完成1年後で120カ所のヒビが見つかるなどトラブルに見舞われた大和高田市クリーンセンター。今度は職員による粗大ごみの不正売却が発覚した。今月8日、市は同センター企画整備課主任を停職6か月、参事を戒告などの処分を行った。しかし調査してみると内部では不正売却が周知の事実で他職員も関与してきたのだ。つまり主任だけが罪を被った可能性が高い。
市議からも問題が指摘されてきた
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大和高田市クリーンセンターに持ち込まれた家電などを同センター企画整備課職員が不正に売却していた事件。
公営のリサイクルセンター職員が粗大ごみを不正売却する事件は全国的に起きていることだ。一方、大和高田市クリーンセンター内での素行、勤務状況についてはこれまで議会でも問題視されてきた。そこで市は今年4月に最初の調査、そして6月に再調査をした結果、不正売却が判明したのだった。
職員が粗大ごみを不正売却しているとの情報が当サイトに寄せられたのは今年8月のこと。調べてみると不正売却は事実で6月中旬に職員が警察から事情聴取を受けたが立件には至らず。そこで8月19日、同センターと人事課を取材したところ市の発表があるまではコメントを控えるということだった。
そして今月8日、市は同センター企画整備課主任に停職6か月、同課参事を戒告またクリーンセンター長、同センター同課課長を訓告、同課主査を厳重注意処分とした。また主任は停職の上、16万円を弁済するという一人だけ非常に厳格なものだ。

しかし当初の取材で「警察の事情聴取に対して主任は他職員をかばった」という証言が気になってならなかった。組織ぐるみの問題にも関わらず、最も立場の弱い職員へ責任転嫁するのは行政の常套手段だ。
主任は16万円を弁済した上でなおかつ停職というあまりに厳しい処分である。あたかも主任の単独行動のように映るが事情は大きく違っていた。もちろん主任にも責任があるにしても、不公平な処分は看過できない。
売却益4万円で主任、参事、主査で焼肉

市関係者の証言によれば主任が不正売却に関わったのは2023年からで約20回ほどだったという。約2年間で14万円ほどの売却益を得たという。これに諸経費2万円が加算され総額16万円を主任が弁済したわけだ。ところが内部から主任に対する同情の声が漏れ伝わる。
なぜなら売却は参事が指示していたからだ。
「主任が関わる以前から粗大ごみの転売は行われていたのですよ。それ以前は会計年度任用職員の子が売りに行っていました。彼が退職した後、2023年6月頃、参事から〝ちょっと行ってくれへんか〟と主任が頼まれて、市内のリユース店Sにトースターを売りに行ったのです。それがきっかけで、それからは中古釣具店Tでも出入りが目撃されていましたね」(市関係者)
周辺人物の主任評は「人柄は良いけど弁が立たずうまく立ち回れない」という人物像でいかにもスケープゴートの対象になりそうだ。警察でも自身の立場を説明できなかった可能性がある。
主任に同情が集まる理由は単に人柄だけではなく、売却益の使い道だ。センター関係者はこう話す。
「売ったお金でジュースやスナック菓子を買ってクリーンセンターの休憩室などで他の職員たちも食べています。だから主任が粗大ごみの売却に行っていたのは周知のことなのです」
ところが状況が一変したのは今年4月頃。議会内でもクリーンセンターを問題視する質問が出た他、不審な動きがあるとの情報提供が市に寄せられるようになった。
そして今年4月にクリーンセンター内で調査が実施。
「この時の調査では問題は見つからなかったのですが…」(前出市関係者)という結果に職員らは安堵したのだろう。
「4月の時点で売却益は約4万円残っていました。すると〝さっさと使ってしまえ〟ということになり主任、参事、会計年度任用職員、そして主査の4人で焼肉に行ったのです。主査は今回、厳重注意になった職員で参事の〝子分的〟な存在。主任が会計したのをみんな知らないはずがありません。粗大ごみの不正売却で儲けた金で飲食をした以上、参事も主査も同罪ではないでしょうか。また主査がリユース店に物品を持ち込んだという姿が目撃されたのですがこれについては〝私物を売りに行った〟という説明で許されたのです」(同)

