和歌山市、地元企業を牛耳った芦原地区連合自治会長、金井克諭暉(金正則)は先月29日、一連の協力金詐欺の疑いで3度目の再逮捕をされた 。公共事業、行政との癒着、同和など芦原地区が抱える闇は深いが、その歴史を紐解くと金井だけの問題ではなさそうだ。かつて和歌山市の名物市長と言われた旅田卓宗氏も在任中、芦原地区の「闇」を目の当たりにしたという。そんな旅田氏から語られたのはかつての芦原地区の「同和のドン」だった。
まずは連合自治会の現状について報告しよう。金井は拘留中のためもちろん不在だが、関係者によれば「代行」などの役職を置いていないという。副会長は2人いたが、一人が今年初めに、もう一人も先月でそれぞれ辞任した。そのうち一人の元連合副会長によると執行部体制は現状のままで、住民に対して来年3月まで「自治会活動の自粛」を通達したという。
また芦原の地域活動についての補足だが金井は「和歌山市立芦原共同浴場」(雄松町)の運営委員会委員長も務めていたが隣接する芦原福祉館の職員によれば「(金井の件で)特に通知などはなかった」と説明した。
話を自治会に戻そう。元副会長によれば金井が業者に対して協力金を要求していたなどの事実は全く知らなかったと強調した。「新聞記者にも何度も聞かれたが本当に何も知らない。報道で初めて知った」と繰り返す。申し訳ないが、この説明をそのまま受け取ることはできない。とは言ったものの自治会長職以上の権限を得たわけだ。副会長がモノを申せる状況でもなかったこともよく分かる。あるいは警察の取り締まりが甘かったとの指摘も少なくない。 芦原地区の勤務経験を持つ捜査関係者はこう振り返る。
「警察は何をしていた? という声もあるが数年前から“ (金井について)何か話はないか?”というのが合言葉だった。また芦原地区の交番勤務の警官は地元のことを理解して対処できるよう4年以上の勤務にしていた」
なにしろ和歌山県最大の同和地区である芦原。警察とは言え、金井に対しては及び腰だった。金井が「特別な存在」であったことを象徴する光景がある。「金井の自宅の裏側を見た方がいい」と地元関係者に教えられた。
金井の自宅がある和歌山市三沢町の団地を訪問してみる。すると金井の自宅のベランダ(一階部分)だけ金網フェンスが設置されているのだ。公営住宅としてはとても似つかわしくない。まるで敵の襲撃に備える暴力団事務所。自治会の会長とはこれほどハイリスクな立場なのか頭を抱えてしまった。この一室だけ存在するフェンスはいかに金井が特異な存在であったのかを物語っている。
なぜ金井の部屋だけフェンスが許されたのか、また和歌山市はどう金井と芦原地区に向き合ってきたのか、情報公開請求の手続きを含めて同市役所を訪れた。同市役所は和歌山城の北側にある。最上階14階の食堂からは和歌山城が一望でき、地元住民や観光客にも人気だ。市役所1階には歴代の都市宣言のモニュメントがあるが、「暴力追放都市宣言」(昭和63年12月23日)という文字が空しい。金井の周辺には「元暴力団組員」の人脈が必ず浮上する。そんな人物の暴挙に屈服し続けたのが和歌山市だ。
さて同市の情報公開は他自治体よりも進んでいる点がある。通常、自治体は市政に関する資料室が設置されているが、和歌山市の場合、資料の写真撮影も認められている。多くの自治体は写真撮影禁止がほとんどだが、和歌山市はこの点、とても利便性が高い。
人権同和施策課に芦原地区の特別協議会との交渉記録を請求した。4月に金井と面会していた担当者にその時の印象などを尋ねてみると「報道で言われるようなことはなく普通の人だった」と淡々と印象を語る。これには愕然とした。もし本当に普通の人ならここまでの騒動になってはいない。もちろん人の印象というものは個人差があり、また金井にも様々な顔があるだろう。そうではなく人権同和施策課、そして市役所全体から伝わってくる「当事者意識」のなさ。これがありありと伝わってくる。もっともこうした態度は和歌山市だけではなく、同和事業に関わる自治体職員にありがちだが――。
