3月14日、関西電力の金品受取り問題に関する第三者委員会の報告書が公表された。その全文はこちらでダウンロードすることができる。当初は約3億2000万円とされていた金品の総額が約3億6000万円に膨らんだこと、実際に森山氏の要求で関電が取引先に便宜を図っていたこと等が多くのメディアで報じられている。
第三者委員会の但木敬一弁護士は記者会見で「そんなことあるのかな、と思われるような話もかなりある」と、森山氏と関電の関係が想像を絶するものであったことを表現した。では森山氏がなぜそれほどの力を持ったのか。その点について、特に人権・同和そして解放同盟との関係についてメディアはほとんど触れていない。そこで、本記事ではそれらの点を中心に第三者委員会の報告を解説する。
森山氏が関西電力の地元対策に重要な役割を果たしていたのは事実である。そして、原発の裏にある関電や地元にとって後ろ暗い部分も知っていた。その例として 第三者委員会 が挙げたのが「フナクイムシ問題」である。
報告書によれば1981年頃、高浜原発の温排水が原因でフナクイムシが増加し、貯木場への食害が発生するようになったため、地元企業との間で補償問題になった。そして、遅くとも1985年12月頃からこの問題に森山氏が介在するようになった。
そして、森山氏の仲介により、地元企業が保有する鑑定価格6億4600万円の土地を関電が11億円で買い取ることで決着した。補償金という名目ではなく、土地を本来の価格よりも高額で買い取るという不透明な方法で決着したわけである。 第三者委員会 の会見によれば、本来の価格を超えた部分の金額がどのように分配されたのかは、関西電力のガバナンスの外の部分なので、分からないとしている。
報告書にはこう書かれている。
以上のとおり、フナクイムシ問題においては、関西電力が森山氏の仲介によって、発電所の運営に関する地元企業との紛争を、最終的に当該地元企業の所有する不動産を買い取ることによって解決したことが認められる。関西電力から提供を受けた資料からは、森山氏がこの仲介に当たり違法ないし不当な手段を用いたことは認められないが、関西電力は、地元企業との紛争を解決するために、利用計画のなかった不動産を自らが取得した鑑定結果に基づき正常価格と考えていた価格よりも4億5000万円余りも高額な金額で購入し、森山氏らの要請に応じて、高浜町が誘致した企業を救済する結果となっている。
フナクイムシ問題においてそうであったように、自ら関西電力の不適切な行為に関与してきたものと考えられる。また、森山氏が現にどこまでそういった関西電力の不適切な行為を知っていたかは別にして、関西電力の役職員において、各人に程度の差はあれ、森山氏を「関西電力の弱みを握る人物」として認識していたことが認められる。
つまり、関西電力が地元対策に森山氏を利用していたから、多くの弱みを握られ、森山氏には逆らえなかったという見方である。実際、多くのメディアもそのように報じている。
しかし、フナクイムシ問題があったのは昭和の時代。良く言えば今よりもずっと大らかな時代で、当時このようないい加減がことが行われても驚くに値しない。平成末期までそのことが引きずられ、蒸し返されることを関電が恐れていたとは考えにくいのである。
しかも、フナクイムシ問題があったのは森山氏が高浜町の助役だった時代のことで、当時は実質的な権力を持っていたと言える。しかし、1987年5月には高浜町を退職して民間人となっており、高浜市の原子力関係部門に対して何の権限も持たなくなっていた。その点について、 第三者委員会 は次のように疑問を呈している。
合理的に考えれば、森山氏が長く高浜町助役を務め、地方自治体を含む地元に対し多少の影響力を持っていたとしても、立地地域として原子力発電所の稼働を前提とした経済活動が行われている高浜町において、高浜町を退職した一民間人に過ぎない森山氏が、原子力発電所の運営を妨害し、ましてや、その稼働をストップさせるほどの影響力を有しているはずはないところである。また、森山氏は、原子力発電所の立地及び運営に協力してきた者であり、上記のとおり、高浜町の退職後は原子力発電所の運営に関わる関西電力の取引先において一定の地位を有しており、原子力発電所が稼働することは森山氏の利益にもかなうことであったから、冷静に見ると、森山氏が関西電力にとって知られてはならない情報を有していたとしても、現実に原子力発電所の運営の妨害行動に出るか は甚だ疑問である。
どういうことかと言うと、森山氏が高浜町の役職にあった1987年以前であれば、関電が森山氏を利用してきた、原発運営を妨害されるのが怖かった、弱みを握られていた云々の論が通用し得るが、一民間人になった後以降のことは、それだけでは説明がつかないということなのである。
人権研修は森山氏退職後に始まる
森山氏が高浜町を退職した1987年は1つの転機になっている。その前年に高浜町都市計画審議会委員に就任し、同年に高浜町人権擁護委員、高浜町教育委員会、そして関電プラントの顧問、関電の下請け業者である柳田産業相談役に就任している。これらは助役を退任することを見越してあらかじめ準備していたように見える。
そして、以前から報道されていた、関西電力の人権研修については次のように報告書に書かれている。
