土葬問題を批判したらまさか〝その社は終わり〟? そんなはずはない多様性を訴える村井嘉浩知事、宮城県庁ならば反対派の意見にも耳を貸すはずだ。イスラム住民用の土葬墓地問題で紛糾する宮城県。人権活動家ばりに推進するのは他でもない村井知事である。煽ってきたのは自民党長老県議と県議時代の公明党・庄子賢一農水政務官だった!(写真は11日の宮城県議会定例会に臨む村井知事)
伝説の大炎上会見から14年目の傲慢化した村井知事

一般に他県の都道府県知事は思い浮かばない有権者の方が多いのではないか。しかし村井嘉浩宮城県知事については記憶に留めた人も多いはずだ。もちろん5期当選という多選首長であることではない。それは2011年7月3日の伝説的な会談。
この時分は東日本大震災の傷跡が生々しくまだ復興の道筋は立っていない。「松本ドラゴン」こと故・松本龍元復興担当大臣、部落解放同盟副委員長が岩手県、宮城県両県知事を訪問。岩手県庁では復興のキックオフという意味を込め松本氏がサッカーボールを蹴ると当時の達増拓也知事が受け取りに行った。
達増氏のその様はまるで久しぶりに遊んでもらった小型犬のように見えたものだ。この時点で双方の力関係がありありとうかがえたものだが、問題は宮城県庁で松本氏が村井知事と面談した時のことだ。地元メディアのカメラが一部始終をとらえていた。
村井知事が応接室に入る前から「「先に(知事が部屋に)来るのが筋だよな。お迎えするのがね」と毒づく松本氏。村井知事が入室すると「今、あとから入って来たけどお客さんが来るときは、自分が入ってからお客さんを呼べ。いいか、長幼の序がわかってる自衛隊ならそんなことやるぞ。わかった? しっかりやれよ」と叱責。
さらに
「今の最後の言葉はオフレコです。いいですか、みなさん、いいですか、〝書いたらもうその社は終わり〟だから」
という恫喝は一同凍りついたに違いない。あれから11年、松本氏は鬼籍に入り、村井知事は6選目を目指している。会見当時は同情を集めた村井知事。しかし一転、現在はイスラム土葬墓地の推進をめぐり村井知事が炎上中だ。奇しくも〝人権絡み〟というのが因縁めいている。
2022年9月16日、村井知事は「知事と外国人県民との座談会」でバングラデシュ出身、ソヨド・アブドゥル・ファッタ氏(宮城イスラム国際共同霊園をつくる会代表)から要望を受けたことをきっかけに土葬問題に取り組んだという。

村井知事「日本人は外国で差別されてこい」
宮城県の土葬墓地問題が白熱する中、9月3日、記者会見で「外国人との共生の鍵」について問われた村井知事。こう応じた。
もっと日本人が海外に行って生活してみればいいですよね。海外でそういうふうな対応を受けたら、自分はどうなのかというのを考えたらいいのではないでしょうかね。そう思います。日本にずっといて、日本人としか接しないから分からないと思うんですけど、海外に行って生活すると、いろいろなつらい思いをすることもあるし、差別的なことを受けることもたまにあるんですよね。そういうときに、どういう思いをしたか。これはやっぱり日本に帰ってきて、同じことをしないようにすればいい、してはいけないなって思わないといけないと思うんですよ。そういうのを経験してないというのが、私は開かれていない、閉ざされた社会にいる、どうしても日本社会はそういうところなんで、そこはやっぱり、言葉も日本語しかしゃべらない、私も偉そうなこと言えないんですけど、そういうところが根底にあるのではないかと私は思います。
日本人が外国に行って差別を受けてこい、と言うのだ。土葬については民族観、宗教観、死生観あるいは生活環境など複雑な問題が絡む。人権問題と単純化するのは乱暴すぎる。それが土葬を拒否するのは差別だから受け入れろと言わんばかりの態度。多文化共生社会と謳いながらイスラム教の宗教観のみを優先せよとの物言いは鼻につく。
松本龍氏が役員を務めた部落解放同盟など人権団体に通じる思想だ。まさか〝ドラゴンイズム〟を注入された訳でもあるまいが、高圧的な主張である。それほどの情熱ならば次期宮城県知事選(10月26日)のマニフェストに明記すべきだ。こうした疑問は筆者だけではあるまい。
11日の宮城県議会でも自民党・渡辺拓県議が土葬問題について問うた。
