「令和」の西成に忍び寄る 中華街構想③

三品純 By 三品純

明治時代以前、長崎は日本唯一の貿易港であり中国人も滞在し中華街になった。横浜中華街、神戸中華街は江戸末期の開港で来日した中国人貿易商により街が形成された。いずれも歴史が古く日本外交史の「生き字引」のような存在だ。歴史、ロマン、グルメもある。ガイドブックも多数で人気が高い観光地だ。これに対して近年起きる「中華街構想」というものは“ごり押し感 ”と“ 政治臭”に満ちている。反発が起きるのはこうした性質にあると前稿で指摘したが、西成中華街構想も同様の臭いが漂ってくる。特に中国陣営の動きを見ると―――。

「商店街のうち三分の一は空き物件やから。せめてそれだけでも買収してから中華街構想というのなら分かるんやけどね」。こう当惑するのは地元住民だ。中華街である以上、まず第一に「食」を充実させねばならない。西成の場合、すでに「串カツ」という名物があるため、それ以上にインパクトがある「何か」が求められる。

三大中華街の横浜、神戸、長崎の場合、レストランはもちろん食べ歩きも観光の目玉だ。肉まん、中華ちまき、タピオカドリンク、神戸・南京町には立ち食いラーメンまである。中華街では老若男女問わずこうした中華グルメを楽しんでいる。おそらく推進派たちもこんな光景を思い描いているのだろう。しかしカラオケ居酒屋や空き物件が中華料理屋や露店に代わり、観光客がタピオカに行列を作るという光景。もちろん可能性はあるだろうが、どうもイメージがつかない。と言っても中国陣営は鼻息が荒く“ やる気満々”なのだ。

「昨年、新聞報道で西成に中華街を作るという構想を知りました。華商会から市に打診があったのは1月に入ってからのことです」(西成区役所総合企画担当)。大阪市西成区に中華街構想を聞いてみるとこう回答した。昨年、大阪府議会で取り上げられたものの、大阪市が正式に聞いたのは年明け1月のこと。これでは「フライング」と見られても仕方がない。ところが中国陣営の動きは活発だ。

大阪政界に影響力を持つ今井府議。解放運動とも関係が深い。

2月15日、大阪市阿倍野区の中華レストラン「楓林閣ふうりんかく」で「大阪華商新年会・大阪中華街開発委員会発足式」が開催された。渦中の林伝竜氏はもちろん駐大阪総領事・李天然氏、日本からは前回も紹介した今井豊大阪府議が参加。また情報提供者によれば「元大阪副知事の梶本徳彦さんも出席していました」という。梶本氏はNPO法人大阪府日本中国友好協会の代表を務めている。同協会を訪ねてみると中華街は全く関係していないと説明した。

参加者によれば

「今井さんは“ 大いに進めたい。大阪に中華街があってもいい。観光拠点になる”こんな風に挨拶していましたね」

当時の様子をこう振り返った。また発足式の様子は地元華僑の専門紙『関西華文時報』(3月1日号)も報じている。主にこんな内容だ。

写真は左が中華街開発委員会のメンバー、右は李天然総領事。

松井府知事から「加油」(がんばれ)

大阪中華街建設について関西華文時報の編集長が松井一郎府知事に提案したところ「がんばって(加油)」と書かれた台紙をもらった。また関西華文時報が18年9月23日に「浪速の街に中華街のひな形ができた」という林氏のコメントを紹介すると中国中央テレビや朝日新聞が続いて報道した。

李天然総領事は「全世界が大阪中華街建設に注目しているところであり、現在は『天の時、地の利、人の和』が集まった最良の時期である」と述べた。また「日本には横浜、神戸、長崎にはそれぞれ特色のある中華街があり、これらは在日華僑華人の郷愁の拠り所となり、理解と友好を増進する媒体となり、現地の経済発展や就業を促進し、中日文化交流の重要なプラットフォームとなっている」とし「団結、友好、誠信、健康、繁栄」の中華街となることを願っている」と述べた。

李伝竜氏からはこんなスピーチがあった。

「一般社団法人大阪華商会は2017年末に設立登記が終わり、中心的メンバーは西成、とりわけ萩ノ茶屋と動物園前商店街とその周辺でビジネスを行っている福建省の同胞である。大阪中華街建設の計画はみんなが交流する中で自然に生まれた構想で、大阪華商会が建設の運営主体である。東京オリンピック、大阪万博、IR、関西国際空港における1000億円の新規インフラ投資、日本‐欧州EPAなどは大阪の未来に自信を持たせるものである。西成区が6年前に始めた「西成特区構想」も徐々に実現している。これらは西成にとって有利な『天の時』である。次に西成区の地理的位置や交通の利便性は西成の『地の利』である。第三は華僑・華人が有している地縁と血縁をもって団結し、現地社会に溶け込むことは海外で繁栄し発展し成功するための最も重要な『人の和』の要素である」

式では李総領事が揮毫した「大阪中華街」という額を大阪華商会に、また大阪の華僑幹部には「団結合作発展」との額を贈った。

「 全世界が大阪中華街建設に注目している」とはいかにも中国人らしい表現ではある。「天の時、地の利、人の和」というフレーズも漢詩の格言のようで格好いい。ただ現実問題として候補地がカラオケ居酒屋というギャップは一同の眼にどう映るのだろう。

現状の商店街はカラオケ居酒屋だけではなく一般的な飲食店、スーパー、雑貨屋、洋服店など様々だ。そうした店舗も一気に買収して、中華一色にしてしまうのか? もちろんそんなことは住民が同意するはずもない。いかに強力なチャイナマネーとは言え完全に買収し、再開発するというのは考えられない。逆に「林君は中華街を作るだけの資金力がないから総領事館まで巻き込んだんや」(商店街関係者)と囁く声も。

