斎藤元彦前知事が失職したことに伴う兵庫県知事選(17日投開票)。再起を狙う斎藤氏、清水貴之前参院議員、稲村和美前尼崎市長ら7人が立候補した。選挙序盤から“ 斎藤元彦フィーバー”と話題沸騰の斎藤氏には播州地域の自民、自民神戸市議が清水氏、自民の一部県議団が稲村氏を支持。分裂した自民党の背景を追った!
学術界からの報復か?
今年3月、職員へのパワハラが告発された斎藤氏をめぐって県議会は9月19日に全会一致で不信任案を可決。6月から始まった百条委員会の追及に加え、連日のバッシング報道。当然、斎藤氏への反発も強まったが意外なことに失職すると地元、SNS上ではむしろ声援が起きた。
一連の斎藤バッシングは旧井戸派職員、労組らによるクーデターという指摘である。周辺を探ってみると学術界も絡むと囁かれた。
3月12日付けの告発文書からもその一端が垣間見える。
唐突に「ひょうご震災記念21世紀研究機構」(Hem21)元理事長、五百旗頭真氏の話題から始まっている。同氏を招聘したのは井戸敏三前知事だ。同機構は副理事長を御厨貴氏を務めるなど、いわゆるリベラル系研究者が名を連ねていた。ところが斎藤氏が県知事時代に御厨氏らを解任。
「文化学術系嫌いで有名」とした辺りで怨嗟が伝わる。同機構が今年2月に主催した「21世紀文明シンポジウム」にはマルクス主義研究やTVコメンテーターで知られる斎藤幸平氏が登壇。こうした人選からも“ 色つき”の雰囲気が漂う団体だ。
斎藤氏の擁護派からは学術利権に手を入れたことへの報復といった見方が出ている。
もう一点、同機構に連なる人脈が地域エコノミストである藻谷浩介氏だ。なぜかこの間、藻谷氏が斎藤氏のパワハラ問題に言及する機会が散見された。特に9月20日放送の「news23」に出演した藻谷氏は斎藤氏の対応を厳しく批判。自身もパワハラを受けた体験を語り出した上で、ネット上で囁かれる謀略論についてもけん制した。
キャスターと藻谷氏を含めて「パワハラと感じた側が有理」といった主張だ。番組内でも決定的な証拠が提示されたわけではなく、「権力者は潔癖たれ」といった道義論に終始した。
コメンテーター自体が“それってあなたの感想ですよね”という性質のものだが、それを差し引いてもこの放送回の藻谷氏は感情が入っていた。
実は藻谷氏も「ひょうご震災記念21世紀研究機構」のシンポジウムに登壇した過去がある。
また同機構が開催する「ひょうご講座」で12月6日、「日本の進む道-地域活性化の方向」というテーマで藻谷氏が講師を担当。団体と利害関係がある藻谷氏が反斎藤派の主張に乗るというのはあまりに出来過ぎた話だ。
告発文にて斎藤氏を「文化学術系嫌いで有名」と評したが、状況からして当の「文化学術系」からのカウンター、報復というのは想像に難くない。
革新系の稲村和美尼崎前市長を自民県議団が推す謎
そして10月31日に告示された兵庫知事選。出直しの斎藤氏、清水貴之前参院議員、稲村和美前尼崎市長、医師で共産党推薦の大澤芳清氏、NHKから国民を守る党の立花孝志氏、会社社長の福本繁幸氏、同じく会社社長の木島洋嗣氏の7人が立候補。同県では過去最多の候補者数だ。
その内、主要候補が斎藤氏、清水氏、稲村氏の3氏。兵庫県内の自民党が3派に分裂し、それぞれを応援している。斎藤氏は“播州自民のドン ”こと竹中隆一姫路市議らのグループ、清水氏は維新系だが自民党神戸市議団、そして革新系の稲村和美前尼崎市長は自民党県議団が推す。なお稲村氏は2014年、藻谷氏らを招いてトークイベント開催という間柄。
県外から俯瞰すると緑の党から支援された稲村氏を自民党県議団が推すというのは違和感があるはずだ。というのは「単に斎藤憎しだけで稲村支持に回ったのです」と地元記者は指摘する。
2021年の知事選で西村康稔元経産相らが推した斎藤氏を支持したことについて党内でも賛否が起きた。その反省から独自候補の道を模索し、自公で元経産官僚・中村稔氏の擁立を検討したが頓挫したという経緯がある。
兵庫県議会も日本維新の会の勢いに圧倒されてきた。維新色が強い斎藤氏へ反発するのは当然だろう。独自候補が流れ自主投票になったため、一時期は県議の半数が稲村氏に流れてしまった。
しかしここで危機感を持ったのが自民党神戸市議団だ。
「“極左を知事にできない ”という思いから清水氏支援を決めたのです。清水氏の立候補によって稲村氏に流れた票が剥がれていきました」(同前記者)
この効果は絶大だったと兵庫政界の有力者は指摘するのだ。
「当初、稲村氏の選挙ポスターを貼った県議もいました。ところが11月2日、清水氏は自由民主党神戸市会議員団・無所属の会と政策協定を結んだのです。県議らにとっては青天の霹靂だったでしょう。というのはご存知の通り神戸市は膨大な票田。市議団から反発されたら県議も選挙になりません。このため稲村氏のポスターをこっそり外す県議など“ 稲村離れ”が進みました」
さらに清水氏は地元財界ともパイプが深い。
「彼の義父は県内で自動車ディーラー、飲食店グループを手がける『ジーライオングループ』のオーナーです。披露宴には清水氏側の来賓に馬場伸幸代表、吉村洋文大阪府知事、また新婦側には菅義偉元首相、西村康稔元経産相など豪華な顔ぶれでした」(同前)
神戸市議団としても維新の清水氏を推すというのは相当な決断が迫られたのはいうまでもない。
「播州自民のドン、竹中市議も“ 神戸市議団はおかしい”と怒っていましたが“ 稲村阻止”という思惑は理解しているようです」(前出記者)
以前は連日のように斎藤バッシングが続いたが告示日以降は「斎藤ガンバレ」との声が街宣でも寄せられており斎藤人気は根強いものがある。ただ街頭の盛り上がりと実際の投票は比例するとは限らない。それは先の都知事選における蓮舫前参院議員、石丸伸二前安芸高田市長両候補でも見られた現象だ。
現在は稲村氏が先行しそれを斎藤氏が猛追する。先々週の調査では稲村氏35ポイント、斎藤氏が23ポイントに対して先週は稲村氏40ポイント、斎藤氏が34ポイントとジワリと迫る。神戸市議団の支援を受けた清水氏は8ポイントと離された。どうやら稲村‐斎藤両候補に絞られたとみる他ない。
注目はこれまで稲村氏に流れた自民党票が斎藤氏、清水氏へ戻るか、だ。
ご存じだとは思いますが、更家氏は「経済人・維新の会」創立時のメンバーですよ