7月3日に発生した熱海市土石流からはや4ヶ月が経つ。この間の行政・警察の動きといえば静岡県・熱海市の黒塗り公文書公開、ようやく決まった同市百条委員会設置、遅すぎる家宅捜索…。事件の追及と真相究明の本気度を疑いたくもなる。発生以来、天野氏関係企業の登記、事務所移転など不可解な動きがあるにも関わらず、だ。メディアでは常に「元幹部」で登場し、依然として動向は見えてこないが直近でも行動を起こしていた!? 神奈川県南足柄市岩原の造成現場でその一端が垣間見えた。長らく放置された荒れ地を隠すかのようなグリーンシートは何を意味しているのか?
静岡県警の家宅捜索、意味があるのは一件のみ!
10月28日、小田原給食センター(同市府川)などの関係先に静岡県警が家宅捜索を行った。同センターは「都市計画道路穴部国府津線」整備事業の対象地域になっており天野氏が転売目的で入手したとみられる。関係企業、また自由同和会神奈川県本部が一時、移転してきたがあくまで緊急避難に過ぎない。実際は廃墟同然。そんな場所を家宅捜索先に選んだのはよほど情報不足か、県警をあげて“廃墟YouTuber ”にご転身かと皮肉の一つも言いたくなる。それも初動捜査の遅さに尽きるだろう。
関係者によれば家宅捜索先には現在の「自由同和会神奈川県本部」(横浜市中区曙町)も含まれたという。同本部は天野氏除名処分に伴い移転。事務所も応答する気配がなく同本部に有力な関係資料があるとは到底、思えない。
このような状況の中、価値ある捜索先は「一件だけだった」と元関係者らは口を揃える。
「伊豆山温泉開発に関わった経営者が現在、所属する小田原市内の不動産会社ですよ。同社にも家宅捜索が入っています。伊豆山開発に関する資料、関係人物を示すブツがあるとすればここだけ」(天野氏周辺)
同経営者も以前は天野氏の配下であり、同時に被害者という複雑な立場だ。だが伊豆山開発や関係人物を知る重要人物に相違ない。一方、土砂運搬について複数の業者にも事情聴取を行ったというがどれだけ有力な証言が得られるか。
そこで浮上した小田原市内の運搬業者を直撃してみたが事情聴取は心当たりはなく天野氏とも取り引きはないという。知らない、無関係という説明だが業者仲間から聞いた話として「今年の2月、3月にも伊豆山へ土が運ばれた」と教えてくれた。
静岡県が公開した公文書によれば、2011年に県は盛り土について停止命令を検討していたことが判明している。10年前以前の盛り土の状況を示すわけだが、果たして崩落した土砂が全て「10年以上前の盛り土」なのだろうか。
伊豆山事情に詳しい元関係者によれば「土石流は(10年前以上の)新幹線ビルディングの盛り土だけとは思えません。過去、雨などで少しずつ河川に流れたはず。土石流直近まで土砂が運ばれていたのでは?」と指摘する。
この点について著者も同意見だ。というのは盛り土が行われた最中、海に土砂の一部が流出したため開発業者、トランスファーの沼尾勝男氏が漁業関係者に謝罪したという。つまり10年以上前の盛り土が溜まりに溜まって崩落したというのも考えにくい。
この指摘に加え2,3月にも“土が運ばれた ”との先出業者の囁きがどうしても気になる。その手がかりを求めているうちになぜか南足柄市に来ていた。
創業地の地・鴨宮、コスモコーポ時代の造成地
南足柄市も天野氏と因縁が深い。1995年、小田原市の通称“鴨宮666 ”が天野氏の本拠地だった頃、オスマン・サンコン氏を招いた講演会を南足柄市文化会館を開催した。同市も同和行政と無縁ではない。地元市議によれば「同和団体に対する市の補助金について、市は絶対に団体名を明かしませんでした」と話す。公金は透明化されるものであって同和を冠すれば情報公開から免れるとでもいうのか。
もう一点、同市竹松に不法投棄していたのは天野氏関係企業と以前、指摘した。竹松については県から是正指導があり廃棄物は撤去されたがこの通り、南足柄市でも天野氏の影が見え隠れする。それから現在は、自由同和会神奈川県本部の役員リストから名前が消えたが同県本部青年部長、監査、小田原支部理事だった善波学氏こと丹波学氏がオーナーを務める「紀伊国屋グループ」の「茶屋天んぐ」菓子工場が同市岩原にある。 茶屋天んぐは大雄山駅前に本店があり「下駄まんじゅう」は地元の銘菓だ。
