証言する。
「私が新原氏とやり取りしている間、彼の口からイロハ社という名前は出てきませんでした。というよりも〝会社〟という言葉が出てきたのは決裂した昨年10月頃なんですよ」
M氏によって主演俳優を確保できたものの、資金難は変わらない。そこで新原氏はM氏に3百万円の借金を申し出るなど金策に走っていた時期だ。
「そんな大金をとても貸したくありません。金融機関やサラ金で借金するにも担保も保証人もないと言います。それなら〝今、乗っている車を担保にしたら〟と提案しました。ところが〝会社の名義になっているから担保にはできない〟と拒否したのですが、初めて会社(イロハ社)との関係を匂わせました」
話は続く。
「今度は〝風の通り道(カフェ)は自分に任されていて売上は100%自分のものだ。店の売上を担保にできないか〟と言ったのには驚きましたね。そんなやり方ができるのでしょうか(笑)。しかし店は会社名義で関市から借りているのに売上は新原氏のものだという説明は本当に不思議でした」
また関市内でイロハ社と商取引があった会社関係者B氏は「イロハ社の窓口になったのは新原氏。関市から紹介された」と振り返る。
「関市役所の職員さんが〝観光分野で仕事ができる人(新原氏)がいて私は柳田さんより有能だと思っていますよ〟とプッシュされました」(同)
柳田さんとは2019年、関市観光振興プロデューサーに就任した柳田佳彦氏のことだ。同職の選考には新原氏を含む4人が最終選考に残り柳田氏が選ばれた。しかしなぜか新原氏は一部の職員に評価され映画製作まで任されるまでになる。
新原氏をB氏に紹介した関市の職員というのは板取地区の観光案内所設立にも関わった同市元観光課の篠田賢人氏だった。新原氏と関係が深い職員で本編でも篠田氏のオマージュのような登場人物が出てくる。
話は戻るが、外部からも「風の通り道」は新原氏が実質的な経営者とみられていたようだ。売上を担保に借金するという発想も新原氏らしい。世間知らずの系谷氏に新原氏が取り入ったという見方も強いが、元同店スタッフは異なる実相を明かす。
「店(風の通り道)の経営は新原氏に丸投げということはないと思います。なぜなら系谷氏も定期的にカフェを訪れて売上管理をしていたからです。給料もイロハ社から振り込まれていましたね。城崎温泉の着物店(ゆかたイロハ)という母体がしっかりしているから風の通り道は売上がひどくても続けられたのでしょう」
板取のカフェについて系谷氏の関与は濃厚だ。では映画についてはどこまで関わったのか検証してみた。
宮川一朗太氏ですら衣装は自前だった
映画撮影は非常に劣悪な環境で進められてきたのは過去にもお伝えした。衣装、メイクなど作品に直接、影響する部門でも同じことだ。とにかくどこに金をかけているのかが見えてこない。
イロハ社は2023~2024年(1期)、2024~2025年(2期)に収支予算書を提出した。
1期分はまだ恵水流生氏が監督を務めていたものだ。恵水体制でのスタッフ報償費についても同時に掲載する。


恵水氏と新原氏の関係については改めて別稿で検証したい。ここではスタッフの予算に集中する。撮影スタッフA氏によればそもそも恵水氏には「一円も報酬は支払われていません。また西垣崇史氏も早々に映画撮影から離れていますよ」と明かす。証言は続く。
「撮影助手は恵水氏と近い人物です。恵水氏が報酬をもらっていないということは当然、撮影助手もノーギャラでしょうね。録音も一人いましたが、恵水氏もやっていましたね。驚いたのは照明3人にそれぞれ44万円の支払いがあることですよ。照明なんていませんでしたよ。衣装、美術、小道具、メイクも随分、高額報酬ですが、仕事の痕跡が見えません」
またA氏が注目したのは「制作助手」だ。「おそらく制作助手とは新原氏の子飼いのスタッフ小野氏(仮名)と弥生氏(仮名)でしょう。撮影現場でとある地元関係者が女性タレントに対するセクハラ問題が起きたのですが当時、小野氏が警視庁で事情聴取されていました」
内情をよく知るA氏の証言によればこの「スタッフ報酬費」で確実に存在が確認できるのは「制作助手」ということだ。

また出演者B氏にも確認したところ「衣装」に頭を抱えた。
「衣装というのがおかしいです。プロのスタイリストではなくて、出演者の服を管理していただけでしたよ。宮川一朗太さんのような有名俳優ですら、私服での撮影でした。宮川さんがすごく当惑されていたのが印象的でした。半田健人さんは役柄上、白衣が必要でしたがそれはさすがに用意されていました。どちらにしても白衣なんてそう高額ではないでしょう。お金をかけた作品とは思えません」(B氏)
劣悪な環境の上に演者が自前を余儀なくされた。B氏の証言は系谷氏にも及んだ。
「昨年10月17日、出演者の鶴田さやかさんが和服のシーンがありました。ところが着付けなんて誰もできません。すると〝関西から着付け師が来る〟ということになりました。その方から特に自己紹介などはありませんでしたが〝系谷〟と名乗っていました。それがイロハ社の代表者だと後になってから知ったのです」

ここに至って製作現場に系谷氏が関わっていたことがはっきりした。着付けについて系谷氏にも報酬が支払われたのか。あるいは新原氏が仲間を起用して衣装代を節約した可能性も排除できない。
ともかく撮影現場についても系谷氏が〝全く預かり知らぬ〟という訳にはいかなくなった。となると先の収支報告書等も新原氏と系谷氏が共同で作成したものか、それは今後の捜査に委ねる他ないだろう。
いずれにしてもイロハ社に対する不信感、怒りは根強い。

「出演した中には〝露出は少なくまだこれから〟という若手もいました。それでも出演してもらう以上、適正な報酬を支払うべきです。驚いたのは出演者やエキストラに対して高圧的な出演承諾書を書かせていたこと。〝交通費と出演費は合算での支給〟とありますが、わざわざ東京から来て3万円というキャストもいたほどですよ」(B氏)
これまでも異常な撮影現場だったことは指摘してきたが、理不尽な承諾書は改めて『名もなき池』騒動の実態を物語る。承諾書作成についても系谷氏は承知の上だろうか。はっきりしていることは板取地区のカフェだけではなく、映画『名もなき池』にも関与していたことだ。刑事告訴された今、系谷氏が「何も知らない」は通らないだろう。