村井知事は「選挙に向けて隠すということではなく、まだ調査中でマニフェストにのせる段階ではありません」と答弁。引き続き調査するとの方針を述べた。
これまでも議会で質問を受けてきたが、これまでの〝前のめり〟な姿勢からトーンを落とした印象だ。人権施策とイスラム住民の住環境整備という課題が横断するこの土葬問題。県内の労働力確保という実態があるのをご存知か。

宮城県は2023年、インドネシア共和国との人材確保に関する覚書を締結。それ以来、同国からの労働者受け入れに力を入れてきた。ジョブフェアの実施など積極的で「がんばる外国人材キャリアアップ応援企業補助金」「外国人材マッチング支援費」など多種多様な支援事業、補助金制度を実施。介護事業の他、大型漁船の乗組員もイスラム圏出身者が多数という。
地元の雄、東北大学の留学生は、中国人に次いでイスラム圏出身者が多い。学内には礼拝スペースが設けられた他、学食はハラルメニューが用意されている。宮城県はイスラム特区と化したようだ。土葬墓地はいわばイスラム版の福利厚生という見方もできる。
もとは県議時代の公明党・庄子賢一衆院議員が質問
さらに土葬問題を辿ってみるといくつか興味深いことが判明した。かつて県議会で「土葬」というワードが登場したのは東日本大震災後だ。この際、県側は犠牲者の土葬を「仮埋葬」と言い換えた。当時、火葬が追い付かず緊急的に土葬で対応したという。
イスラム住民への配慮という意味で「土葬」が持ち上がったのが2018年3月8日の予算特別委員会。公明党・庄子賢一衆院議員が県議時代に質問したことだ。
インバウンドを呼び込むことについても、県内在住の多国籍の方々にとって住みやすい地域になるということが、結果的に言うと、インバウンドのお客様を引きつける一つの材料になるだろうと思います。
最近、ムスリムの皆さんとちょっと交流をさせていただいている中でも、食事の面を一つとっても、日常的な礼拝の環境などを見ても、かなり御不便が多いんだなと改めて思いました。もっと言うと、宗教の違いで火葬できない、土葬しなければいけないというところからも、ものすごい生活のしづらさとその後の心配というものがとてもあるんです。これは簡単に越えられないところもあるかもわかりませんが、それほど違うんです。火葬が僕らは当たり前なんですけれども、宗教が違うと土葬しなくちゃいけないというところも含めて、幅広く、ぜひ、御対応をいただきたいなと思います。今回仙台空港に、いわゆる多目的礼拝スペースを設置させていただくということになって、一歩前進しているんですが、副知事にも、この点はムスリムの皆さんと御一緒に要望させていただています。
今や国交省案件を掌握する公明党の議員だけにインバウンドを意識した質問内容である。公明党と言えば支持母体は言わずと知れた創価学会。『聖教新聞』のコラム「寸鉄」や幹部座談会では激しい文言で多宗派、対立団体を批判する。その割にムスリムには寛容なのが不思議なところ。庄子氏の質問をきっかけに以降、宮城県議会で土葬問題が活発になっていく。
村井知事を追及した渡辺県議の一方で、自民党内には藤倉知格県議ら推進派もいる。宮城自民の長老、藤倉県議に至ってはまるで立憲民主党、共産党を彷彿とさせる質問だ。今年6月25日の定例会では藤倉県議はこう質問した(一部抜粋)。
「明治末年にイスラム宣教師によってもたらされて以来既に百年の歴史がありますが、しかし、一般社会との接点や浸透度も低く、したがって広く理解を得られる機会もないまま、ともすると距離感、異質感をもってムスリムに対する印象が形成されてきたように思われます。実は私が懸念しているのは土葬是か非か、その賛否をめぐる議論とともにイスラム教とムスリムに対する基本的な宗教理解や認識の欠如に伴う偏見と誤解が、意識、無意識のうちに結果として差別的感情を醸成していないだろうかということです。(中略)
知事が土葬墓地に関する調査を行うと発言して以降、全国から反対意見が相当数県に届けられていると聞いています。また、今年四月と五月には少数ながら県庁近くで土葬墓地設置に反対するデモがあったようですが、私自身は率直に言って現場や実態を直視しないことによる偏見と誤解に基づく過剰反応と受け止めていますが、知事の所感、認識を伺います」
