「天下の朝日新聞」、「日本のクオリティペーパー」…覚えているだろうか。かつて朝日新聞はこんな風に称されたものだ。政治、社会、教育、論壇への影響力、ブランド力、給料水準は他紙の追随を許さなかった。ところがネット社会への移行、メディア不況、部数減、何より度重なる不祥事によってかつての権威は失墜した。もっともこのように朝日新聞が論評の対象になっていること自体が未だに「権威」を保っている証左とも言えるだろうし、保守層からの根強い批判も「存在感」の裏返しだろう。しかし想像以上に朝日は窮地にあるようだ。朝日から落日へ…それは誰よりも朝日新聞社員が痛感しているに違いない。
毎日と違って貧乏慣れしていないの意味
「うちの会社(朝日新聞)は毎日と違って貧乏慣れしていない」
2017年に開催された朝日新聞社内のとある経営会議である社員はこう言い放った。会議は役員らが経営状況や計画などを報告し社員から質疑を受ける。さすがに“ジャーナリストの集団 ”だから経営陣に対しても容赦ない批判の声が飛ぶ。
「ジャーナリズムの会社を標榜しても書いてない人が役員をやっている! 福地(献一・取締役)さんについては18本しか書いていない!」
また管理職による人事評価について
「ジャーナリズムの集団なのに(管理職者が)ジャーナリズムでやってきた人が少なすぎる。どっちかというと部内で調整してきた人、部内の庶務係でやってきたような人だ。ジャーナリズムがある人をちゃんともってこないと社内で求心力を持ちえない」
役員、管理職がこんな厳しい指摘を受ける会議だから、毎日と違って貧乏慣れ~などとスパイスが効いた発言が出ても不思議ではない。メディア業界内で「毎日新聞の給料が安い」というのは有名なこと。笑い話のネタになることもある。しかしこの時は決して笑い話でも軽口でもない。この日の討議は朝日新聞の経営状況、構造的な問題に関わることだ。ご存じの通り、日本の新聞社は販売店による「個別宅配制度」に立脚しており、高い新聞購読率を維持してきた。逆に言えば販売店が傾けば必然的に新聞社本体にとってもダメージになる。新聞業界の業績不振によって販売店の経営状況も厳しい。
そこで販売店の救済策、収益向上を狙って「夢の街創造委員会」(*現在の(株)出前館、同会議では夢の街創造委員会名を使用)と2016年12月に業務提携。同社株式の5・2%(約15億円)を取得し資本参加した。出前館は1999年に創業。飲食デリバリーのポータルサイトを運営する新興企業だ。現在はコロナウイルス禍による外出自粛で飲食デリバリーの需要自体は増加しているというが、ウーバーイーツに押され気味だ。
出前館との業務提携の狙いは「販売店の第三の収入」と朝日役員が強調していた。新聞販売所は地域社会の販売網と配達ノウハウを有している。そこで出前館が受けた注文を朝日の新聞販売所「ASA」が配達するという仕組みだ。早い話、新聞が配達できるのだから、飲食物も配達できるという発想から始まったのだろう。これが販売店強化・支援の一助というわけだ。ところが狙いは失敗。昨年末、朝日新聞は出前館との業務提携を今年6月14日に解消すると発表した。なおこの3月末にLINEが出前館との業務提携を発表したが朝日新聞よりも相性がいいかもしれない。
関係者はこう憤る。
「当時、出前館の業績、社内状況が芳しくなく会議でも“ 父ちゃんがギャンブルに金をつぎ込むようなもの”と厳しい意見がありました。その通り失敗でしたね。新聞は朝夕のルート配達だし、出前はいつどれだけ注文が入るか分からないし、配送先も決まっていません。そこに人員を配置できる販売店がどれだけあるのか、ですよ」
また販売店は「押し紙問題」(新聞社から押しつけられる新聞。販売店の負担になっている)があるものの補助金、販売奨励金という旨味もある。逆に出前で利益を出すとなると相当な配達件数をこなさなければならない。販売店は「毎年1割程度減少している」(同前)という過酷な状況の上、経営者の高齢化という問題も見逃せない。その上で飲食物の出前業務など負担以外の何物でもない。
社員たちは構造的な変革を求めたが会社側の対応は鈍い。毎日のように貧乏慣れしていないというのは社員にとって冗談ではなく本気の焦りなのだろう。
企業年金減額「朝日新聞を守るために」