啓発、指導、人権意識の向上、ふだん自治体職員はこういってまるで市民を「差別者」のように扱う。ではどんな差別があるのか聞いたところで「今なお根強い云々」といった具合で、運動体の主張を受け売りするだけ。そのくせ不可解な事件や不祥事はやたら多い。今回のような不祥事が起きた場合の「対応」も特徴がある。
それはナポレオンのロシア遠征や独ソ戦などにおける「冬将軍」のようなものだ。メディアや議会の批判をとにかく我慢して受け続けて「冬」=社会的な関心の低下、を待つ。おそらく今回の金井問題もそういう幕引きを狙っているに違いない。というよりも自治体とはそうした仕組みだ。
金井自宅のフェンスについては住宅二課に聞いてみた。「公営住宅にはフェンスを設置してはいけないという規約はありません。またフェンスはビスのようなもので結合しているので取り外し可能のようです。退去してもらう時に原状回復をしてもらいます」(住宅二課課長)。
同和事業で建設された改良住宅のトラブルは少なくない。よくある話としてはニコイチ(1つの建物に壁を設置し2世帯が居住できる住宅様式)の壁部分を無許可で除去し、1世帯で2つの住居を使うパターン。あるいは隣部分を商店として利用するパターン、他人に又貸しするパターンなど様々だ。そこからして金井のフェンスの場合、まだ原状回復は容易そうだが、異様な光景には違いない。それに金井宅だけというのも妙だ。
本来、「公僕」とは全ての納税者、住民に対して公平、平等であるべきだ。しかしこと同和行政の場合、この原則が完全に破られている。そういう前提はあったとしてもなぜ金井個人に対してここまで平伏したのか。不思議で仕方がない。
昭和にも芦原地区のドンがいた
金井はどういう立場で和歌山市に接してきたのかも重要だ。連合自治会長という立場もあるが、もう一つ金井は「芦原地区特別対策協議会」の会長でもある。この組織については説明が必要だ。1979年、同和対策事業の一つとして和歌山市が200万円の補助金を交付し、発足した。1977年に県が庁内組織として、1979年に市が庁内組織として、そして同年地元組織として発足した。すでに県と市は解散しているが、地元の協議会は存続している。芦原地区には解放同盟も介入できず、芦対協は全く独自の同和団体として活動してきたのだ。同和問題に馴染みがない人は“ 特別対策”という用語は「同和事業」の一種の隠語であることをご承知頂きたい。
そんな芦原地区の歴史を紐解くべく頼ったのが旅田元和歌山市長だった。旅田氏は1986年、都道府県庁所在地の首長としては全国で最年少の41歳で当選。いわゆる無党派の先駆け的な政治家である。旅田氏は収賄・背任罪で逮捕された上、獄中からの市議選当選など波乱万丈の政治人生を歩んできた。しかし市民の間では今でも根強い人気があり、現在は新内でカラオケ喫茶を経営し、また市民の人生相談にも応じている。なにしろ市長在任時、清掃車が一斉ストライキをした際は自らバキュームカーを運転したほど破天荒な人物。そんな旅田氏からすればおおかたの悩みは微々たることかもしれない。
新内、通称アロチとは和歌山市の繁華街だ。JR和歌山駅と和歌山市役所のちょうど中間点にある。なんだかウルトラ怪獣の名前のようで聞きなれない人も多いだろう。ススキノ(札幌市)、中洲(福岡市)ほどの規模ではないが味わいがある歓楽街だ。
カラオケ喫茶は最近流行りの「間借りスタイル」で本来のスナックが開店する前の時間帯を使用している。ドアの向こうから客の熱唱が聞こえた。旅田氏を慕ってくる客でなかなかの繁盛だ。