先述した通り、宗教観や住環境という問題が複雑に絡む中で反対論を偏見と誤解と断じる態度は居丈高さを感じてしまう。藤倉県議が発した差別的感情、偏見と誤解という表現。2011年に〝ドラゴンイズム〟を受けたわけではあるまいが、まるで人権団体の機関紙で使用されるテンプレートだ。
「あの人(藤倉県議)、実家は神社の宮司だけど妙にムスリムに肩入れをするんですね。以前は突然、原発反対と言い出したりなんで自民党にいるの?って思いますよ。人望もないから当選9回なのに議長を一度もやったことがありません。土葬を推進?思いつきでしょ」(自民党関係者)
インバウンド目的という点で公明党が土葬推進というのはよく分かる。またインドネシアからの労働力確保という目的ならばいかにも自民党らしい話だ。
公明党宮城県本部に見解を問うた。
「⼟葬墓地の整備について、公明党県議団は現時点で賛否を決めておらず、拙速な判断は避けるべきとの⽴場です。県では、県内における⼟葬墓地の可能性を探るため、情報収集や関係団体へのヒアリングを進めていると承知しておりますが、現段階では調査の域にとどまり、具体的な⽅向性は⽰されていないと認識しております。⼟葬をめぐっては、宗教的・⽂化的背景や在住外国⼈への配慮などから⼀定の必要性を指摘する声があることは真摯に受け⽌めています。しかし⼀⽅で、衛⽣や環境への影響、管理体制、⽤地の確保、費⽤負担、周辺住⺠の理解と安⼼など、解決すべき課題は多岐にわたります。加えて、県内外から多くの反対意⾒が寄せられている状況を踏まえれば、現時点で整備を前提とした議論を推し進めることには慎重であるべきだと考えています」(同本部)
また庄子衆院議員の主張は県議団に引き継がれるのかも聞いた。
「ご指摘の庄⼦議員の発⾔は、平成 30 年 3 ⽉ 8 ⽇の県議会予算特別委員会商⼯観光分科会でのものと思われますが、この発⾔は県議団として共有されたものではなく、あくまで個⼈的な課題認識の表明と受け⽌めております。したがって、公明党県議団としてこの発⾔を継承しているわけではございません。また、当時の庄⼦議員は、ムスリムの⽅々が⽇本で⽣活する上で多くの不便を抱えている現状を踏まえ、県に理解と配慮を求めたにすぎず、⼟葬墓地の整備を要望したものではありません。その後の議会質問や政策要望の中で、庄⼦議員を含め公明党県議団として⼟葬墓地の整備を求めたことは⼀切ございません」(前同)
一方、自民党宮城県連は「土葬」について「県連として土葬問題についての議論はしておりません。従って容認の立場でもありません」と否定。
また藤倉県議の主張については「県議会における県議会議員の一般質問は知事に対し県政全般にわたる自由闊達な議論が行われるものと承知しております」とあくまで議員個人の考えであると強調した。
次いで庄子衆院議員は国政に転じたが、現在は土葬問題をどう受け止めているのか。
ー土葬を推進する立場にお変わりはありませんか。
県議会での私の質疑は、”多文化共生を考える際には、生前の生活だけでなく、弔いのあり方についても配慮が必要ではないか”との趣旨の問題提起をしたものです。あくまで行政として 「現実の課題をどう把握しているか」を問う趣旨であり、私自身が「土葬を推進する」との立場をとったものではありません。衛生・環境面や、地域に新たな偏見や差別が生まれかねないという懸念があることは十分承知しており、そうした課題を直視し、地域住民の方々の理解を得ながら、多文化共生社会に向けた環境整備を進めていくことが大切だと考えています。
ー公明党の支持母体であります、創価学会の信徒の方々も「土葬」は容認というお立場でしょうか。
お答えする立場にはありません。
多文化共生という点では村井知事とも一致する。しかしこの言葉を額面通りに受け止めることはできない。
「労働力確保という本音を注視した方がいいですね。労働人口が少ない仙台市外の選挙区の議員がインドネシア労働者誘致のため働きかけるかもしれませんよ」(自治体議員)
労働力確保という視点からみると宮城版イスラム土葬墓地に込められた〝多文化共生〟というフレーズが一層、空疎なものに感じてしまう。14年前、村井知事は人権団体幹部の洗礼を浴びて、時を経て自身が「人権」「差別」だと有権者に迫っている。〝イズム〟の継承者は村井知事か。