「朝日カースト」という言葉が社内外で囁かれる。所属部署、学歴などで厳然とした社内階級が存在しているという。先の「毎日と云々」との発言もある意味、こうした階級意識によるものだろうか。しかしその反面、SNSなどにおける朝日新聞関係者の振る舞いはいかにも「大衆の味方」「庶民派気取り」「弱者に寄り添う」こういう雰囲気に満ちている。彼らの言動に対して批判コメントが殺到するのもおためごかしに映るからだろう。こうした現象は朝日に限らず他紙記者、評論家、作家の類も同様だが、やはり「朝日新聞」に対しての当たりは強い。それはなぜかと問われたら単純に「朝日新聞だから」という回答が何よりも説得力がある。
また「ジャーナリズム」「ジャーナリスト」という言葉に固執するのも同社らしい。それは冒頭で紹介した経営会議での発言でも出た通り。かつては朝日新聞のCMで「ジャーナリスト宣言」というキャッチコピーがあった。しかしアンチからの失笑を買い現在は全く使用されていない。というのは2007年に同社記者の盗用が発覚しこのキャッチコピーを自粛したからだ。それに「ジャーナリズム」と言うが、ここ数年朝日に限らず新聞社由来のスクープがただの一つでもあっただろうか。少なくとも与野党議員、著名人のスキャンダルは大方、週刊文春か週刊新潮だ。
発表報道以外は在日、同和、沖縄、LGBT、こうした存在の当事者の話を右から左に流す「弱者に寄り添った系」の記事が目立つ。とても調査報道とは思えぬが、しかしながら記者たちの自尊心と正義心を満たすに十分なのだろう。あるいはこの点に朝日新聞記者としての最後のプライドがあるかもしれない。無論、世間の受け取り方は別として…。
そしてそのプライドの根源は待遇面にもあるかもしれない。高い給料水準、そして企業年金。「朝日の企業年金はすごい」と嘆息するメディア関係者は少なくない。だがそんな自慢の企業年金もすでに昔の話になりつつある。2014年、会社側から年金受給者にこんな通知があった。
朝日新聞企業年金基金受給者のみなさま
謹啓 平素より当基金の運営にご協力をいただき、誠にありがとうございます。また、給付利率5.5%の受給者のみなさまには、今般の給付利率引き下げのお願いに際し、多大なご支援とご理解を賜り、厚く御礼を申し上げます。さて、社内報A(エー)ダッシュ1月号の記事でご報告いたしましたとおり、給付利率5.5%の受給者のみなさまには、昨秋、利率を段階的に 下げて3.5%にするというお願いをし、11月27日までに規定の3分の2を大きく超える方々から同意をいただきました(2329人中、同意1765 入、不同意484人で未返送80人) 。すべて同意書を添えて年金減額の承認申請を厚生労働大臣宛に提出し、このほど正式に認可(2月1日付)が下りましたのでご報告いたします。この結果、これまで5.5%の給付利率で年金を受給されていた方(2004 年2月1日以前に定年になった方)につきましては、今年2月分から給付利率が0.5ポイント下がって5%となります。今後、 2年ごとに0.5ポイントずつ利率を下げ、 2020年2月分からは他の受給者および現役と同じ3.5%となります。減額が始まる2月・3月分の送金は4月ですので、 実際に振り込み額が減額になるのは今年4月からとなります。なお、 1991年4月以前に定年退職された方で、税制適格年金制度から 企業年金基金に移行された方は、3月送金分(昨年12月、今年1,2月分) の一部(2月分のみ)から減額となります。基金財政の改善が目的とはいえ、定年の際にお約束した年金を減額させていただくのは、制度をお預かりしている現役世代としたしましてもたいへん心苦しく、申し訳なく思っています。お叱りをたくさん頂戴しました。一方で多くの励ましの言葉もいただきました。みなさまの思いを肝に銘じ、質の高い年金制度を末永く運営していけるよう精進いたします。 どうかご寛恕いただきますよう、重ねてお願い申し上げます。なお利率の変更に伴い、年金ではなく一時金を希望された方は179人でした。約2300人の対象者の1割未満にとどまり、年金財政へ影響も限定的なものとなりそうです。このうち14人の方は、当基金が選択肢 として提示したうち、より低いほうの一時金(給付現価)を選んでくだ さいました。
「どうしても必要なので一時金を選択するが、会社もたいへんだろうから、せめて低い金額を請求したい」
というお話もいただきました。諸先輩の温かいお気遣いに、あらためて感謝申し上げます。 本当にありがとうございました。立春は過ぎましたが、寒さはもう少し続きそうです。くれぐれもご自愛くださいますようお祈り申し上げます。
謹白 2014年2月19日 朝日新聞社取締役
朝日新聞企業年金基金理事長 渡辺雅隆
他社も羨む朝日の年金だが2014年の段階でかなり厳しいようだ。それでも一般企業の水準から考えれば恵まれている部類だろう。しかしこれより先、さらに部数減の可能性がある以上、年金制度の維持も簡単ではないはずだ。