岩原には神奈川県本部の支部があったという。地元ポスティング業者によると
「岩原駅(伊豆箱根鉄道大雄山線)前のマンションにチラシを配っていたら、入り口のポストに自由同和会支部と書かれていましたよ。だから南足柄にもこういう団体があるんだなあ、と思いました」
と話す。近隣住民によれば随分前に自由同和会は退去したということで別の不動産業者が入居していた。
さて、ここでなぜ南足柄市に来たのか説明しなければならない。「伊豆山で見かけたトラックを南足柄市でも目撃した」「岩原(同市)でもひどい造成があった」という証言を関係業者から得たからだ。そこでまず岩原で起きた問題個所から取り組む。とはいえ岩原は同市塚原と複雑に入り組んで場所の特定が厄介、と覚悟したもの。ところが面白いほどあっさり開発現場が判明した。なぜなら天野氏は地元で「要注意人物」として通っていたから。
現場よりもまだ距離がある地点の住民ですらこの通り。
「造成地って同和の? 天野でしょ。山を登ってすぐのところ。道の入り口付近に小さな鳥居があるからそれを目指すといい。随分前にガラや廃棄物が積まれていたなあ」
よく知られた現場のようだ。さらに別の住民。
「ブルーシートのようなもので囲んであるからすぐ分かりますよ」と教えてくれた。
それにしても天野氏の名前はこれほど知れ渡っているのか? 驚くやら、ここまでくると笑えてしまう。
山林の斜面に下が住宅地。いかにも天野氏物件的な様相である。土地を見ると長らく放置された様子だ。シートの中には廃車同然のワゴン車があった。何らかの造成工事が行われた痕跡はある。そして付近住民とのやり取りは重要だ。
「グリーンシート? ないよそんなもの」
「ありますよ」と写真を見せてみた。
「本当だ。少し前に通ったけどこんなものなかったよ」
住民らの証言をまとめるとここ1ヶ月内にシートが設置されたという。もちろん土石流発生からさらに後ということになる。外部から見えないようにシートを設置したとみるべきだろう。設置主は誰か。考えてみれば天野氏実働部隊の大半が距離を置いている。もちろん御大将自らの作業でもなかろう。となると協力企業による可能性も高い。
当初、「廃棄物が大量に放置」と聞いていたが、そんな様子はない。だがこの造成地も案の定“いわくつき ”だった。地元事情通の話。
「年代ははっきりしないけどもう20年以上前だと思います。天野さんと社員が元地主Iさんに土地を貸してほしいと依頼に来ました。当時の会社は『コスモコーポ』を名乗った記憶があります」
コスモコーポという社名。ウォッチャーでも初耳という人が多いかもしれない。“天野事業史 ”黎明期における主力企業なのだ。なお歌手の清水健太郎氏が一時住んだ大井町の物件もコスモコーポが売買に関わった。
「Iさんはおとなしい方で言われるがまま権利書を天野氏部下に渡してしまったのです」(同前)
しかし周囲の協力もあり権利書はなんとか取り戻すことができたという。ところがそれ以降も土地を借り、開発を続けた。その特徴は盛り土ではなく「切り土」である。
斜面に土を盛り平地にする盛り土と異なり、山を削り平面を造るのが切り土。地盤の強度でいえば切り土だが問題は残る。
「一気に切り土をして開発するのではなくて少し削っては資金難になって中止。その繰り返しですよ。だから結局、造成工事は中途半端に終わりました。外からは見えないけど、切り土部分に石積みがしてあります。最終的にどうしたかったんでしょうね(笑)」(前出事情通)
シートにどの程度、隠蔽の効果があるのか分からない。だが外部に“見せたくない ”という意図があるのは確実だろう。天野氏の直近の動向は見えないが、シートを見る限り何らかの指示を出したのは間違いない。気がかりなのは土地の安全性。現状、土砂崩れが発生する様子でもないが、しかし直下は住宅街だからノーリスクと断定できない。
南足柄市都市計画課に確認してみたが
「グリーンシートのことは初めて知りましたが、特に調査などはしていません」
と回答した。熱海市土石流の最重要人物が関与した造成地に対して緊張感がないものだろうか。地元住民らは明らかに「おかしい」と感じていたが、市役所側は“我関せず ”という態度に驚いた。今回は天野氏の近況を知る手がかりになったが、南足柄市における本命はやはり「伊豆山で見かけたトラック」の存在だ。これを突き止める必要がある。