天下の朝日新聞『落日新聞』へ転化の道②

三品純 By 三品純

前稿で朝日新聞の販売不振と年金減額等の財政難をお伝えした。ではその原因は何か、どんな課題があるのか? たびたび蒸し返されるKYサンゴ事件、そして福島原発事故吉田調書問題、従軍慰安婦問題(吉田清治証言)のW吉田誤報などによる信頼性の低下、ネット社会へ移行といった要因が挙げられよう。だがこれらはあくまで副次的ではないか。最も根源的な原因として販売店不振・減少、販売戦略の停滞に違いない。当サイトは朝日新聞退職者に配布される『大阪朝日旧友会報』(社外秘資料)を入手。現役幹部、旧役員たちの寄稿や講演録が掲載されており朝日事情を知るには有用な資料だ。成果や業績が報告される一方で課題や問題点も提起されており「販売現場」の苦労や本音も読み取れた。

天下の金言・天声人語に重要ワードが…

誰が言ったか天下の朝日新聞。信頼性の低下、部数減と言っても他紙よりもブランド力を保っているのか、またはかつての権威は失墜したのか判断は難しい。いずれにしても全盛期の影響力を失ったのは明白。朝日新聞のご威光のシンボルマーク的な存在『天声人語』もすっかり色あせた印象だ。

「天声人語は試験に出る」

『天声人語』、ご存じ朝日新聞の一面コラムである。80、90年代の受験戦争を経験した世代はこんな話をされた経験がないだろうか。あるいは学校の全校集会で校長が、または講演会の講師が引用する――こういう使われ方もした。

同社も受験生を意識し販促したし、受験生を持つ親も子供のためと朝日新聞を購読した。そんな家庭は少なくないはずだ。かくいう著者もかつては朝日少年だった。アサヒグラフ、朝日年鑑には夢中になったもの。それに天声人語も読むだけでなんだか賢くなれた気がした。今から思うととても痛々しい記憶でもある。だけど天声人語は本当にすごい?

天声人語、今でも一定量の商業的な価値を持つ。

もしお手元に天声人語がある方はよく見て頂きたい。天声人語という看板がなければ本当に名文と思えるだろうか。とにかく必死で「善」「美辞麗句」を埋め込んだ内容。それを無理やり「△」でつないでいる。天声人語の「△」はなんだ? なぜか「△」で区切られテーマは東京から突如、平壌に飛んだ如く内容が急展開する。起承転結で区分けされているわけでもなさそう。小論文、手紙、報告書の類、一般的な文書作成で「△」が使用されることはない。なぜ新聞の社説の類だけ「△」が許されるのか分からないが、ともかく天声人語は一定の権威と影響力を持ち時に商業利用もされる。「天声人語書き写しノート」など新聞の社説やコラムが商品化(単行本化以外の形で)されるのも珍しい。これも天声人語にブランドを感じるシルバー世代がターゲット層だろうが、いつまでこうした需要があるものか。

ユルい平和主義のプチブル仕立て――。そんなイメージの商品群だ。類例がある。いわさきちひろ、瀬戸内寂聴、そして天声人語、この三点セットは何か言いようもない有難味があるらしい。護憲集会でいわさきちひろTシャツというのは結構ありがち。研究活動に不正や疑義があった小保方晴子はなぜか寂聴と対談し、少なくとも「メディア露出」における禊を済ませた。

なぜ有難味があるのか筋道立てて説明しろと言われても難しい。ともかく先の三点セットには意識が高い中間層・知識層への癒しと啓発効果があるようだ。そして次のテーマに移るためにある天声人語を読んで頂こう。

▼中央競馬を締めくくる有馬記念は、2番人気のドリームジャーニーが制した。「夢」を追い「旅」を続けるのは人も同じ。苦闘の末にたどりついた師走の言葉から▼昨秋に前立腺がんと分かった写真家の荒木経惟(のぶよし)さん(69)。このほど出した作品集は「遺作 空2」。「タイトルと自分の写真が一番の薬になるね。撮り続けることが生きること。まだまだ、あたしはこんなもんじゃないと『生欲』がわいてきた。まわりが応援してくれるんだな。人間も空も」▼沖縄返還時に日米の密約はあった。元外務省アメリカ局長の吉野文六さん(91)が、東京地裁でそう証言した。会見では「大きな歴史には貢献できてはいないだろうが、真相を語ったつもりです」▼「どんな堅い仕事にも、漫才のボケとツッコミのような複眼の手法が役に立つ」。吉本興業から法政大学大学院客員教授に転じた木村政雄さんの助言だ。「本音を言ってみる、笑われるかもしれない提案をしてみる。空気の流れが変わり、思わぬ花が咲くこともある」▼大型店の攻勢を受ける町の電器屋さん。団結を訴える大阪のアトム電器社長、井坂泰博さんは、近隣の高齢者などにニーズはあると見る。「大きな魚は腹がつかえて入り込めない磯辺に、小さな魚のエサ場がある」▼バハマでのフリーダイビング(素潜り)世界選手権で107メートルの日本記録を作った篠宮龍三さん(33)。「地上の約12倍の水圧なのに、海に生かされている感覚があり、穏やかな気持ちになれた」。いらつく世の中、いっぺん丸ごと潜らせてみたい。 

