「時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる」こんなナレーションで始まるのは人気ドラマ『孤独のグルメ』。同作にちなんで我々は同和地区、コリアンタウンなど「ジンケンのグルメ」で空腹を満たしてみよう。もともと同和地区、コリアンタウンは穴場店が多く、特に「肉料理」はガイドブックなどで取り上げられることも少なくない。今回、食したのは三重県四日市の地元の人気店「焼肉 幸」(寺方町2268−5)のランチメニュー「牛焼肉定食」だ。
『全国部落調査』によれば寺方町はもともと神前村という部落だった。店近くの「人権プラザ神前」には「基本的人権を尊重し部落差別をなくして明るい地域社会を作りましょう」と標語が掲げられている。そんな町だ。さてお目当ての「幸」は隣接する精肉店「神前ミート」の直営店である。三重県牛が安価で食べられるということで地元では人気店なのだ。そして興味深いのは経営者の川村幸康氏は現職の四日市市議会議員で、部落解放同盟三重県連の役員ということだ。さらに2007年、同店はBSE対策特別措置法で特定危険部位に指定された牛の「こめかみ」(牛の頭部肉)を市食肉センターから持ち出し、提供していたことが発覚した。
とは言えそんな過去はお構いなしにと、11時30分の開店前から待つ客もいた。その間、焼肉店と併設されている精肉店「神前ミート」を覗いてみると、牛肉だけではなく総菜類も安価で、「さいぼし」も販売されている。しかもこれまた安い。お土産として一つ買ってみた。そんなことをしながら開店を待つ客たちと話してみる。常連風の男性はもちろんこめかみの一件もよく知っていた。ところが意に介していない様子である。要は旨ければいいというわけだ。
おいおいこれは当たりじゃないのか?
さて開店だ。いかにもリタイア世代と思しき常連風の客はさっそく酒を頼んでいる。ランチのメニューは牛焼肉定食(1000円・税込)と定食類。ロースとんかつ膳、串かつ・コロッケ膳、若鶏からあげ膳、豚しょうが焼き膳、煮込みハンバーグ膳、若鶏焼肉定食でいずれも700円(税込)とお値打ちだ。続々と客が入ってくるが注文するのは一様に焼肉定食だ。それだけ人気ということだろう。コンロに火が灯ると次々に料理が運ばれてくる。
「おいおいなんだか凄いことになっちゃったぞ」
どこからともなくこんなつぶやきが。ランチから本格的な焼肉タイムだ。カルビ、ロースが約150G、ライス、赤だしの味噌汁、キャベツ、そして小鉢のきゅうりの漬物とさいぼしが泣かせる。コリアンタウンの焼肉店の場合、おおかたニンニクが効いたわかめスープが出てくるものだ。しかし「幸」は赤だしの味噌汁。もしや好き好きもあるだろうが、東海地方の人間にとっては嬉しい。
美味しく食べるにはあまり焼きすぎないようにということだ。カルビもロースも表面を炙る程度にして食べてみる。旨い、甘い、そして柔らかい。厚めにカットされた肉なのにカルビ、ロースともにとても柔らかい。タレはシンプルな醤油ベースで、さっぱり頂ける。肉質がいいのでこういうあっさりタレがいい。あるいは塩だけでもいいと思った。
箸休めにさいぼしを一口。これは神前ミートで購入したものと同じだ。「さいぼし」とは一種の燻製肉のようなもので、「被差別部落」を語る時に欠かせない食品。地域の名産として販売されることもある。他地域で食べたものはむしろ燻製に近い味わいだったが、幸のさいぼしはむしろハムに近い味わい。ライスに合う。
あっと言う間のひと時だった。当初はもっと“いじる”つもりで来店したのが、本当に美味しかったので驚いた。四日市市中心部からは遠く、決してアクセスは良くないが食べてみる価値は大いにある。
グルメ情報ありがとうございます。
こんど行ってみます。
愛知県の方ならそんなに遠くないと思いますよ。
とても面白かったです。続編期待します。
部落飯、朝鮮料理、なんでもやりますよ。
愛知県出張のさいには
是非とも寄りたいです!
四日市中心部からはちょっと離れていますがぜひどうぞ。
このテーマは面白いですね。
続編を楽しみにしています。
むしろ一緒に行きたいです。近場の取材があるなら誘ってほしいです。
逆に何かオススメ店があれば教えてください。
こういう記事面白いですね。
地方の、そこそこ開けた同和地区に有りがちな個人経営の焼き肉店ですが
チェーン店とは違い、肉の厚みと量が結構なものだったりします。
どうやって仕入れているのか、興味が湧きます。
ここの仕入れはまた異なる事情がありそうだからそれは別途やりますよ。