2021年7月3日の熱海土石流災害の原因が、違法盛土の崩壊であったことから、各地の盛土の危険性が認識されるようになった。それを受けて、いわゆる盛土規制法が2023年5月26日に施行された。
川崎市では今年の4月1日から市内全域が規制区域に指定され、新たな盛土には市長の許可が必要になった。規制前に工事着手されていた盛土については許可は不要だが、規制開始から21日以内に届け出が必要なのだが、麻生区王禅寺の盛土について、長らく届け出がされないままでいることが分かった。

情報によると問題の盛土があるのは、このヨネッティ王禅寺に隣接する土地だという。ヨネッティ王禅寺は、隣にあるごみ処理場の余熱を利用した温水プールなどがある施設である。

ヨネッティから現場がよく見えるのですぐにわかった。

法律の規制対象となるのは、高さ2メートルを超え、面積が300平方メートルを超える土石の堆積。ショベルカーの大きさと比べれば、確実に2メートルを超えているし、300平方メートルと言えば20メートル四方あれば軽く超えるので、素人目にも確実に規制対象であるように見える。

川崎市によれば、確かに現地の盛土は規制対象だが、業者からの届け出はされていない状態だという。しかし、行政指導の措置はまだ行っておらず、業者に「お願い」をしている状態なのだという。
業者に聞いてみると、資材置き場だから問題ない、市からは指導がありその都度、改善している、安全対策はしているということであった。盛られているのは正確には盛土ではなく、コンクリート骨材。つまりは、業者の商品である。しかし、商品であっても「土石の堆積」には変わりないので規制対象である。
なお、土地の持ち主に連絡を取ると、土地を貸しているだけなので業者に聞いてほしいとのことだった。

しかし、取材を始めた翌々日である9月8日に動きがあった。改めて業者に事情を聞くと、川崎市のウェブサイトから様式をダウンロードして届け出の準備中だという。
川崎市によれば、規制前の着手なので、形式的に届け出をすれば何か強い措置が取れるわけでもないので、行政指導まではしなかったのこと。しかし、4月1日に規制区域が指定されてから、約5ヶ月間放置されていたことになる。なお、法律上は届け出をしなければ6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金である。
筆者が言わなければ無届けのまま放置されていたであろうことは想像に難くない。
そして、驚くべきことにこの業者は「かわさきSDGsゴールドパートナー」なのである。
川崎市のウェブサイトによれば、パートナーとゴールドパートナーの違いは「SDGsの達成に向けて取り組むことの意思表示として宣言する」か「SDGsへの取組を自己評価して今後に向けた目標設定をする」かどうかの違いなのだという。
しかし、「自己評価」とある通り、自己申告された書類をもとに、市が定める基準で審査・認証する仕組みである。法令違反があれば取り消しもあり得るが、そのような事例は知らない。
それにしても「SDGsゴールドパートナー」というキラキラしたイメージは「無届け盛土」とは相容れない。また、長らく必要な届け出をしない業者の自己申告をどこまで信じてよいのだろう。SDGsパートナー制度は形骸化していないだろうか。