天声人語 2009年12月30日

天声人語では「心温まるエピソード」が紹介されることがよくある。この回も天声人語的に温かい話が紹介されるが、地域家電店のアトム電器(本社・羽曳野市)について触れている。奇遇にも「イイ話」として紹介されているアトム電器が実は朝日新聞販売店と因縁を持つことになるとは…。

新聞販売店が町の電気屋さんに

新聞問題に詳しいジャーナリスト・黒薮哲哉氏が『MyNewsJapan』(2018年9月18日)に寄稿した「1年で33万部減った朝日新聞、切り捨てる販売店主向け“転職指導”で家電FCへの加盟など斡旋――「危篤」寸前の新聞業界」によれば同年8月、朝日新聞本社でアトム電器が販売店向けにフランチャイズ加盟の説明会を行ったという。販売店の収益確保、商売替えの支援だ。朝日新聞は販売店の救済策として「出前館」との提携を行ったと前稿で紹介したが、今度は“ 町の電気屋さん”というわけだ。

アトム電器は大手量販店にないきめ細かなサポートを売りにした家電チェーンだ。業績を伸ばしている企業には違いないが、新聞販売から電気店というのも販売店主にすれば相当悩ましいところだろう。販売だけではなく修理、メンテンナンス業務となれば技術も必要だ。これも販売店に対する決定的な支援策だと思えない。

むしろ販売店主の本音は「押し紙」問題の解消だろう。押し紙とは「本社が販売店に部数を押しつける」が語源との説がある。「新聞業界」の最大のタブー、暗部として長年、問題視されてきた。新聞社にとって販売収入以上に重要なのが広告収入だ。新聞の広告費は日本ABC協会が発行する部数に比例する。部数が多ければ当然、広告収益が増加するのはお分かりだろう。このため新聞本社は実際の配達部数よりも多い新聞を販売店に“ 押しつけ”そして部数を水増しする。この構造が新聞業界の収益モデルなのだが、もちろん販売店にとっては大変な負担になる。このため全国紙・地方紙問わず販売店と本社の間で訴訟に発展するケースも。

そしてもう一点、新聞の拡販に貢献してきたのが契約者に提供する景品類だ。ある意味、新聞販売店の代名詞的な「景品」。プロ野球のチケット、ビール券、洗剤、食用油から高額なものになると家電製品など様々だ。しかし景品表示法で景品は新聞購読料(6ヶ月分)の8%が最高限度額と定められている。長らくこの限度額を超えた景品が問題になってきたが公然たるルール破りとして業界で続けられてきた。

しかし2019年3月に大阪府の消費生活センターは景品表示法の制限を超えた高額景品の提供があったとして産経新聞に、12月には毎日新聞に再発防止を求める措置命令を下した。この措置命令は長らく黙認されてきた景品問題にメスを入れたもので毎日・産経に限らず今後、新聞各社は販売戦略・方法の転換を余儀なくされるだろう。

全国的には弱小の産経だが関西地区では高いシェアを誇り、これに毎日、読売、そして朝日で四つ巴の販売競争を繰り広げている。朝日新聞としても大阪は創業の地。ここで販売競争から勝ち抜けしたい思惑があるだろうから毎日・産経の措置命令は追い風になるのか、あるいは朝日にも他人事ではなく負担になるのか面白いところ。とにかく新聞販売は過酷な世界ということはよく分かる。

そして『大阪朝日旧友会報』に掲載されている販売担当者の話を検証すると「新聞販売」の何たるやが見えてくる。

新聞販売に社会貢献のオブラート!?