関西電力の高浜発電所では、1987年末、従業員間でいわゆる同和地区出身者であることを理由とする差別事件が発生し、また、1988年初頭、業務を受託しいた関西電力の協力会社の従業員が同和地区出身者に対する差別発言をし、これに対して部落解放同盟高浜支部から問題提起がされるということがあった。関西電力は、従前より人権研修を実施していたにもかかわらず、原子力発電所に関わる従業員・企業において、上記の差別事件が発生したことを受け、人権に対する問題意識を更に向上させるために、同年以降、主に原子力発電所関連の要職に就いている関西電力の役職員を対象とした人権研修を開催することとした。
1988年4月に第1回の人権研修である「同和問題懇親会」が開催され、1989年2月には人権事件に関する学習会が開催された。その後、同年8月に、森山氏より、関西電力において福井県・法務局も関与した同和研修会を開催したい旨の要請があり、同月、第2回の人権研修である「同和問題研修会」が開催された。その後、関西電力は年に1回「幹部人権研修」を継続的に実施しており、森山氏は、2017年まで当該研修の講師を務めていた。研修の開催場所は、主に福井県内の関西電力の施設や公共施設であるが、2016年度の研修は大阪市北区中之島の関西電力本店で開催された。
人権研修には、関西電力の取締役、原子力事業本部長や執行役員等をはじめとした重役が出席しており、また、副知事等、福井県の要職が来賓又は講師として出席していた。講師は、森山氏のほか、福井県や高浜町の要職の職員等が務めており、これらの講師が講演を行い、森山氏が最後に総括を行っていた。社内において人権研修を行うことが意義あるものであることは論を俟たないが、この人権研修が、関西電力において、森山氏の「先生」としての地位を関西電力役職員に広く知らしめ、かつ、根付かせることとなった一面があることは否定できない。特に、人権研修は、森山氏にとって、関西電力の役職員に対し、森山氏が副知事等の県の要職にある人物を招聘することができるだけの影響力を持っていることを見せつける絶好の機会となった。さらに、森山氏は、人権研修の機会に、関西電力の高位の役職員を出席者の面前で罵倒・叱責することもあった。こうしたことによって、森山氏の関与する人権研修は、関西電力役職員の間で、森山氏に対する畏怖の念を醸成する一因となっていた。
1987年から立て続けに起こった「差別事件」について、この時期に起こったことが偶然とは考えられないであろう。端的に言ってしまえば、解放同盟は「自作自演」で差別事件を起したことが何度もあるし。いわゆる「朝田理論」によれば解放同盟に不都合であれば何でも差別と言えてしまうので、差別事件を提起することはたやすいことである。
気になるのは、 第三者委員会報告書に「 社内において人権研修を行うことが意義あるものであることは論を俟たない 」という記述があることだ。ここで、 第三者委員会がこの人権研修自体を批判することに腰が引けていることが分かる。
しかし、実際のところ人権研修をしなくても十分に社会に貢献している企業がほとんどであるし、 民間企業の人権研修に 福井県・法務局 が関与し、福井県の副知事まで出席するというのは異常ではないだろうか。
人権・同和・解放同盟のことは 第三者委員会が公表した報告書の概要版では全く触れられていない。多くのメディアは概要版をベースに報道している。このことも、同和に対する 第三者 委員会の態度を反映していると言える。
また、 第三者委員会は部落解放同盟高浜支部と森山氏との関係については、解放同盟が発表したこと以上の調査はしていない。森山氏が解放同盟支部の役職を降りたとしているが、支部に所属し続けていたことについては否定していないのである。1987年から1988年に解放同盟支部が関西電力内部での差別事件について問題提起し、その後に「同和問題懇親会」 が開催された。そして、森山氏による 「同和問題研修会」 はそれに続くものとして継続して開催されたものなのだ。つまり。解放同盟支部の活動と森山氏のその後の動きが完全にリンクしているのである。
人権研修については、報告書でこのようにも書かれている。
関西電力の役職員の自宅に押しかけて役職員の家族の前で近隣にまで聞こえる大声で罵倒・叱責する、関西電力の役職員の面前で、あえてその上司に当たる者に対し激しく罵倒・叱責する、人権研修等の機会に県等の地方自治体の職員等を叱責等することで、地方自治体にも影響力があることを見せようとするなどに代表されるように、時として恫喝により相手に不安感・恐怖感を植え付け、相対的に自分の優越的な地位を確保するという行動がみられた。
この記述の通りであれば、人権研修に福井県の幹部が出席したことが、森山氏が関電を恫喝する行為を助長したということになるのではないだろうか。
報告書に書かれている「人権研修等の機会に県等の地方自治体の職員等を叱責等する」という行為については、既に示現舎が入手した関係資料から、部落解放同盟高浜支部が行っていたことを確認している。その件については、続報する。
委員にわざわざ貝阿彌さんが起用されたのも単なる偶然ではなさそうですね。蛇の道は蛇、ということでしょう。京都五番町事件の検事に部落出身者を起用したのと同じ発想。