参事、主査が焼肉同席について市は不問
粗大ごみを売ったお金は主任のポケットマネーに化けたのではなく、他の職員たちも役得があった。にも関わらず主任が停職+弁済、参事が戒告、主査が厳重注意というのは相当、不公平な処分だ。
4月の調査に次いで6月にも市が再調査。そして6月22日には警察が主任を事情聴取。しかし事件化するだけの証拠や証言は得られなかった。
そして9月に入って処分が公表。主任には過酷な内容だ。
「主任は弁済済だから処分は軽くなるだろう、というのが当初の予想でした。ところが〝16万円も払ったのに停職なのか〟と落ち込んでいたといいます」(前出市関係者)
弁済といっても主任が一人で使った金ではない。刑事事件にならなかったとは言え罰金刑のようなもの。一方で、参事の振る舞いに首を傾げる関係者は少なくない。
参事の知人によれば「主任の処分通知書の『停職』部分と自分の通知書の名前をスマートフォンで別々に撮影していました。その上で自分が停職処分を受けたかのように〝オレもえらいことになったわ〟とメールしていました」というのだ。管理職としてあるまじき態度だ。
なぜこのような不公平な処分なのか。また市側は主任、参事、主査らが焼肉を同席したことを把握しているのか。この2点について作田敦嗣センター長と人事課に問うた。
作田センター長によれば「本件については私も被処分者(訓告)なので回答は人事課が対応させていただきます」ということで人事課の回答を待った。
「懲戒処分の公表は、本市ルールに基づいて公表しております。公表されている内容以外をお答えすることは出来ません。本件は、警察に被害届を提出し、警察による捜査をした結果でございます。その上で処分を行っております」(人事課)
予想通りの反応だ。処分は主任の名誉と生活がかかったことだが、一人の弁済と停職で幕を引きたいのだろう。
非常に残念なことだ。本来、クリーンセンターは市民生活の根幹を支えるライフラインだ。そこに携わる人々には感謝と敬意もあるが、同時に各地で多発してきた不祥事に対して不信感も払拭できない。
ならばこうした不祥事の場合、信頼回復の意味でも公平で過不足ない処分が行われるべきだ。市はクリーンセンターの「信用」よりも別の「事情」を守りたい意図が伝わる。なぜ主任だけが厳格で、参事と主査は許されたのか。
指定暴力団「中野会」出身の元市議の爪痕
不公平な処分の裏には奈良県特有の事情が作用したようだ。市内のアウトロー人脈に詳しい人物が裏事情を明かす。
「歴史的にクリーンセンターは優先雇用、議員の口利きなどが行われてきました。中でも影響力を持ったのは若い頃に指定暴力団『中野会』に所属していた元市議(故人)です。センター内ではその元市議の縁者X職員と参事の2派があります。Xと参事はかつては同じ収集課で非常に仲が良かったのですが、あるトラブルをきっかけに仲違いしました」
歴史的とはもちろん同和行政が絡むことは言うまでもない。力関係だけで言えば一見、X職員の方が優勢かのようだが、別の人脈が浮上するのだ。同氏はこう続ける。
「元市議の死後、中野会時代からの盟友、弟分のM氏が地元で幅をきかせるようになりました。実はM氏が参事の〝ケツ持ち(後ろ盾)〟なんですよ。X職員としてはこの際、参事をセンターから追い出したかったのですが、M氏の手前、穏便に済ませたのでしょうね」
市側は警察の捜査に基づいた適正な処分だったと回答してきた。しかし主任一人だけ極端に重たい処分はとても公正とは思えない。
また市側の聞き取り調査も十分だったのか非常に疑わしいものだ。調査どころかむしろ市側はセンター内の闇人脈を忖度していた。こうした説明の方が整合性がつくはずだ。主任一人だけを悪人に仕上げたこの処分はまさに「奈良の闇」と題するのに相応しい。