拡販作戦で「新聞社」という存在の本音と建前が見える。

「朝日新聞の部数の生命線 は500万部と思っていま す。この9月に600万部を割る危険水域に入ったと 耳にしたが、現場は臆せず前へ進んで欲しい。産経、 毎日の倒産、廃刊さえ視野に入る歴史の転換点に立っています。よき新聞は民主主義国家の国民財産です。日本の場合、戸別配達網があるので欧米のような新聞社の倒産がまだ起こっていません。戸別配達網は日本の新聞の宝なのです」

『大阪朝日旧友会報』(2019年1月)の寄稿で戸別配達の重要性を訴えるのは大阪本社元販売局長、日笠修宏氏。さすが販売局長だけあって販売業務への思いが強く、日本の新聞社の生命線が「販売店」にあることも強く意識している。同氏は1999年に大阪本社販売局長に就任すると部数増を掲げ「エベレスト作戦」を策定。2005年までに大阪本社販売部数250万部達成を掲げた。

そして販売拡大の一方で、ネパールの森林資源を守る植林事業への寄付活動を開始。朝日らしくこんな活動も作戦に盛り込んだ。毎年部当たり1円をアジア協会を通じてネパールの森林省に寄付するという。朝日新聞読者の森をネパールに2カ所作る目的は達成され、有志によるネパール視察旅行の際は訪問した村の小学校の校舎、女性のための職業訓練所の建物の寄付などを行った。これについて同氏は「エコロジーを先取りした活動になったと自負しています」と述べている。新聞社に限らずテレビ局もこのような社会事業を実施するものだ。もちろん報道機関として社会貢献したいという理念や理想もあるだろう。

しかし厳しい部数競争を強いられる販売現場だ。「社会貢献」というお題目だけを唱えているわけにもいかない。その本音部分もしっかり語られる。

販売店主、従業員の地域での環境改善活動を含めた募金活動の過程で、意識改革が少しはできたのではないかと思います。読者に嫌がられる新聞勧誘活動に社会貢献というオブラートがかけられ胸を張って朝日新聞の勧誘ができたのです。増資の原動力は、販売店の活動力です。当時朝日陣営の活動力が飛躍的に高まり他紙を圧倒できたと思います。

「新聞勧誘活動に社会貢献というオブラート」。これがもし朝日新聞紙面上あるいはSNSでの主張だったらばおそらく「炎上」していたに違いない。社会事業はビジネス利用と公言したようなものだ。「朝日の慈善事業は偽善事業」こんな罵声が飛ぶかもしれない。

「インテリが書いて、ヤクザが売る」

新聞業界の構造を揶揄するこんな俗言がある。朝日新聞記者がエリート集団というのは説明の必要はないだろうが、販売員は異なる階層の人々だ。新聞拡張員のしつこい営業に閉口した人も少なくないだろう。とある販売拡張員の求人広告には「人生諦めるな、前歴不問」こんな文言があって思わず爆笑したことがある。「人生いろいろ会社もいろいろ」ではないが、従来から新聞勧誘活動は全くいいイメージがない。

そこで社会貢献事業を前面に押し出すことでイメージ緩和を目論んだわけだ。ネパールの森林保護や学校建設・・。先に示した「意識が高い中間層」を惹きつけるには確かに有効かもしれない。

「うちは慈善事業をやっているわけじゃない!」映画やドラマ、芝居でありがちなこんなセリフだが、朝日新聞のネパール支援事業も単なる「慈善事業」ではないようだ。報道機関が行う社会事業の本音を感じてしまった。かくいう日笠氏は「オールジャパン平和と共生」などにも賛同するリベラル系の人だ。しかしそんな人物も「販売」という点においては強面な顔を見せる。裏返せばそれほど販売局は「仁義なき戦い」の場なのだろう。ネパール事業を説明したのが同社自慢の“編集委員 ”の類であればこういう「社会貢献というオブラート」」などと直接的な表現はしなかっただろう。現場を知る日笠氏だからこそ出た発言だ。

2005年あたりまで大阪本社の経営は順調で、近畿圏の150万部の部数が 朝日新聞社の利益を支えて きたと言えます。大阪本社 の販売費はこの、年間東 京に比べ部当たり100円少ない、年間で25億円ほど 少ない販売費でやってきた と言えます。東京は読売新聞との競争で大変だからと いう理由からでした。実際には、毎日、産経は東京で は取るに足らない存在です が、大阪では根強いファンを持って大阪が全社を支え ています。従って競争条件 は、東京は倍の部数を持つ 読売との競争ですが、大阪 は四つ巴の競争なのです。 毎日、産経の無代紙、拡材のむちゃくちゃな使用に悩まされてきました。 そんな中で大阪の朝日の 販売店がやってこられたのは、老舗が多く長年の蓄積 があったからです。販売店 経営実態調査でも大阪の販売店はBS(貸借対照表) のよさでもっていることが わかっていました。その含み資産もだんだん限界にき ているのが現状です。 ちなみに「エベレスト作 戦」に本社は特別予算は出していません。部当たり1 円のネパールの寄付も大阪 朝川会の資金積立から支出しています。震災復興支援 への朝日新聞社へのお礼に自らの資金で、部数増で頑張ったというものでした。 大阪本社の巨大なNFT (中之島フェスティバルタ ワー)ビル2本の建設費1000億円超は上記販売費 節約分の本社蓄積分が投資されたと私は思っています。

