2022年、人口千人ほどの京都府・笠置町で、2016年頃から総務省の「過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業」補助金(総額1900万円)が不正に流用された疑いが発覚したことを報じた。
昨年8月には、また笠置町で今度は「移住促進住宅整備事業」で補助金の不適切処理事案があったと報じられた。報道や町の発表では伏せられているが、今回の事案に関わった職員と、「笠やん」補助金不正事件で処分された職員は、同一人物であることが判明した。
「笠やん」補助金不正事件とは?
既報の「笠やん」補助金不正事件は2016年頃から2020年にかけてのこと。メイン関係者は、笠置町職員の小林慶純氏と、町公認ゆるキャラ「笠やん」の著作権者である山本博幸氏。補助金は名義上「デザイン会議」という団体が受領したが、そのほとんどが「笠置クリエイツ」に渡り、結果的に使途不明となった。町が返還を求めた末、2020年2月に小林氏ら3名が書類送検されたものの、不起訴処分で一応の幕引きとなった。
しかし、補助金が「ゆめや」というアンティークショップの開店費用に使われたと見られること、不正と同時期に「町に寄付予定だった民家と土地がなぜか個人名義へ移転した」問題など、一連の疑惑に対して、関係者は沈黙を続けている。
今回、新たな補助金トラブルが判明
ところが最近、笠置町が行っている別の事業である「移住促進住宅整備事業」の補助金でも不適切な処理が行われていたことが、報道や町の発表で明らかになった。同事業は「移住者が家の改修を行う際、経費の一部を公費で補助する」制度。ところが2020年当時、町職員が申請手続を怠り、町ではなく個人名義で179万円を移住者の口座に振り込んでいたという。その職員こそ、「笠やん」補助金事件で処分された小林慶純氏なのである。
当然、このようなことが許されるわけがなく、町が移住者に179万円を払い直すことになった。そして本来、笠置町が京都府へ申請すれば最大で半額分(約90万円)が府から支払われる仕組みだったが、手続き漏れで府補助分を請求できなかった。結果、町は約90万円の損失を被った。小林氏は、町側から支払い不能分の弁済を求められ、「町に損害を与えた責任」として減給10分の1(1か月)の懲戒処分が公表された。一方、町長も管理責任を理由に同様に減給処分を受けている。
町民なら誰でも知っている
「笠やん」補助金不正事件では町が補助金返還を余儀なくされ、小林氏本人も当時500万円近くを負担したとされる。にもかかわらず、別の補助金でまたも手続き不備が浮上した形だ。
2024年8月から9月にかけての町議会では、この移住促進住宅整備事業の申請漏れに関して質疑応答が交わされた。町議会では、
- 職員が2020年2月に移住者の書類を受理 → 事務処理を放置
- 同年12月、自ら個人口座名義で179万円を振り込み → 上司に報告せず
- 2024年3月末になり、町外部から問い合わせがあり発覚
- 町は「本来は府補助を獲得できたのに、期限切れで請求できなかった」と説明
- 職員は減給処分、町長も給料を減額
…という経緯が明らかにされた。
一方、「補助金申請を怠った理由」や「個人振り込みに至った動機」について、町側は「繁忙により処理が遅れた」「組織のチェック体制が不備だった」と述べるにとどまっている。時系列からすると、事務処理を放置していたのは、まさに小林氏が「笠やん」補助金不正事件で警察の捜査対象になっていた時期。そのために、別の補助金のことまで気が回らなかったのだろうか。
報道でも、町の発表でも、町議会でも、一貫しているのは職員名はおろか、「笠やん」補助金不正事件で処分された職員と同一人物であることは触れられていない。しかし、このことは町では秘密のことかと言えば、全くそうではないようだ。ある町民はこう語る。
「また小林でしょ、町民なら誰でも知ってます。笠置山の関係で、役場は何とかして小林を守りたいんでしょう。普通やったら、もうお金を扱うような部署に置いたらいかんですよ」
驚くべきというか、やはりと言うべきか、1つの集落程度の人口しかない町なので、すぐに情報が広まるのは当然のことなのかも知れない。
「移住促進住宅整備事業」ということは、今回の事業の対象者も当然ながら町外からの移住者。移住してみて、こんなことがあったら笠置町への印象を悪くしてしまったことだろう。
笠置町と言えば、昨年10月の町議会選挙で、立候補者があまりにも少なくて議会が夫婦や親子だらけになっているということが話題となった。極めて人口が少なく、大きな収益が得られる産業もない町は、ガバナンスの面でも町は限界に来ているのではないか。