次期総選挙に向け各党の動きが慌ただしくなってきた中、日本維新の会に限っては手ごたえを感じているのではないか。４月の統一地方選で勢力拡大し、仙台市議選・盛岡市議選といった東北の主要都市でも議席を獲得。また９月の東大阪市長選は自民系の現職、野田義和市長が維新の公認候補になる波乱が起きた。

東北にも 波及した 維新人気

開催前からすでに火種と化した「2025大阪・関西万博」、パワハラ報道など維新にも脛に傷はある。だが各地の選挙結果は好調だ。

これまで維新のウィークポイントだった東日本だが、着実に議席を増やしている。特に東北地方の主要都市は注目だ。

７月30日の仙台市議選ではなんと擁立した候補５人が全員当選。また今月13日の盛岡市議選で維新候補が２位で当選した。まだ足腰が弱い東北の主要都市で議席獲得は今後の弾みになるだろう。

いわんやホームタウン、大阪府内での威力は圧倒的。

東大阪市長選（９月24日）では自民系の野田義和市長が維新の公認候補に鞍替えするハプニングが起きた。自公関係者、有権者からも「裏切りだ」と怒りの声が挙がるが、内情を取材すると維新の“ 試合巧者”ぶりが目立つのだ。

自民が 候補を 出せないタ イミングを待つ

自民党関係者にとってはまさに青天の霹靂。これまで応援してきた現職の市長が維新の公認だから怒り心頭だ。８月18日、野田市長は維新幹事長・横山英幸大阪市長同席のもと、維新候補として９月の市長選出馬を表明した。

しかも自民党大阪府連は「大阪刷新本部」を設置し再生に取り組んできただけに関係者のショックは大きい。

「市長選と市議選（定数38）は同日選挙。野田市長が公認になることで、維新系無所属を合わせて過半数の可能性もある」（地元記者）との危惧もある。

さらに野田市長が維新公認になるプロセスは狡猾だった。先の地元記者の話。

「以前から野田さんが維新から出る、という噂はあったんです。ただ外部にそんな動きは見せていません。一方、８月１日に開催された市長選説明会に自民党国会議員の事務所関係者が出席していました。この時点ではまだ野田市長は次期市長選について明言していなかったので。逆に自民としては“ 一応、党として人を出して確認団体になっておく”という程度で考えていたのでしょう。この時点では野田市長を応援する方針だったと思います」

そして18日、横山大阪市長と同席で東大阪市長選への出馬表明に至る。自民党員が怒るのはこの点だ。

「つまり候補者立てる準備もできないような今のタイミング（18日）で表明したのです。現職の上、勢いがある維新の公認でしょ。これに勝てる候補など見つかりません。自民は対立候補を立てられないでしょうね。中には市長の元妻、野田彰子東大阪市議を対立候補にする意見も出たほど」

仮に独自候補を立てたところで現状の大阪刷新本部がどこまで支援できるのか未知数。本部から党有力者が応援演説というのも考えにくいし、地元の国会議員も“顔 ”になれる人物はいない。逆に維新は吉村洋文府知事が街頭演説に立てば人の波、だ。

自民党が対立候補を擁立できない状況を作って自身が維新の公認候補とは“ 試合巧者”といった意味がお分かり頂けるだろう。

それに加えて松川るい参院議員の写真投稿で炎上した自民党女性局のフランス研修という問題が残る。

松川氏の処分について検討する「役員連絡会」「総務委員連絡協議会」の通知文は８月８日に党員に送付された。

「中止が決まったのは翌日（９日）。府連会長の承認で決まった会合を覆すこと自体が異常ですよ。自民党党本部の意向であるのは言うまでもありません」（先の党員）

維新が“身を切る改革 ”を押し出し改革政党（現実と内情はともかくとして）を訴えるのに対して自民が旧態依然の組織と有権者に触れ回ったようなもの。

その上、選挙戦術でも敗れたから手痛い。大阪刷新というスローガンが虚しく響く。

維新も 既得権益や 特定団体を切れない

大阪府内外で勢力を拡大する維新だが、自民党がつながってきた既得権益、特定団体を切れるのかは別問題だ。

今年４月の衆院補選和歌山一区で維新の林ゆみ氏が門博文元衆院議員を破ったのは維新躍進の象徴になった。さて門氏といえば自民党だが部落解放同盟とも懇意にしており、部落差別解消推進法の制定に貢献した議員だ。

なぜ門氏が解放運動に入れ込んだのか。それは門氏の選挙の弱さと関係する。当サイトも連続して報じた和歌山市芦原地区連合自治会長事件紀州の“同和のドン”金正則と 和歌山市の闇を追うでも指摘したが、市内の同和地区は世帯数が多い。この票を当て込んだのが門氏だった。

そして門氏は敗れ、維新の議席になった。では維新の議員になったから特定団体との関係が絶たれるのかと言えば違う。

自民党の既得権益、業界団体との交流を断て！との意見は強くある。しかしかといって維新になったところで団体や権益が移動するだけだろう。

だからといっても今の自民大阪府連に維新の勢い、モチベーションはない。不祥事の議員を「厳正に対処する」というパフォーマンスすらできないのが現在の自民だ。

大阪市長選＆市議選の動向によってはさらに現職首長の維新鞍替えが増加するのではないか。言うなれば赤鬼が去ったら、青鬼が来るという顛末は起きて欲しくないものだ。