その前年には木村伊量前社長名で「退職の際にお約束した年金を、諸般の事情があったとはいえ、減額させていただきたいという厳しい申し出にもかかわらず、多くのみなさまから励ましの言葉とともに次々と同意書 が届きました。 「会社や基金の状況が大変なのはよくわかった」、 「朝日新聞を守るために協力する。現役は一層頑張ってほしい」……。一言ひとことに胸が熱くなりました」との通知も切実だ。かつての隆盛を知る世代には信じられない惨状だろう。
もはや報道機関としてのブランド力も失墜し、待遇面についてもこの通り、心許ない。
また昨年、上限6000万円の退職金に「60歳までは毎月年齢に応じて年収の4割程度、60歳以降は定年まで毎月10万円を支給」という早期退職募集が話題になったが果たしてこれもいつまで維持できるのか。それ以前に好条件とは言え早期退職して満足できる記者はどれぐらいいるのだろう。はっきり言って「戦力外通告」に過ぎない。さすが「朝日新聞」だから可能な充実の早期退職制度だが、悲しいことにそれは「落日の朝日」の裏返しでもある。
(次回に続く)
三品純様
朝日新聞の経営会議の様子や、企業年金の状況について調べてくださり、
ありがとうございます。常日頃、他者の不祥事(ことに自民党)には
厳しい割に、自らの不祥事には激甘どころか、被害者ヅラすら
厭わなかった、当然の結果でしょう。
個々の記者さんの資質や政治的志向とは関係無く、皆さん「そういう会社」だと
程度の差はあれ認識していて当然で、また、記事内容の最終決定権が経営陣に
あるからには、わざわざ「こんなの偏向・捏造報道だからやめましょう!」などと、
上司と喧嘩をするわけも無く、安定した生活の為に自分の理想をへし折ることでしょう。
別にそのこと自体は否定しません。サラリーマンなら少なからず経験することです。
誰しも、自分の身が可愛いし、家族を養う人ならば尚更です。
ジャーナリストを名乗る資格があるのは、命の危険を伴う相手を調査・取材したり、
党派や立場、思想に関係無く、真実をえぐり喧嘩をする度胸のある人だけでしょうね。
それが無理なら、大人しく「ただのサラリーマン」と名乗れば良いのです。
>朝日新聞企業年金基金受給者のみなさま
(略)
謹白 2014年2月19日 朝日新聞社取締役
朝日新聞企業年金基金理事長 雅隆
の最後の「雅隆」には「渡辺」が抜けているのでは?
「・・・・理事長 渡辺雅隆」では?
「朝日新聞社」は昭和時代に、自民党有力者(総理、幹事長など)に働きかけて、大蔵省国有財産局(現財務省理財局)から、市場価値を無視した極安で優良国有財産(土地)の払い下げを受けていて、その不動産活用の収益により、現在決算は赤字にならずにいる。口の悪い人は「朝日新聞社」ならぬ「朝日不動産」と陰口を叩いています。
今「朝日新聞社」の取締役には不動産部門出身者(不動産部門は比較的若い人が多いため)がいませんが、やがて稼ぎ頭である不動産部門出身が声を上げ、役員へも進出し、多数を占めれば、儲からない新聞部門を縮小・廃止し、「朝日不動産」となるのでは?(笑)
現在の「朝日新聞社」の社長・渡辺雅隆(「地方記者」上がり、朝日、毎日、読売などは「地方記者」は現在廃止)は、「不動産屋さんというの、世間体が良くないので、絶対に(「朝日新聞社」は)新聞発行は止めない」という内容の記者インタビューの記事を読んだ記憶があります。
「朝日新聞社」は、財務省理財局から、大都市(東京、大阪)の中心地の国有財産(土地)を格安で払い下げてもらいながら、森友学園問題で、近畿財務局や本省理財局(佐川宣寿理財局長、国税庁長官)を叩くのはとても違和感があります。
ありがとうございます。
不動産については中之島フェスティバルタワー関係の情報も
入っていますので検証を進めてまいります。
朝日カーストを象徴するのが件の慰安婦捏造問題ではないかと思います。
記事に登場した木村伊量氏ですがその渦中に社長職についていた為更迭されています。
木村氏(早大卒)をスケープコードにし、汚れ仕事は私大卒にさせ東大京大卒であろう歴代の社長はほっかむりの朝日を見て東大卒のいやらしさを感じたものでした。
新聞社とテレビ会社は資本を100%分離すべきだな。
お互いがお互いを情報とした記事には目を覆いたくなる。
新聞記者って現場に全く取材していないようにも感じる。存在意義あるのか?
あとは朝日新聞本社の不動産取得額の件も改めて最新情報で事実を知りたい。