確かに東京、関東エリアでは東京新聞、神奈川新聞といったローカル紙もあるが実際は朝日、読売、そして日経新聞の争いだ。実に辛辣な言い方だが「毎日、産経は東京では取るに足らない存在」というのは本音だろう。

散々な言われようの毎日と産経両紙だが昨年、大阪府から措置命令を下されており従来のような景品戦略も難しい。四つ巴の争いから“基礎体力 ”で圧倒する読売、朝日が抜け二強争いになるのか。あるいはもう戸別配達自体が破綻し共倒れなのか。大阪は新聞業界の未来予想図地帯になりそうだ。

「ネトウヨの薄汚い連中」は本当の敵?

さて次回の予告をかねてこの部分を引用して締めとしよう。

部数減の朝日新聞特有の原因として、やはり慰安婦問題の総括・検証報道の時期と扱いの間違い、東京福島第一原発の吉田所長(当時)の退避発言報道の影響は致命的と言っていいほど大きいと思います。安倍政権と対峙しているとき、菅官房長官という策士の張った網にまんまとかかったような印象です。国家権力を甘く見過ぎた前社長の責任は大きいと思います。この2件はサンゴ事件などと全く違うのは国家権力と正面から対峙している、対峙すべき時に首相と食事をしたりした後に嵌められていることです。毎日新聞の今日の凋落は沖縄返還の密約報道に端を発しています。佐藤栄作首相が男女のスキャンダルという焦点をぼかしをし、朝日を含め新聞各社が毎日を守らなかったことによって読者の反発を招いてしまいました。国家権力の怖さを侮った結果、毎日の部数は1割以上減ったそうです。今回の朝日の場合も、産経、読売が朝日叩きに加わっています。本来であれば、味方をしなきても中立を守るのがジャーナリズムの本来の姿でしょう。読者の信頼を失ったことが、ネトウヨの薄汚い連中にまで言いたい放題やりたい放題を許すことになっています。 

「首相と食事」とは2013年2月7日、安倍首相が帝国ホテル内の中国料理店で木村伊量社長(当時)と会食したことだ。あたかも安倍-菅ラインに朝日新聞が篭絡されたような書きっぷり。そしてネトウヨの薄汚い連中とくれば大新聞社の元役員というよりもそこいらの活動家のツイッターのようだ。彼ら流に言えばアベ政権、そしてネトウヨを「敵」として強烈に意識しているようだが、果たして本当に朝日の敵は安倍首相とネトウヨなのだろうか。

今後、本当に朝日が向き合い闘わないといけないのは「内側」にある気がしてならない。「内側」つまり左派内部の言論状況が朝日を苦しめかねない。おそらく朝日新聞が向き合うべき課題であり負担になるだろう。それは次回の話で――。

カテゴリー: 調査 | 投稿日: | 投稿者:
三品純

三品純 について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権、人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。

天下の朝日新聞『落日新聞』へ転化の道②」への2件のフィードバック

  1. アバターうましかの一つ覚え

    どこの新聞社のことか忘れました(棒)がこう聞いたことがあります。

    アカが書き、ヤクザが売ってバカが読む

    返信
  2. アバター和泉守

    「天声人語は試験に出る」
    懐かしいです…1990年代はそういうCMしてましたね
    なので高校の教師もちゃんとした大学に行きたければ朝日を読めとか言ってました
    予備校の教師はこう言ってました
    早稲田の問題で使われるのは文章を書くのが下手な奴
    まともな書くのが上手い人の読みやすいな文章を問題にしたら皆答えが分かるやろ?
    だから早稲田の問題に使われた文章を書いた奴はアホや!
    その問題を攻略せなあかんつもりでがんばれ!
    (あくまでもその先生方の個人的な思いですが…)
    それはともかく、最近地方紙は頑張られてると聞きますが、大阪は中日新聞東京新聞もありませんし、地方紙は全く存在感がありません ある意味普通紙大手4社+日経の戦いが最も凄いのが大阪なのかもしれませんね
    もう新聞を取らなくなって長いですが、昔は元から安い+1年契約で自転車等選べる何か豪華なのをくれたりする産経、新聞3か月無料+ビール券5枚の毎日、ずっと取っていたからか何もくれない朝日でも一度辞めたら3か月無料になりました、3か月無料+何かの券(劇場か何かだったと思います)の読売… 結構競争が熾烈でした 一度、チャイムを鳴らした後にドアを何回も本気で叩く(蹴る?)というのが来たときは驚きましたが…ご近所さんに聞くと新聞の勧誘の方だったそうです…20年くらい前のお話でした

    返信

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