カラオケ喫茶が終わり、次の営業が始まるまでの間の時間を頂いた。多忙なのに申し訳ない。せめて皿洗いか雑用でもと申し出たが「あはは大丈夫。これでもやり方があるから。それよりも聞きたいことがあるんでしょ」と笑顔で話し始めたのが印象的だ。さっそく旅田氏に金井の一件を聞いてみた。
「TVニュースや新聞で見てますよ。金井さんについて詳しいことは知らないけど、逮捕された時に思い出したことがある。以前、顔馴染みの市役所職員が“ 旅田さんの近くのスナックに飲みに行くからちょっと寄らせてもらいます”と連絡をくれました。そのスナックというのがサクセス(金井の妻の営業)だったんだけど。ほら、すぐそこのとこにあったんだよ。市職員が出入りするような店じゃないと思ったんだけど…」
後に人権同和施策課の職員らがサクセスのパーティー券を購入させられたことが発覚することになる。旅田氏は続ける。「もちろん行為は問題だが、金井だけではなく昔も同じことがあった。つまり和歌山市が何も変わっていない証拠じゃないか」。こう苦言する。
「昔もね、金井みたいな男がいたんです。私が市長をやっていた頃、片山えっせい(悦誠)という人物がいた。正確にはよしのぶと読むんだけど、私なんかはえっせいと呼んでいた。これが昭和の金井かな。いや金井が“ 平成と令和の片山 ”と言うべきなのかよく分からないけど(笑)」
やはり連合自治会長だったのか?
「地域のことに口を出すけど自治会長じゃないね。芦対協の役員の立場で役所にいろいろ言ってきた。片山の気に入らない建設会社や設計会社は公共事業に参加できないとかね。それは金井のやったことと似ているでしょ。それから党派は関係なくて、いろいろな人が片山に近づいてきたね。不思議なことに芦原には部落解放同盟も参入できなかった。あってもほんの小さい支部だとか。あそこだけは本当に独特の存在でしたね」
旅田氏も芦原地区問題で手を焼いたという。市長になりたての頃は驚くことが多かったそうだ。
「いろいろ要求してくるけど、私はとにかく相手にしないと決めていたから。それでも何かと行政に近づいてきた。それである時、芦原地区の忘年会があって職員が“市長、これは恒例の行事なので出席を ”と促すから出席しました。すると会場は300人ぐらいいたかな。驚くことに半分ぐらいが行政の人間だった(笑)。逆に地域住民は半分もいたかなあ? 会場で“おい、キミも来てたのか ”なんて市職員に言ったものです。 要するに行政を巻き込んでしまうのが芦原地区のやり方なのかな。これは今に至るまで変わってないでしょ」
旅田氏が指摘する地区の活動に行政を巻き込んでいく手法はある意味、同和団体の常套手段だ。ただ芦原が特徴的なのは解放同盟、同和会系2団体、人権連など特定団体の色がないことだ。芦対協が最大の勢力である。
「アンタ(旅田氏)だって市長時代に排除できなかっただろ! という人もいるかもしれないけど、それでも不当な要求は拒否してきました。ただし行政側が片山のような人物をアテにした点も事実。というのは雄松町に道を作る計画が持ち上がった時にちょうどバブル経済で地主たちが坪単価の値上げを要求してきた。この時に話をまとめてくれたのが片山ですよ。立退料を倍額にしろとかね、厄介な話になっていたのを最初に約束した坪単価で話をまとめてくれた。つまり市と片山のなれ合いがあったわけです」
この点も金井と共通する点がある。後に片山は老人ホームの経営や人権問題の講演会の講師として活動した。片山を知る市職員にこの名を聞いてみると「老人ホームの役員さん」と答えていた。若い市職員にとっては表社会の人という位置付けなのだろう。
それにしてもなぜ和歌山市は昔からただ一人の住民に振り回されてしまうのか? 旅田氏に疑問をぶつけてみた。