確かにこれだけの大事業を林氏ら華商会だけで実行できるとは思えない。あるいはビジネスという点で考えた場合、果たして中華街構想は有効な投資なのだろうか。

「ホンマに儲けたいんやったら大阪万博近くで地価も挙がってるんやから、手持ちの物件を売却した方がええとちゃう? 逆に儲かりもしない中華門を造るなんてえらいわ(笑)」(同前)

著者も同意見だ。そもそも横浜、神戸、長崎の地域的ブランド力は絶大だ。それにとって代わるほどの中華街作りは並大抵のことではない。ただそれでも中華街に固執する背景は何か気になる。取材を通して感じたのは「老華僑」に対する「新華僑」の対抗心だった。
老華僑とは戦前から日本に定住した中国人のこと。新華僑は新たに渡日した中国人だ。林氏もこの世代に当たる。

新華僑のための中華街実現

関西華文時報のスポンサー広告。西成の中華街構想を意識したイラストも。

先に紹介した2月15日の発足式で李天然総領事が強調したのは「新華僑による中華街作りの意義」だったという。どういうことか? 前稿で登場した商店会長の解説が興味深い。

「横浜や神戸、長崎はもともと日本に在住していた“老華僑 ”のモンやというわけね。つまり中華人民共和国出身の新華僑が作ったわけじゃない。いかに今の中国人が日本社会で成功し、富を持ったのかを証明するには“新華僑 ”による新しい中華街が欲しいというわけやな」

総領事館としても新世代の中国人による中華街に協力したとなれば実績にもなる。日本在住の新華僑たちに中国外交の力を見せるというわけだ。確かに中国人の「街作り」のパワーは一目置かざるをえない。

バックパッカーの経験を持つ人ならば分かるだろうが、欧米にはおおかたチャイナタウン(中華街)が存在する。「♪サンフランシスコのチャイナタウンの飲茶」こんなCMソングも印象的だ。欧米といっても必ずしも現地食は美味しくない。そんな時、おおかた旅行者が駆け込むのはマクドナルドかチャイナタウンの中華料理だ。歴史的にも因縁がある。サンフランシスコ条約の際、吉田茂首相の受諾演説の原稿が書かれた巻紙は現地のチャイナタウンで購入したものだった。欧米だけではなくアフリカにまで広がる中華街。世界的なスケールを持つのは分かる。

ただ地域的、歴史背景に由来しない町づくりが果たして繁栄するものか。世界のチャイナタウンも日本の三大中華街も単なる街ではない。あれ自体が国、それぞれの「中国」である。つまり「国を持つ」という気概があってのものだ。

旧民主党政権の発足前後、永住外国人の地方参政権の議論が活発だったのを覚えているだろうか。当時、関西の民団の運動家からこんな話を聞いた。民団が神戸の華僑に参政権獲得運動を持ちかけたが、「必要ない」と一蹴されてしまった。一つには神戸華僑が民団の政治運動に巻き込まれるのに抵抗もあったことだろう。

それ以上に政治運動に依拠しない「気概」や「プライド」も大きいのではないか。民団というのは往々にして日本の政治や行政から「勝ち取った」ということをプライドにしている。こういう点が「老華僑」たちとの違いだろう。彼らは独自に「国」を作るという精神で中華街を守ってきた。ここに100年以上の歴史を持つ中華街のエネルギーがある。

西成の中華街構想の場合、確かに林氏ら新華僑たちの力もあるだろうが、にしても総領事館や日本の政治力や行政に頼ろうとしている。官民一体型だ。李総領事によれば中華街とは「華僑華人の心の拠り所だ」という。拠り所とはすなわちそ民族の精神だ。ところが現状の西成の中華街構想にそうした精神性を感じない。なんだか中国をモチーフにしたアトラクションパークというのがせいぜいだろう。

中国、新華僑、チャイナマネー、こういった存在に対する一切の感情を排除して考えても現状、西成の中華街構想は難しいのではないか。取材を通してこんな思いに包まれた。

今井府議「80%はあると思うよ」

日本維新の会・丸山穂高衆議院議員らと気勢を上げる今井府議。

では西成中華街推進派はどう考えているのか? 4月4日、大阪府貝塚市内で開催された今井豊氏の選挙演説会の終了後、中華街構想について直撃した。同氏は発足式の参加も認めた上でこう語った。

「中国側だけで進めてもあかんし、日本ともウィンウィンの関係でやらないと。だからその中に入ろうと思てんねん。実現性? 80%ぐらいはあるよ。だけどまだ先やん。協議せんとあかん」

選挙演説会のご多忙な中、応じてもらえて有難かったが、80%とはかなり大きな期待だ。従来、大型開発となれば自民党の独壇場だったわけだが、ここは維新が強い大阪。その領袖が乗り出している以上、可能性は否定できないのか。前出の商店会長によればまだ話し合いが続いており、4月に入ってからも華商会と商店街の間で協議の場が持たれるとのことだが果たして――。

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三品純

三品純 について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

「令和」の西成に忍び寄る 中華街構想③」への1件のフィードバック

  1. アバター清和源氏

    しかも、伊丹市堀池の全て、全区画が旧同和地区に該当する訳ではない。情報発信する以上は、正確無比なものだけを提供するようにせよ。
    それによって、迷惑、困惑する者もおるということを深く認識せよ。
    それが出来んのやったらジャーナリスト失格や。
    止めとけや。

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