「それは本当に情けないことだと思う。ある時、建設課の役職者が私のところに来て“ 市長、片山さんからこういう要求が来ているから認めてほしい。その代わりにこれを”といって退職届けを出してくるから驚いたよ。つまり自分の首をかけて片山の要求を聞いてくれ、と言うんだ。おい待てよ、と。“ なぜキミが辞めないといけないんだ。断ればいいだけの話だろ”こう説得しました」
芦原地区という名前を聞くだけで和歌山市職員というのは「思考停止」に陥ってしまうものか。いずれにしてもこういう歪な関係が長年、続き金井に引き継がれたわけだ。
「大事なのはとにかく断る勇気。いや勇気ですらないよね。ダメなものはダメというだけ。市長時代の話だけど、スーパーオークワ(和歌山発祥のスーパーマーケット)で部落のものが店に来たと言った言わないの話になったの。解放同盟が押しかけてくると相談してきたから、そんなものに屈しなくていいでしょとアドバイスしたんです。ところが結局、要求を飲んでしまったと聞きました。そこがよくないんですよ。面倒くさいから相手の言うことを何でも聞いておけというのが行政や企業にあります。これを無くさいことにはまた第二、第三の金井が出てくると思いますよ」
さすがに政治・行政の酸いも甘いも知る旅田氏だからこそ説得力があるし重みもあった。旅田氏の指摘は実に正論であるが、それでいて最も難しい。特に行政・企業にとって「人権問題」を突き付けられた時はとても脆弱だ。むしろ組織が大きいほど「差別」というキーワードは強力な武器になる。もちろん多少のコストは要するが、要求に従いさえすれば“差別企業”や“差別行政 ”というレッテルが貼られることもない。しかしその結果、もたらされる「歪み」は必ずやってくる。それが和歌山市であり、また関西電力でもあるのだ。
最後にある予告して本稿を終了しよう。明日12日には県議会で金井と県の公共事業についての質問が予定されている。金井問題は和歌山県庁にとって“対岸の火事 ”でないことはすでに関係者も承知していることだろう。そして県に飛び火した時にどこのどなたに“延焼 ”するか本誌としても実に楽しみにしている。
京都の事例になりますが、同和地区(崇仁地区)と在日朝鮮人集住地域(東九条地区)が行政を巻き込んで、緊張・対立・協調の葛藤を繰り返してきた歴史があるように勉強しました。戦後から高度経済成長、バブル経済、デフレ経済の中で複雑に利害が一致したり対立したりの繰り返しの中でさまざまな人々がさまざまな局面に出くわしてきたと思います。この和歌山の事件でも同和地区と在日朝鮮人集住地区にも何らかの対立軸(経済的・政治的)が生じてきた或いは生じている、そのような考え方ができるのでしょうか。もし政治的な対立軸であれば朝鮮半島・東アジア情勢の混乱が表出してきたと考えてしまいます。
東九条や紙屋川、あるいはウトロといった朝鮮人街の形成過程で同和が絡んでくることもあるんですが、芦原の場合ちょっと事情が異なると思うんですね。まだ取材途中の推測としてほしいのですが、芦原に朝鮮人が住み着いたのは暴力団の存在が大きかったと思います。在日コリアンの暴力団員が芦原に住み着いたという感じですね。
なるほど、暴力団の存在が芦原の底の見えない闇の部分を構成している可能性があるわけですね。これからの取材に期待しています。
和歌山市の情報公開に利便性があるかは、ビジネスジャーナルの記者、日向氏がまとめている和歌山市ツタヤ図書館の記事を見るに甚だ疑問に思います。
現和歌山市長の尾花市長は、非開示された黒塗り資料の開示を巡って和歌山市民オンブズマンから訴えられました。
同和とは関わりが無いかもしれませんが、和歌山市ツタヤ図書館も相当きな臭い案件なので関心を持っていただければと思います。
利便性というのはちょっと言いすぎでした。
単に写真撮影がOKというだけです。
その他の手続きの煩雑さをその他自治体と変わりません。
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